医療業界はIT化が進んでおり、医師の診療サポートや職員の作業効率化のおかげで患者の待ち時間の軽減が実現されています一方で、IT化による課題は、導入に費用がかかることやセキュリティに不安が伴うことが挙げられます。

  • 医療業界におけるIT化の現状について知りたい。
  • IT化が進む中で転職時に必要なスキルなどがあれば知りたい。
  • ITを取り入れている病院では業務内容なども異なるのか知りたい。

この記事では、上記のように思っている方に向けて、医療専門の転職エージェントが医療業界のIT化について現状を解説します。転職を視野に入れている方も参考にしてください。

医療業界におけるIT化の現状とは?

医療業界でIT化が進むと各部署間での連携のしやすさが向上するため、導入する施設は増えています。
医療業界での代表的なITといえば電子カルテですが、厚生労働省の「電子カルテシステム等の普及状況の推移」の令和2年のデータによると、電子カルテの普及率は以下のようになっています。
参考:医療施設調査(厚生労働省)

  • 400床以上:91.2%
  • 200~399床未満:74.8%
  • 200床未満:48.8%

平均導入率は2008年の14.2%から、2020年の57.2%まで上昇しており、今後も上昇することが予測されます。現在は、診療所の規模だと紙カルテの運用がまだまだ多いですが、200床以上の病院だと電子カルテを使えることが前提です。

そのため、一般的なITスキルは必要と考えられます。また、オーダリングシステムや画像診断システムなどもありますが、パソコンやスマートフォンを日常的に使っている人であれば問題なく扱うことができるでしょう。

しかし、ITシステムの導入にあたって、壁があることは否めません。それでもITが今後必要とされる理由を紹介します。

各部署の連携がしやすくなる

医療機関内でのIT化としてメインとなるのが電子カルテです。膨大な患者数の医療データをワンクリックでアクセスできる電子カルテは、個人の仕事効率化だけでなく院内・院外の各部署間の連携を容易にします

具体例として、以下の3つが挙げられます。

  • 他の診療科にコンサルテーションオーダーを出すときの連携がスムーズになる。
  • 他部署(薬剤部や看護部など)のスタッフも治療方針を同時期に確認できるため、患者ケアの質が上がる。
  • 診療情報提供書や、同意書、問診表などの紙媒体の文書はスキャンにて保存できるため、院外や受付業務との連携も簡便になる。

ただし、ITの導入は全員が同じレベルで使いこなせないと意味がないため、導入に批判的な意見を出す部署もあります。また、導入に費用がかかることもあり、十分な予算が必要です。さらに、故障時や災害時の対応策もしっかりと練っておかなければなりません。

医療業界でITが必要とされる理由

少子高齢化の影響で、医療を必要とする人口が増えている一方で、医療現場は常に人手不足です。IT化で業務を効率化できれば、少ない人数でも業務が回せて、ミスも減ることが考えられます。したがって、医療技術が進化するとともに、医療業界全体でIT化が推進されることが期待されています。

医療現場にITを導入する5つのメリット

医療現場にITを導入するメリットは以下の5つです。

  • 業務を効率化できる
  • 人件費を削減できる
  • 感染症の感染リスクを軽減できる
  • 患者満足度の向上が期待できる
  • 各部署の連携がしやすくなる

上位について順に詳しく解説します。

1. 業務を効率化できる

IT化におけるメリットとしてまず挙げられるのが業務の効率化です。手作業で行っていた業務をIT機器に任せることによって、他の業務に注力できるようになり業務の効率化が図れます。また、ヒューマンエラーがなくなるため、業務の正確性も上がることが期待されるでしょう。

オーダリングシステム

作業効率化の例として、オーダリングシステムがあります。
オーダリングシステムとは、診察後の指示を各部署の機器に伝達するシステムです。薬剤、食事、会計、画像診断、検査などさまざまな部署への指示が瞬時に伝達されます。

オーダリングシステムが普及する前は、紙媒体で伝票を作成して、各部署に届けることによって初めてオーダーが成立していました。オーダリングシステムでは、それぞれのシステムにチェック機能が搭載されているので、不備のある項目は必ず担当者が直接確認して正確な情報に修正できます。

画像診断補助ツール

また、レントゲンやMRIの画像をAIが診断する画像診断補助ツールも開発が進んでいます。通常は、複数の医師が読影を行いますが、医師の経験値やレベルによって診断に差が出てしまうこともあります。

AIによる読影ならば、診断に差が付かないため病巣の見逃しを防ぐことも期待できます。医師による読影も必要ですが、補助ツールの利用によって、診断の効率も格段にアップすることは間違いないでしょう。

ITの導入によって業務の効率化が期待できるため、医療従事者は他の業務に割く時間が増えて、より質の高い医療ができるようになるのです。

2. 人件費を削減できる

業務の効率化や受付業務のIT化で余計な人件費を削減できます
もちろん、医療を必要とする患者さんのすべてがIT機器をスムーズに扱えるわけではないので、対人業務も大切で、システム利用のサポートをする案内人は必要です。

しかし、一度IT機器を導入してしまえば人手不足による雇用上の問題も解決できるため、メリットは大きいといえます。

3. 感染リスクを軽減できる

オンライン診療やオンライン服薬指導の発達により、非対面の診察や服薬指導を受けられるようになりました。予約もオンラインで完結するので手間もかかりません。

感染症にかかっていない患者でも、医療機関への受診をきっかけに菌やウイルスをもらってしまうケースは数多くあります。妊婦や子ども、高齢者など、とくに免疫の弱い人にとっては非常に有効な診察手段といえます。

また、紙媒体は消毒できないため、接触による感染リスクがあります。しかし、データによる情報伝達であれば接触による感染リスクも防げます。IT機器は適切な消毒液を使用すれば消毒できるので、機器の利用者も安心して使うことができるでしょう。

4. 患者の満足度の向上が期待できる

医療機関を受診するときにネックなのが、患者さんの待ち時間の長さです。来院してから受付、診察、会計、投薬など、すべての行程に待ち時間があるため、病院の規模にもよりますが半日から一日を費やしてしまうことも珍しくありません。

ところが、以下のようなIT化の導入によって患者さんの待ち時間は格段に減ります

  • 予約システム
  • オンライン診療
  • AIによる診断補助
  • 会計の後払い
  • オンラインで処方せんを薬局に送信
  • オンライン服薬指導

予約システムを利用すると、診察時間が大まかに決まるため、診察時間まで診察室で待つ必要がなくなります。また、オンライン上でやりとりできることによって、患者さんの拘束時間が減ったことはかなり大きいでしょう。医療者側の業務効率化によって、今後さらに待ち時間が軽減されることが期待できます。

5. 各部署の連携がしやすくなる

電子カルテの導入や、オンライン上で情報共有を行うことで、スピーディーに連携をとることができます。電子カルテでは、職員個人や、グループ設定でメールに似た機能を持っているものもあります。よって、電話や直接会うことなく連絡することも可能です。相手の貴重な時間を奪うことがないので、双方が自分の業務に集中する時間が増えて効率化が図れます。

医療現場にITを導入する上での課題

医療現場にITを導入する上で課題解決しなければならない点はいくつかあります。自分の置かれている状況と照らし合わせながら、参考にしてください。

ITリテラシーが追い付かない場合がある

IT機器操作に慣れていない医師は、医師としての経験や技術があっても、ITを十分に使いこなせないことがあります。
一方で、幼いころからゲームや携帯電話、スマートフォンに慣れている若い世代の医師は、感覚で電子カルテを使いこなせる傾向にあるのも事実です。

実際、現在部長クラスの医師は、若いころに紙カルテや処方の運用を行っていたことから、電子カルテの操作を難しく感じる割合もかなりいます。
そのため、細かい処方や指示出しを上級医が行って、実際のカルテ操作は研修医や若手の医師が担当する、という構造はよく見られます。

電子カルテ上の操作は、部署ごとに権限があり、医師にしかできない操作(処方オーダー、オーダーの削除など)もあるため、1つ間違いがあると他部署に迷惑がかかってしまいます。

ITリテラシーはすぐに身につくものでもないため、せっかく医療機関にITが導入されても一定数の医療者が使えないと効率的に業務を回せない可能性もあります。

また、ITを使いこなせないと、周囲から“何も任せられない医師”、というレッテルを貼られてしまい、肩身が狭い思いをするかもしれません。

システム同士が連携できない可能性がある

医療機関ではさまざまな部門があり、各部門にシステムがあることが一般的です。具体的には、生理検査や病理検査、放射線、検体分析検査、薬剤、輸血などの実施結果やレポートを電子カルテと連携させる必要があるのです。

また、医事システムでは会計情報を、健診システムでは検査結果などが電子カルテとつながっています。これらのシステム連携は、専門家がシステム接続対応と、変換マスター整備を行って、データ連携を構築し、安定化させます。
ただし、中には
完全にシステム同士が連携できないメーカーがあったり、連携できても不備が起こったりすることがある点が課題です。

セキュリティに注意を払う必要がある

サイバー攻撃にあったり、パソコンがウイルスに感染したりしてしまうと、個人情報の流出の可能性があります。また、電子カルテの情報は基本的に誰でも印刷できるので、院外への持ち出しも可能です。

過去に、自己研鑽という名目で患者データを持ち出した医療者がデータを紛失してしまって大きな問題になったことがあります。セキュリティを万全に対策することと、職員個人が守秘義務を守ることの重要性を理解していなければなりません。

医療現場へのITの導入事例

医療現場へのITの導入事例を紹介します。
IT化が進んでいるかどうかは、医師の働き方に大きく影響します。病院やクリニック選びの1つの基準としてもよいでしょう。

オンライン診療

パソコンやタブレットで、自宅や外出先など場所を問わず診療が受けられるオンライン診療は、患者さんの負担を軽減させます。非対面のため、感染リスクの防止にも向いているでしょう。インターネットがつながる環境であればどこでも利用可能なので、医療機関が家から遠い場合や、身体障害がある方も負担なく医療を受けられます。

コロナの影響で働き方改革が起こり、一般病院の対面で業務をするよりも非対面での診療を希望する医師も増えました。診療の方法に変化はありますが、医師業を全うできる新たなスタイルと言えるでしょう。

ただし、オンラインで問診のみの診察になるため聴診器を使ったり、血液検査を行ったりすることはできません

処方せんを発行する場合は、薬局に処方せんを伝達し(FAX、公式LINEなど)、オンラインで服薬指導を受けることも可能です。さらに、薬の配送サービスを行っている薬局もあるので、患者は一歩も外に出歩かずに治療ができるメリットがあります。

電子カルテ

データの入力、閲覧、共有など、業務効率を格段にアップさせます。膨大なカルテを保存する場所も必要ありません。
薬剤情報、検査結果や、画像データ、他部署(看護記録、薬剤管理指導記録、栄養指導など)の記録にも誰でもアクセスできるので、チーム医療も推進されるでしょう。
ただし、個人情報を印刷して簡単に持ち出せるため、守秘義務の徹底を周知する必要があります。

画像診断

画像診断では、肺や胃、脳、骨、目などさまざまな部位に活用できます。放射線専門医が常勤でいない施設では診断に時間がかかってしまうことがあります。

しかし、画像診断の設備が整っていると、読影業務をサポートしてくれるため、より早く治療方針を立てることができるでしょう。

また、医療機器の発達の例を挙げると、循環器領域で使用される心臓画像診断のFFRCTがあります。FFRCTの登場により、従来の心臓CTでできなかった心筋虚血の評価ができるようになりました。正確な診断や評価がすばやくできるようになることで、不必要な再手術を防いで患者さんの負担を減らせます。

ロボット支援下手術

従来の腹腔鏡手術を進化させて、低侵襲で手術できる医療機器です。術者はコックピットに座って、モニターを見ながらアームを動かすことにより、遠隔で鉗子を操作します。
2018年4月より保険適用範囲が拡大されたので、泌尿器科、外科、婦人科など幅広い分野で治療が行われています。
参考:横浜市立大学附属病院

介護ソフトの導入

介護現場においてもIT化が進められています。今まで、紙やFAXでやりとりをしていた介護情報をIT機器を活用することで、居宅介護支援事業者と訪問介護などの、サービス提供事業者間での情報のやりとりがスムーズになります。
患者が入院することになった場合、情報をまたデータで共有できるため、迅速な対応ができる点もメリットです。

医療のIT化が進むと転職は不利になる?

医療業界のIT化により、転職に不安を抱く医師もいるかもしれません。

現状での医療業界のIT化は、作業の効率化がメインであり、医師の仕事を奪うような技術ではありません。医師が専門的なスキルを発揮できるような環境が整っているため、IT技術を駆使して自分の能力が活かせる職場を見つけましょう。

今後も医師は変わらず必要とされる

IT化が進んでるとはいえ、医療機関の大きさによっては、十分に取り入れられていないことが多いのが現状です。
ITが仕事を奪っていく、ということがまことしやかに囁かれている昨今ですが、医師は特殊な技術が必要な職種であることから、今後も変わらず現場に必要とされます。

IT技術が通常業務をサポートしてくれることから、ITを積極的に取り入れている病院のほうが働きやすいこともあるでしょう。業務効率化を図ることにより、患者と接する時間が増え、自分の勉強に充てる時間が増えるというメリットも多くあります。

医療知識に加えITスキルもあると重宝される

今後加速していく医療現場のIT化で重宝されるスキルは、データ処理・活用の能力などでしょう。ITと医療両方の知識を持つ人材は不足しているため、需要が高いと言えます。
簡単なプログラミングスキルやセキュリティなどについて学んでおくと転職の際も有利になると考えられます。

経済産業省が医療DXを推進しており、いずれは電子カルテの使用が標準化される時代が来ると予想できます。クラウド上でも運用も増加するため、地域医療の発展が望めるでしょう。
参考:医療DXの推進について

業界の動向を抑えるには医師専門の転職エージェントを活用しよう

AIシステムを取り入れている医療機関では、業務の効率化や部署連携などのメリットがある反面、慣れるまではかえって業務フローに混乱が生じることがあるかもしれません。

また、システムトラブルのリスクや、セキュリティ面での不安要素もあります。そのため、転職を希望する際は自身の能力や希望する働き方と併せて、転職希望先の病院の方針についてよく知る必要があります。

ただし、各医療機関の内情がすべてホームページに載っているわけではないため、自分で調べることは難しいこともあるでしょう。そのようなときは、医療専門の転職エージェントに相談することがおすすめです。

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まとめ(IT化が進む医療業界の現状とは?)

医療業界のIT化は着実に進歩しており、業務の効率化や感染リスクの軽減、各部署間の連携などさまざまなメリットがあります。
画像診断やロボット支援システムなどの診療技術も発展しており、今後も医師の業務をサポートする製品が登場することが考えられます。

ただし、IT機器の導入には費用がかさむことや、セキュリティ面でのリスクなど課題があることは事実です。比較的小さな病院ではアナログな方法で診療を行っている場合もありますが、IT機器の操作に慣れている医師であれば、IT化が進んでいる施設のほうが働きやすいと感じるでしょう。

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