勤務医として出世を目指す方や、法人化を検討する開業医の方が意識する役職として、理事職や理事長職があります。
病院の責任者というイメージが強いと思いますが、実際にはどのような責務を担うのでしょうか。

「病院の理事長の年収や仕事について知りたい」
「理事長になるための方法や理事会の仕組みについて知りたい」

この記事では、医療法人における理事長職の役割や働き方、年収事情などを解説します。
医療法人の仕組みの基本についてもご紹介しますので、参考にしてください。

病院の理事長とは

医療法人化している病院における理事長職とは、他業種の株式会社で言うところの代表取締役にあたります。
また、混同されがちですが院長という役職もあり、規模の小さな医療法人では一人で両方を兼任することもあるでしょう。
ここでは、理事長の役割や院長との違いについて解説します。

理事長は医師しかなれない

医療法人を設立するにあたり、原則として理事を3名以上選任する必要があります。
そしてそのうちの1名を理事長とし、この理事長が医療法人の法務面での責任者となるのです。
一般的な株式会社に例えれば、理事は取締役、理事長は代表取締役となります。

理事長に選出されるためには、原則として医師でなくてはなりません。
一部例外もありますが、医師でない者が理事長になるのは基本的に不可能です。
また、常勤の医師が2名以下の個人クリニックが医療法人になる場合は、一人医師医療法人と呼ばれ、理事1名がそのままみなし理事長となります。
理事長の役割は、医療法人の代表としてその医療法人の業務にまつわる法的な対処を行うことです。
3名以上の理事がいる医療法人であれば、理事及び理事長で運営する理事会で医療法人が行う業務に関する決定を担います。

院長との違い

理事長が医療法人全体のトップであるのに対し、院長は病院(あるいは診療所)のトップであるという違いがあります。
院長の役割は自院における医療実務の責任者です。
例えば規模が大きい医療法人が複数の病院や診療所を運営している場合、それぞれの病院に院長が配置されます。
つまり、1つの医療法人に理事長は一人ですが、院長は複数存在するケースがあるということです。
規模が小さい医療法人や一人医師医療法人では、理事長が院長も兼任することになります。

理事長の年収はどれくらい?

理事長は医療法人の長として運営や法的な責任を負うことになります。
社会的地位もあることから、高収入というイメージを持つ方も少なくないようです。
ここからは、理事長の年収事情について、相場や報酬額の決め方をご紹介します。

年収の相場

理事長の年収については、次に紹介する報酬額の決め方でも詳しく解説しますが、相場はあってないようなものです。
データで見てみると、医療法人の役員平均年収は1,200万円程度となっていますが、これは理事長だけを見たものではありませんので、あくまで参考程度の数字と言えます。
(参照:厚生労働省医療経済実態調査の報告(令和3年実施)P302)

理事長の報酬額には上限も下限もありません。
したがって、その医療法人の経営状況によって、理事長の報酬額は左右されることとなります。
また、他の医療法人と兼任で役職に就いている場合に片方を無報酬とするケースも聞かれます。

理事長報酬の決め方

理事や理事長、幹事といった役員の報酬額は、その医療法人の定款や社員総会決議などで決定します。
事前に報酬をいくらに設定するかの素案を作って決議を図る形です。
役員報酬は、医療法人の年間利益が病院の運営や設備維持に必要なだけ残るように設定する必要があります。
なおかつ役員個人が家計として必要な報酬額であることが望ましく、利益とのバランスを考慮することが重要なポイントです。
理事長報酬には会社員の給与と同じく税金や社会保険料もかかるため、報酬が高額になるほど手取りの割合は減少します。

医療法人の仕組み

医療法人は、株式会社などの一般法人と同じような法人の一種です。
しかし、一般法人とは仕組みや決まりごとで異なる点があります。
ここからは、医療法人の仕組みや、必要となる役員などについてご紹介します。

運営機関について

法人には、一般か医療かを問わず、機関の設置が義務付けられています。
機関とは、法人の意思決定や業務遂行などを行う役割や会議体のことです。
株式会社の場合は株主総会と取締役会が必須機関と定められていて、たいていの株式会社ではそれ以外に監査役や会計参与などを合わせて設置しています。
医療法人では、医療法で定められた機関を設置することになりますが、財団医療法人科、社団医療法人科で違いがあり、まとめると以下の通りです。

法人種別設置すべき機関
社団医療法人社員総会
理事
理事会
監事
財団医療法人評議員
評議委員会
理事
理事会
監事

財団の医療法人数は少なく、厚生労働省が発表したデータでは、医療法人数58,005件中、財団の医療法人は362件しかありません。(参照:厚生労働省「種類別医療法人数の年次推移」
従ってこの先は、社団医療法人の例を解説していきますのでご了承ください。

役員について

医療法人を構成する役員には以下の3種類があります。

  • 理事長
  • 理事
  • 監事

理事は前述の通り、一人医師医療法人でない限りは3名以上の設置が必要で、理事長以外の理事については非医師の就任も可能です。
監事は一般企業で言うところの監査役にあたり、1名以上の設置が必要となります。

また、役員以外にも医療法人設置に必要な機関としてある「社員総会」を維持するため、3名以上の社員の設置も必要です(一部2名以上とする都道府県もあります)。
この「社員」とは、病院で働く医師のことではなく、株式会社でいうところの「株主」に相当する存在で、役員が兼任することもできます。
株主と異なる点としては、出資額の有無や金額に左右されず、1社員に1議決権が与えられます。
ちなみに、病院で働く医師や看護師などの従業員は職員と呼び、社員とはまったく異なる存在です。

理事長の選出について

理事長の選出は、理事会にて行われます。
理事同士の互選により定めることになっていて、通常はすでに理事になっている人から選出することになります。
稀なケースとして、外部の医師を招き入れて理事長とする場合は、先に社員総会を開き、まずは理事に選任されるステップが必要です。

理事長は原則として医師または歯科医師でなくてはならず、例外としては都道府県知事の認可を受けた者も就任が可能です。
しかし、都道府県知事の認可には厳しい基準があり、あまり現実的ではありません。
医療法人における理事長はその法人の代表であり、登記事項となっています。
したがって、理事長の引退といった理由による変更には、所管の行政庁へ変更届を出すと同時に登記変更や社会保険事務局への届出も必要です。

病院の理事長の働き方

繰り返しになりますが、理事長になれるのは原則として医師か歯科医師です。
では、実際に理事長になったら、働き方はどのように変わるのでしょうか。
理事長としてはどんな仕事をし、今までの医師としての仕事はどう変わるのかを知っておかないと、特にこれから起業される方は戸惑ってしまうかもしれません。
ここからは、理事長の仕事内容や、求められる責任などをご紹介します。

仕事内容について

理事長の仕事は、一言で言えば「最終意思決定」です。
医療法人の規模によっても違いが出てきますが、人事や設備投資の稟議があれば承認をし、法人内で行われる会議にも関わっていくことになります。
もちろん機関運営の場である理事会や監事との打ち合わせなども多くなり、法人全体を常に俯瞰して見る必要があります。
また、銀行や会計事務所といった院外でお世話になっているところへの面会や業務上のやりとりといった外交面の仕事も出てくるでしょう。

個人で開業していた方が法人化して一番驚くのは、そうしたさまざまな視点から経営を見ることになる変化だといいます。
理事長になると、臨床現場で働くことがぐんと減ることは間違いありません。
一般職員の医師が勤務全体の8割を臨床現場に充てているとすれば、理事長職は多くても1割程度だという声も聞かれるほどです。

求められる責任について

医療法人で理事や理事長になると、臨床現場の医師とは違った責任を負うことになります。
主なものとしては、医療法人自体や第三者に対する損害賠償責任です。
理事長や理事が責務を怠ったり、悪意のある行為に起因して起こった損害や過失は、理事長が負います。
そうした重大な過失が起こらないよう、理事長の義務として善管注意義務と忠実義務を負っています。

その他、社員総会や監事に対する説明や報告義務といった業務的な義務も定められているのです。
また、就業や利益相反取引には制限がかけられていて、理事長が自己や第三者のために法人と取引をしようとする際には、理事会の承認と報告が必要になります。

理事長は兼任も可能

理事長職は兼任も可能です。
同一法人内では、主に一人医師医療法人で院長と理事長を兼任するケースが多くなります。
さらに、法的解釈だけを取れば、他の医療法人でも理事長を兼任することが可能です。
しかし、理事長として医療法人の責任を負う立場であることから、名前だけの代表者となることは推奨されないため、行政指導が入る可能性があり一般的ではありません。
それと同様に、非営利性の高い医療法人の理事長が、営利法人の役員を兼任することも、適切ではないため避けるべきでしょう。

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まとめ(病院の理事長の年収はどれくらい?)

医療法人の代表である理事長という役職には、大きな社会的地位と同時にさまざまな責任が伴います。
それは法人の規模の大小を問わず、一人医師のクリニックが法人化しても同じことです。
理事長という役職は、医師の出世コースのゴール地点の1つだと言えます。
しかし、その働き方は臨床現場とは大きく異なることを知っておくべきでしょう。

医療法人は一般法人とは異なる点も多く、理事会や監事など、置くべき機関の数も異なります。
しかし、一般法人の代表取締役と同様に、その法人を守り健全に運営する責務を負う点では同じです。
特に開業して法人化を目指す場合は、理事長としての働き方を事前に知っておきましょう。