現代の医療システムにおいて、プライマリ・ケアは重要な役割を果たしています。患者に寄り添い、病気や怪我の最初の診療を行うプライマリ・ケアは、現代医療において欠かせない存在です。

「プライマリ・ケアの機能について詳しく知りたい」
「プライマリ・ケアに携わる医師の役割について知りたい」

このように考えている方に向けて、本記事ではプライマリ・ケアについて解説します。プライマリ・ケアが果たしている役割を知り、今後の医師としての働き方の参考にしてください。

プライマリ・ケアとは

プライマリ・ケアとは、病気や怪我が起こった際に最初の診察を行う医療のことです。
具体的にどういった内容の不調が起こっているかわからない際に、最初に行われるのがプライマリ・ケアです。つまり、プライマリ・ケアを実施する医師には、患者と継続的なパートナーとなることが求められます。

病気や怪我の診療だけでなく、健康診断で気になる項目があった際の相談も、プライマリ・ケアを行う医師の役割と言えるでしょう。診療所では「かかりつけ医」、病院では総合内科の「総合医」が実施する医療がプライマリ・ケアの代表例です。

かかりつけ医との違い

厚生労働省はかかりつけ医を「健康に関することを相談でき、必要があれば専門医や医療機関を相談できる身近で頼りになる医師」と定義しています。

プライマリ・ケアはあくまでも医療の内容についての用語であり、かかりつけ医は医師の種類を意味します。そのため、言葉の指しているジャンルがプライマリ・ケアとかかりつけ医では異なると言えるでしょう。

プライマリ・ケアの5つの理念

プライマリ・ケアには5つの理念があります。それぞれの理念の詳しい意味について解説します。

1.近接性

プライマリ・ケアの重要な特徴の1つが「近接性」です。これは患者が必要なときに迅速かつ容易に医療を受けられることを意味します。地理的に医療を受けやすいのも重要ですが、経済的や精神的な面からも近接性は判断されます。

診療所が綺麗で利用しやすい雰囲気になっている、診察費用が安く負担が少ないなどは、近接性に大きく影響するポイントと言えるでしょう。

2.包括性

プライマリ・ケアの「包括性」とは、性別や年齢、特定の病気にとらわれず、すべての問題に対応することです。ワクチン接種や予防医療を通じて、病気の発生や重症化を抑えるのは、プライマリ・ケアの包括性を高める上で重要です。

包括性を高めて、事前に病気の発生を抑えることは医療費の抑制にもつながります。認知症や後遺症がある場合には、リハビリテーションや生活援助を通じて、患者がより良い生活を送るためのサポートを行うことも大切です。

3.協調性

​​プライマリ・ケアにおける「協調性」は、医療チームや他の医療機関、社会資源と連携し、地域住民と協力して健康問題に取り組むことです。チーム医療の展開や地域ネットワークの構築により、幅広いニーズに応えることが求められます。
個々の医師が単独で対応するには限界があるため、協調性を重視して医療に取り組んでいくことが重要です。

4.継続性

「継続性」は、患者と医師の長期的な関係を築き、一貫したケアを提供することを指します。これによって患者の健康状態や治療歴を深く理解し、継続的なフォローアップが可能になります。
継続性のあるケアは、慢性疾患の管理や予防医療において特に重要であり、患者の信頼を高め、より良い健康状態を維持することにつながるでしょう。

5.責任性

プライマリ・ケアの「責任性」は、患者の健康に対して責任を持ち、最善のケアを提供することを意味します。これは診断や治療だけでなく、患者の教育や健康維持、病気予防のためのアドバイスも含みます。

十分な説明を通じて受療者との意思疎通を図り、医療内容の質を維持し、見直すことも欠かせません。また、医療者の生涯教育や後進の育成に責任を持って取り組むことも必要です。

プライマリ・ケアが本来持つメリット

プライマリ・ケアのメリットは多岐にわたります。まず、プライマリ・ケアは定期的な健康チェックや予防接種を通じて病気の早期発見と予防を促進します。病気の進行を防ぎ、重症化を回避することが可能です。
病気に対して早期にアプローチすることは、患者の健康維持だけでなく、医療費の削減にも影響します。

プライマリ・ケアは患者一人ひとりの健康状態や生活環境に基づいたアプローチを行います。患者中心のアプローチによって、患者の満足度が向上し、信頼関係が構築できるのもメリットの1つです。

また、幅広い健康問題に対応できる包括的なケアが可能な点もメリットの1つです。性別や年齢、特定の臓器に限定されることなく、あらゆる健康問題に対処するため、患者は1つの医療機関で多岐にわたる医療サービスを受けることができます。
診療の一貫性が保たれ、患者の健康管理がより効果的になります。

プライマリ・ケアで対処できない重篤な症状のみを大きな病院へ移行する形を取ることで、最初から大病院に人が集中しない仕組みを作ることも可能です。
専門医療機関の負担が軽減され、医療システム全体の効率が向上するのもプライマリ・ケアのメリットです。

欧米などのプライマリ・ケア先進国においては、診療所の手にする医療報酬はバランスが良く、患者の有無に関係なく経営が成り立つよう設計されています。
この仕組みによって、診療所は安定した経営を保ちながら、質の高い医療サービスを提供することが可能です。

プライマリ・ケアは、このように多くのメリットを持つ医療サービスです。個々の患者だけでなく、地域社会全体の健康と福祉を支える重要な基盤となっています。

日本におけるプライマリ・ケアの課題

日本におけるプライマリ・ケアには、いくつかの課題が存在します。まず、プライマリ・ケアの専門性が十分に浸透していない点が挙げられます。
日本では、内科医や小児科医がかかりつけ医としてその役割を担ってきた傾向があり、プライマリ・ケア医としてのスペシャリストは長らく存在しませんでした。
これは、医療体制の整備が不十分であったことに起因しています。

近年では、日本プライマリ・ケア連合学会による老年科専門医や家庭医療専門医などの資格が設けられ、プライマリ・ケアを専門とする医師も徐々に増えてきています。
しかし、欧米諸国と比べるとまだその浸透度は低いのが現状です。
欧米では、プライマリ・ケアが医療システムの基盤として確立されており、専門性の高いプライマリ・ケア医が地域医療を支えていますが、日本ではその重要性が完全に認識されていない部分が残っています。

医師の偏在も大きな課題です。都市部には医療機関が集中している一方で、地方や過疎地域では医師が不足している現状があり、地域間で医療サービスの質やアクセスに格差が生じています。
医師の地域間バランスを改善し、すべての住民が等しく質の高いプライマリ・ケアを受けられる体制の構築が必要です。

プライマリ・ケア医の育成と研修制度の充実も求められます。日本では専門医の育成に重点が置かれてきましたが、プライマリ・ケア医の育成は十分ではありません。
プライマリ・ケアに特化した研修プログラムや教育体制の強化が急務です。

これらの課題を解決するためには、政府や医療機関、教育機関が一体となって取り組むことが重要です。プライマリ・ケアの専門性を高め、地域医療の質を向上させることで、すべての国民が等しく健康な生活を送れるようになるでしょう。

プライマリ・ケア医に求められる役割

日本における高齢化が進む中で、プライマリ・ケアは重要な役割を果たしています。
高齢者の健康問題は多岐にわたり、慢性疾患や認知症などへの対策は欠かせません。プライマリ・ケア医は、患者一人ひとりの状態を把握し、早期に健康問題を発見し、適切な治療やケアを提供することで、高齢者の生活の質を向上させる役割を担っています。

プライマリ・ケア医に求められる能力として、幅広い知識と経験が挙げられます。
高齢者は慢性疾患や多くの健康問題を抱えていることが一般的であり、それらの病態に対する深い理解と適切な治療計画の立案が必要です。

また、患者やその家族と親身に関わるコミュニケーション能力も不可欠です。
高齢者やその家族は医療に対して不安や疑問を持つことがあるため、信頼関係を築きながら適切な情報提供や支援を行うことが重要です。

関係機関との適切な協力体制を築くことも求められます。高齢者の医療や介護にはさまざまな関係機関が関与するため、連携しながら包括的なケアを提供することが大切です。
介護施設や地域の福祉サービスと連携し、患者のニーズに応じた支援を行うことで、継続的なケア体制を確立することが目指されます。

まとめ(プライマリ・ケアとは?)

プライマリ・ケアは医療を支える上で重要な概念であり、プライマリ・ケア医の存在は高齢者をはじめとして多くの方の助けとなっています。
プライマリ・ケアには課題も数多くあるため、日本全体でプライマリ・ケアに対する意識を高めて、医療体制を整えていくことが重要となるでしょう。

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