在宅医療分野における訪問診療は、社会の高齢化に伴ってニーズが拡大している領域です。
一方で、昔ながらの響きを感じさせる「往診」という形態もあります。
一般的な病院で外来や病棟の仕事をしているとあまり縁がないため、両者の区別が曖昧という方もいるのではないでしょうか。

「在宅医療に興味があり、訪問診療と往診の働き方の違いについて知りたい」
「在宅医療に携わる仕事をしてみたい」

この記事では、在宅医療の鍵となる訪問診療と往診の違いについて解説します。
働き方の違いや年収事情、在宅医療分野で有利な資格などもご紹介しますので、参考にしてください。

訪問診療と往診の違いとは?

医師が患者の自宅や入居している介護施設などに足を運んで診療を行う、訪問診療と往診は、一見同じことのように見えます。
しかし両者には異なる定義があり、その性質は全く違うものです。
ここからは、訪問診療と往診の違いについて解説します。

定義について

訪問診療と往診には、以下のようなそれぞれの定義があります。

  • 訪問診療:在宅で治療を行う患者に対し、計画的な治療方針をもって定期的に訪問して行う診療。
  • 往診:患者が急な体調悪化で病院に行くことが困難な場合に、患者や家族が医師に要請し、その依頼に応じて訪問して行う診療。

両者の明確な違いは「計画性」です。
訪問診療では、老衰や末期がんなどの患者が最期を自宅で過ごしたい場合や、長期的な療養が必要で、自宅での治療を選んだ患者に対し、計画的な診療プランをもとに、定期的に訪問して診察や投薬指示を行います。
症状が悪化すれば必要に応じて入院をすすめ、落ち着いている時は看護師やケアマネージャーとチームを組んでケアにあたります。
訪問頻度は症状により変わるものの、月数回程度が一般的です。

一方の往診は、あくまでも患者側の要請に基づき訪問する形となり、突発的な症状悪化で病院まで行くのが難しい場合に依頼されるものが主となります。
24時間365日、いつ起こるかわからないものであり、医療機関側の人員体制によっては対応できないケースも出てきます。
また、設備や薬剤が完璧に揃っていない環境で、病状を見極めつつ適切な処理を行うことから、豊富な経験が求められる仕事です。

診療報酬上の違いについて

往診と訪問診療では、診療報酬も異なります。
基本的な点数の違いをまとめると以下の通りです。

項目診療報酬
往診料720点
訪問診療科(I)1*(同一建物居住者以外の場合)888点
訪問診療科(I)1(同一建物居住者の場合)213点
訪問診療科(I)2*(同一建物居住者以外の場合)884点
訪問診療科(I)2(同一建物居住者の場合)187点

1*=「在宅患者訪問診療料1」1人の患者に対して1つの保険医療機関の保険医の指導管理の下に継続的に行われる訪問診療。
2*=「在宅患者訪問診療料2」主治医として定期的に訪問診療を行っている保険医が属する他の保険医療機関の求めを受けて、当該他の保険医療機関が診療を求めた傷病に対し訪問診療を行った場合。

※有料老人ホーム等に併設される保険医療機関が行う訪問診療は訪問診療料(Ⅱ)に分類され、診療報酬も異なります。
(参照:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要」

訪問診療の診療報酬が2種類あるのは、個人宅で療養している患者のもとに訪問する場合と、老人ホームや特別養護施設などへ出向いて複数の患者を診る場合との違いです。
上の表の基本報酬以外にも、対応内容によって加算報酬が算定可能です。

往診では休日深夜の往診や、逆に診療時間内に緊急往診した場合などの加算があります。
訪問診療では、在宅ターミナルケア加算や緩和ケアなどが主な加算項目です。
どちらにも共通して、看取りを行った場合も一律の加算が発生します。

訪問診療と往診の働き方の違い

訪問診療と往診とでは、働き方にも違いが出てきます。
一番大きい違いとしては、訪問が定期的なのか突発的なのかという点です。
ここからは、訪問診療と往診での働き方や、年収事情などをご紹介します。

訪問診療の働き方と年収

訪問診療では、夜間対応や休日対応があるものの、基本的には計画的なスケジュールで訪問を行います。
このため、病院にもよりますが、勤務時間自体は固定されているケースがよく見られます。

訪問診療を専門にしている機関では、出勤後にミーティングを通じて患者の状況共有や引き継ぎを行い、その後スケジュールに沿って訪問診療を行います。
1日の訪問予定を終えたら帰院し、カルテ作成やその後のシフトのスタッフへの引き継ぎなどをするパターンが一般的です。
外来患者も受け入れている病院や、診療科内で持ち回りで訪問診療を担当する場合は、午前中に外来を担当し、午後は訪問といったスケジュールになります。
また、こうした病院では訪問診療を担当する医師が当直免除になるといった措置をとっているところもあり、ハードですが比較的オンスケジュールで働ける環境が多いのが特徴です。

年収は働く医療機関や専任かそうでないかによって幅があり、一概に相場を示すデータは残念ながらありません。
しかし、求人情報をいくつか比較してみると、1,500万〜2,000万円程度の求人が多い傾向がありました。
訪問診療はニーズが増していることと、診療報酬の加算点が多いことから、一般病棟での内勤医師より高い年収での求人が増えていると言えます。

訪問診療医の年収事情については、こちらの記事も参考にしてください。

往診医の働き方と年収

元々往診を専門に働く医師というのはあまりいませんでした。
あくまで病院や診療所での勤務がメインで、往診要請を受けた時に対応するスタイルがほとんどです。
このため、夜間やオンコール待機中などに発生した往診であれば、時間外手当がつくといった程度で、年収に反映するほどではありません。
したがって、病院勤務医が往診の仕事も担当する場合であっても、年収の相場はあくまで診療科ごとの相場とあまり変わらないと言えます。

ただし、開業医であれば、往診で高い診療報酬が得られるため、対応すればその分年収アップが望めます。
しかしその一方で、診療時間中の対応が難しかったり、少ない人員で対応しきれないケースも出てくるため難しいところです。

また、一時期新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、往診を専門とする医療サービスを提供する企業が活発化しました。
しかしその後の診療報酬改定で、元々在宅医療を受けていない人に対する往診の加算額が少なくなりました。そのため、改定後にサービスを終了した企業もあり、往診医療サービスを提供する企業の動きは、往時ほど活発ではないのが現状です。

在宅医療のニーズが拡大している3つの理由

高齢者が増えている日本では、在宅医療に対するニーズが増加しています。
しかし、ニーズ増加の理由は、単純な社会の高齢化だけではありません。
ここからは、在宅医療のニーズが拡大している理由を3つご紹介します。

1.在宅医療が必要な高齢者が増えているため

大きな理由の1つとして、先に述べたように、高齢者の増加があります。
単純に高齢になる程医療が必要になる背景があるのは当然のことですが、さらに急性期の治療を終えた患者のケアのニーズも増えているからです。
高齢者の場合は、急性期を脱しても家庭での療養に支障が出たり、その後の通院が困難なケースが少なくありません。
在宅医療でケアする対象が、高齢化社会の到来で確実に増えています。

また、日本では病院で亡くなる方が80%と、ほとんどのケースで最期を病院で迎えています。
しかし、厚生労働省の調査によれば、最期を迎えたい場所は「自宅」が一番多く、男性で52.2%、女性で40.1%、全体では45.8%と、半数近くの回答が終末期を自宅で迎えたいという結果でした。

住み慣れた場所で人生を終えたいという考え方が広く取られていることも、在宅医療が重要視されるポイントです。

2.若年層でも在宅医療のニーズが高まっているため

在宅医療を必要としているのは、高齢者だけではありません。
近年になって、若年層の在宅医療のニーズも増加しています。
年代別の在宅医療の割合を平成23年度分と令和5年度分とで比較しました。

年代2011年在宅医療割合2023年在宅医療割合
0〜14歳10.4%11.1%
15〜39歳11.5%15.8%
40〜64歳18.4%18.0%
65〜74歳19.0%18.0%
75歳以上40.7%37.1%

(参照:厚生労働省「社会医療診療行為別統計」令和5年及び平成23年分)
40歳以上の割合が横ばいもしくは現象しているのに対し、0~39歳の在宅医療の割合が数パーセント上昇しています。

若年層でのニーズには、医療技術の進歩が背景にあります。
例えば周産期医療の進歩により先天性の症状があっても助かる命が増え、出産後の日常的な医療ケアが必要な子どもへの対応として在宅医療体制は必要な存在です。

また、検査技術の向上でがんや生活習慣病の発見が容易になり、治療技術の向上で急性期を比較的早く脱することができるようになりました。
予後が長引いても必要な療養は在宅で行えるようになり、在宅医療のニーズ増加につながっています。

3.家族の安心感を得られるため

在宅医療が求められる理由のもう1つは、患者本人だけではなく、患者家族の要望もあるからです。
症状が重くても急性期でなければ原則通院することになりますが、その際に付き添う家族の負担は決して軽いものではありません。
在宅医療で定期的な訪問診療が受けられれば、家族の負担を大幅に減らすことが可能です。
また、いつでも医師や看護師に相談できるネットワークを享受でき、安心感にもつながります。
患者の周りにいる家族が、ゆとりや安心感を持って患者と向き合うことができれば、患者の精神面にも良い効果が期待でき、患者も安心して療養に専念できます。

訪問診療・往診医に役立つ資格

訪問診療や往診の仕事をするにあたっては、プライマリケアのスキルがあれば特に資格を取らなくてもスタートが可能です。
ただし、在宅医療ニーズが増えている昨今では、より質の良い医療サービスの提供を目指す向きがあります。
仕事探しをスムーズにしたり、待遇の良い仕事を見つけるためには、専門医資格を取っておくことがおすすめです。
ここからは、在宅医療で役立つ資格をご紹介します。

在宅医療専門医

日本在宅医療連合学会が認定する「在宅医療専門医」の資格は、医師として5年以上の経験があれば、研修を受けることで受験可能です。
在宅医療を提供する医療機関ですでに5年以上の訪問診療経験があれば、申請によって研修免除の制度もあります。
研修期間は1年以上で、主な研修内容は常勤での在宅医療業務への従事と、緩和ケア、内科研修です。
研修メニューの中でも内科研修は初期臨床研修のものを充てることができます。
(参照:在宅医療連合学会「専門医制度」

老年科専門医

加齢による心身の不調が重なりがちな高齢者に対し、病気と付き合いながら生活する上での指導や、優先順位をつけた治療管理を行うための資格です。
新専門医制度のサブスペシャルテイ領域の資格であり、内科専門医を取得後に2年間の研修を受けることで受験資格を得ることができます。
老年科専門医資格は2022年から新専門医制度に組み込まれたため、まだ従来の学会認定での取得も可能です。
ただし、今後調整が入ることが予想されますので、詳しくは最新情報をご確認ください。
(参照:日本老年医学会「老年科専門医認定試験」

家庭医療専門医

家庭医療専門医もまた、新専門医制度におけるサブスペシャルテイ領域です。
総合診療専門医取得後に研修を受けることで、受験資格を得られます。
日本の家庭医療専門医制度はWONCA(世界家庭医機構)の認証を受けた研修制度です。
この資格を得ることで、国際基準のトレーニングを受けたプライマリケアの専門家として活躍することができます。
訪問診療や往診の仕事をする上で欠かせないプライマリケアのスキルを集中的に学べるので、在宅医療分野で働きたい方におすすめの資格です。
(参照:「日本プライマリ・ケア連合学会「新・家庭医療専門医制度とは」

医師専門の転職エージェントならメッドアイ

在宅医療の分野で働きたいと思ったら、プライマリケアのスキルを磨くことが早道です。
仕事自体は内科の経験があれば資格がなくても始めることはできます。
しかし、在宅医療で役に立つサブスペシャルテイ資格を持っておけば、できることが広がりますし、より条件の良い仕事に就ける可能性も上がります。

どんなルートで在宅医療の仕事を始めるか悩んだら、医師専門の転職エージェントに相談するのがおすすめです。
メッドアイには、働き方に悩む医師や、キャリアプランを見直したい医師のサポートを多数行ってきたノウハウがあります。
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まとめ(訪問診療と往診の違いとは?)

高齢化社会の到来とともに、訪問診療や往診といった在宅医療分野のニーズが増加しています。
さらに昨今では若年層でも在宅医療を必要とするケースが増え、この分野で働く医師は幅広い知見を持っていた方が有利です。
この記事で紹介したおすすめの資格だけでなく、若年層や現役世代の疾患にも対応できるスキルを持っていれば、在宅医療業界で活躍しやすくなります。

訪問診療と往診とでは働き方に違いはありますが、ワークライフバランスを重視する方には、訪問診療医の方が向いていると言えます。
開業医やクリニックで働く医師の場合、往診もできるようになれば、収入アップのきっかけとなり、またスキルも磨くことができます。
在宅医療分野での仕事に興味がある方は、まず一度転職エージェントに相談することをおすすめします。
メッドアイには、働き方に悩む医師や、キャリアプランを見直したい医師のサポートを多数行ってきたノウハウがあります。
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