医師が活躍する分野は多岐に渡りますが、その中の1つに解剖医と言う働き方があります。
「解剖医」という専門医資格があるのではなく、法医学医や監察医など、解剖に携わる医師をまとめた総称です。

「解剖医の年収は低いと聞いたことがあるが実際どうなのか知りたい」
「解剖医の働き方について知りたい」
「解剖医になるにはどうすれば良いのか知りたい」

この記事では、解剖医(法医学医・監察医・病理医)の仕事に興味がある方のために、働き方や必要な資格などについて解説します。
気になる解剖医の年収事情についてもご紹介しますので、参考にしてください。

解剖医とは

冒頭でも述べた通り、「解剖医」と標榜する専門の医師がいるわけではありません。
法医学医・監察医・病理医といった、遺体に対し死因や病気の状態などを特定するための解剖を行う医師を総称した言葉です。

解剖医という言い方は、医療業界内では一般的ではなくあまり使われていない表現です。
医療者以外の視点から見た総称であり、新聞やニュースといったメディアで主に見られます。
解剖医と呼ばれる医師には、それぞれ異なる役割があります。
職種ごとの役割と仕事内容については、次の項でご紹介します。

解剖医の種類と仕事内容

俗に「解剖医」と呼ばれる医師は、法医学医と監察医、それに病理医です。
ここからは、それぞれが担う役割と仕事内容についてご紹介します。

法医学医

法医学医(法医解剖医)とは犯罪や事件によって亡くなったり、亡くなった疑いがある遺体に対し、裁判所が許可を出した「司法解剖」を行う医師です。
法医学医は司法解剖で死因や身元確認などを行います。

医師免許取得後に法医学を修め、かつ死体解剖の資格認定を受ける必要があり、多くの法医学医は研究機関や大学の職員として働くケースが一般的です。
中には臨床医師と兼業で法医学医の仕事をこなしている人もいます。

監察医

監察医も法医学医と同じプロセスを経る必要があり、法医学医と同様に法医学者の一員です。
法医学医との違いは地方自治体に所属する公務員になるという点です。

監察医の仕事は「行政解剖」と呼ばれる、変死や災害死、感染症での死亡といった事例で都道府県知事の指示において行う解剖です。
司法解剖と同様に、死因や身元の特定を行いますが、事件性のない遺体を公衆衛生維持向上の目的を持って行います。
監察医は公務員のため、都道府県の監察医務院で勤務します。

病理医

解剖医のくくりとは少し違うものの、同じく解剖を担当する領域として病理医があります。
法医学医、監察医が解剖を主な業務としているのに対し、病理医は業務に解剖を含むものの、主業務ではありません。
病理医は病院に勤務し、組織片や検体から病変の診断や検証を行います。
病理医の仕事内容は、主に組織診断、細胞診断、そして病理解剖です。
病理解剖では、病院で亡くなった患者の死因や病態を調べたり、治療の効果を検証します。

病理医については、こちらの記事でも詳しく解説していますので参考にしてください。

解剖医の年収

解剖医の中でも、法医学医と監察医はそれぞれ大学職員や公務員に当たるため、それに準じた収入水準となります。
働く地域によって変わりますが、平均年収は700万〜900万円程度です。
病院に勤務する臨床医師の平均年収は1,428万円ですので、解剖医と比較すると1.5〜2倍程度の違いがあります。(厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」より)

ちなみに全業種での平均年収は529万円で、解剖医の年収はこれよりは高いものの、あまり高水準とは言えないのが実情です。(国税庁「令和4年分民間給与実態統計調査」より)
その一方で、病理医は専門医資格もある病院勤務の医師であるため、年収水準は臨床医師と大差ありません。
ただし、臨床医も若手のうちはあまり年収が高くないため、平均レベルの年収になるにはある程度の経験を積み重ねる必要があります。

解剖医がきついと言われる3つの理由

病理医を除く解剖医は、遺体解剖が主な業務となります。
給料も臨床医に比べると低く、仕事がきついとも言われています。
ここでは、解剖医の仕事がきついと言われる理由について3つご紹介します。

1.精神的な負担がかかりやすい

解剖医は精神的な負担を考慮すべき職業です。
法医学医は病院で闘病の末に亡くなった患者ではなく、事件や事故などで亡くなった異常死の遺体を取り扱います。
状態の悪い遺体や損傷がひどいもの、臭いがきついといったケースもままある仕事です。
死因を特定する際にも、通常の死とは異なるため、多角的な調査や分析が求められます。

監察医であれば、公衆衛生の観点から感染症で死亡した遺体の解剖を行うこともあり、感染リスクが伴うこともあるでしょう。
そして、解剖医は患者の回復を見ることがなく、患者に感謝されることもありません。
タフな精神力と、冷静な観察力が常に求められることから、きついと感じることが多くなってしまいがちです。

2.勤務時間やスケジュールが不規則になりやすい

事件や事故、災害は、常に突然起こるものです。
もちろん事件発生時にリアルタイムで出動するということはあまりありませんが、突発的な依頼が少なくない仕事です。
基本的な勤務シフトは定められていても、休日出勤や時間外の対応が発生することは避けられないでしょう。

不規則なスケジュールで、場合によっては凄惨な状態の遺体に向き合わねばならない仕事は、ストレスを感じやすい側面があります。
臨床医でも宿直などで勤務時間が長くなるといった辛さはありますが、解剖医の場合は突発的な仕事が多いことがきつさの原因の1つだと言えます。

3.臨床医学に携わりにくくなる

法医学医や監察医は、医師免許の他に法医学を修める必要があります。
法医学は社会医学とも表現され、法律上の問題に医学的な見識が必要となる場面で、科学的・客観的な調査や判断が求められる学問です。
臨床医学とはまったく異なる性質を持つため、法医学の道に進むことは、臨床医学から離れることを意味します。

ただし、昨今では臨床法医学と呼ばれる分野も出てきていて、例えば児童虐待に関する法医学分野で、臨床医と連携して調査にあたるケースも見られるようになってきました。
また、医学部と法医学教室を併せ持つ大学で、医局に所属して臨床の仕事をしながら法医学研究をするというケースも聞かれます。

解剖医のやりがいとは

タフなメンタルを求められ、不規則なスケジュールを厭わず働く割に、それほど年収レベルは高くない解剖医の仕事ですが、臨床とは異なるやりがいがあるのも事実です。
その最たるものが、「真実の追求」でしょう。

解剖医は職業柄、死因が不明な遺体と向き合うことが多くなりますが、医学の知識を駆使して死因を突き止めることができる仕事です。
身元不明の遺体から身元を特定し、遺族にお返しできれば、遺族から感謝されることもあります。
死因に納得いかない遺族に対し、解剖鑑定で解明した真実を伝え、遺族が気持ちに区切りをつけるお手伝いもできます。

時には真相究明に辿り着けないケースも起こり得るでしょう。
それでも真摯に向き合い、経験を重ねながら成長することで、より多くの真実を見つけられるようになる職業です。
医学を駆使して死因を究明することで、ご遺体の周囲にいる人の役に立てる、社会的にも必要とされる仕事が解剖医だと言えます。

解剖医になるには

監察医や法医学医(法医解剖医)になるには、まず臨床医と同様に、医学部で学び医師国家試験に合格しなくてはなりません。
その後は臨床医と道が分かれ、大学院進学となり、法医学教室へ進みます。

解剖医は臨床の仕事をしないため、初期臨床研修を受ける義務はありません。
しかし昨今では医療知識や技術習得のために、初期臨床研修を受けてから法医学教室へ進むケースも増えています。
法医学教室では法医学解剖の研修を受けたり、学会報告や論文作成をしたりして研鑽し、専門的な知識を学びます。
必要な経験を十分に積んだのち、法医師認定医と死体解剖認定医の資格取得に挑み、合格すれば法医学医や監察医として働くことができます。

監察医については、自治体によっては監察医務院で研修を受けられるところもあります。
一方、病理医を目指す場合は、臨床医と同様に医師国家試験合格後に初期臨床研修を経て専攻医となり、病理専門医資格取得を目指すのが一般的です。

解剖医の求人を見つけるのは難しい

解剖医は、なるまでのプロセスも大変なのですが、なったのちの仕事先を見つけるのも難しいという現状があります。
2013年時点での法医解剖医(法医学医)の人数は全国で154人しかいません。(参考資料:警視庁「司法解剖の実施」)

法医学医が司法解剖を行う機関も全国に80施設程度しかなく、求人が出るケースが稀なのが特徴です。
監察医に至っては、東京23区や大阪市など、大都市圏の行政でしか運用されていないため、ほぼ紹介や推薦で決まってしまうと言われています。
解剖医を目指すのであれば、法医学教室で学ぶ傍ら、就職できるような人脈作りもしておくことがおすすめです。

求人探しに悩んだら医師専門の転職エージェントに相談しよう

医師となってどのような領域に進むかは、人それぞれの思いやキャリアプランによってさまざまです。
その中で監察医や法医学医を目指したいという方もいれば、今の仕事から転身して解剖医を目指そうと考える方もいるかもしれません。
臨床医とは袂を分つことになるものの、まったく交流がないわけではなく、病院では体験できない数多くの経験を積むこともできます。
しかしながら、求人が表に出るケースが少ないため、仕事探しが難しいというのが難点です。

解剖医としてキャリアを築こうと思ったら、まずは、医師専門の転職エージェントに相談してはいかがでしょうか。
メッドアイでは、無料相談を通じて医師一人ひとりのキャリアプランづくりに寄り添います。
また、非公開を含む豊富な求人情報の中から、キャリア形成に役立つ職場のご紹介が可能です。

まとめ(解剖医の年収は低いって本当?)

臨床医とはまったく異なる働き方をする解剖医は、収入面や求人の少なさなどの不利な点もある職業です。
しかし、物事の正否をはっきりさせたい方や、正義感の強い方には向いている職業です。

解剖医の仕事を目指したいと思ったら、ぜひ一度転職エージェントに相談してください。
解剖医に舵を切る場合、臨床現場で積み重ねてきたキャリアを一旦途絶えさせることになりますので、エージェントと相談しながら、じっくりキャリアプランを練り直してみるのがおすすめです。

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