「働き方改革」という言葉が注目されるようになってしばらく経ちます。
いよいよ医療業界にもその波がきている状態です。

「医師の働き方改革とはどのような取り組みなの?」
「実際に行われている働き方改革の事例は?」
「働き方改革って、どのくらい進んでいるの?」
など、なかなか実感がわかない医師も意外と多いのではないでしょうか。

この記事では、そのような疑問をお持ちの方に、医師専門転職エージェントの視点で「医師の働き方改革」について解説していきます。

医師の働き方改革が急がれるのは、

  • 慢性的な人材不足
  • 過酷な労働時間
  • 2024年問題

といった理由からです。

2024年に実施しないとならない医師の働き方改革には、

  • 時間外労働の上限規制
  • 医師の健康確保のための措置
  • 医師の業務範囲の見直し

など、さまざまな項目があります。

「医師の働き方改革」で何が変わるのかを紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

医師の「働き方改革」が急がれる3つの理由

医師は生活に欠かせない職業でもあります。そんな医師数が減らないためにも、今すぐにでも働き方改革を行うべきなのです。

医療現場には、下記のような3つの課題が潜んでいます。

  1. 慢性的な人材不足
  2. 過酷な労働時間
  3. 2024年問題

具体的にそれぞれの状況を見ていきましょう。

①慢性的な人材不足

医療業界は慢性的な人材不足が深刻な状態です。

少子高齢化により、医師を目指す学生の絶対数と、医療を受ける高齢者の絶対数のバランスが崩れ、勤務医一人あたりにかかる需要が増加の一途を辿っているのです。
業務負荷がかかりすぎた医師の離職率も上がってしまい、人材不足の負のループに陥っています。

この実態を如実に表しているのが、2017年に日本医療労働組合連合会が実施した調査で、「仕事を辞めたい」と感じる医師が全体の約6割を占める結果となっています。

②過酷な労働時間

医師の人材不足と患者人口の増加というバランスの悪さが、医師一人ひとりの労働時間を圧迫する結果につながっているのは明白です。

リクルートが行ったアンケートでは、医師の勤務先での1日の労働時間について、適正な労働時間と言われる8時間を上回っているという回答が半数近くを占めました。
さらに医師には当直勤務やオンコール勤務といった時間外拘束も発生します。

また、ほとんどの医師が「当直回数も多すぎる」と感じています。日勤からの連続勤務で当直に入らざるを得ない実情では、拘束時間が24時間を超えることは珍しくありません。
休日も満足に取得できなくなり、週に1日休めると答えた医師が34%、1日も休めない時があると答えた医師が19%という結果が出ています。

③2024年問題

労働者が多様な働き方を選択できる社会を目指す「働き方改革関連法」は2019年から施行されました。
しかし、医師に関しては、勤務環境の把握や改善に時間がかかると判断され、施行が2024年に先延ばしされています。

各医療機関は、2024年4月までに医師の勤務環境を改善せねばならない局面に立たされています。
ただでさえ足りない人数で強引に回している医療現場に「労働時間の上限規制」がかかることで、診察や当直に医師が不足することも増えてきているのです。


厚生労働省「医師の働き方改革について」のポイント

それでは、2024年4月から施行される「医師の働き方改革」とはどんな内容なのでしょうか。
具体的には「時間外労働の上限制限」が中心で、医師の過重労働を法律で制限するものです。

厚生労働省が主催するアドバイザー会議で、実現までの道筋の検討が重ねられています。
ここからは、改正医療法の中で触れられている「医師の働き方改革」とはどのようなものなのか、重要な点を確認していきます。
※以下、厚生労働省「医師の働き方改革について」より参照

医師の時間外労働の短縮

一般的な職業の時間外労働は、労働基準法によって定められています。
原則が月45時間/年360時間となっていて、例外を含めると年720時間までがその範囲です。

医師についても最終的には原則を遵守することが求められているものの、その範囲は大幅に緩められています。
また、医師の中でも職種や環境によって状況差が生まれることから、以下のように種別を設けて対応していくことが決められているのです。

A水準:原則全ての医師
B水準:地域医療に携わる医師、又は救急医療など緊急性の高い医療機関に従事する医師
C水準:初期臨床研修医・専攻医又は高度技能獲得を目指す医師

それぞれの環境を鑑みて、以下表の通りの遵守基準が暫定的に設けられました。

A水準年960時間/月100時間未満
B水準年1860時間/月100時間未満
C水準年1860時間/月100時間未満(2035年目処にさらに縮減)

B水準は地域の中核病院など、救急医療を行う病院が該当しますが、対象医療機関になるには都道府県の指定が必要です。
また、将来的にはB水準の解消も視野に入っています。

C水準はいわゆる研修医や、資格取得のための技術研修を行なっている医師が対象です。こちらも縮減をしていくという方向性が決まっています。

健康確保のための措置を整備 

労働時間の上限が規制されても、職場の状況がそれに適合していないとオーバーしてしまうことも考えられます。

そこで、労働時間が超過してしまった場合の措置についても規定がされています。
連続した勤務時間を28時間までとし、当直と通常勤務の間に9時間の休憩を設ける「勤務間インターバル」の設置、または適切な代休を設けることが定められました。
また、月間100時間をオーバーしてしまった場合は、対象医師に対する面接指導も必須となり、職場側の体制も整えなくてはなりません。
ただし、A水準の場合は努力義務となり、B・C水準であれば義務という違いがあります。

医師の業務範囲や養成課程の見直し 

医師の労働時間削減を実現するための取り組みとして、コメディカルスタッフの業務範囲を拡大するなど、医師が担当している業務やタスクの見直しも求められています。

また、研修医が実習として医業を行えるよう医師法を改正し、医師の母数を増やすための整備も進められているのです。
このように、医師を取り巻く環境を見直し、医師にかかる負担ができるだけ軽減されるような法整備が進められてきています。

医療機関の取り組みへの支援

慢性的な医師不足を補いつつ、医師一人ひとりの労働時間削減を達成するための取り組みも提唱されています。
例えば、地域内の医療機関同士が連携を図り、医師の派遣などを行うことによって特定の医師に負荷がかかりすぎないようにすることもその一つです。

また、患者が特定の病院に集中しないよう、医療機関へのかかり方を啓蒙する広告などが準備されています。

実際に行われている「働き方改革」の事例

医師は、新しい医療知識を常に吸収することも大切で、そのための学びの時間も医師の大切な仕事と言えます。

このため、働き方改革による時間の捻出は待ったなしの状態だと言えるでしょう
ここからは、医療の現場でどのような取り組みが推進されているかをご紹介します。

AIやIoTによる業務の代替

画像診断や自動問診などAI技術を活用し、医師の診療負担を軽減する取り組みが注目されるようになってきました。
特に画像診断システムが期待されていますが、セキュリティリスクの観点から一気に広がってはいないのが現状です。

IoT技術も医療の現場に進出していて、バイタルデータをリアルタイムで共有できるツールや、遠隔地からの診断に対応する機器などが開発・提供されています。
また、患者自身による自己管理のサポートを担うスマホアプリの開発なども進められています。

これらが医師やコメディカルの業務の一翼を担うにはまだまだ課題もありますが、大きな一歩として期待は集まっているのです。
実際に導入した医療機関の声が広くシェアされ、早急に課題がクリアされていくことが期待されています。

休暇取得の促進

有給休暇の年間5日取得義務も働き方改革の目玉の施策事項です。
これを遵守するための取り組みも進んできています。

例えば、診療科ごとにスケジュールを調整し、医師が順番に有給を取得する仕組みを運用する病院も出てきました。
大きな病院の場合、人事や総務担当者が割り振るより、現場の医師同士で調整した方がうまくいくという側面が伺えます。

また、職場カレンダーの年間スケジュールで「計画休」として有給を事前に割り当てる方式で消化している病院もあるそうです。
一方で、地道な声かけで有給取得を促進しているという病院も多く、どの方法が効果的かはケースバイケースと言えるでしょう。

時間外割増賃金率引上げ

時間外労働の賃金割増率は、時間帯や総時間によって細かい規定があります。
この中で「1ヶ月で60時間を超過した時間外労働」は、超過分に対して50%の割り増しが定められていて、大企業では既に実施されています。
医療機関や中小企業などでも2023年4月からこの割増率が適用されます。

賃金を支払う医療機関側にとっては、医師の時間外労働の量を考えると大きな負担となるのは明らかです。
しかし逆手をとり、先行して適用する病院も見受けられます。
病院が人件費を抑えるためには、医師の労働時間をしっかり管理することが必要になってくるからです。

当直業務の見直し

当直勤務の見直しを実施する医療機関も増え始めています。

  • 当直明け後の勤務を免除
  • 当直を2つの時間帯に分け担当を変える
  • 非常勤医に任せる
  • 当直も勤務1日として数えてシフトを組む
  • 当直手当の増額

など、さまざまな取り組み事例が報告されていて、これからの当直業務の改善が期待できるものもあるようです。

現状「働き方改革」は思うように進んでいない

ここまで「医師の働き方改革」の背景や、行われている取り組みを見てきました。
しかし、国や雇用主である医療機関側の視点であり、実際に現場で働く医師の視点に立つと、まだまだ道半ばと感じている方も多いと思います。
「十分に休みが取れている」「時間外労働はそれほど多くない」と感じて満足している医師はさほど多くないのが現状です。

「休日が取れない」
「当直明けに十分に休めない」
「睡眠時間が十分に取れない」など
休めずにつらさを感じている医師はまだまだたくさんいます。

さらに、病院がさまざまな取り組みを行っていても、現場の感覚とはかけ離れているといったケースも見受けられます。
結果として、時間外労働の削減からはまだまだ程遠いと感じてしまうかもしれません。

大きな病院は組織や経営の複雑さが枷になり、中小規模の病院は実現するための人材が足りないと、課題の改善に前進できないケースも多いようです。

医師それぞれが「働き方改革」へのアプローチを

「働き方改革」を実現するためには、病院の努力だけでは難しいと考える方もいるのではないでしょうか。
医師自身が、自分の働き方を改善していくという考えを持つことも大切です。

業務過多に悩んでいるのであれば、上司などに勤務時間の調整や人員補充を持ちかけるといった職場へのアプローチをしてみるのもいいでしょう。
現場の医師同士で調整できることがあるかどうかを話し合ってみるのもいいかもしれません。

また、それとは別に、個人的なアプローチとして「転職する」というのも働き方を改善する一つの方法です。
個人の努力で病院の環境が望んだ通りに改善されるというのは難しく、特に中小規模の病院に勤めていると、人員不足で無理ということも大いにあり得ます。

できる範囲で職場改善のアプローチをしつつも、限界を感じるようであれば転職することも検討してみてはどうでしょうか。

医師が転職する際にぜひ利用してほしいのが転職エージェントです。
同じような悩みを抱えている医師の転職をいくつもサポートしてきたエージェントであれば、あなたのキャリアプランに合わせて話を聞くことができます。
そして、解決策も豊富に持っていますので、最適解を見つける近道となるでしょう。


まとめ(医師の働き方改革)

「医師の働き方改革」について見てきました。
あなたは今、十分な休みが取れていますか?

2024年の施行に向けて、医療機関ではさまざまな取り組みが行われています。
医師の働き方改革では、時間外労働の上限時間が大幅に削減されます。
しかし地域中核病院などの状況によっては、今とさほど変わらないというケースもあるでしょう。

病院側の取り組みだけに任せていては、労働状況の改善は難しいということもあり得ます。
医師の側からも積極的なアプローチをすることで、働き方改革を加速することができるかもしれません。

その一つの方法として「転職する」という選択肢も有効な方法と言えるでしょう。
同じ悩みを抱える医師に数多く向き合ってきた転職エージェントに相談することで、働き方改革の糸口を見出すことも可能です。