近年は「ICT」という言葉を目にする機会が増えているのではないでしょうか。
さまざまな業界でICT化の取り組みや促進が進んでいますので、だいぶ一般的になってきていると感じられます。
では、医療業界ではICT化への取り組みはどうなっているのでしょうか。
「医療のICTとは?」
「ICT化とIT化は違うのか?」
「電子カルテ以外ではどんなものがあるのか?」
この記事では、医療業界でのICT化について興味がある方に向け、ICT導入のポイントやそれによる医師の働き方の変化について解説します。
また、ICTが導入された職場で働きたいという医師におすすめの転職方法についてもご紹介しますので参考にしてください。
医療現場でICTが必要とされている理由
近年、医療ICTの導入が進んできています。
もちろんIT技術が飛躍的に発展していることも理由ですが、それ以上に医療業界にはICT導入が必要とされている理由があると言えるでしょう。
医療分野において、ICTの導入は業務の効率化を図る効果を期待されていて、急務と捉える向きがあります。
その背景には、医師不足からくる医療の地域偏在や、医師一人一人の負荷の増大などが課題となっていることがあります。 あわせて読みたい
さらに、患者側も高齢化が進んでいて、医療費の増大なども課題と言えるでしょう。
こうした諸問題を、ICT導入で医療現場の負荷を減らすことで、対応していこうとしているのです。
ICT化とIT化は何が違うのか?
以前は「IT化」という言い方が一般的で、耳に馴染んでいるという方もいらっしゃるでしょう。
ITは「Information Technology(インフォメーション・テクノロジー)」の略語です。
直訳すると「情報技術」となり、情報通信やパソコン、ソフトウェアなど全般の技術を指す言葉です。
最近導入が進んでいるICTは「Information and Communication Technology(インフォメーション・アンド・コミュニケーション・テクノロジー)」の略となり、直訳すると「情報伝達技術」となります。
どちらもコンピューターや通信の技術を導入することに変わりはありませんが、ICTの場合、その技術をどう活用するかという視点で使われることが多いです。 あわせて読みたい
例えば、オフィスにパソコンを導入する場合は「IT化」となりますが、オフィスにパソコンを導入し、通信で顧客と繋いで直接商談できるツールを稼働させる場合は「ICT化」と呼ぶのです。
医療へのICTの導入で医師の働き方も変わる
医療現場へのICT導入は、医師の働き方改革の推進という面でも効果を期待されています。
厚生労働省が医師の働き方改革について、2024年4月までに勤務医の労働時間の上限を適用する「2024問題」と言われる施策を打ち出しています。
その遵守を目指して課題の検討などが行われていますが、その中でICT活用について以下のポイントを掲げているのです。
- 情報連携を支援するオンラインコミュニケーションツールの活用
- 音声入力を用いたカルテ業務の効率化
- オンライン診療の活用
また、ICTを活用し、産科医師が不足する地域での妊産婦モニタリングを行うことを支援する予算を組むなどの推進活動も行われています。
そのほか、医療機関独自の取り組みとしても、医師の育成にICTを活用する動きが見られています。
日本医科大学千葉北病院の救急救命センターでは、手術の流れや臨床現場での各スタッフの動きを映像で記録し、研修医がそれを見ながら学べる仕組みを導入しました。 あわせて読みたい
この仕組みの導入で、医学生や研修医が臨場感のある教育を受けることができ、臨床研修をスムーズに行うことに役立っています。
医療現場のICT「電子カルテ」3つのポイント
医療現場がICT化を進める上で欠かせないのが、電子カルテの導入です。
その病院ごとに必要とされる支援ツールに違いは出てきますが、電子カルテはどのようなシステム機器とも連携する中心的な存在と言えます。
ここからは、最新の電子カルテの普及状況や、導入移行時に気をつけるべきポイントなどをまとめてご紹介します。
電子カルテの普及状況
まずは、厚生労働省が発表している、現状での電子カルテ普及状況をご紹介します。
導入する病院が着実に増えていることがわかりますが、400床以上の大規模病院での導入は進んでいるものの、200床未満の小規模な施設ではまだ半数程度です。
年度 | 400床以上 | 200〜399床 | 200床未満 | 一般診療所 |
---|---|---|---|---|
平成20年 | 38.8% | 22.7% | 8.9% | 14.7% |
平成23年 | 57.3% | 33.4% | 14.4% | 21.2% |
平成26年 | 77.5% | 50.9% | 24.4% | 35.0% |
平成29年 | 85.4% | 64.9% | 37.0% | 41.6% |
令和2年 | 91.2% | 74.8% | 48.8% | 49.9% |
*厚生労働省「医療分野の情報化の推進について」より抜粋して引用
電子カルテの導入で、紙カルテに必要な保管場所の確保が不要になります。 あわせて読みたい
また、使用する都度探して出し、使用後に収納するといった作業の手間も解消されます。
さらに、各診療科や医療機関が連携して治療にあたる際の情報共有も迅速化され、医療現場の事務負担を減らしてくれるのです。
電子カルテシステムの種類
電子カルテには、大きく分けると2つのタイプがあります。
- オンプレミス型
- クラウド型
オンプレミス型は院内完結タイプで、従来の電子カルテの主流として今も広く使われています。
サーバーやネットワークシステム、バックアップ用のハードディスクなどを自院で揃える必要があり、初期費用が高額になる傾向があります。
ただし、手厚いサポートや自院に合わせたカスタマイズサービスなどが充実していることがメリットです。
一方のクラウド型は、ネット上のサーバーにカルテデータを保管管理する仕組みです。
サービス提供事業者が準備したシステムに乗るだけなので、初期費用が安いというメリットがあります。
ただ、クラウド型はカスタマイズ性がやや低いケースも散見され、サービス提供事業者ごとに選べるオプション内で自院にあった使い方を模索する必要があります。
電子カルテへの移行時に気をつけるポイント
紙カルテから電子カルテへ移行する際には、やはり大きな手間がかかります。
気をつけるべきポイントとしては、以下の2点があげられます。
- 実際に病院業務がしやすい電子カルテを選ぶ
- 紙カルテ情報のデータ移行方法を考える
電子カルテにはさまざまな種類があり、機能もメーカーによって異なってきます。
実際にお試しなどで運用して、使用感を確認することが大切です。
患者さんが来院してから診療を受け、会計を済ませるまでの動線がスムーズかどうかを、患者さん視点だけでなく院内スタッフの動きやすさも含めて確認しましょう。
入力操作のしやすさや、レスポンスのスピードなども確認し、実際に使ってみてストレスを感じないかどうか判断する必要があります。
そして、これまで運用していた紙カルテのデータ移行や保管をどうするかも導入時に検討が必要です。
メーカーでオプションサービスとして移行サポートがあることが多いですが、病院側が判断する事項としては、電子カルテに移行するタイミングです。
過去のカルテ情報もすべて電子化するのか、次回来院分から電子化して、過去分は紙のまま保存するのかを決めなくてはなりません。
過去のものを紙のまま保管する場合、治療中などで継続記載したい患者さんの分は除外するなどの整理や対応が必要になってきます。
また、クラウド型の電子カルテを導入する場合は、データのセキュリティを気にする方もいるかもしれません。
しかしクラウドサービスを提供する事業者では、厳重なセキュリティ管理がされていて、暗号化やファイヤウォールなどでカルテデータを守りますので安心です。
さらに、災害時などに病院が被災してしまったら、紙カルテやオンプレミス型の場合、カルテの普及が困難になるリスクがあります。
一方でクラウド型であれば、データが保管されているサーバーは別の場所にあるため、被災リスクを減らすことができるのです。
もちろん、事業者のサーバー保管場所が被災することもあり得ますが、クラウドサービス事業者は複数拠点を持っていて、1箇所が被災しても別の場所でバックアップを万全に取っています。
ほかにもある! 医療ICT
医療のICT化は電子カルテだけではありません。
もちろん中心的な存在であることに変わりはありませんが、電子カルテを活用することで、医療ICTの現場にさらに広がりが出てきます。
最近最も期待されているのが、オンライン診療とお薬手帳の電子化です。
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
遠隔(オンライン)診療
在宅医療や往診、過疎地など医師が不足する地域での活用が期待されているのが遠隔(オンライン)診療です。
電子カルテやバイタルデータなどをもとに、ビデオチャットツールなどで医師と患者さんが直接やりとりできる仕組みです。
さらに患者さん側に血圧などのバイタルデータを記録できるウェアラブルデバイスを使用してもらうことで、より踏み込んだ診察も可能になってきます。
また、医療過疎地だけでなく、感染症流行時などに感染拡大を防ぐ目的でも活用が始まっています。 あわせて読みたい
病院まで出向く時間や待ち時間を減らすことや、対面を避けることで感染リスクを減らすことができるのです。
電子版お薬手帳
お薬手帳の電子化も期待されている分野です。
従来の紙の手帳の場合、患者さんが所持を忘れてしまうことも多く、医師が服薬履歴を確認できないケースもままあります。
さらに、患者さんが高齢者の場合などで慢性疾患を複数抱えていると、紙の手帳はすぐ一杯になってしまうというケースもよくあることです。
お薬手帳の電子化が進めば、長期の服薬や多種類の服薬でデータ量が多くなっても保管が可能ですし、医師も薬剤師もすぐに服薬履歴を確認することができます。
さらに、技術の進歩でスマートフォンのアプリとしても広がり始めていて、服薬履歴に合わせ、運動記録や検診の履歴などが同時に保管できる機能も備わるようになってきました。
健康管理も併せてできるため、ユーザーである患者さん側にもメリットが大きいのです。
ICTが導入されている職場で働きたい医師へ
ICT導入は、大規模病院ほど進んでいるという現状があります。
その一方で、診療所など小規模なところは、電子カルテの導入率もまだ半分程度です。
現在の勤め先がまだICT化していない場合、カルテ記入や服薬確認などを紙ベースで行っていると、雑務的な手間が多くなってしまっているかもしれません。
医師は生涯勉強と言われるほど、日々の研鑽が欠かせないものです。
職場がICT化を進め、事務的な手間が効率化されていれば、自分のための時間も捻出しやすくなるでしょう。
実際に、こうした設備の整った病院へ転職することで、目指すキャリア形成がよりスピードアップできるケースもあります。
医師が転職を希望する場合は、転職エージェントを利用するのがおすすめです。
転職エージェント「メッドアイ」では、医師一人一人のキャリアプランに寄り添いながら悩みを解決してきた実績を豊富に持っています。
また、非公開の求人情報などもあるため、自分一人で転職活動をするよりも多くの選択肢から仕事を探すことが可能です。
まとめ(医療現場のICTについて)
医療現場へのICT導入については、医師の働き方改革と連動した動きもあり、医師やコメディカルの業務効率化や労働時間短縮に期待がもたれています。
その一方で、初期費用の問題や紙カルテからの運用切り替えの手間の大きさもあり、規模の小さい病院ではまだ導入されていないところも少なくありません。
ICT化が進むことで、医師の業務効率だけでなく、適切な治療や投薬指導などもスムーズになりますし、機能が充実すればするほど、患者さん側にもメリットが大きいものです。
こうしたシステム化が進む職場で働くことができれば、労働条件が良くなるだけでなく、治療に関する情報などもスムーズにやり取りできることから、知見アップにも期待が持てるのです。
もしも、ICT設備の整った職場で働きたいと希望するのであれば、転職エージェントに相談して転職することも選択肢の一つと言えるでしょう。
医師専門の転職エージェント「メッドアイ」なら、病院の働きやすさや設備の先進性などについても情報を持っていることが多いので、ぜひ相談してみてください。