国民皆保険制度が取られている日本では、誰もが社会保険や国民保険などへ加入します。
医師も同様で、病院に勤める勤務医であれば協会けんぽ(全国健康保険協会)をはじめとする被用者保険に加入するのが一般的です。
一方で個人事業主となるクリニック経営者は、国民健康保険に加入する以外にも医師国保に加入するという選択肢があります。

「医師国保に切り替えるべきか悩んでおり、医師国保のメリット・デメリットについて知りたい」
「医師国保の加入条件などについて詳しく知りたい」

この記事では、医師国保の基本的な知識や加入条件、保険金額などについてご紹介します。
国民健康保険(国保)との違いや、医師国保を選ぶメリットデメリットについても解説しますので参考にしてください。

医師国保(医師国民健康保険組合)とは

医師国保とは、医師国民健康保険組合の略称で、各自治体や大学医師会などが運営している保険組合です。
他業種の国民健康保険(国保)と同じ立ち位置にありますが、国保とは異なる制度もあります。後程詳しく説明する加入条件に該当すれば、開業医がどちらの保険を選ぶかは自由です。

医師国保組合でも、他の健康保険組合同様に保険事業を行っていて、健康診断や人間ドックの補助、提携保養施設の利用といった、一般的に知られる保険事業サービスを受けることが可能です。
保険事業サービスや細かい加入条件・方法などは、自治体によって少しずつ違いがあるため、加入を検討する際は詳細を確認することをおすすめします。

国保や健康保険との違い

国保が職業の区別なく保険未加入者を受け入れるのに対し、医師国保は純然たる医師のための保険組合です。
このため、医師国保ならではの制度や条件があります。
ここからは、医師国保と、国保や被用者保険(社会保険や協会けんぽなど)との違いをご紹介します。

加入条件について

医師国保の大きな特徴としては、加入申請した医師本人だけでなく、その家族も加入対象という点です。
ただし家族の中に自分の勤め先の健康保険に入っている人がいる場合は除外とし、今まで国保に加入していた家族は、医師でなくとも医師国保へ一緒に切り替えることになります。

また、医師国保に加入している医師が経営する診療所では、従業員が5人未満の間は、新たに入職する医師やスタッフも医師国保へ加入が必要です。
スタッフが増えて従業員が5人以上になった場合は、協会けんぽや社会保険への切り替えとなります。
ただし加入している組合によっては、医師国保に元々加入していた人はそのまま医師国保を続けることが可能です。

医師国保の保険料はいくら?

国民健康保険や社会保険では、保険料は年収額によって変わってきます。
しかし、医師国保では、年齢や立場に応じた固定金額となっているのが大きな特徴です。

また、社会保険や協会けんぽといった被用者保険では、保険料の一部を事業者側が負担していますが、医師国保では全額自己負担で、事業者負担がありません。
保険料は自治体や組合によって違いがあるため、ここでは東京都と大阪府の2024年度の保険料をご紹介します。

<東京都の場合>

種別保険料月額介護保険料月額(40歳〜64歳の場合加算)
開業医・勤務医(第1種組合員)39,500円6,000円
看護師等従業員(第2種組合員)18,500円6,000円
家族(中学生〜74歳)12,500円6,000円
家族(未就学児〜小学生)9,500円

*75歳以上の組合員については種別を問わず後期高齢者組合保険料として月額1,000円が発生
(参照:東京都医師国民健康保険組合「保険料について」

<大阪府の場合>

種別保険料月額介護納付金割賦額(40歳〜64歳の場合加算)
医師(組合員)39,600円6,100円
75歳以上医師(組合員)5,000円
看護師等従業員(准組合員)17,900円6,100円
75歳以上従業員(准組合員)1,000円
家族15,400円6,100円

(参照:大阪府医師国民健康保険組合「保険料について」

自家診療分の保険請求について

医師国保とそのほかの健康保険で大きく異なるのが、自家診療での保険請求ができないことです。
健康保険組合は組合員の保険料で運営されています。
それを自家診療の診療報酬として支払うことは、社会的通念や自主財政を図るといった意図から、ほぼすべての医師国民健康保険組合が制限しています。
ただし、高齢者組合員は制限対象から除外したり、近くに医療機関がない立地の場合は緊急時に例外的に請求承認したりするなど、自治体によって制限の幅に違いがあります。

ちなみに、医師国保は世帯加入が原則のため、医師本人だけでなく、家族が自家診療する場合もすべて自費で負担しなくてはなりません。
保険を適用させたい場合は、自家ではなく別の病院や診療所へ出向いて治療する必要があります。

医師国保に加入するメリット

医師が国民健康保険ではなく、医師国保に加入するメリットは、主に費用面にあります。
医師国保は収入額にかかわらず保険料が一定のため、年収額が上がっても保険負担が変わりません。
医師は他の業種に比べると収入が高めの傾向があり、結果として国民健康保険よりは割安になるケースがほとんどです。

また、診療所を経営してスタッフを雇っている場合、協会けんぽや社会保険であればスタッフの保険料の半分を負担する必要があります。
しかし、医師国保であれば各自の自己負担となるため、診療所の経費的にもお得です。

医師国保でも、医療費の一部負担、高額医療費の一部払い戻しといった他の健康保険と同様の制度を受けることが可能です。
さらに、国民健康保険では受けることができない、傷病手当金や出産育児手当金の支給も受けることができます。
保険として遜色なく利用でき、費用面でのメリットがあることから、個人事業主の医師に利用しやすい保険と言えます。

医師国保に加入するデメリット

医師国保でまずデメリットになってくるのが、自家診療分を保険請求できない点です。
地域によって例外はあるものの、基本的には自家診療は自己負担になります。
自分の家がクリニックなのに、いざ治療が必要になったら別の医療機関に足を運ばないと保険適用にならないのは、不便に感じられるかもしれません。
同様に、医師国保に加入している医師のもとで働くスタッフも医師国保に加入することになるため、体調不良時に勤務先で治療を受けにくい点はデメリットと言えるでしょう。
一方フリーランス医師のように、主たる勤務先がない人であれば自家診療については心配する必要がありません。

また、クリニックを経営している医師が医師国保に加入する場合、5人未満であれば従業員も加入対象となります。
医師であれば給与に対する医師国保の保険料は割安になるのですが、事務員の場合そうはなりません。
事業所が半額負担してくれる社会保険や、収入に応じて保険料が決まる国民健康保険の方が負担が軽いケースがほとんどです。
このことから、医師国保に加入が必要なクリニックで働くことを避ける人もいて、人材を集めにくいこともデメリットと言えるでしょう。

医師国保への加入条件

医師国保の加入条件は、自治体や医師会によって多少の違いはあるものの、概ね以下のとおりです。

  • 都道府県医師会または対象の大学医師会に加入している
  • 各組合が規約に定めた地域に居住している
  • 従業員が5人未満の医療・介護を行う個人事業所の開設者・管理者
  • 上記の事業所に従事する者
  • 新規加入時に75歳未満である

都道府県によっては地区医師会員でも加入できたり、逆に医師国保組合がない地域があったりと違いがあるため、加入を検討する際は、所属している医師会に確認してください。
また、従業員が5人未満であっても法人化している場合は新規加入ができない点は注意が必要です。

加入に当たっては、世帯全員(社会保険加入者は除く)で加入するため、組合で定められた加入届の書式のほかに、住民票などの提出が必要です。
そのほか、医師免許の写しや対象医師会員である証明書類を添えて申請します。
従業員を雇った場合には、その従業員を医師国保に加入させるための書式があり、医師の加入時と同様に届出します。

まとめ(医師国保とは?)

国民健康保険がほかの被用者保険に入っていない人をすべて受け入れているのに対し、医師国保は医師とその家族、従業員のためだけに開かれた保険組合です。
事業所負担なしで従業員の保険も賄えて、国民健康保険よりも手厚い保険事業サービスを受けることができるため、小規模で運営している開業医には利用しやすい制度と言えます。

しかしながら、世帯全員加入や自家診療の自己負担など、利用する人の家族構成や背景によってはデメリットに感じられる面もあるのは事実です。
医師国保と通常の国保のどちらに加入するかは自由なので、じっくり検討してから決めることをおすすめします。

また、現在は勤務医でこれから開業するという場合、転職エージェントなどに相談しながら準備を進める方が多いと思います。
メッドアイでは、開業医を目指す方にも万全のサポートをしていますので、開業後の保険利用についてもぜひご相談ください。