医師が不足しているという状況は、地域によって違いがあるというのが一般的な見解です。
では、医師不足の地域格差はどれくらい開きがあるのでしょうか。

「医師不足に地域格差はあるのか、現状を知りたい」
「医師不足の地域格差により、労働環境や待遇にも差が生まれるのか知りたい」

この記事では、医師不足の地域格差についての現状や、どうして地域格差が起こるのかについて解説していきます。
また、医師が働いていく上で、地域の特色に応じたキャリア形成はどのようにしていくべきかについてもご紹介しますので参考にしてください。

医師不足の地域格差の現状

はじめに、医師の不足具合の地域差についてご紹介します。
結論から言えば、医師不足の地域差は存在していると言っていいでしょう。
厚生労働省の2020年度調査によれば、人口10万人あたりの医師の数が一番多いのが徳島県で、最も少ないのが埼玉県でした。
両者の差は倍近い状態となっています。
10万人あたり医師数の多い都道府県と少ない都道府県をピックアップしてまとめると以下のようになります。

<医師数の多い都道府県>

都道府県人口10万人あたり医師数
全国平均256.6人
徳島県338.4人
京都府332.6人
高知県332人
東京都320.9人
岡山県320.1人

<医師数の少ない都道府県>

都道府県人口10万人あたり医師数
全国平均256.6人
埼玉県177.8人
茨城県193.8人
新潟県204.3人
福島県205.7人
千葉県205.8人

(厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」を参考に作成)

10万人あたり医師数が少ない都道府県に関東地方の3県が入っていますが、これは、通勤で都内に行くケースが多いことが考えられます。
この傾向が顕著にみられる埼玉県では、東京23区への通勤圏となる川口市で148.2人、さいたま市で195.9人なのに対し、近くに大学病院がある川越市や越谷市では全国平均に近い240〜250人ほどとなっています。
また、医師数が多い東京都でも、23区だけの統計では367.8人と高くなるのに対し、八王子市では193.7人とかなり低く、各都道府県内でもムラがある状態です。

医師不足の地域格差が起きる3つの主な要因

医師数が地域によって偏ってしまうのはなぜなのでしょうか。
その原因となる要素はいくつかあり、複数の要因が絡み合っていることもあり若干複雑です。
ここでは、主な3つの要因について解説します。

1.地域の大学病院における派遣医師が減少していること

医師数の地域差が出ている1つ目の要因は、医局員数の減少にあります。
そしてその背景には、2004年から始まった新臨床研修制度が影響しています。
都市部の民間病院での研修を選ぶ医師が増えたことで、各地域の医局員が減り、結果として医局から派遣させる医師数も減ってしまいました。

医局制度が当たり前であった時期であれば、医局を抱える大学病院はある程度全国に点在していたため、都道府県別レベルの格差は今ほど大きくなかったと言えます。
さらに、医局員が関連病院に派遣されることで、都道府県内の地域格差もそこまで大きくならずに済んでいた側面があります。

臨床研修をより設備が充実した医療機関で受けたいと思うのは誰しも同じでしょう。
しかし、その結果として、そういった大型の病院が集中する都市部に医師が集中してしまうという現象が起きています。
さらに、民間病院であるがゆえに、医療過疎地への派遣などもなくなってしまったため、地域内でも医師数に偏りが出ることにつながっています。

2.都市部における開業医が増加していること

医師の中の一定数は自身でクリニックなどを開業しています。
先ほどの厚生労働省の調査データを参照すると、医療施設で働く医師のうち、開業医の割合がどのくらいかがわかります。
直近数回の調査データを比較してまとめました。

調査年医療施設に従事する医師総数診療所の開設者または代表者数割合
2010年280,431人72,566人25.9%
2012年288,850人72,164人25.0%
2014年296,845人72,074人24.3%
2016年304,759人71,888人23.6%
2018年311,963人71,709人23.0%
2020年323,700人72,586人22.4%

(厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」を参考に作成)

上の表からもわかる通り、20〜25%程度の医師が開業医として活躍しています。
そして開業医はやはり人口が多い都市部にクリニックを構えるケースが多くなるでしょう。
ニーズが高くない場所にクリニックや診療所を構えても、経営が立ち行かなくなってしまう恐れがあるからです。
医師全体のうちおおよそ1/4近くが都市部で開業してしまうことも、地方や人口が少ない地域の医師数を減らしてしまう要因の1つになっていると言えるでしょう。

3.診療科間の偏在が広がっていること

医師数の偏りは、地域差だけではありません。
診療科によっても医師の数に違いがあり、いわゆる「人手不足」な診療科というのが存在します。
同じく厚生労働省のデータをもとに、医師数の多い診療科と少ない診療科をまとめました。

<医師数の多い診療科>

診療科医師数
総数(調査母数)323,700人
内科61,514人
気管食道科22,520人
整形外科17,997人
形成外科16,490人
消化器科(胃腸科)15,432人

<医師数の少ない診療科>

診療科医師数
総数(調査母数)323,700人
産婦人科108人
神経科169人
眼科456人
麻酔科459人
外科594人

(厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」を参考に作成)

上の表は、「主たる診療科」を集計したデータです。
このため、実際に所属する医師数とは異なってきますが、それでも大きな偏りがあることが見て取れます。
外科や産婦人科は激務であることが知られていますし、神経科も含め訴訟リスクが高い診療科というイメージもあるでしょう。
緊急対応などの時間外勤務も多く、なり手が少ないだけでなく、他科へ転科してしまうケースも考えられます。

医師不足の地域格差をなくすための厚生労働省の取り組み

地域による医師数の偏りは、人が健康的に過ごすために必要な医療が行き届かないリスクを引き起こします。
そして、それだけではなく医師の働き方にも無理な長時間労働を招くなどの弊害があります

1.独自の医師偏在指標を導入する

2018年の医師法改正で導入されたのが、「医師偏在指標」です。
元々は2036年に向けて医師偏在の解消を目指すために設けられた指標で、人口10万人あたりの医師数と医療ニーズや将来の人口構成の変化など5つの要素を加味した数値となっています。

また、産科と小児科についてはそれぞれ分娩件数や年少者人口を加味した医師偏在指標を算定していて、都道府県別のほか、二次医療圏別に指標値が公表されています。
さらに、診療所の医師数偏在を見るための外来医師偏在指標も設けられました。

これにより、医師偏在の実態を数値化して可視化することができるようになりましたが、その対策についてはまだ議論が繰り返されている最中です。
対策の内容については次の項で詳しく見ていきます。

2.医師が少ない地域での勤務のインセンティブを導入する

各都道府県においては、医師法に基づいた医師確保計画を、厚生労働省のガイドラインに沿って作成しています。
この策定においても、先に挙げた医師偏在指標を使って偏在状況を把握した上で進めるようにとされているのです。

この中で、医師数が少ない地域に一定期間以上勤務する医師に対する認定制度を設け、それに応じたインセンティブが設定されています。
対象医師の認定は厚生労働大臣によって行われ、その医師が地域医療支援病院や医師が少ない地域で診療する際の支援を行うという内容です。

また、医師派遣に応じる医療機関へのインセンティブも設けることで、医師偏在の是正につながるよう取り組みが進んでいます。

3.時間外労働を制限する

2024問題と呼ばれることもある、いわゆる「医師の働き方改革」も、医師偏在是正の取り組みの一環として期待されています。
これは、医師の時間外労働時間に上限を設ける規制で、原則として月間45時間以下です。
さらに、連続勤務時間を28時間までに制限し、勤務間のインターバルに9時間確保するなどの規制がかかってきます。

実現のためには、医療機関自体の努力が不可欠で、現場で医師が不足している医療機関にはハードルが高い条件となってしまっています。
医師一人ひとりの労働条件の改善は確かに待ったなしの問題です。
しかし、これが偏在是正につながるかどうかはまた別の問題だという声も少なくありません。

4.キャリア形成プログラムを推進する

医師数の少ない地域でもキャリア形成ができるようにする「キャリア形成プログラム」も、各都道府県で進められている施策です。
都道府県ごとに異なるポイントもありますが、大筋としては、初期臨床研修修了後の7年間を専門医資格を目指しながら対象地域に勤務する仕組みです。自治体側で医師不足が起こっている地域に医師を派遣できるようにします。

プログラムを利用する医師は、あらかじめキャリアプランを共有した上で、自治体側から提示されるプログラムの中から理想に近いものを選択するスタイルとなっています。
希望する診療科の専攻医取得もできるため、地域を離れずにキャリア形成ができるシステムです。
プログラムを満了することで、医大の修学資金の返済が免除になる特典もあります。

医師不足の地域格差を踏まえた上でのキャリア形成

医師がキャリアを積んでいくにあたって、勤務先選びはとても重要です。
どの診療科で働くか、そしてどの地域で働くかによって、最適な職場は変わってきます。
医師偏在がある中で、どのようにキャリア形成をしていけばいいのかも、慎重に考えておきたいポイントです。
ここからは、医師のキャリア形成を考える上で、医師不足の地域格差をどのように考えるべきかをご紹介します。

1.自身の働く地域をよく見極める

自分が住んでいたり働こうとしていたりする地域で、医師が不足しているかどうかは事前に知っておいたほうがいいでしょう。
地域のニーズによって医師数が多い診療科や少ない診療科は変わってきます。
地域のニーズと現状をしっかり把握し、もしも医師が少ない地域であるならば、勤務条件や労働環境をできるだけ把握した上で勤務先を探すのがおすすめです。

ニーズがあっても医師数が多いと給与があまり高くなかったり、医師数が少ないことで収入は良くても勤務条件がハードだったりします。
キャリアプランを築いていくために必要な環境があるかどうかという点と合わせて、地域の特色をチェックすることで、スムーズにキャリア形成を進める助けとなります。

2.人手不足に対する対策がなされているかよく調べる

自分が希望する研修先や勤務先で人手が不足しているという場合は、それに対するフォロー体制があるかどうかを知っておくと安心です。
長時間勤務はどうしても発生するがその分収入がいいとか、ハードな環境だけど教育体制だけはしっかりしているなど、なにかしらフォローになるポイントがあれば、頑張りがいも出てきます。

収入アップを目指していて、ハードワークには耐えられる自信があるのであれば、医師不足に悩んでいる職場を選ぶことでチャンスを生むきっかけになるかもしれません。
職場側からは歓迎されますし、さまざまな経験を積む機会にも恵まれる可能性があります。

3.自身のワークライフバランスから考える

ワークライフバランスを重要視したいのであれば、希望する職場の医師数は把握しておきましょう。
地域格差が出ているとわかっているのであれば、その中でも働きやすい診療科に転科することを視野に入れるのもいいでしょう。
診療科は変えずにキャリアを積んでいきたいのであれば、地域格差のデメリットを受けない場所にある医療機関への転職を考える方法もあります。
医師偏在の状況は数値データである程度把握はできますが、具体的なその土地の医師のリソース状況は、転職エージェントなどを頼ることで把握することができます。

医師専門の転職エージェントなら「メッドアイ」

地域格差や医師不足を感じながら働いている方の中には、転職を考えているという方もいるのではないでしょうか。
医師が転職をする場合、求人情報を見ただけではわからない部分も情報収集しておいたほうが失敗が少なくなります。
職場やその地域の医師数が十分かどうかや、たとえ少なくても無理なく仕事を回していく仕組みがあるかどうかなどは、なかなか調べるのも大変です。

働きやすい職場や、望んだキャリア形成ができる職場を探すためには、転職エージェントの力を借りることがおすすめです。
メッドアイでは、医師専門の転職エージェントとしてのノウハウを活かして、医師一人ひとりの希望や悩みに寄り添ったマッチングをしています。
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キャリアプランのご相談なども無料で気軽に受けていただけます。

まとめ(医師不足に地域格差はある)

医師不足や医師の長時間労働など、医師が置かれた環境の厳しさには、実はムラがあるということがおわかりいただけたかと思います。
地域による医師偏在や、診療科による医師数の偏りは、医療を受ける側にも影響を及ぼしますが、働く医師にとっても重要な問題です。

自分自身が医師として何を重要視して働くのかにもよりますが、働きやすい環境を求めるのであれば、地域格差の問題はチェックしておくべきでしょう。
逆に、医師の少ない地域で貢献したいと考えている方の場合も、どの地域のどの診療科に医師が不足しているのかをキャッチアップしないとなりません。

医師が理想の職場で働くためには、自分のキャリアプランや重要視している要素を明確にし、その希望を叶える職場を探すことが大切です。
転職エージェント「メッドアイ」に丸ごと相談することで、より良い職場を探してみるのはいかがでしょうか。