医師にとって仕事をしていく上で、キャリアプランを持つことは大事だと言われています。
しかし、
「医師のキャリアプランってどうやって考えるの?」
「キャリアプランが重要な理由は?」
「自分に合っているキャリアプランとは?」
と迷っていたり、目の前の業務に忙殺されて考えられなかったりする方も多いのではないでしょうか?

この記事では、医師のキャリアプラン形成がなぜ重要かを医師専門の転職エージェントが解説します。
また、目的に応じたキャリアプランの考え方や、年代に応じたキャリアプランの見直し方も合わせて見ていきましょう。

医師にとってのキャリアプランが必要な理由としては、

  • 計画がないと希望通りに進むのが難しい
  • 医師余り社会への懸念
  • 医師の業務の代替が進んでいる

といったものが挙げられます。
また、年齢や目的によって、節目ごとの見直しや振り返りも大切です。

既にキャリアプランを考えている方も、まだ将来像が見えていない方も、ぜひこの記事を参考にしてみてください。


医師のキャリアプランが重要とされる3つの理由

医師にとってキャリアプランが重要なのはなぜでしょうか?

それは主に下記の3つの理由が挙げられます。

  1. 計画がないと希望通りに進むのが難しい
  2. 医師余り社会への懸念
  3. 医師の業務の代替が進んでいる

生涯現役で活躍できる職業であるからこそ、長い目で理想のプランを描いておくことで、迷いなく進んで行けるのです。
まずは、上に挙げた理由を一つずつ解説していきます。

①計画がないと希望通りに進むのが難しい

まず、医師が一人前になるには大学を卒業した後にも多大な時間がかかります。

かつては医局制度が医師のキャリアパス形成をバックアップしていたので、研修先の医局の指示に従って動いているうちにキャリアはある程度積むことができました。
しかし、超高齢化社会の到来や人口減少などにより、地域による医師の偏在が問題視されている現在は、医局に従っていると思わぬ地域や診療科への配属もあり得る状況です。

そこで、医師が自分自身でキャリアプランを長期的に考え、それに沿って経験を積んでいくことが重要になってきます。

②厚生労働省が20年後に到来すると予想する「医師余り社会」

高齢化と同時に懸念する必要があるのが、日本の人口減少です。
現在でこそ医師の人材不足が問題視されていますが、厚生労働省は2040年には1.8万人〜4万人程度の医師余りが想定されると予想しています。
医師は「食いっぱぐれることがない職業」ではなくなる恐れがあるということです。

2040年はおおよそあと20年で、現在30代の医師であれば50代ごろにその時期は訪れます。
今研修中の医師であれば、脂の乗った40代にその時期がやってくるのです。

将来を見据え、地域に必要とされる医師として足場を固めるためにも、キャリアプランを描いておくことが重要と言えます。

③代替されつつある医師の業務

医師不足からくる過重労働などに対応すべく、現在はAIやIoTを活用した医師の負荷を減らす動きが活発になっています。
こうした医師の働き方改革によって、看護師や各種専門技師などへの業務担当の振替も進みつつあります。

元々は、現状の医師の過重労働を改善するための取り組みです。
しかし、人口減によって医師の需要自体が減るタイミングは、そのままコメディカルスタッフの需要減にもつながります。
一度移動してしまった業務分担を取り戻すのは難しいと言えるでしょう。

そうなると「医師余り」に耐えうるだけの必要性を、医師自らが身につけておかなければなりません。
そのためにも、キャリアプランをきちんと描いておくことが大切です。

目的別で考えるキャリアプラン

キャリアを考えていく上で大切なのは、「最終的にどのような状態にあるべきか」を設定することと言えます。

医師として成長し一人前になった自分が、ベテランとしてどのような医療をどこで行っているのかを最初に考えることで、途中のプランも描きやすくなります。

ここからは、医師が目指す最終的なスタイルとして代表的な下記の4つの視点で、キャリアプランの描き方を考えていきましょう。

  • 開業、起業
  • 研究医
  • 国際的な活動
  • 家事や育児との両立

開業・起業したい

開業医を目指す場合は、医療スキル以外に経営スキルを身につける必要があります。
まずは医療スキルをしっかり身につけなければなりませんので、専攻医研修の時点ではキャリアパス形成を始めておくのがいいでしょう。

そして、自分1人でも目標としている診療科を運営できる自信をつけるとともに、「一国一城の主」として経営に精通することが重要です。
また、開業後に雇用するであろうスタッフの管理も大切な要素です。
どこかのタイミングで、医療以外のスキルも身につける必要が出てきます。

勤務先の病院で積極的にリーダーや管理職を目指したり、外部クリニックでアルバイトをしたりしながら経営を学ぶなどの工程を盛り込んでいかなければなりません。
また、医療スキルでも、開業したい分野の専門医は取得しておくべきでしょう。
さらには患者さんとのコミュニケーション能力も大切ですし、学ぶことが数多くあるルートだと言えます。

研究医になりたい

医学の向上や医療技術の拡充に貢献できる研究医を目指す場合は、基本的には大学在学中から進路を確定しておくことが一番スムーズです。しかし、一度臨床の現場に入った医師が、適正を考えて転身するケースも多くあります。

2021年度から始まった「臨床研究医」という制度は、主に医学系大学の教官や教授就任といったキャリア形成が予想されていて、今後の拡充が期待されている制度です。臨床研究医コースに応募し受験、合格することで研修が受けられます。
また、一口に研究医と言っても、活躍の現場はいろいろあり、大学病院で教授として研鑽を重ねるほかにも、製薬会社での開発業務などがあります。

海外で活躍したい

医師を志した人の中には、国内にとどまらず、海外に活躍の場を求める方もいるでしょう。
例えば海外の病院に所属したり、各国に居住する日本人のための医療を行ったりなどの選択肢があります。

海外で医師として働くためには、その国での医師免許が必要です。
取得方法は大まかに分けると、

  • 日本で医師免許を取得後、現地で研修と試験を受ける
  • 研究留学をする

の2通りがあります。

日本で既に医師免許を取得した状態で挑戦する場合は、研修中の臨床で少なからず給料がもらえる可能性もあります。
しかし、研究留学の場合はその希望はほとんどありませんので、資金計画も十分考えた上でキャリアプランを描かなければなりません。

家事・育児と両立したい

女性医師が直面する、出産・育児との向き合い方も、キャリアプランの作成に大きく影響するでしょう。
女性だけが育児をするという考え方が葬られつつある現代においても、この悩みを最初から考えられるのはやはり女性医師だけかもしれません。

特に「出産」は女性にしかできませんので、育児や家事とセットで考えて、家庭との両立を強く意識せざるを得ない側面があります。
子育てをしながらキャリアを継続させるとなると、家族や職場のサポートは欠かせません。
実際のところ、6割を超える女性医師が家庭や育児に関する悩みを抱えているというアンケート結果もあります。

育児や家事に関する協力者の確保を考えたり、国や自治体などの支援制度を利用したりするなどの回避策を持ちつつ、無理のないキャリアプランを考えることになるでしょう。
また、子育てを真剣に行いたいと考える男性医師も、この点は考慮してプランを作成しなくてはなりません。

年齢別で考えるキャリアプラン

目的別にキャリアプランや最終目標を設定できれば、あとはそれに到達するためのスムーズなパスを描かなければなりません。
ここからは、年代別で考えるべきキャリア形成のあり方をチェックしていきましょう。

20代後半:土台を築く

どのようなキャリアプランを描いていても、20代後半はまず知識やスキルを確実に身につけるための期間です。
また、当初描いたキャリアプランが本当に自分に合っているのかを判断する期間であるともいえます。

仮に最初からうまく将来像が考えられない場合でも、この時期に経験を積み重ねることによって方向性が見えてくることもあり得るでしょう。
20代であれば、将来を見据えた転科をすることもできるので、この時期にしっかり知見を積むことは何より重要です。

揺るがないプランが描けているのであれば、たとえ転職や転科をする場合でも、将来像から離れないように気をつけたいですね。
逆に、将来像がよく見えていない場合は、いろいろな経験を積極的に積んでいくのも一つの方法です。


30代:専門性や指導力を磨く

30代は認定医や専門医などの資格取得を目指す年代です。
それと同時に、今まで歩んできたキャリアプランをこの先も続けていくのかを検討し、判断する時期としても適しています。

また、結婚、出産・育児など、ライフステージや環境の変化も訪れる年代です。
当初描いたプラン通りに歩みを進めていくのであれば、目標に向かって必要なスキルや資金を得るために更なるステップアップを目指さなくてはなりません。
逆に、人生の岐路を考えて思い切った進路変更をするなら、この年代までに決断しておくといいでしょう。

先々の変動を見据えて、経験の幅を増やすことも可能な脂の乗った時期ではありますが、ある程度の道筋はつけておくことが望ましいといえます。

40代:生涯収入を左右する重要な時期

40代の医師にとって最も重要なのが、収入面にまつわる判断です。
研究医を目指して医局で研鑽を積んできた医師であれば、40代になってくるとある程度医局での将来像が見えてきます。

仮に医局勤めを見限るのであれば、早めの転職でより給与が高い民間病院に活躍の場を見いだす必要があります。
また、開業を目指しているのであれば、この時期までに資金や準備ができていないと、開業自体が難しくなってくるでしょう。
キャリアプランを勤務医として考えているのであれば、勤め先の病院の定年制度も見据え、生涯年収が足りているかの判断も必要になってきます。

家庭をもうけ、子供を育ててきた医師であれば、子の成長に伴った出費が大きくなったり、自分自身の老後資金のことも考え始める時期です。
しかし、民間病院に勤めていて退職金制度がある場合は、そこまで含めた生涯年収を計算した方がよく、むやみに転職することはおすすめできません。

40代の医師は、収入面・キャリア面両方を考えて、最終判断をする時期だと言えるでしょう。

50代:キャリアの分岐点

50代に差し掛かった医師が考えるべきは、ここまで走ってきたキャリアパスを継続するか捨てるかの二択と言えます。
勤務医であれば、定年が視野に入ってくる年代が50代でしょう。

このまま定年まで今の勤務先で働くことを選ぶのか、この先のキャリアを変えていくのかの判断を迫られます。
また、この先のセカンドキャリアを健康的に過ごしていくため、激務を解消するなどの選択肢も生まれてくるでしょう。

実は50代の医師は、転職市場でも人気があるのはご存知でしょうか?
しっかりキャリアを積んでいる年代ですので、後身の指導役としての需要や病院経営や責任者としての需要が高く、求人も多くあるのです。
流石に転科するなどの思い切った転身となるとさまざまなハードルが立ち塞がりますが、これまでの経験を活かした転身はさほど難しくはありません。

今後もこれまでの路線を踏襲するのか、もう少し違った世界を見ようとするのかを選べる最後の世代と言えるでしょう。


キャリアアップに悩んだら、人に意見や実情を聞く

医師のキャリアプランが大切なのは言うまでもありません。
しかし、いくら医師を目指したからといって、最初から完璧なキャリアプランを描ける方は少ないのではないでしょうか。

迷いながら最適解を探していくのは医師に限ったことではありませんが、医師の場合、描いたプランを実現する道筋をより慎重に考えることが必要となります。
そうはいっても、本当に今考えているプランが自分に合っているのか?と悩むこともあるでしょう。

そんな時には、自分が考えたプランのロールモデルとなりそうな人物を見つけ、意見を聞いてみることも有効です。
実際に似たような道を歩いている人がいれば、その経験を聞くことで将来に対する視野が広がるでしょう。

もし、身近にそういった相手が見つからない人は、キャリア形成に悩んだ時に転職エージェントに相談してみることをおすすめします。
転職エージェントは、同じようにキャリアアップに悩んでいる医師のケースをたくさん見てきています。
そのため、たくさんの選択肢を持っていて、思いがけないアドバイスがもらえることもあるのです。

転職エージェントに相談しても、必ず転職しなくてはならないわけではありません。
相談者のキャリアプランによっては、転職希望者にも転職しない方がいいという答えを出すこともあります。


転職エージェントというと杓子定規に転職先を紹介してくれると思われがちですが、実際は医師の皆様の本音を深くまで伺って、その答えが転職であれば全力でサポートしてくれる存在なのです。
キャリア形成に迷った時や、答えが見つからない時には、気軽に相談してみてはいかがでしょうか。


まとめ(医師のキャリアプラン)

医師のキャリアプラン作成は、医師一人ひとりが成功するためのものと思われがちです。
確かにその側面はありますが、それと同時に生き方を模索していくためのものでもあることを知っておいてください。

医師にとってキャリアプランが重要な理由には、

  • 計画がないと希望通りに進むのが難しい
  • 医師余り社会への懸念
  • 医師の業務の代替が進んでいる

といった事柄があります。

また、目的別や年代別でキャリアパス形成を考えるポイントも異なってきます。
既にしっかりとしたプランを持っていてもいなくても、一度立ち止まって考えてみることをおすすめします。