麻酔科医は比較的早く独り立ちすることができることや、活躍の範囲が広いこと、需要の高さなどから注目を集める診療科です。
これから専門領域を決める研修医の方や、今の診療科から転科したい医師の方にも、麻酔科医に興味を持つ方は少なくないのではないでしょうか。

「麻酔医の基本的な仕事内容や年収について知りたい」
「麻酔科医への転職や、なるための方法が知りたい」

この記事では、麻酔科医になるためのステップや、麻酔科医の働き方について解説します。
年収事情や労働環境についても細かく見ていきますので参考にしてください。

麻酔科医の仕事とは

麻酔科医の仕事というと、手術や処置での麻酔対応やその前後のケアが一般的なイメージです。
しかし実際は、ペインクリニックや在宅医療など、幅広い領域で活動できる診療科と言えます。
ここからは、麻酔科医の具体的な業務内容や、対応範囲、年収事情などを解説します。

業務内容と役割について

麻酔科医の病棟勤務での業務は、大まかに分けると以下の3つです。

  • 手術前の診察
  • 手術中の麻酔管理
  • 手術後の診察と管理

手術前には実際に対象の患者を診察し、その患者に合った麻酔の種類や投与量を判断します。
カルテや診察をもとに、持病や常備薬を確認しながら、麻酔薬の組み合わせを決定し、投与についての説明を患者と家族に行うのです。

手術中は実際に麻酔を行うことをはじめ、手術中の患者の様子をモニタリングしながら呼吸や血圧、体内水分量をチェックします。
手術中の筋肉の緩み具合や、眠りの深さを見ながら、手術終了に合わせて麻酔が解けるよう、投薬量の調整も行っています。

手術後は、バイタルや痛みの状態を診ながら、麻酔の影響ができるだけ少なくなるよう患者をサポートしなくてはなりません。
また、術後の痛みを軽減するための鎮痛対応にも参加し、主治医や薬剤師と協力して処方を決めています。

そして、麻酔外来やペインクリニックなどで治療を行ったり、外科外来での処置でも麻酔対応に入ったりといった外来対応もまた、麻酔科医の業務の1つです。
また、近年需要が高まっているものに、在宅医療領域での緩和ケアがあります。
ペインクリニックや緩和ケアに携わっていくためには、麻酔科医としての資格の他にそれぞれ専門の資格が必要です。

年収について

麻酔科医の年収は高めの傾向にあり、厚生労働省の調査によれば、平均で1,335万円となっています。
診療科別の平均年収データをランキング形式でまとめると、以下のようになりました。

順位診療科平均年収
1位脳神経外科1,480.3万円
2位産科・婦人科1,466.3万円
3位外科1,374.2万円
4位麻酔科1,335.2万円
5位整形外科1,289.9万円
6位呼吸器科・消化器科・循環器科1,267.2万円
7位内科1,247.4万円
8位精神科1,230.2万円
9位小児科1,220.5万円
10位救急科1,215.3万円
11位その他1,171.5万円
12位放射線科1,103.3万円
13位眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科1,078.7万円

*労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」を参考に作成

麻酔科の年収は、外科や産科・婦人科などに続いて4位となっています。
また、麻酔科医は全体的に年収が高めとなっていて、年収が1,000万円を超える医師の割合が全体の75%を超えていることも特徴的です。
金額別の割合を見ると、以下のようになりました。

年収金額割合
300万円未満0.8%
300〜500万円未満1.6%
500〜700万円未満5.5%
700〜1,000万円未満16.4%
1,000〜1,500万円未満36.7%
1,500〜2,000万円未満25.0%
2,000万円以上14.1%

*労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」を参考に作成

労働環境について

麻酔科医は一昔前までは、外科医とともにハードワークのイメージを持たれていました。
外科医と同じで、長時間の手術などがあるケースが多いためです。
厚生労働省がまとめた、各診療科の週あたり労働時間平均を以下にご紹介します。

診療科週あたり労働時間平均
救急科54時間
脳神経外科53.3時間
外科52.5時間
小児科52時間
産科・婦人科49.4時間
呼吸器・消化器・循環器科49.4時間
整形外科46.8時間
放射線科46.1時間
麻酔科45.8時間
眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科44.3時間
内科43.4時間
精神科38.4時間

*労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」を参考に作成

働き方改革への対応が進む中、麻酔科医でも長時間の手術で交代制を用いたり、当直やオンコールを免除するなどの仕組みを整える医療機関も増えています。
ペインクリニックの資格をとって外来専門で働くという選択肢もあり、多様な働き方があるのが麻酔科医です。

麻酔科医の1日の主な流れ

麻酔科医の多くは、病棟での業務がメインとなっています。
1日の仕事の流れは、手術があるかないかで少し違ってくるのが特徴です。
ここからは、麻酔科医の病棟における1日の主な仕事の流れを、手術のある日とない日に分けてご紹介します。

手術のある日

<朝7:00ごろ>
予定手術の実施時間は病院によって異なりますが、朝からスタートするケースが多いです。
朝に手術を行う病院の場合、麻酔科医は7時台には出勤し、その日に使用する麻酔薬や器具の準備やチェック、1日のスケジュール確認などを行います。
予定手術で必要な準備を終えた後は、手術開始までの間に前日に手術した患者やハイリスク患者の経過チェックやICUのカンファレンスに参加することもあります。

<朝9:00ごろ>
朝9時ごろに予定手術の患者が手術室に入室したら、最初に患者に対応するのが麻酔科医です。
モニター装着や末梢静脈路確保をして、麻酔導入を行います。
手術中は患者のバイタルを観察しながら、手術が安全に進められるよう、麻酔薬の調整や輸液のチェックを随時行わなくてはなりません。

<お昼ごろ>
手術終了後はお昼休みとなるケースがほとんどで、長時間手術の場合はお昼休みで一旦交代になるパターンが多いです。
お昼休みで交代した場合、昼休憩を終えたら手術に戻り、引き続き手術室での仕事となります。

<午後3:00ごろ>
予定手術を終えたら、翌日の手術に向けた術前の回診や、術後患者の回診があります。
その後は翌日に向けた準備を行い、必要に応じて患者の担当医との状況すり合わせなどを進めます。

<午後6:00ごろ>
業務が終了したら1日の勤務を終えます。
そのまま当直に入る場合は少し早く休憩に入るという病院もありますし、手術が長引けばその分勤務時間が伸びることも珍しくありません。

手術のない日

<朝7:30〜8:00ごろ>
予定手術がない日は、出勤が若干遅めになるケースが一般的です。
出勤したら、その日のスケジュールやタスクを確認したのち、ICUカンファレンスに参加して、ICUと麻酔科で情報共有を行います。
その後は回診にて術前患者・術後患者の状態をチェックし、必要に応じて担当医と連携をとります。
病院によっては外来を担当することもあり、外来担当日は回診を終えたら外来に回るパターンが多いです。

<お昼ごろ>
お昼休みをとり、午後は勤務医の手伝いや外来を担当することもあります。
またIC(インフォームドコンセント)の対応も、予定手術のない日に行うケースが一般的です。

<午後5:00ごろ>
1日の業務を終え、翌日の準備や当直医師への申し送りなどを済ませたら勤務終了です。
病院によってはカンファレンスを夕方に行うところもあります。
引き続き当直業務に入る場合は、夕食休憩時間を取ってから、夜間回診などをこなします。

麻酔科医の仕事のやりがいや魅力とは

麻酔科医は活動の幅が広いという特徴があります。
麻酔処置を必要とする各診療科と連携しながら働けたり、緩和医療や在宅ケアなどでも需要があるのです。
ここからは、麻酔科医として働くやりがいや魅力についてご紹介します。

1.手術現場の中心として活躍できる

麻酔科医の仕事の場として代表的なのが、手術の現場です。
麻酔科医は手術が必要な患者に対し、麻酔科医は手術前の診察から始まり、手術中の全身の管理や麻酔処置、そして術後のケアまで幅広く携わります。
手術の最初から最後まで一貫して関わっていくため、担当医や執刀医以上に手術の中心的存在になるケースが多くなるのです。
さらに、患者がもともとかかっている診療科と連携しながら仕事を進めるため、麻酔科医は他の診療科と一緒に働く機会が多くあります。
麻酔科医は、経験を積めば積むほど他科の知識も身についていくため、診療部長などの管理職に就くケースも多いです。

2.さまざまなキャリアプランが形成できる

麻酔が必要になるのは手術の場だけではありません。
怪我や病後などの疼痛緩和を専門としたペインクリニックで外来医師として働くことも可能です。
終末医療の場での緩和医療では、施設勤務も在宅医療も需要が増えています。

働き方の選択肢が多く、ライフプランに合わせたキャリア形成ができれば、ワークライフバランスを保って働くことが十分可能な領域なのです。
また、長時間労働になりやすい環境で働く、手術に携わる麻酔科医に関しても、労働環境の改善が進んだことで、負担が軽減される傾向にあります。

3.多くの手術の経験を積める

症例や疾病箇所を問わず、ほとんどの手術には麻酔が必要になります。
つまり、麻酔科医はどの診療科の医師よりも、手術に携わる機会が多いということです。
たとえ同じ症例の手術でも、執刀医の違いや担当医の判断によって、手術の術式が異なることはよくあります。
そうしたさまざまな術式の手術全てに参加するため、多くの経験が積め、幅広い知見が身に付くのが、麻酔科医のやりがいと感じる方は多いです。
ペインクリニックや緩和ケアの現場でも、患者一人ひとりの痛みの原因はそれぞれ異なるため、非常に多くの知識を経験から学んでいくことになります。

麻酔科医になるには

麻酔科医を目指すためには、初期臨床研修修了後、どのようなステップを踏めばいいのでしょうか。
実は麻酔科では、他の診療科のような専門医資格の他にも必要になってくるステップがあります。
ここからは、麻酔科医を目指すために必要な資格について解説します。

麻酔科標榜医の資格を取得する

麻酔科医を目指す場合、最短コースとしては、初期臨床研修修了後にすぐ麻酔科専攻医となることです。
他の診療科では専攻医として必要期間の研修を受けたのち、専門医資格を取得するステップを踏みますが、麻酔科の場合はその前に「麻酔科認定医(標榜医)」の認定を受けなくてはなりません。
麻酔科認定医とは、「麻酔科」と標榜して開業することができる資格で、他の専門医資格とは異なり厚生労働省の認可となります。
取得条件として麻酔科専門医のもとでの2年間の研修が必要ですが、これは専門医研修と並行して行うことが可能です。

麻酔科専門医・麻酔科指導医を目指す

麻酔科認定医(標榜医)の認定を取得しつつ、専門医研修を進めて専門医資格を取得すれば、最短で初期臨床研修から3年で一人立ちの目処がつきます。
また麻酔科医は、後進の指導にあたれる麻酔科指導医や、ペインクリニック専門医、緩和ケア医、集中治療など、さまざまな資格取得に挑戦できます。
まずは麻酔科専門医の取得まで達成し、その後は経験を積みながら、キャリアプランに合わせた専門資格を目指すといいでしょう。

働き方に悩んだら医師専門の転職エージェントに相談しよう

研修医を終えたら麻酔科医を目指したいという方や、今の診療科から麻酔科に転科したいと考える方は、望むキャリア形成のために転職が必要になってきます。
どの病院に転職すればキャリアアップがしやすいかを考えて転職先を探す必要がありますが、忙しい日々の業務を合間を縫って情報収集するのは、かなりハードルが高いのではないでしょうか。

そんな時にぜひ利用してほしいのが、転職エージェントです。
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まとめ(麻酔医になるには?)

高齢化社会が到来し、在宅医療や終末医療の重要性が注目される中にあって、麻酔科医は需要の高い領域です。
患者の痛みや苦痛を取り除くという、医療が提供できる成果に直結した領域であり、やりがいを感じる方もたくさんいます。
また、数多くの手術に立ち会う業務の性質上、医師としての幅広い知見を得やすい診療科でもあるのです。

麻酔科医を目指すには、麻酔科認定医を取得後、麻酔科専門医の資格を取得するのが一般的なコースです。
特に他科からの転科で麻酔科医を目指す場合は、転職を視野に入れておく必要があります。
キャリアプランの変更を考えたり、今の働き方を変えたいと思った時には、まず転職エージェントに相談してみるのがおすすめです。
転職エージェントにキャリアプランから相談することで、希望にあった転職先の情報を得られるだけでなく、自分の現在の市場価値も知ることができます。