精神科医としてスペシャリストを目指す方が気になるのは「精神保健指定医」の資格ではないでしょうか。
「精神保健指定医とはどのような医師?」
「精神保健指定医と精神科専門医の違いは?」
「精神保健指定医のメリットは?」
精神障害の治療では、時には患者さんの同意をとらない処置が必要になる場面があります。
その際に必要な「精神保健指定医」の資格について、転職エージェントの視点から解説します。
精神保健指定医の役割とは?
「精神保健指定医」は、従来の精神科専門医から一歩踏み込んだ治療が行える制度です。
例えば精神障害のある患者さんに対し、隔離や保護的な入院措置、身体拘束といった行動制限を行うことができます。
また、措置入院中の患者さんの解除判断も担っていて、これらは法律に基づいた措置として行われます。
この制度は昭和62年に創設された比較的新しいもので、精神保健指定医の資格を取得すると、医師と公務員とを兼ねた職務を担うことになります。
精神科専門医も身体拘束や隔離などを業務上で行うことがありますが、これはあくまで臨床現場で必要に応じて行うものです。
精神保健指定医の場合、公務員の要素も持っているため、本来は行政が行う『重度の精神障害がある患者の措置入院を行う権限』を行使することが可能です。
これらの措置を行った場合は、行政に対する報告義務が発生します。
例えば、重度の精神障害を持つ患者による犯罪や違法行為により、警察が対応するような場面で緊急措置入院を判断して対応するケースなどです。
また、患者さんに対してだけではなく、精神科病院に対しても指導監督や立ち入り調査などもできるようになります。 あわせて読みたい
こうした通常の診療以外の強制力を伴うのが、公務員として行う業務です。
精神保健指定医の資格を取得するには?
精神科専門医が学会認定の民間資格であるのに対し、精神保健指定医は厚生労働省が定めている資格です。
精神保健指定医の資格を取得するためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 5年以上の診断又は治療に従事した経験を持つ
- うち3年以上精神障害の診断又は治療に従事した経験を持つ
- 厚生労働大臣が定めた精神障害についての診断又は治療に従事した経験を持つ(ケースレポートの提出)
- 口頭試問を受ける
- 厚生労働省令で定められた研修を修了している(資格申請前1年以内に限る)
*厚生労働省「精神保健指定医とは」を参照に作成
臨床経験には研修医期間も含まれ、その後精神科専門医研修で3年以上臨床経験を積むことで健康保険指定医に挑むことができます。
このため、医師国家試験合格後、最短5年で取得が可能です。
条件の中の「口頭試問」は令和元年7月から導入された新しい条件です。
また、ケースレポートの書式や必要症例数なども令和4年7月から刷新されているため、最新の情報を確認してください。
精神保健指定医は、5年ごとに資格の更新が必要です。 あわせて読みたい
そのタイミングで更新に必要な研修などの条件を満たさないと、効力が失われてしまいます。
取得にも更新にも専門医資格より厳しい条件が設定されていることからも、精神保健指定医が特殊で特別な資格であると理解できるでしょう。
精神保健指定医のメリットや仕事のやりがいは?
精神保健指定医の資格は、精神科医にとってキャリアアップにつながる上位資格です。
ここからは、精神保健指定医になることで感じられるメリットや、専門性の高い仕事のやりがいについてご紹介します。
精神科専門医よりも年収アップ
精神保健指定医は、病院側にとってもメリットのある存在です。
たとえば、入院病床がある精神科病院の場合、常勤の精神保健指定医を配置する必要があります。
また、そうした義務を負わないクリニックなどでも、精神保健指定医がいることで診療報酬の加算があります。
病院によっては、精神保健指定医が何名在籍しているかを精神科のPRポイントにするところもあるほどで、需要が高い存在と言えます。
こうした背景から、精神保健指定医の高条件求人が出ていることもよくあるのです。
勤務医でも開業医でも、精神科専門医だけでなく精神保健指定医の資格を持っていれば収入アップが期待できます。
労働政策研究・研修機構の調査によると、精神科医の平均年収は1,230.2万円です。
転職サイトなどで精神科の求人案件をいくつか調べてみると、1,200〜1,800万円程度と比較的高い年収での募集を見かけます。
こうした条件の良い求人ほど、採用条件に精神保健指定医の資格保持を挙げています。
精神科医として条件の良い環境で活躍することを希望する医師にとっては、精神保健指定医の資格取得は必須と言っても過言ではありません。
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自分の判断で患者さんと社会に貢献
精神保健指定医には、患者さんの意思ではなく医師の判断において措置入院などの処置を行うことができる権限があります。
これは、患者さんの安全を確保するだけでなく、家族や地域社会の福祉を守ることにもつながるものです。
より踏み込んだ医療の提供が可能ですし、患者さんへの関わり方も深くなり、それだけ病状の改善にも貢献できます。医師にとっては大きなやりがいとなるでしょう。
また、精神保健指定医は、医療機関への指導監督や立ち入り検査といった責務も担います。
地域の福祉機能の安定性を継続させることに大きく貢献することになり、患者さんやその家族への支援にもつながるものです。
結果として患者さんの能動的な受診を支えることとなり、患者さんの人権を守ることができます。
こうした活動は、他の診療科の医師や行政、地域の病院などと連携する機会も多く発生します。
コミュニケーションを通してさまざまな経験を積むことができるため、医師本人の知識向上やスキルアップにも役立つというメリットがあります。
精神保健指定医への転職方法
ここまで精神保健指定医のメリットや資格取得方法をご紹介してきました。
ハードルの高い資格ではありますが、医師免許取得後に最短5年で取得が可能です。
資格取得後の責任は重く、精神科医として十分な経験を積んでおく必要があります。
ここからは、精神科医が仕事先を選ぶ際に大切なポイントをご紹介します。
精神科医は、働きかたを自分で決めやすい診療科です。
勤め先によって状況が変わってくることが多いので、何を優先するかによって職場を決めることで、希望にマッチした働きかたを実現しやすいのが特徴です。
例えば、勤務先によっては以下のような希望を叶えることができます。
- ワークライフバランスを大切にする
- 高収入を目指す
- より多くの臨床経験を積む
精神科医の勤務先は、主に以下の3種類です。
- 総合病院の精神科または精神科単科の病院
- メンタルクリニックなど無床の精神科診療所
- 保健福祉センターなどの公的機関
それぞれの特徴と、忙しさなどを解説します。
病院(総合病院精神科や精神科単科病院)
精神科医としてより多くの症例を診て経験を積みたいという方におすすめの職場です。
外来の患者さんだけでなく、入院患者さんの診療や管理を伴うため、仕事はハードであることが多いです。
特に総合病院の精神科の場合、他診療科で睡眠障害などが見られる患者さんにも対応する場面があり、他科との連携も発生します。
当直や時間外の勤務もあり、長時間労働になることもしばしばです。
また、精神保健指定医には強制入院措置などを担うことから、緊急呼び出しがかかるケースも少なくないでしょう。
病院側にとって精神保健指定医は必要不可欠な存在のため、待遇は悪くないことが多く、高条件の求人もよく見かけます。
このため、収入は比較的高水準となることが多い傾向です。
メンタルクリニック(無床の診療所)
街でよく見かけるメンタルクリニックには入院施設がありません。
また、個人開業で診療時間を決めているため、時間にゆとりのある働きかたができるところも多くあります。
ワークライフバランスを重視したい方や、子育て中の女性医師などにとっては働きやすい環境と言えるでしょう。
中には認知症を専門に扱い介護保険施設と連携した業務を展開するようなクリニックもあります。 あわせて読みたい
クリニックごとの特色を知ることで、特定の症例の経験を積みたいという医師にも向いています。
一般的なメンタルクリニックは外来問診がメインになるため、医療機器などの設備投資がいらないこともメリットです。
初期投資が少なく、収益性が高いところも多いため、収入もある程度の水準が期待できます。
公的機関(精神保健福祉センターなど)
地域住民のメンタルケア相談といった福祉領域の仕事や、地域医療行政にも関わることが多い公的機関での勤務も、精神科医の選択肢の一つです。
臨床に関する知識以外にも、精神福祉関連の法規知識など他分野の勉強も必要で、ハードルは決して低くありません。
しかし、業務時間はきっちりと決まっていて残業も少なく、土日祝などの休日も安定して取得できる環境です。
ただし、収入面では病院やクリニックに比べると低くなってしまいます。
ワークライフバランス重視で、収入にはあまり拘らないという方に向いている働きかたと言えるでしょう。
これらの働きかたから自分に合ったものを選ぶことで、精神科医として充実の活躍ができるでしょう。
また、出産や育児といったライフイベントを迎えた場合、パートや非常勤として仕事を続けることも可能です。
ただし、精神保健指定医を目指す場合は、常勤での経験年数のみが受験資格として認められるため注意が必要です。
医師専門転職エージェント「メッドアイ」でも、精神科医の働きかたへのアドバイスが可能です。
キャリアプランを考えるところから相談に乗ってもらえますので、目指すゴールへ迷いなく進む手助けとなるでしょう。
まとめ(精神保健指定医とは)
「精神科医として収入アップを目指したい」
「より深く患者さんと関わって踏み込んだ治療を行いたい」
こうした精神科医として活躍を望む方には、必須とも言える資格が精神保健指定医です。
取得のためには専門医より厳しい条件もありますが、頑張れば最短5年で取得が可能です。
しかし、公務員として法的措置を取ることもあるため、精神科医としての経験を十分に積んでおく必要があります。
精神科医の働きかたは、医師本人の希望に合わせて選びやすいのが特徴です。
ワークライフバランスを優先するのか、より高度なスキルを取得したいのかによって職場を選ぶことで、効率的にキャリア形成ができます。
キャリアの中でどういった働きかたをしたいのかに迷った場合は、転職エージェント「メッドアイ」に相談してみることをおすすめします。
さまざまな医師の悩みに寄り添い、キャリアプランづくりからアドバイスをすることもできるので、具体的な転職予定がなくても相談してみてはいかがでしょうか。