医師不足は、医師がキャリアプランを考えるにあたって少なからず影響を及ぼす要因です。
医師が足りないということは、患者側にとっても医師本人にとっても深刻な問題だといえるでしょう。

「近年は医師不足だと言われているが、実際にどのような対策がなされているのか知りたい」
「医師不足への対策がなされることによる働き方の影響について知りたい」

この記事では、医師不足の現場や考えられる要因とともに、課題や対策についてご紹介します。
医師不足の中でいかに働きやすい職場を見つけるかについても解説しますので、参考にしてください。

医師不足の現状について

まず医師不足の状況について俯瞰して見てみましょう。
医師不足と言われるものの、その実態には地域格差が存在します。
さらに診療科によってもばらつきがあり、必ずしもすべての領域や場所で医師が不足しているというわけではありません。
厚生労働省の調査(「医師・歯科医師・薬剤師統計」)によれば、人口10万人あたりの医師数が最も多いのが徳島県で338.4人、少ないのは千葉県の208.8人となっていて、1.5倍以上の差があります。

診療科によってもばらつきがあり、医師数の多い内科と比べると、外科や産婦人科などは極端に少ないという結果です。
元々医師数があまり十分でない職場の場合、当直の回数が多いといった勤務条件にも影響してくるでしょう。
その結果、労働環境がハードになり転職してしまう医師もいるため、悪循環に陥るケースもあります。

医師不足が加速する主な3つの要因

医師不足が進んでしまう背景には、多くの要因が絡み合っていることが考えられます。
その中でも影響が大きい要因として、以下の3点がよく聞かれるものです。

  1. 医師に求められるニーズの増加
  2. 救急患者数の増加
  3. 医療訴訟数の増加

ここからは、これらの要因を1つずつ詳しく解説していきます。

1.医師に求められるニーズの増加

医療の世界では常に新しい治療法や新薬などの情報アップデートが行われています。
新しい情報を常に吸収していく必要がありますし、スキルアップのための研鑽も欠かせません。
また、診療の仕組みや制度も見直しが頻繁で、最近ではインフォームドコンセントの普及もその1つです。
医師が治療だけでなく説明責任も負う形となるインフォームドコンセントは、その準備も含めて労働時間増加につながっています。

このような進化や改善のための制度変更は、医療のあり方を進歩させる一方で、現場の最前線にいる医師に求められるニーズの増加にもつながっているのです。
さらに高齢化により患者数が増加の一途を辿る中で、医師にかかる負担は今後も増え続けていくことが予測されます。
医師として働き続けることが辛くなり、もっと条件の良い職場へ移動したり、医師を辞めてしまうといったケースが増えてしまうことで、医師不足の加速が懸念されています。

2.救急患者数の増加

救急患者の増加も医師の業務に大きな負担を与えています。
もともと救急搬送数は年々増加の一方にありました。
新型コロナ感染症の影響で一時期は減少したものの、その後はまた増加傾向が戻ってきています。
以前は交通事故などでの搬送が多かったものが、夏の暑い時期の熱中症や、急病などの疾病による搬送が増えているのも特徴的です。

また、患者側が判断に迷い、本来救急車が必要でない状態でも救急車を呼んでしまうというケースも増えています。
総務省のレポート(「令和4年版救急救助の現況」)によれば、2021年の救急搬送人員のうち、14.8%が救急の必要性が低いケースであったという結果が出ています。
救急対応を強いられる医師の負担が大きくなることから、医師不足に陥りやすい要因と言えるでしょう。

3.医療訴訟数の増加

医療訴訟件数が高止まり傾向にあることも、医師にリスクを感じさせる要因となっているでしょう。
裁判所の統計によれば、医療訴訟の件数は年間で700〜800件程度発生していて、横ばいの状況が続いています。
診療科別に見ると内科が最も多いのですが、内科は医師数も多いため、医師一人当たりの訴訟リスクはさほど高いものには感じられません。
しかし、医師数が少ない診療科である外科や産婦人科などでは、そのリスクをより一層大きいものに感じてしまうでしょう。
2021年の診療科別医療訴訟の件数を多い順にまとめると、以下のようになります。

診療科目訴訟件数
内科238
その他診療科117
歯科100
外科98
整形外科87
産婦人科51
形成外科27
精神科(神経科)26
眼科17
小児科16
泌尿器科16
耳鼻咽喉科10
麻酔科9
皮膚科8

(裁判所「医事関係訴訟事件(地裁)の診療科目別既済件数」を参照し作成)

医師不足を解消するために必要な5つの対策

医師不足を解消させるために、国や自治体でもさまざまな施策を行っています。
ここからは、医師の偏在や不足を緩和するために必要とされている対策について、5つのポイントをご紹介します。

1.労働環境や福利厚生の改善

長時間労働や度重なる宿直など、ハードな労働環境が問題になっている点については、「働き方改革」による改善を目指している状況です。
2024年問題と呼ばれることもありますが、医師の時間外労働時間に上限を設けることで、過重労働を防ぐことを目的としています。
また、医師の偏在を緩和するために、各自治体でキャリア形成プログラムを取り入れたり、医師派遣に応じたインセンティブ制度を導入するなどの取り組みも進んでいる状況です。

これに加えて、人員が不足している医療機関では、離職を防ぐための対策として、福利厚生を充実させることも求められています。
例えば、子育て世代の医師が安心して働けるような保育所設置や、住宅補助などの生活支援などです。

2.賃金や待遇の改善

勤務先での給与や残業代などが低いという場合も、医師が転職を考えるきっかけとなりがちです。
この点を見直すことで、医療機関側は医師離れを防ぎやすくなります。
しかしながら、経営が必ずしも順調な病院ばかりではなく、中にはそういった取り組みをやりたくてもできないというところもあるでしょう。
国でもこうした医療機関への支援を実施していますが、新型コロナウイルス感染症対策の一環とされているため、その範囲は限定的と言えます。

3.AIなどデジタルツールの活用

電子カルテなど、医療業務のデジタル化も、医師の雑務を軽減するために必須の対策です。
AI搭載の医療機器やロボット類を積極的に導入していくことで、医師や医療スタッフの実務を軽減し、ミスのリスクを減らすことも期待できます。
実際に、医療現場のIT化を進めている病院は多くなってきました。
しかしこれも、原資が必要になる対策であるため、すべての病院で対応できるわけではないという点が課題です。

4.医師以外のスタッフの役割の拡大

医師が請け負う業務を分散化させる「チーム医療」という考え方も、医師不足を補う対策として有効視されています。
看護師が医師と業務を分担していく助けとなる特定看護師制度が2015年から導入されていて、認定を受けた看護師は、医師が行う検査の補助などにあたれるようになりました。
しかしながら、看護師の人数も不足していると言われていて、医療現場全体での人員拡充が必須の対策となるでしょう。

5.医師の地域偏在を改善する仕組みづくり

地域によって医師が不足している地域偏在という状況を改善するために、2018年から「医師偏在指標」という数値が公開されています。
これにより、どの地域で医師が足りないのかを数字で見ることができ、各自治体は厚生労働省のガイドラインに沿って医師確保計画を立てています。

各自治体の対策として主なものは、前述したキャリア形成プログラムや、インセンティブ制度の導入です。
医師側にとっても、このプログラムを完遂することで奨学金返済免除が受けられるなどのメリットがあります。

医師不足における新たな課題も増えている

医師不足が起こる背景にはさまざまな要因が絡み合っているという側面があります。
しかし、最近になって新たに医師不足を招く要因となりかねない課題も浮上しているのです。
どのようなことが問題点となっているのかをご紹介します。

コロナ感染症など新たな感染症に対する人材の養成や確保

まず最近の医療業界で大きな問題となっているのが、新型コロナウイルス感染症の流行です。
これまではとくに人材不足などの問題を感じていなかった医療機関でも、この感染症拡大の影響を受けているところが少なくありません。

感染症の受け入れに対応した医療機関では、過酷な勤務を強いられたケースも多く、結果として医師が離職してしまったという話も聞かれます。
さらに、新たに医師を採用しようとしても、なかなか欲しい人材が見つからないといった悪循環に悩んだ医療機関もありました。
新型コロナウイルス感染症が5類相当になったことで、対応できる医療機関が増え、これからの影響解消に期待がもたれているところです。

医療現場のAI化におけるITリテラシーの確保

医療現場における画像診断のAI化や電子カルテ導入といったデジタル化が進んでいます。
しかしそれらのツールを使うのは結局人であり、環境がITやICT化を進めても、そこで働く人間のITリテラシーが低い場合、直ちに業務効率化にはつながりません。

もともとITリテラシーが高く、デジタルツールや新しい機器を使いこなすことに抵抗がない人であれば、最新技術を取り入れた環境は大きな力になります。
しかし、そうでない場合はまず人の教育から始めることとなり、理想の環境の実現までの道のりが長くなってしまうでしょう。

医療現場においての働きやすさの見極め方3選

医師が働く場所を選ぶ際には、大切にしたいポイントは人それぞれ異なってきます。
しかしながら、働きやすくキャリアを築いていきやすい環境を求めるのは誰しも同じではないでしょうか。
ここからは、「どういった環境なら働きやすいのか」を見極めるために大切なポイントを解説します。

1.医師不足に対する対策がきちんとなされている現場か

地域や診療科によっては、医師が足りていない病院が数多くあります。
自分が働こうと思っている地域がそれに該当するのかどうかを知ることが重要です。
もしも働きたいと考えている現場が医師不足なのであれば、それに対するフォローや対策が取られているかがわかるといいでしょう。

医師偏在や医療過疎が起こっている地域で働くのはハードではありますが、その分多くの経験が得られるというメリットもあります。
また、地域に貢献できる達成感も高く、医師としてやりがいを感じながら働ける場所でもあります。
医師不足に対してどのような対策を講じているかを知ることができれば、その環境で自分が頑張っていけるかどうかを判断できるでしょう。

2.最新機器の導入など業務の効率化に努めているか

オンライン診療やAI画像診断など、最新技術を取り入れることに力を入れている医療機関は年々増えている状況です。
こうした医療機関で働くことができれば、医師の負担はかなり軽減されることが期待できます。
さらに最新技術に触れられるため、自分自身のスキルアップのチャンスでもあると言えるでしょう。
医師不足の対策としても期待されているため、設備環境へのこだわりが強い医療機関であれば、現在医師が不足していても、近い将来その負担を解消できると期待できます。

3.人間関係やサポート体制が良好な職場か

職場の人間関係が良好かどうかも働きやすさを見極める大きな要素です。
医師が足りていない病院でも、人間関係が良好であれば、チーム医療がうまく運べたりできるため、人手不足のカバーにつながります。
逆に、もしも働きたいと思っている医療機関が、人手不足を理由に教育体制や研修体制が不十分になってしまっているようであれば、キャリア形成もおぼつかなくなってしまうでしょう。

職場の人間関係や風通しについては、求人情報だけではわからない側面もあります。
転職エージェントなど、内部事情に詳しいプロに聞くことで、情報を得やすくなるのでおすすめです。

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医師が転職を考える場合、転職先に求める条件以外にも知っておきたい情報がたくさんあります。
ここまで触れてきた人間関係などもそうですが、求人情報を見ただけではわからないことも多いでしょう。
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まとめ(医師不足への対策とは? )

医師不足の問題は、解決が急がれるものの、簡単ではないというのが現状です。
しかし、人々が安心して医療を受けられる世の中を維持していくためには、待ったなしの問題でもあります。
医師不足と言われる地域で働く場合などは、医師の側にも影響が出ることですので、仕事先を選ぶために慎重になる必要があるでしょう。

自分が医師として働いていく上で、どのようなことを重要視するのかによって、働き方の選択肢は変わってきます。
今の働き方があっているのかどうか迷ったら、一度立ち止まってキャリアプランを見直してみることもおすすめです。
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最終的に転職はしないことになっても、専門家に相談することで、進む道が見えやすくなるかもしれません。