将来的に医院開業を目指す医師は多いですが、開業にはさまざまな準備が必要で、ハードルが高いのが実情です。
「医院を開業をしたいけど、何から始めればいいのかわからない」
「開業したいが、失敗はしたくない」
「開業にかかる期間や費用の目安を知りたい」
など、開業への不安や疑問も多く聞かれます。
この記事では、
- 医院開業までの具体的な手順
- 開業にかかる期間や費用
- 開業に失敗しないためのポイント
を詳しく解説していきます。
しっかり手順を把握し、必要な資金の目安や心構えを知ることができますので、開業を目指している方はぜひ参考にして下さい。
【医師向け】医院開業までの7つの手順
医師が開業するとなった場合に、どのような手順を踏んでいけばいいのかを見ていきましょう。
考えるべきこと、準備すべきことが多くありますが、一つずつ着実に進めていくことが大切です。
- 開業にかかる期間の確認
- 経営・診療方針の確立
- 事業計画策定と開業資金調達
- 物件選び
- 医療設備の準備
- 開業申請手続き
- 人員採用・研修
これら開業準備に必要な7つのステップを解説していきます。
①開業にかかる期間の確認
まずは、開業までのスケジュールや段取りの流れを十分に考えておかなければなりません。
開業の準備期間は、状況によって差異は出てくるものの、1年〜1年半程度のケースが多く見られます。
目安として、下記の時間を想定しておくといいでしょう。
並行して進められるタスクもありますので、うまく組み合わせて進めていくことが大切です。
診療方針の確立 | 2ヶ月程度 |
---|---|
事業計画の策定 | 2~3ヶ月程度 |
物件選び | 3~5ヶ月程度 |
医療機器準備 | 9~10ヶ月程度 |
開業手続き | 1ヶ月程度 |
人員採用 | 3~4ヶ月程度 |
②経営・診療方針の確立
開業を決断したら、「なぜ開業したいのか」「どのようなクリニックを作っていきたいのか」というコンセプトを明確にしておきましょう。
これはあなたが開業するクリニックの経営理念となります。
あわせて診療方針も想定しておくと、後々の準備がブレずに進められます。
開業候補の地域が求めている医療や、地域住民の主年齢層、そして自分がその地域で担える役割をしっかりと確認しておきましょう。
今後一緒に仕事をしていく先生たちやスタッフとの共通目標となるため、事前リサーチを徹底し、しっかり内容を検討しておくことが大切です。
③事業計画の策定と開業資金の調達
開業に必要なのは、なんといっても開業資金です。
必要な額がどのくらいか、今の貯金がどのくらいかなどをしっかり把握しておく必要があります。
開業のために作成する「事業計画書」は、後々金融機関から事業資金の融資を受ける際にも必要になる書類です。
事業計画書は
- 経営基本計画
- 資金計画
- 収支計画
の3つの要素から成り立ちます。
「経営基本計画」は、先にまとめたコンセプトを具体的な戦略として落とし込んで作成しましょう。
計画を実現するためどのような立ち位置で診療を行っていくか、また自分が医師としてどんな専門性を持っているかを明確に見せることが必要です。
「資金計画」は、その名の通りお金にまつわる計画をまとめたものです。
開業資金の内訳、自己資金の割合、融資などの計画を盛り込んで作成します。
「収支計画」は、「経営基本計画」に基づいて、地域の対象患者(人口)母数、周囲の医院や病院の診療状況などから、患者数の見込みなどの計画をまとめます。
運営にかかる費用を算出し、どのくらい患者が訪れると黒字化するのかを明確にしておきましょう。
④物件選び
事業計画書が策定できたら、いよいよ開業に向けて動き出しましょう。
まず最初にクリニックを開くための物件を探さなくてはなりません。
事業計画通りの患者さんが来てくれるかは、立地条件も大きな影響を及ぼします。
駐車場は設けられるのか、クリニック周りの交通機関はどうかなど、しっかりチェックしましょう。
同時に、物件が予算の範囲内なのか、どのくらい事前工事を施す必要があるかといった条件も見なくてはなりません。
万一開業後の売上が安定せず、移転を検討せざるを得ないとなった時のためにも、資金に余裕を持った物件を探すことが好ましいです。
開業医向けの物件を斡旋してくれる不動産業者も存在しますので、相談してみるとスムーズに進むかもしれません。
なお、物件の選定に時間がかかりすぎると、全体の開業計画に大きく影響します。
物件探しの期間はある程度区切っておき、期間中は他のことは一旦ストップしてでも情報集めなどに集中するといいでしょう。
⑤医療設備の準備
物件が決まったら、医療機器の準備や内装工事などの準備を進めていきます。
医療機器にはエコーや心電図といった比較的小型のものもあれば、レントゲン設備など建物の加工も必要な設備までさまざまです。
開業資金の範囲に応じて購入するのか、リースにするのかなども決めていきます。
機器そのものの大きさは、メーカーによっても異なってきますので、床面積に合わせて適切に配置できるかを考慮しなくてはなりません。
設計士や建設・内装業者と連携して進めていく必要があります。
開業医向けに、機器の調達や医院内の整備を一括して受け持ってくれる業者もあります。
揃えたい機器や機能面をもとに、物件の面積も考慮した提案を受けられるので、資金に余裕があるなら積極的に利用するといいでしょう。
また、医療面だけでなく、待合室のソファーといった家具類や、空調、空気清浄機などの機器も用意しなくてはなりません。
さらに消耗品の手配ルートを決めておくなど、準備は多岐にわたります。
⑥開業申請の手続き
医師が開業するには、各種届出が必要です。
一般業種でも届出にはさまざまな種類がありますが、クリニック開業についてはやや多めであるのが特徴と言えます。
医業ならではの届出と、業種を問わず必要なものとに分けて簡単に一例をまとめてみました。
医業特有のもの | 診療所開設届 |
---|---|
X線設備届 | |
保険医療機関指定申請書 | |
施設基準届出書 | |
業種を問わず必要なもの | 個人事業開設届 |
青色申告承認申請 | |
源泉徴収の納期特例に課する届出書 | |
社会保険 | |
労災保険 | |
厚生年金 |
全ての届出を自分1人で全て行うのは、非常にハードルが高く、難しいと言えるでしょう。
医師の開業に精通したコンサルタントなどに相談したり、一部手続きを代行してもらったりなど、専門家の力を借りて乗り切るのもおすすめです。
ただし、コンサルタントやアドバイザーに依頼する場合は当然コストが発生しますので、計画段階で費用として盛り込んでおく必要があります。
⑦人員の採用・研修
各種申請が順調に進めば、いよいよ開業は目前です。
必要なスタッフの採用や研修にも取り組まなくてはなりません。
まずクリニックの規模に合った医師や看護師などのコメディカルスタッフを募集し、その後も面接、採用手続き、研修などたくさんのタスクが発生します。
また、医療スタッフだけでなく、医事を担当する事務スタッフも必要です。
採用には、ハローワークへの登録が一番コストがかかりません。
ハローワークは地域採用にも強いので、特に開業場所が遠方の場合などに利用価値があります。
また、医師採用であれば、専門性へのこだわりも出てくると思いますので、医師専門の転職サイトへの出稿も効果的です。
医事担当者や清掃スタッフなど、パート採用でも可能な業務であれば、地域へのチラシ配布といった手法も安価でおすすめできます。
開業地域に住んでいるスタッフを雇用することにより、開業のためのPR効果も見込めるので、無理のない範囲で地元の方を採用できると理想的です。 あわせて読みたい
医院開業にかかる費用について
ここまで、開業についての段取りを紹介してきました。
気になるのはやはり費用面ではないでしょうか。
ここからは、開業にまつわる費用の考え方や相場などを見ていきます。
開業資金として必要な額とは?
新規開業するために必要な資金としては、主に以下のものが挙げられます。
- 物件取得費用
- 内装工事費用
- 医療機器の購入費用
- 消耗品や雑費などの購入費用
- 人材採用にかかる費用
- PR費用
- 運転資金(3-6ヶ月分が理想)
診療科や開業する地域などによって差が生まれますが、大雑把に見ても1,500万円〜9,000万円程度が必要です。
例えば物件取得では、物件そのものの費用だけでなく、賃貸であれば保証料といった各種手数料がかかります。
物件取得後は、必要な医療機器を購入する費用や物件の内装工事が発生し、さらに消耗品や事務用品、スタッフのロッカーや待合室のベンチといった什器費用も発生します。
人材採用のために転職サイトなどへの出稿費用や、開業PRに必要な広告費用なども甘く見てはいけません。
そして大切なのは、いざ診療がスタートしても、診療報酬が入金するまでに2ヶ月のタイムラグがあることです。
つまり、開業初月はどうしても無収入になってしまうことから、スタッフの人件費や家賃などの運営費をあらかじめ確保しておく必要があるのです。
医院開業費用の目安とは?
診療科によって、どの程度開業資金に差が出てくるのでしょうか?
条件や地域により違いがありますが、一般的な目安をまとめると以下の表のとおりです。
内科 | 6〜8,000万円程度 |
---|---|
整形外科 | 5〜7,000万円程度 |
眼科 | 5〜9,000万円程度 |
小児科 | 4〜5,000万円程度 |
産婦人科 | 5〜6,000万円程度 |
在宅医療 | 1,500〜2,500万円程度 |
内科は診療範囲によっては、比較的安価に開業ができます。
整形外科や産婦人科は、設備投資以外にも人材に費用をしっかりかけ、信用できるスタッフを確保することが大切です。
在宅医療は費用を抑えて開業することができますが、外来も並行するかなど方針によって変わってきますので注意が必要です。
また、小児科や眼科は口コミや競合との兼ね合いから、いわゆる「生き残り戦略」や「差別化」といったPRにかける労力や資金が肝になってきます。
開業資金の1〜2割程度を自己資金で賄えると、融資の受けやすさなどで有利になってくる傾向があります。 あわせて読みたい
また、既存医院を継承する方法で開業すると、開業当初の資金を大幅に抑えることが可能です。
開業で失敗しないための3つのポイント
医師が開業する時に、考えたり対応したりすることは山ほどあります。
開業のための資金をしっかり準備し、事業計画などを綿密に立てることも大切です。
しかし、それ以上に大切なのは、開業した後の心構えとも言えます。
開業を志す医師は、現時点ではどこかの病院で勤務医をしていると思います。
今までは医療を頑張っていれば成長できましたが、開業するとなると医療以外にもさまざまな面に目を向ける必要があるのです。
ここがしっかりしていないと、せっかく開業できても行き詰まってしまうリスクがあります。
そこで、医師が開業するにあたって失敗しないために、
- 経営者の視点を持つ
- 金融面の知識を積む
- マーケターの視点を持つ
の3つのポイントの重要性を解説していきます。
①経営者としての自覚をしっかり持つ
開業は「事業主」となるということで、これを他業種で置き換えれば「社長」になるということです。
クリニックの運営や診療方針などの全てに決定権を持つと同時に、院長としての責任も背負うことになります。単純に医療を頑張ればいいという立場ではなくなるのです。
今まで自分ではしてこなかった、人事や経理、行政関連の手続きや、出入り業者の管理などが全て自身の責任になってきます。
もちろん、自身の適性を鑑みた上で、適性のあるスタッフに任せるという選択肢もあります。
しかし、開業当初の資金面でもゆとりがない状態では、スタッフを雇うコストも大きな負担となるかもしれません。
ただの医者ではなく「経営者となり、このクリニックを守っていくのだ」という強い自覚が、何より必要なことでしょう。
②金融面の知識をつける
会計に関する知識を蓄えることも、開業を失敗しないために大切なポイントです。
失敗を避けるためには、資金繰りをしっかり把握しておくことが大切です。
患者の受診から診療報酬が入金するまでにはタイムラグがあります。
月間の売上と診療報酬の入金日を把握し、必要な支払いが滞らないように気を配らなければなりません。
売上管理や経費管理をスムーズに行うために、税理士などの専門家に依頼しておくと良いでしょう。
しかし、開業を目指す医師自身もある程度の会計や税務知識を身につけ、売上管理や損益計算、貸借対照表などの作成ができることが望ましいと言えます。
③開業場所に需要はあるか調査する
開業したけど、意外と患者さんが来てくれず売上が上がらない、というケースも珍しくありません。
事業計画策定時点でのコンセプトと開業地のニーズがあっていないと起こってしまう現象のため、事前の調査が何よりも大切です。
例えば、地域としては間違っていないが、開業した場所が駐車場の有無などの環境面で立ち寄りにくい理由があると、患者さんが来てくれる機会を逃します。
また、宣伝方法がうまくないために注目を集められず、集客に繋がらないといった場合もあるでしょう。
開業する場所に確実な需要があるのか、そしてニーズに合ったPRができているのかといったマーケティングの視点も、クリニック経営に欠かせない大切な要素なのです。 あわせて読みたい
そして、チラシ配布やホームページ作成など、地道なPR活動も必要になってきます。
まとめ(医院開業までの手順)
医師が開業を志す時には、今まで経験したことがない、さまざまな手続きや労力が発生します。
また、資金も多大にかかるため、一世一代の大事業と言えるでしょう。
失敗しないためには、
- 医師としてだけでなく「経営者」の視点を持つ
- 金融や会計の知識をつける
- リサーチやマーケティングの視点を育む
ことが大切です。 あわせて読みたい
開業までに必要な数多くのステップをこなしていくには、不安や困難がつきものです。
開業はしたいけど、全てをこなす自信がない、という方もいるのではないでしょうか。
そんな時にはいっそプロに相談するという選択をすることも必要です。
開業支援コンサルタントや税理士、資産運用のコンシェルジュといったサポートをしてくれる業種の方にも医業を専門・得意とする方が大勢います。
こういったプロにお願いする資金まで含めて資金計画を行い、スムーズな開業を目指すことで、開業時のストレスを減せるメリットがあります。
開業後、経営に余裕が出てきたら、プロに任せていた部分を自分自身やスタッフなどで行うことにすると、その後のランニングコストを抑えるといった対策も可能です。
自分で頑張るのか、資金を準備してプロに任せるのかも含め、慎重な計画を練ることが開業を成功に導く鍵となるでしょう。