規模の大きい災害が起こった時、被災地の医療体制を守るためには災害派遣医療チームの力が大きな意味を持ちます。
災害派遣といえばDMATがよく知られていますが、DPATという派遣チームもあることをご存知でしょうか。

「DPATの仕事に興味があり活動について詳しく知りたい」
「災害医療に関わりたいと考えており、DPATとDMATの違いなどを知りたい」

この記事では、災害派遣や災害地での医療に興味を持っている方に向けて、DPATの活動内容や担う役割について解説します。
DPATに向いている人のタイプや、DPATの仕事をするために必要なスキルについてもご紹介しますので参考にしてください。

DPAT (災害派遣精神医療チーム)とは

DPATとは、災害派遣医療の中でも精神医療を専門に受け持つ部隊です。
正式名称はDisaster Psychiatric Assistance Teamと言います。
大きな自然災害や事件・事故などが発生した現場にいる人々の精神的な不調をサポートしたり、現地での精神科医療機関の被災状況を確認したり、避難所での診療を担うチームのことです。

DPATは2011年に起こった東日本大震災で、精神科医を中心に結成された「こころのケアチーム」を前身としています。
この時に課題となったポイントを加味した内容で、2013年に厚生労働省から各都道府県に対しDPATの設置を通達しました。
以降、都道府県単位で徐々にDPAT結成の動きが進み、2024年の能登半島地震では43の都道府県からDPAT隊が派遣されました。

DPATには災害直後に直ちに被災地入りする先遣隊と、その後必要な期間だけ活動を継続するチームとがあります。
どちらも1回の活動期間は1つのチームで1週間が基準で、災害の規模にもよりますが、DPATとしての活動期間は概ね発災から1カ月程度が目安です。
また、同一地域にはできるだけ同じ都道府県のチームを継続して派遣することが求められます。

DPATとDMATの違い

災害時の医療派遣チームとして真っ先に思い浮かぶのはDMATではないでしょうか。
DMATは1995年に起きた阪神淡路大震災を機に結成されました。
名前が似ているDMATとDPATですが、明確な違いが2点あります。

1つ目は、診療分野です。
DMATの主な役割は、被災者の怪我や既往症など身体的な治療や支援、救命活動です。
一方のDPATは被災者のメンタルケアや、精神医療を専門にサポートします。

そして2つ目が、対応範囲です。
DMATが被災者の診療やサポートを行うのに対し、DPATは被災者だけでなく、被災者を支援している人のケアも受け持ちます。
行政のスタッフやDMATのメンバー、ボランティアや消防など、被災者に寄り添っている人々も広くケアしていくことで、救助や復旧作業の障害を精神面から取り除く役割を担っています。

DPATの仕事について

ここからは、DPATの仕事内容について解説します。
被災地に赴いている時と、平時との違いもご紹介しますので参考にしてください。

DPATの活動内容とは

DPATは災害が発生すると、以下のような流れで活動を行います。

  1. 本部活動
  2. 情報収集とニーズアセスメント
  3. 情報発信
  4. 被災地での精神科医療の提供
  5. 被災地での精神保健活動への専門的支援
  6. 被災した医療機関への専門的支援(患者避難への支援を含む)
  7. 支援者(地域の医療従事者、救急隊員、自治体職員等)への専門的支援
  8. 精神保健医療に関する普及啓発
  9. 活動記録
  10. 活動情報の引き継ぎ
  11. 活動の終結

(引用:DPAT事務局「活動内容」より)

発災後、被災地からの要請が出次第、先遣隊がまず現地に向かい、活動拠点本部を設置します。
関係機関や国などから情報を収集し、被災地域の医療機関や避難所での精神保健医療ニーズを把握した上で、ニーズアセスメントを行います。
また、必要な患者に対しての精神科医療を提供するとともに、医療機関への支援も重要な任務です。
そしてこれらの活動内容を精密に記録し、後発隊と共有や引き継ぎを確実に行いながら、被災地での精神科医療体制を維持する活動を行います。

発災からある程度時間が経ってきたら、被災者を支援するスタッフへのケアにも積極的に関わっていきます。
これらの活動を繰り返し継続し、被災地の精神保険医療機関の機能が回復したタイミングで、中長期的なニーズに対応する機関にその役割を引き継ぎ、活動終了という流れです。

これに対し平時は、DPATとしての活動の質を上げるための研修や訓練があります。
研修は主に都道府県主催で行われ、各都道府県の防災計画や、平時の精神保険医療体制を学んだり、先遣隊に必要な技術や知識を学んだりといった内容です。
また、DPATには一般隊員・先遣隊員とインストラクター隊員などの種類があり、それぞれ訓練項目も違います。

DPATの活動期間とは

DPATが被災地で活動する期間は災害の規模によって変わりますが、概ね1カ月程度〜数カ月程度となります。
その間、医師はチームを組んで派遣され、1つのチームの活動期間は1週間が基準です。
現地への往復で2日、残りの中5日が活動日と定義されています。
後発隊への引き継ぎをしながら、交代制のような形で現地で活動を行うことになるのが一般的です。

DPATの構成員とは

DPATで派遣されるチームは以下の人員で構成されます。

  • 精神科医師
  • 看護師
  • 業務調整員

このうち業務調整員とは、運転や連絡調整業務など、医師らが医療活動を行う上での後方支援を担う人員です。
それぞれの職種の人数は定義されていません。
しかし、被災地では自力で移動や活動、食事や休憩を完結する必要があるため、目安として車1台に同乗できる人数が推奨されています。
精神科医師は精神保健指定医の資格を持つことを推奨されていて、特に先遣隊員になるためには必須です。
また、要請内容に応じて児童精神科医や精神保健福祉士など他業種の人員も含めることができます。

DPATに向いている人の3つの特徴

DPAT医師として活動するためには、精神科医としてのスキルはもちろんのこと、それ以外にも様々な要素が求められます。
ここからは、DPAT活動に向いている人の特徴を3つご紹介します。

1.臨機応変な対応ができること

災害はいつも突然発生するものです。
要請があればすぐさま対応することが必要ですし、被災地では予測外のことが起こります。
どんな状況でも臨機応変に対応できるフットワークの軽さが必要となります。
平時の勤務先での状況とまったく異なる環境でも、その都度適切な対応が取れる柔軟な対応力がある方は、DPATで活動するのに向いている人です。

2.常に冷静な判断ができること

災害現場においてはパニック状態になっている被災者や関係者が少なくありません。
そうした現場を回る際には、とにかく冷静さが求められます。
元々精神科医には冷静な判断力が不可欠なスキルです。
災害現場では治療だけにとどまらず、被災した医療機関の復旧や現場全体のリソース状況など、様々な判断をする必要があります。
加えて、状況によっては自分自身も危険と隣り合わせとなるため、通常時以上に冷静さを保てる心の強さが必要です。

3.精神保健医療の経験が豊富であること

DPATで医師として活動するためには、精神科医としてのスキルも高いものが求められます。
発災直後に現場に入る場合は、精神科急性期患者のトリアージが必要です。
このとき対応する患者は大人から子どもまで様々ですし、外国人観光客など普段患者として接しない相手も含まれます。
治療面だけでなく、災害復旧支援もしていくことから、幅広い知見がある方が有利です。

DPATになるには

DPATの隊員になるためには、所定の研修を受けDPAT隊員として登録する必要があります。
そのために必要な条件としては、精神科を専門としている医師であることです。
さらに、精神保健指定医の資格をほぼ必須で取得しなくてはなりません。
先遣隊の隊員になるために必須となりますし、それ以外であってもほぼ必須で求められます。

またDPAT隊員には、都道府県と契約しているDPAT登録医療機関に勤務している医師が登録するのが一般的です。
DPAT登録医療機関には、精神科を専門とする病院や大学病院など、大きな病院が多くなっています。
これは、災害が起きて実際に被災地へ医師を派遣する際、病院に残る医師がいる体制でないとならないためです。
都道府県によっては、登録病院の職員でないとDPAT研修を受けられないところもあります。
DPATの医師を目指すのであれば、DPAT登録医療機関で働きながら、精神保健指定医資格を取得するのが早道です。

働き方に悩んだら医師専門の転職エージェントへ

医師としての責任感が強い方の中には、災害派遣医療に携わりたいと考える方も少なくないのではないでしょうか。
DPATという精神科医が活躍できる災害派遣医療の形ができたことで、この道を目指したいという方は今後増えるかもしれません。

DPAT登録医師となるためには、登録医療機関を通じて研修を受けることになるため、転職が必要になるケースも出てきます。
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まとめ(DPATとは?)

災害時に現場に駆けつけ、怪我や病気に苦しむ人を助けるDMATは知名度が高くなってきました。
その一方で、災害現場で被災してしまった方や、救助やサポートをする支援者の心のケアを引き受けるDPATはまだあまり知られてないかもしれません。
災害現場では誰もが大きなストレスを受け、先の生活を不安に思い、精神に不調をきたしてしまうリスクが通常より高まります。
災害が多いこの国で、精神医療の専門家であるDPATが今後さらに必要とされるのは言うまでもありません。

DPATを目指したいと思ったら、DPAT登録医療機関への転職が早道です。
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