医療費適正化計画とは医療費削減を目的として、2008年から6年おきに国や都道府県の取り組みを決定している政策のことです。
2023年現在では、第三期医療費適正化計画の取り組み最中ですが、2024年度からはこれまでの経験と時代のニーズに合わせた新たな計画が盛り込まれる予定となっています。

この記事では、

  • 医療費適正化計画具体的な内容が知りたい
  • 医療費適正化計画の今後の動向が知りたい
  • 医療費適正化計画と、働き方との関連性が知りたい

このように思っている医師に向けて、医師が把握しておくべき医療費にまつわる政策や今後の指針などを詳しく解説します。

医療費適正化計画は国が基本指針を打ち出して、都道府県が細かい取り組み内容を作成しています。
開業医や開業を目指す医師は、その地域での取り組みの流れを把握して即時に反映しなければなりません。
勤務医であっても、医療に地域ごとの特色を理解しておかなければ時代に取り残されてしまう可能性があるので注意しましょう。

医療費適正化計画の経緯や今後の方針をざっくりと把握して、今後の医師としての業務にぜひ役立ててください。

医療費適正化計画とは

医療費適正化計画とは、国民の健康を守り、医療費が適正に使用されるために設定される目標や指針のことです。
計画期間は6年を1期として、2008年からスタートし、2023年度は第三期の計画を実行しています。

医療費適正化計画を端的に説明すると、医療費削減を目標として、国民の健康意識を高めたり、医療機関の環境の仕組みを整えたりして数年ごとに結果を発表し、新たな課題を見つけてPDCAサイクルを回そう、というものです。

この一連の計画において、国は「医療費適正化基本方針」を、都道府県はその基本方針を軸にして、各地域のニーズや医療状況を踏まえて「医療費適正化計画」を定めます。
2008年から第一期医療費適正化計画がスタートし、2024年からは第四期が開始する予定となっています。

医療費適正化計画が導入された背景

日本では少子高齢化が深刻な問題となっています。
医療技術は進歩し、新規医薬品が次々と開発されたり、新しい技術が発展したりと、疾患に対する治療成績は向上していますが、新規の医薬品や医療機器は高額なものが多いのが現状です。

2021年の概算医療費は44.2兆円で、対前年比で4.6%の増加となっており、医療費は増加傾向にあります。
このまま医療費が増大し続けてしまうと、いずれは日本の国民皆保険制度は破綻してしまうかもしれません。

高齢者医療確保法(高齢者の医療の確保に関する法律)において、国民皆保険を持続的に運営するために、国・都道府県・保険者・医療従事者が一丸となって医療費を適正化する取り組みを進めるように定めています。

そこで、医療費の増加に歯止めをかけるために、限りある医療資源を適切に使う目標が設定されることとなりました。
少子化、経済状況の変動に対応しながら、持続可能な公的医療保険を目的とする政策です

参考:厚生労働省 令和3年度 医療費の動向~概算医療費の集計結果~

医療費適正化計画の変遷

医療費適正化計画は2008年からスタートしており、2024年から第四期がスタートする予定です。
医療費適正化計画は、いわばトライ&エラーを繰り返しながらその時の状態にあった計画を立てるものです。
次回の計画が立案される前に、今までの計画がどのような変遷を辿ってきたのか確認しておきましょう。

第一期医療費適正化計画について

第一期医療費適正化計画の主な目標を以下に示します。

  • 「特定健診」の受診率が70%以上
  • 「特定保健指導」が必要と診断された対象者への指導実施率が45%以上
  • メタボリックシンドローム該当者および予備軍を10%以上減少させる(対2008年)入院期間(平均在院日数)を短縮し目標値を29.8日とする

特定健診とは「特定健康診査」を示しており、対象年齢(40~74歳)に実施する、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病を防ぐ目的の健康診断です。
2008年では38.9%だった受診率が、2012年では46.2%と上昇しましたが、70%の目標を達成することはできませんでした

特定保健指導とは、特定健診を受診した人の中から生活習慣病発症のリスク要素が多い人を対象に、管理栄養士や保健師などの専門スタッフが生活習慣改善のためのアドバイスを行うサービスを表します。

2008年から2012年の対象者の割合は平均して20%で変化はありませんでしたが、保健指導実施率は2008年が7.7%であったことに対して2012年は16.4%に伸びています
目標が45%だったことを踏まえると、なかなか手が届かない数値に思えますが着実に効果は出ていることがわかるでしょう。

メタボリックシンドローム該当者および予備軍の減少については、全国的に−12%の結果となり、目標は達成できましたが地域に差が出ていることが明らかになっています。
特定健診や特定保健指導が目標値に達成できなかったことを踏まえると、これらの必要性がより一層深まった結果と言えます。

入院期間は以下の方法を実施することにより、目標値を29.8日に設定していました。

  • 医療機関の機能分化や地域連携・地域ケア・在宅医療の推進を図る
  • 療養病床(回復期リハビリテーション施設を除く)を約35万床から約21万床に削減する

入院期間は、老人医療費と相関しており、慢性期に入院する施設としての療養病床から、医療の必要性が低い高齢者を入院させる施設(=介護保険施設等)に転換させることを目標にしていました。

結果として平均在院日数は29.7日とギリギリ目標を達成できましたが、療養病床の削減するにあたって、介護保険施設等への転換が進まなかったことが実態調査で判明しています。
そこで、療養病床の機械的な削減は取りやめて、介護療養病床への転換期限を6年延長することとなっていました。

第一期医療費適正化計画では、2008年度と2012年度と平均して医療費見通し(適正化に向けた取り組みを行わない場合)と比較して、約0.3兆円を削減することに成功しました。
目標を達成できなかった項目もあるにせよ、初回の計画に対してまずまずの効果を出せたのが第一期医療費適正化計画と言えるでしょう。
参考:第一期医療費適正化計画の実績に関する評価(実績評価)

第二期医療費適正化計画について


第一期医療費適正化計画も目標はそのままに、新たな目標を組み込んで作成されています。
第二期医療費適正化計画の主な目標を以下に示します。

  • 「特定健診」の受診率が70%以上
  • 「特定保健指導」が必要と診断された対象者への指導実施率が45%以上
  • メタボリックシンドローム該当者および予備軍を25%以上減少させる(対2008年)入院期間(平均在院日数)を短縮し目標値を28.6日とする
  • たばこ対策の普及啓発
  • 後発医薬品の使用促進

第二期医療費適正化計画の主なポイントは、第一期医療費適正化計画に加えて、たばこ対策と後発医薬品について2項目が追加されたことです。
それでは結果をひとつひとつ紹介します。

まず、特定健診についてですが、2012年に46.2%だった受診率は上昇を続けて2017年には53.1%になりました。
70%の壁は超えられませんでした
が、国民の健康保持意識が高まっていると考えられるでしょう。
また、
特定保健指導の割合は2012年に16.5%でしたが、こちらもジワジワと上昇して2017年には19.5%となっています。
45%の目標には到達していません
が確実に結果が表れていると言えます。

メタボリックシンドローム該当者および予備軍の減少については、第一期医療費適正化計画で目標を達成できたことを踏まえて10%減から25%減に高い数値が設定されました。
しかしながら、
2008年と比較して2017年は0.9%上昇する結果となってしまいました。
また、前回同様に地域差があることも指摘されています。

平均在院日数については、前回よりも目標値は前回よりも上がって28.6 日までの短縮と設定されており、2017年の結果は27.2 日と、目標はクリアできていることは明確です。

喫煙および受動喫煙は、がんや循環器疾患、生活習慣病のリスク因子です。
したがって
禁煙を含めたたばこ対策を推進し、これらの疾患の発症をできる限り予防することが将来の医療費削減への近道と分析されています。

第二期医療費適正化計画では、具体的な目標数値の設定はせず、たばこ対策の普及啓発に力を入れるために以下のような取り組みを定めました。

①禁煙希望者に対する禁煙支援 

禁煙普及員、たばこ相談員などの、禁煙支援に携わる者の養成
厚生労働省作成の禁煙支援マニュアルの改訂
禁煙支援団体への補助

②未成年者の喫煙防止対策

父母の禁煙を目的として、児童、父母向けの講習会を実施
喫煙防止の普及啓発活動を行う団体への補助

③受動喫煙防止対策 

受動喫煙対策の普及啓発を行う自治体への補助

④たばこによる健康への影響や禁煙についての教育、普及啓発等 

WHOが定めた5月31日の世界禁煙デーからの1週間を禁煙週間としてイベントを開催
たばこと健康に関する正しい知識の普及に向けた取り組み

結果として、習慣的に喫煙している人の割合は減少傾向にあり、2012年の20.7%から2017年の17.7%に下がっています

後発医薬品の使用推進に関して、第二期医療費適正化計画においては具体的な数値は設定せず、具体的な取り組み目標を以下のように定めています。

①後発医薬品と先発医薬品の自己負担の差額を加入者に対し通知する取り組み 

各保険者における後発医薬品利用差額通知の作成推進
市町村の取り組みについては、 国保の特別調整交付金において支援

②加入者が医療機関等に対し後発医薬品を希望することを示すカードを配布する取り組み

各保険者における後発医薬品希望カードの作成推進
市町村の取り組みについては、国保の特別調整交付金において支援 

また、一部の都道府県においては後発医薬品への理解を促進するために、出前講座を実施するといった取り組みもなされています。

ただし、2013年に厚生労働省から、後発医薬品使用促進のために国や関係者が取り組む施策が定められて2018年3月末までに後発医薬品のシェア率を60%以上にするという数値目標が掲げられています。

また、2017年に閣議決定された「経済財政運営の改革と基本方針2017」においては、2019年9月までに後発医薬品使用割合を80%以上にするという目標を定めたこともポイントです。

これらの政策が進められている上で、2017年度末の後発品使用割合実績は2015年の51.2%から毎年上昇を続け、2017年73%と良い結果です。

第二期医療費適正化計画では、2017年度の医療費見通しを行わない場合と比較して、約3.9兆円を削減することに成功しました。
第一期に引き続き成果を出せた項目もありましたが、課題も依然として残っています。
新しい取り組みは、確実に効果が出ていると考えられるため、第二期医療費適正化計画もおおむね良い結果であったと推察されるでしょう。
参考:第二期医療費適正化計画の実績に関する評価(実績評価)

第三期医療費適正化計画について

指定期間は2018年から2023年であり、第一期と第二期の経緯を踏まえて目標設定がなされています。
特に注目すべきポイントは、
医療機能の分化・連携を図る「地域医療構想」の枠組みを設置したことです。
具体的には、今までの取り組みを、入院医療費と外来医療費のそれぞれに分類し、さらに適正化を充実させることです。

「外来医療費」として捉えていた特定健診・保健指導の推進という枠組みに、「糖尿病重症化予防、後発医薬品の使用促進、医薬品の適正使用」を追加しました。

また、「入院医療費」の削減項目の目安であった平均在院日数の短縮という考え方自体を、「各都道府県の医療計画(地域医療構想)に基づく病床機能の分化・連携の推進の成果を反映」して結果を確認する方法となりました。

これは、2014年の医療法改正で、将来的な医療需要に着眼点をおいたことから設定されているのです。
翌年の2015年には高齢者医療確保法が改正され、入院医療費について、地域医療構想の成果を医療費適正化計画に反映する枠組みへ見直しがされたことが大きなポイントとして挙げられます。
具体的な目標数値は以下の通りです。

  • 「特定健診」の受診率が70%以上
  • 「特定保健指導」が必要と診断された対象者への指導実施率が45%以上
  • 「特定保健指導対象者」の減少率が25%
  • メタボリックシンドローム該当者および予備軍を25%以上減少させる(対2008年)
  • 入院期間(平均在院日数)目標値は28.6日
  • たばこ対策
  • 後発医薬品の使用割合80%

2017年における医療費総額は、約46.6兆円でしたが、特定健診の推進や平均在院日数の短縮などをさらに推進した場合は約45.6兆円と、約1兆円削減できることになります。

参考:第三期全国医療費適正化計画について(報告)
   医療費適正化基本方針の改正・医療費適正化計画について

第四期医療費適正化計画は2024年度より開始

第四期医療費適正化計画は2024年度から開始されます。
これまでの取り組みをさらに昇華させるために見直された新たな体制は次の通りです。

  1. 複合的なニーズを有する高齢者への医療・介護の効果的・効率的な提供等を加える
  2. 既存の目標についてもデジタル等を活用した効果的な取り組みを推進する
  3. 都道府県が関係者と連携するための体制を構築する

都道府県が取り組む新たな取り組みとして、高齢者の心身機能の低下等に起因した疾病予防、介護予防の推進が挙げられます。
これは、高齢者の保険事業と介護予防の一体的実施を支援することを目的としたものです。

また、国の取り組みとして、バイオ後続品の普及促進策の具体化や、効果が乏しいエビデンスだと指摘されている医療に対して継続的なエビデンス収集や分析を行って、各都道府県が取り組むべき目標を追加するなどが含まれています。
さらに、国民の取り組みとして、OTC医薬品の推進やマイナポータルを通じた自身の健康状態の把握などが追記される予定となっています。
参考:厚労省「第四期医療費適正化基本方針 概要p.1」

具体的な計画や目標については各都道府県により異なる

医療費適正化計画の実施主体は各都道府県となっており、都道府県は国が策定する「医療費適正化基本方針」に即して独自に計画を立てることとなっています
医療施設の規模や、地域ニーズを踏まえたうえで作成されるため、具体的な計画や目標は都道府県ごとに異なることがあります。

個別の取り組み目標については、各都道府県において任意記載事項となっているため、詳細は各都道府県が公表している文書を参照してください。
参考:厚労省「第三期医療費適正化基本方針 概要p.4」

医療費適正化計画において医師が把握しておきたいこと3選

医療費適正化計画は開業医も勤務医も区別せずに把握しておくべき内容だと言えます。
なぜなら、限りある医療資源を無駄にせず、国民が平等に医療を受けられる環境を守ることは医師の責務でもあるからです。
これらの計画を推進するためには、普段の医療業務でもコスト意識を高く持つことが大切です。

1.働く地域に関する計画について

都道府県ごとに医療費適正化計画に関する資料をWEBで公開しています。
自身の働くエリアに関して、計画を把握することでそれぞれの地域医療体制や働き方・役割等への認識を深めることができます。
時代やニーズに則した柔軟な対応ができる医師は、将来も必要とされること間違いなしでしょう

2.都道府県の医療計画(地域医療構想)について

第三期の計画でポイントとなった「入院医療費の適正化」は、都道府県の地域医療構想に基づいた病床機能の分化・連携の推進に基づいています。
これは、地域によって少子高齢化の状況や、病床数などにばらつきが見られるからです。
政府が基本的な方針を決定しますが、働く地域の医療体制は医療業界のリーダーとして把握しておくべきでしょう。

3.市町村の介護保険事業計画について

第一期医療費適正化計画でも療養病床から介護保健施設への移行問題に起因する医療と介護の連携ですが、高齢化に拍車がかかる我が国では、両者のさらなる連携が求められるようになることは必須です。
介護部門に関しては、都道府県単位というよりも市町村単位で計画が立てられている状況なので、関係する自治体の動向は把握しておくようにしましょう。

各都道府県の計画については、ホームページで閲覧が可能となっています。
例えば東京都の事業計画概要や進捗状況を確認した場合は、東京都保健医療局のホームページを参照してください。
参考:東京都保健医療局

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まとめ(医療費適正化計画とは?)

医療費適正化計画とは、医療費削減を目的として2008年からスタートした政策のことです。
国民一人一人にかかる医療費を削減するために、特定健診や特定保健指導の実績を上げる取り組みや、たばこ対策などが計画に盛り込まれています。

また、高齢者にかかる医療費が上昇していることに対して、療養病床から介護保険等施設への切り替えの促進も望まれています。
さらに、後発医薬品使用の促進、在院日数の短縮など、医療費を削減するための環境整備にも取り組んでおり、少しずつ効果が出ていると考えられます。
しかし、
実際の年間医療費の上昇傾向は続いているため、今後もさらなる取り組みが必要とされるでしょう。

医療費適正化計画は、政府が基本的な方針を決めて、都道府県が具体的な取り組み内容を定めます。
地域ごとに病床数やニーズが異なるため、
医師は自分が勤務している地域で、どのような対策に力を入れているのか確認しておくことが大切です。

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