日本の医療の現状は、医療従事者の慢性的な人手不足や医療費の増大に伴う現役世代の負担増加など、問題が山積みです。
この記事では、
- 日本に医療の現状やそれに伴う働き方について知りたい
- 医療における課題や働き方への影響などについて知りたい
このように思っている方に向けて、日本の医療現場における現状と具体的な課題を解説します。ぜひ参考にしてください。
日本の医療機関の現状とは
医療技術は日々進歩していますが、日本の医療機関にはいくつもの課題があります。ここでは、人手不足、経営不振、医師偏在について詳しく解説します。
1.ニーズに対し人手不足の現場が多い
日本の少子高齢化は深刻で、医療が必要な高齢者が増える一方で、若手の医療従事者の数が不足しています。
また、ADHDやASDなど、一昔前では診断のつかなかった症状も、治療が必要な病気と捉えられることになったため、精神障害をはじめとした患者数は増加しています。増加する医療ニーズに応えられるだけの人手を十分に確保できていないのが、日本の医療機関の現状です。
医療は医師の自己犠牲の上に成り立っていると揶揄されることもある通り、勤務医の多くが長時間労働を強いられています。
実際に、日本病院会が行ったアンケート調査では、「国は医師の「労働」と「自己研鑽」の具体的な区分基準を定めるべきだと思いますか」という問いに対して、「はい」と回答した医師は、69.6%に上ります。 あわせて読みたい
2024年から、医師の働き方改革が始まるため、少しでも状況が改善することが期待されます。
参考:日本病院会「2019年度 勤務医不足と医師の働き方に関するアンケート調査 報告書」
2.経営がうまくいかない所が多い
病院の約4割が赤字経営と言われており、地方では経営難から閉鎖に追い込まれる病院も増えています。
実際に、病院数は平成2年をピークに、病床数は平成5年をピークに統廃合しながら減少し続けています。
その原因として第一に考えられるのは、医療技術が向上したことによって入院患者数が減ったことです。
入院機能を持つ病院の収益の約6割は入院診療によるものなので、入院患者が減少し、病床稼働数が減れば必然的に赤字になります。
医療技術向上の例としては、がん治療が例に挙げられます。従来は抗がん剤の治療を入院下で行っていました。
しかし、現在ではがん種や薬剤にもよりますが、初回のみ入院治療でその後は外来通院に切り替えることが一般的になっています。さらに、経口抗がん剤も数多く出ているため一部のがん種では内服薬でも治療できるようになっています。
また、手術に関する技術も発展しており、昔は入院期間が1週間だったものが2泊3日に短縮されるケースも増えています。
患者負担は減りましたが、退院が早まる分、次の入院患者の予定を組まなければならないため、収益面を重視すると素早いベッドコントロールが求められます。
他の原因としては、
- 慢性的な人手不足に伴う求人サイトの広告料や採用コスト
- コロナウイルスによる病棟閉鎖や入院制限
- 人件費
- 高額な医薬品の残破棄
などが挙げられます。
参考:医療施設動態調査
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3.地域ごとに必要な医療の確保が難しい
日本の各都道府県における高齢化のピークには、ばらつきがあります。
若年層が都市部へ流れていることを受けて、首都圏や大阪、名古屋などの地域よりも地方の方が高齢化のピークを迎えるのが早いと予想されています。
高齢化により、医療の需要は高まるはずですが、ここでさらに問題となるのが「医師偏在」です。
医療機関や医師が都市部に集中し、地方において医師が不足しているため、必要な時期に必要な医療の確保が難しくなっている現状があります。
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医薬品業界における現状
超高齢社会を迎える日本において、医療費の約2割を占める薬剤費の削減は今後の課題となっています。
厚生労働省の政策により、ジェネリック医薬品を推奨したり、薬価を改訂したりする政策が進められています。
しかし、一般的な疾患に用いられる薬剤は開発されつくしてしまった側面もあり、製薬会社が力を入れているのは、希少疾病や抗がん剤などの開発難度の高い薬剤です。
これらの薬剤は莫大な開発費用がかかるため、薬価が高額なものが多く、国の医療費を圧迫しています。
また、超高齢社会の医薬品需要対策として、バイオシミラーを推進するべくガイドラインの整備や高齢者における医薬品適正使用の指針の整備を進めています。
一方で基礎的医薬品は、度重なる薬価改定で一部について採算が悪化しており、安定供給策が必要です。
MR(医薬品情報担当者)にも逆風が吹いているのも現状です。
インターネットが流通した現在では、直接医師や薬剤部の医薬品担当に売り込みにこなくても情報を収集できるため、その必要性は以前より下がっていることは間違いありません。
参考:厚生労働省「医薬品産業の現状と課題」
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医療機器・医療用品業界における現状
2015年の医療機器における輸出入差額(=貿易収支)は、約8,023億円の輸入超過となっており、日本が海外の医療機器に頼っていることがわかります。
ただ、画像診断技術については、高い技術力を誇り、約1,000億円の輸出超過です。
日本の最大手であるオリンパスメディカルは、世界で始めて胃カメラを開発したメーカーですが、業界の世界順位は第20位となっており、今後の成長に期待がかかります。
日本の医療機器の強みは、画像診断技術だけでなく、消化器・外科領域の内視鏡関連器具、X線CT装置、カテーテルなどがありますが、海外市場ではシェアが少ないのが現状です。
また、ペースメーカーや人工内耳など、日本企業が産業化できていない分野もあります。このように、国際競争力のある大企業と中小企業が混在していることも課題として考えられます。
さらに、ゲノム医療は欧米諸国から遅れをとっているため、国立がん研究センターにがんゲノム情報管理センターを整備し、ゲノム情報を集約したり、 がんゲノム情報管理センターが臨床情報や遺伝子解析情報等を横串で解析する知識データベースを構築したりして技術の推進を図っています。
今後の医療機器・医療用品業界が目指す道としては、
- 国際競争力・効率性の高い革新的医療機器の開発・事業化
- 医療機器の承認審査の迅速化に向けた取り組みや、事業化人材・伴走コンサル人材の育成、国際標準化、知財強化の推進
- 途上国等のニーズを十分に踏まえた医療機器等の開発・構築
- 海外において行う臨床研究や実用化研究の助成
などが挙げられます。
参考:厚生労働省「医療機器産業の現状と課題」
医療現場の課題となる2025年問題とは
団塊の世代が全員75歳の後期高齢者になり、医療ニーズが一気に高まることによって生じる問題が2025年問題です。
どのような影響が出るのか解説します。
2025年問題による3つの影響
団塊の世代が後期高齢者に入る2025年は、医療ニーズがより一層高まります。
それによって生じるさまざまな影響のことを2025年問題と呼びます。ここでは、3項目に分けて具体的に解説します。
1.必要な医療が受けられなくなる
2025年には、75歳以上の後期高齢者の割合が全人口に対して18.1%になります。
後期高齢者が増加するにつれて、慢性疾患や悪性腫瘍などのリスクが高まるため、医療ニーズは今よりも高まるでしょう。
医療技術の進歩により、数十年前よりも質の高い医療が受けられるはずですが、肝心な医療の担い手が減っているため、医療ニーズに応えられなくなる可能性があります。
医療業界は人手不足が続いているため、この状況が続くと過酷な重労働を強いられて大量の離職者を生み出しかねません。
また、地域偏在の問題にも対応すべく、必要な地域に十分な医療が行き届くような制度を整えることが期待されます。 あわせて読みたい
2.介護サービスが受けられなくなる
超高齢化社会では、介護の需要も高まります。
病気がなくて健康な状態であっても足腰の弱りや視力の低下などは避けられず、介護サービスを必要とする高齢者がこの先多くなるでしょう。
介護士は激務の割に待遇が良いわけではないため、人材不足が続いています。
さらに介護施設、サービス付き高齢者住宅、老健などの施設も不足することが予想されます。
現在は介護必要度を5段階で評価していますが、評価方法が厳しくなる可能性もあるため、行き場を失くす高齢者が後を絶たなくなるかもしれません。
このような状況にならないために、介護ロボットの導入や、各種手続きのIT化、介護士も労働環境の改善や効率化、キャリアパスなど、介護業界を支援するような施策が進められています。
また、厚生労働省は高齢者が自分らしく最期まで生きられるように地域包括ケアシステムを推進しており、「住まい」「医療」「介護」「介護予防」「生活支援」を同地域にて受けられるようなサービスを推進しています。 あわせて読みたい
在宅生活を安心して過ごせるように、配食や見守りなどを充実させる生活支援も必要です。
3.社会保障費などの負担が増える
社会保障費の負担も増加することが予想されています。
社会保障費は税収と国債で成り立っていますが、増加し続ける医療費を支えるために、現役世代の負担する税金額は上がり、さらに年金受給年齢が引き揚げられる可能性もあります。
少子高齢化がこのまま進行すれば、2040年には、1.5人で1人の高齢者を支えなければならないのは相当深刻な状況でしょう。
国は少子化対策を進めるための政策を打ち出していますが、それが本当に効果を発揮するかはまだ誰にもわかりません。
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日本の現場で医師が働く上で考えたいこと
日本の医療現場に身を置く医師は、自身の今後のキャリア形成や人生で大切にしたいことを明確にしておくことが大切です。
1.自身の目指すキャリアを明確にする
勤務医としてキャリアを積みたいのか、将来的に開業したいのか、意思を明確にしておくことは大切です。
勤務医の場合、年収は国民の平均年収をはるかに上回りますが、その分自己研鑽という名のサービス残業や当直、宿直など業務に携わる時間は多いと言えます。
しかしながら、医師としての業務に専念できるため、確実に腕は上がるでしょう。
部長や院長を目指す場合は、運やタイミングも必要なため、転職活動も含めて希望のポストが空くのを待ちましょう。
一方で開業の選択をすれば、診療時間を自分で決めることができるので、ライフワークバランスが取れた生活ができます。
開業を視野に入れる場合は、立地や周辺の住民状況などをリサーチしておくのがベストです。
経営が軌道に乗れば収入も鰻登りになるため、豊かな暮らしが送れるでしょう。
ただし、うまく経営する能力が問われ、さらに医師業以外の幅広い業務をこなさなければなりません。
また、同じ分野を極めたいのか他科などで幅広い経験を積みたいのかなども考えておきましょう。 あわせて読みたい
専門医を取得するのなら、試験勉強の時間も確保しなければなりませんし、転科を考えるならば、はじめからのスタートになりますが、診療スキルは上がるでしょう。
2.働く上で大事にしたいことを明確にする
今後、超高齢社会を迎える日本では医療のニーズが高まるため、医師にとっては労働環境が過酷になる可能性があります。
収入面、興味のある医療分野、臨床経験や研究、権威性、やりがい、人間関係、プライベートの確保など、自分が最も大事にしたいことは何かを明確にして、働き方について改めて考える時間をつくりましょう。 あわせて読みたい
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まとめ(日本の医療の現状と課題とは?)
日本の医療の現状は、深刻な人手不足や病院の赤字経営、医師の地域偏在など課題が山積みです。
現状を改善するために医療従事者の確保や医療費の削減などの取り組みが進められています。
医薬品業界では、高額な新薬が次々と開発されて医療費を圧迫しているため、既存の医薬品の薬価改訂やジェネリック医薬品、バイオシミラーの使用を推進しています。
医療機器分野においては、画像診断技術やX線・CTなどの強みはありますが、海外シェア数は少ない状況のため、国際化や人材の育成を含めて今後の成長が期待されます。
2025年は医療業界のターニングポイントと呼ばれる年で、団塊の世代が後期高齢者となる75歳を迎えます。
医療や介護ニーズは増加し、現役世代の負担がかなり重くなることが予想されるため、今後の動向には注意しておきましょう。
このような問題を抱える日本で活躍する医師は、今後のキャリアや人生においての優先事項を明確にすることが大切です。
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