医療ITは確実に進歩しており、大きな病院ではほとんどの施設で導入されています。
しかし、コスト面での問題に直面しているところも多く、さらにITリテラシーに乏しい環境では混乱を招きかねないため導入を見送っている施設も少なくありません

この記事では、

  • 医療のIT化はどれほど進んでいるのか、働き方の影響などについて知りたい
  • 医療のIT化を進めるにあたっての課題や必要性などを知りたい
  • 医療ITの導入による転職への影響はあるのか知りたい

このように思っている方に向けて、医療ITの必要性やメリット、今後の展望などを詳しく解説します。先進的な医療を追及するためには、医療ITは必須とも言える時代です。医療ITに興味のある医師はぜひ参考にしてください。

医療ITとは何か

医療ITとは、コンピューターを駆使して医療を行う技術のことです。
普段の業務で使っている機器のほとんどが医療ITということになりますが、具体的にはどのようなシステムがあるのでしょうか。
病院の経営を支えている医療ITには多くの種類があります。以下に具体例を示します。

  • 電子カルテシステム+オーダリングシステム[看護支援システム・手術部門システ ム・リハビリ部門システム・栄養部門システム・放射線部門システム]
  • 医事システム(レセプト電算処理システム)
  • 調剤部門システム
  • 内視鏡・超音波システム
  • 検査システム
  • 病理部門システム
  • 病歴管理システム
  • 画像診断部門システム
  • 放射線情報システム
  • 健診システム
  • 物流管理システム
  • 医事システム
  • 財務システム
  • 人事・給与システム
  • 地域医療連携システム

こうして見ると、日常診療のほとんどの部分が医療ITによって成り立っていることがわかります。
小さな診療所やクリニックなどでは、導入していない例もありますが、規模が大きい病院であるほどこれらの技術を駆使しないと業務が成り立たない状況であることは間違いありません。

新型コロナウイルスの影響で普及しはじめたオンライン診療も最新の医療ITと言えます。
これによって地方在住の人や、身体が不自由な人でも気軽に医師の診察が受けられるようになりました。
医療ITは、医療従事者の負担軽減だけでなく、人々の健康をサポートする革新的な技術と言えるでしょう。

また、ロボット技術も開発が進んでおり、手術を支援する「ロボット支援下手術」や、薬局においては「調剤ロボット」が使われるようになっています。

医療ITと似たような言葉で、「ICT」があります。
これは、ネットワークを活用して情報を共有することを意味します。
医療機関だけでなく、在宅医療や介護業界でもこのような動きはみられており、以前よりも業務に取り組みやすい形態へと進化しています。

医療ITを導入する必要性

医療ITを導入することによって、業務を劇的に効率化できます。
さらに、ミスがあってはいけない医療現場において、ヒューマンエラーを減らすことに一翼を担います。

慢性的に人手不足の医療現場において業務効率化とミスの軽減が実現されると、人手不足は間接的に解消できるといっても過言ではありません。

また、医療ITはリモートによる業務も推進しています。
新型コロナウイルスをはじめとした各種感染症のリスクを下げることにもつながるため、高まる需要に対応できるように情報収集を行うことが大切です。

医療ITの今後と課題について

医療ITの必要性は高まっている一方で、現場ではIT化がなかなか進んでいないのが現状です。
その問題点の1つとして、ITリテラシーが低い医療現場が多いことが挙げられます。
例えば、「電子カルテの画面よりも、従来の紙媒体の方が簡単でわかりやすい」といった声も多く、その大多数が若いころに携帯電話やパソコンが普及していなかった時代のスタッフです。

多額の資金を投入して導入した医療ITであっても、結果的に使いこなされなければ意味がありません。
医療ITを活用するためには、医療ITを導入するメリットを事前にスタッフに伝達し、導入後は速やかに操作に慣れるようにサポート体制を万全にすることが重要です。

人材だけでなくコスト面やシステム担当者の不在などが原因となって医療ITの導入が困難な場合もあります。
コストを下げたり、導入プロセスを短縮させたりすることによって施設の負担は軽減できるので、そういった側面の改善も今後の課題と言えるでしょう。

導入にあたっては施設ごとにさまざまな事情や課題があるため、その1つ1つをクリアするには時間がかかってしまいますが、全国の医療施設が平均的に上質な医療を患者に提供できる未来が期待されます。

医療ITの導入が進まない主な原因

医療ITの導入が進まない主な原因は、コスト面や現場の混乱を招く可能性があることが大きく考えられます
さまざまな理由がありますが、ここでは代表的な原因を5つ紹介します。

導入コストがかかる

医療ITにかかるコストは以下のように大きく2種類に分けられます。

  • システム導入保守費用
  • 施設内の人的資源の投下

1つ目の「システム導入保守費用」とは、ベンダー(販売会社)に支払うシステム本体(ソフトウエア、サーバー、PC端末、LANネットワークなど)の費用と、その後のメンテナンス等を含めた保守管理にかかる費用のことです。
さらに、システム導入後に画面構成や機能の追加などのカスタマイズを要請することもあるため、追加で費用がかかる場合もあります。

少しでもコストをカットするために医療機関が行っている工夫例を以下に3つ示します。

  • IT導入を一括で購入するのではなく、5~6年単位でリース契約を締結する
  • 医療ITのカスタマイズを要請せずに、デフォルト仕様で使い続ける
  • 予めカスタマイズ費用が追加でかからないようにベンダーと契約する

2つ目の「施設内の人的資源の投下」とは、システム導入から稼働まで、さらに導入後から安定的運用までの一連のプロセスに関わる人材への人件費のことを指します。

電子カルテやオーダリングシステムを導入している施設には、システム分野に詳しい担当者が配置されていることがほとんどです。
この担当者以外にもシステム運用をサポートするスタッフ、レセプト電算処理システムやDPC(診断群分類)への対応に関わるスタッフなど多くの人が関わっています。

このように、医療IT導入にはかなりのコストがかかることが理解できるでしょう。
日本病院会が平成28年に実施した調査によると、医療機関で年間にかかる費用の約10%はIT関連の費用となっており、人件費、医薬品費、医療材料費に次ぐ額となっています。
導入コストだけでなく、メンテナンスコストも継続的に必要になるため、明確なコストマネジメントが必要です。

医療ITにかかるコストを100床あたりで換算すると、民間病院では約1,800万円、国立病院では約4,800万円かかっているとの報告があります。
このように経営母体に差が出てしまうのは、国立や公的機関の場合は国や自治体からの補助金があることや、民間病院では価格交渉を厳しく行っていることが考えられます。
参考:厚生労働省 医療IT化に係るコスト調査報告書

操作に慣れるまで時間がかかる

医療システムは、コンピューターの操作を基本とするため、コンピューター操作に慣れていない、もしくは抵抗感がある人にとっては使いこなすのに時間を要します
迷って、間違って、修正して、という操作を繰り返すだけで貴重な時間をかなり割いてしまいかねません。

普段からIT端末を使っている若い世代では、感覚で使えるようになることも多いです。
しかし、そうでない世代では、端末操作のミスに気づくこともできずに周囲に迷惑をかけてしまうリスクもあります。

医療ITの操作に慣れるまでに時間がかかる、もしくは使いこなせそうにないと判断されると導入を見送ってしまうケースもあります。

各部署やシステム間での連携が難しい

各部署でのシステムを統合することによって利便性はアップするのですが、それに伴い従来のシステムが変更される部署もあります。
システムの種類変更により、不便に感じてしまうこともあるため、病院全体としての医療IT導入に関する合意が得られないことがあります

また、新しいシステムを導入したときに従来のシステムとの連携ができないことも医療ITの導入を遅らせる原因です。

業務フローを見直す必要がある

医療ITを導入することで業務の流れが大きく変わることがあるため、導入してからしばらくは混乱を招く可能性があります。
そのため、
予め勉強会や説明会を行って、スタッフの認識を高めて業務フローを新たに構築しておくと良いでしょう。

システムの不具合が起きる場合もあるため、現場で問題解決にいたるまでにかかる時間としては数日から数週間はかかるかもしれません。

はじめのうちは余計に時間がかかってしまうかもしれませんが、操作方法や、業務の流れに慣れてスムーズに業務ができるようになったときには格段に業務効率が上がったことを実感できるでしょう。

医療現場におけるITの導入事例5選

医療現場におけるITの活用事例を5つ紹介します。それぞれのメリット、デメリットも紹介するので参考にしてください。

1.画像・映像認識技術

「認識技術」とは、AIを利用して写っている対象物が何であるかを分析して認識する技術です。
身近では、スマートフォンアプリやカードリーダー
で顔認証がなされる例が挙げられます。
この技
術を医療現場で利活用すると、単純X線撮影、CT、MRI、US、などの静止画、エコー検査などと組み合わせることによってガンを含むさまざまな疾患を発見できます。

もちろん医師による読影は最適な治療をする上で必須ですが、認識技術を駆使することによって見落としを最小限にとどめられる可能性が上がります

2.診断・学会などのオンライン化

新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて、オンライン診断・服薬指導が急速に普及しました。
これにより、
遠隔地に在住の患者さんや心身の不調で通院が困難であった患者の負担は軽減され、医師だけでなく気軽に薬剤師に薬の相談ができるようになりました。
注目ポイントとしては、近年、処方薬の配送サービスを行う企業も出てきていることです。

また、多くの医師が所属する複数の学会でも、従来は日本各地で開催されていた学術大会がオンラインで参加できるようにもなっています(一部学会を除く)。
これによって、小さな子どもがいる医師でも参加が可能になりました。
さらに、何回でも動画が見返せるアーカイブ機能が非常に好評です。移動時間や交通費がかからない分、プライベートや自己研鑽に還元できることもメリットでしょう。

さらに、オンライン予約も導入が促進されており、予約システムからある程度の時間枠内に受診予約を入れられるので、待ち時間を短縮することが可能になりました。

情報連携としてのFAX制度が廃止される動きもあり、医療データはPDFにしてメールで添付することも一般的になっています。

3.PACS(医療用画像管理システム)

PACS(パックス)とは、「Picture Archiving and Communication System」の略で、「医療画像保管伝送システム」または「医療用画像管理システム」のことを表します。
一般画像、CT、MRIなどの画像データ、超音波、内視鏡などの画像もDICOMというシステムを使用することで閲覧や管理が可能です。

PACSには2種類あり、1つは各医療機関に限られたネットワークを構成して運用する院内PACSです。
もう1つは、周辺地域の医療機関と医療情報を共有できるように公開サーバーを活用して運用する地域連携PACSです。

従来は画像データをフィルムで管理していましたが、PACSを導入することで保管に必要なスペースを削減できます
また、
いつでもどこでも画像データを確認できることがメリットと言えるでしょう。セキュリティ対策もしっかりなされているため、安心して使えます。

4.電子レセプト

電子レセプトとは、厚生労働省が定めたガイドラインの規格と方式に基づき、レセプト電算処理マスターコードを使用して、電子的に記録された診療報酬明細のことです。
電子レセプトが導入される前はすべてレセプト請求を紙媒体で行っていましたが、現在では病院、診療所、クリニック、歯科医院、調剤薬局などのほとんどの医療機関で電子レセプトが導入されています。
ちなみに、医科における電子レセプトの普及率は2022年の時点で97%との報告もあります。

電子レセプトのメリットは膨大な量の紙媒体の処理が不要になったことです。
また、すべてを電子化させたことによって
事務スタッフの手間を省き、ヒューマンエラーを大幅に防ぐことが可能になりました。
また、紙が不要になるため、紙代や印刷にかかるインク代などのコストカットにもつながります。

5.オーダリングシステム・電子カルテ

オーダリングシステムとは、処方オーダー、診断や検査のオーダー、その他患者の会計情報や入院中の食事情報などを入力して各部署へ伝達するシステムのことを指します。
それまで、紙媒体で運用していたことが、PC作業で可能になったため、スタッフの負担が軽減されるだけでなく、チェック機構が搭載されているためヒューマンエラーも少なくすることができます。

電子カルテは患者の診療記録や診療情報を管理し、診察や会計をスムーズに行えるようにする医療ITの代表的存在です。
オーダリングシステムと紐づけられて使用されることがほとんどで、電子カルテだけ導入してもあまり意味がありません。
膨大なデータが共有できるため、
スタッフの作業効率をアップさせるだけでなく、医療者の業務内容を把握することでチーム医療も向上します

医療のIT化と働き方への影響

医療ITの導入速度は欧米諸国と比較するとゆっくりではありますが、必要性が高まっているため、今後徐々に増加し加速すると考えられます。
医療ITが発展したからといって、医師の仕事が取られてしまうわけではないので安心してください。
あくまでも、医師や他の医療スタッフの業務をサポートしてくれるものであるため、医師そのものの必要性は変わりません。

医療ITの導入により業務負担の軽減は可能ですが、移行期間の現場では混乱を招き、ミスが発生しやすい状況になる可能性があります。
そのため、
転職を考えている場合は、すでに医療ITの導入がなされている施設のほうが働きやすいとも言えます。

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自分一人で探すと、情報量も限られてしまい働きやすい現場を見極めるのはかなり難しいのが医療業界転職の現状です。
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まとめ(医療ITの今後の課題と展望は?)

医療ITとは、電子カルテやオーダリングシステムを代表としたコンピューターシステムのことで、日々の医師の診療を支えています。
業務負担を大幅に軽減し、電子カルテと医療情報システムを連携させることで、診療に必要な情報をクラウドから容易に引き出せるメリットがあります。
一方で、導入コストがかかることや、スタッフに混乱を招く可能性があるため二の足を踏んでいる医療機関も多くあるのが現状です。

診療以外にも、学会のオンライン化が進んだことで、地方都市で開催される学会にも参加できるケースが増えています。
講演動画をアーカイブ発信している学会もあるので、自己研鑽しやすい環境となりました。

令和の医療業界では、どの診療科の医師であっても医療ITを使いこなせないと確実に置いていかれてしまいます。
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