高齢化が進む現代日本において、在宅医療の重要性はますます高まっています。病院中心だった医療体制から、地域で支える医療体制へとシフトする中で、在宅医療を担う医師の役割が大きくなっています。
そんな中、「病院勤務から在宅医療に転職したい」「今後のキャリアを見直したい」と考える医師も少なくありません。
この記事では、医師が在宅医療に転職する際に知っておきたいポイントや注意点、転職を成功させるためのコツについて詳しく解説します。
医師の転職先として注目される在宅医療の現状とニーズ
在宅医療とは、通院が困難な患者に対して、医師や看護師などが自宅を訪問し診療を行う医療の形態です。
日本では高齢化が加速しており、医療や介護を自宅で完結したいというニーズが増えています。
厚生労働省の調査によると、在宅で最期を迎えたいと希望する高齢者は全体の7割以上。しかし実際には、病院や施設での看取りが主流となっており、医療体制とのミスマッチが課題となっています。
こうした背景から、在宅医療に対応できる医師の需要は今後も拡大していくと考えられます。
また、診療報酬上も在宅医療は一定の優遇措置があり、経営的な観点からも在宅医療専門クリニックの開設や事業拡大が進んでいます。 あわせて読みたい
医師が在宅医療に転職するメリット
在宅医療に携わることには、病院勤務では得られない多くのメリットがあります。
1. ワークライフバランスの改善
在宅医療クリニックの多くは日中を中心とした診療体制で、勤務時間が比較的安定している傾向があります。
また、週3〜4日勤務や午前のみの時短勤務など、柔軟な働き方が可能な求人もあり、子育て中の医師やセミリタイアを検討する医師にとって魅力的です。
ただし、すべてのクリニックがこのような働き方に対応しているわけではなく、オンコールや緊急対応が求められるケースもあります。勤務条件はクリニックによって異なるため、事前確認が重要です。 あわせて読みたい
2. 患者に深く寄り添える医療ができる
患者の生活環境や価値観を直接把握しながら医療を提供できるため、「その人らしさ」を尊重した医療が実現できます。病院での短時間の診療とは異なり、長期にわたって関係を築くことで、信頼関係を深めることができ、医師としてのやりがいを強く感じられる分野です。 あわせて読みたい
3. キャリア後半でもニーズが高い
在宅医療では、医師としての経験値や人間性が重視されます。50代・60代の医師でも新たなフィールドとして活躍できる環境が整っており、体力的負担の少ない働き方を選べる点もメリットです。
4. 地域社会への貢献が実感できる
病院の中では見えにくい地域の課題や患者の暮らしに触れることで、より深い形で地域医療に貢献する実感が得られます。地域包括ケアの一端を担い、住民の安心に寄与することができるのも、在宅医療の大きな魅力です。
5. 今後のニーズ拡大による安定性
在宅医療の需要は年々高まっており、今後も継続的に拡大することが予測されています。地域包括ケアの中核としての役割も期待されているため、転職先としての安定性が高く、将来を見据えたキャリア形成にも適しています。 あわせて読みたい
医師が在宅医療に転職するデメリットと注意点
1. ひとりでの判断が求められる場面が多い
病院のようなチーム体制がすぐに整わない在宅医療では、医師が単独で判断を迫られる場面が増えます。ときには緊急対応も必要となるため、自信を持って決断できる経験と覚悟が必要です。
2. 医療設備が限られている
在宅医療では、病院なら当たり前に使える検査機器や治療設備の多くが使えません。その場でできる検査や処置が限られており、医師が判断できる材料にも制約があります。
医師には、設備が乏しい中で「どこまでを在宅で対応し、どの段階で病院に委ねるか」という判断を、限られた情報の中で下す必要があり、リスクの見極め力が求められます。
3. キャリアへの影響を考慮する必要がある
在宅医療に特化すると、急性期医療のスキルや手技のブランクが生じる可能性もあります。将来的に病院勤務へ戻ることを検討している場合は、キャリア形成を慎重に計画することが重要です。 あわせて読みたい
在宅医の仕事内容
在宅医の仕事内容
在宅医の主な業務は、自宅や高齢者施設などに居住する患者さんのもとを定期的に訪問し、診察・処方・検査・指導を行うことです。
訪問回数は週1〜2回が中心で、慢性疾患の管理、褥瘡のケア、看取り対応などが日常業務の大半を占めます。
ただし、仕事内容は患者層やクリニックの方針によって大きく異なります。たとえば:
- 医療依存度の高い患者が多い施設型の訪問診療
- 末期がんなどターミナルケアが中心の自宅訪問
- 生活習慣病管理などがメインの地域密着型
など、求められる医療内容も異なるため、勤務先の方針や患者層の傾向を事前に確認することが重要です。 あわせて読みたい
また、24時間対応を行う在宅医療機関では、夜間・休日のオンコール当番や看取りの臨時対応も業務に含まれる場合があります。
必ずしも頻度が高いわけではありませんが、ライフスタイルとのバランスや、オンコール体制の整備状況を確認しておくと安心です。
在宅医に求められるスキルと資質
在宅医療では、病院とは異なる環境で医療を提供するため、以下のようなスキルや姿勢が求められます:
1. 幅広い内科的判断力
病院のような迅速な検査が難しい場面も多いため、限られた情報から総合的に判断する力が問われます。複数の疾患を併せ持つ高齢患者が多いため、専門領域にとらわれない総合診療的な視点が重要です。
2. 臨機応変な対応力
自宅という制限された環境で医療行為を行うため、物品・人員が限られる中で工夫しながら診療を進める力が求められます。現場でのトラブルや予想外の症状変化にも柔軟に対応する姿勢が必要です。
3. 多職種との連携スキル
訪問看護師やケアマネジャー、薬剤師など他職種と日常的に連携しながら患者を支える医療が基本です。診療内容や意向を丁寧に共有し、信頼関係を築けるコミュニケーション能力が重要です。
4. 患者・家族との対話力
在宅医療は、患者本人だけでなく家族との関係構築も不可欠です。特に終末期には本人の意思確認や家族への精神的支援・説明力が求められ、寄り添う姿勢が信頼の鍵になります。
未経験でも適応できる?
在宅医療未経験でも、研修を受けられるクリニックや、先輩医師の同行からスタートできる体制を整えている職場も増えています。また、急性期病院での経験(内科、外科、緩和ケアなど)は在宅医療でも十分活かせます。まずは「見学」や「非常勤からのスタート」も視野に入れると、不安を抑えてスムーズに移行しやすくなります。 あわせて読みたい
在宅医に役立つ資格
在宅医療は医師免許があれば可能ですが、専門医資格を持つことで専門性や信頼性が高まります。以下では、在宅医療の現場で特に有益とされる3つの資格について詳しく解説します。
なお、本ページの情報は2025年6月時点の公表内容をもとにまとめたものです。試験内容・受験条件等は変更される可能性がありますので、必ず各専門医制度の公式ページにて最新の情報をご確認ください。
在宅医療専門医(日本在宅医療連合学会)
受験条件
- 日本国の医師免許証を有する者
- 医師としての5年以上の経験を有する者
- 学会の在宅医療研修プログラムを修了した者。または5年以上の在宅医療(訪問診療)の経験を有する者。(実践者コース)※
※5年以上の在宅医療(訪問診療)の実績を有し、そのうち3年はもっぱら在宅医療に従事していることを条件とします。“もっぱら”というのは、在宅医療研修プログラムの研修者と同程度(半日を1単位として、週4単位相当)の訪問診療の実務を行っていることを基準として、専門医委員会で判定します。 - 学会の会員であること。
試験内容
- 筆記試験(多肢選択問題形式)
- ポートフォリオ面接(20分程度)
老年科専門医(日本老年医学会)
受験条件
- 内科専門医(新制度)資格を有していること。
- 内科専門研修プログラム(新制度)を修了後、老年科専門研修施設において老年科専門研修を2年以上行い、修了していること。
試験内容
- CBT方式による試験(多項式選択問題形式)
家庭医療専門医(日本プライマリ・ケア連合学会)
取得条件
- 日本プライマリ・ケア連合学会認定 新・家庭医療専門研修プログラムを修了している、または修了見込であること
- 当該年度までの会費を完納していること
試験内容
- 臨床実技試験および筆記試験(対面形式による現地開催)
- 臨床実技試験およびポートフォリオ口頭試問(オンライン試験(Zoom))
あわせて読みたい

年収や勤務形態は?在宅医療医の待遇について
在宅医療に従事する医師の待遇は、勤務形態(常勤・非常勤)や担当する患者数、地域差、オンコールの有無などによって大きく変動します。
以下は一般的な目安とされる収入例です。
常勤医師の場合
- 年収1,200~2,000万円が一般的な水準です。
- 医療法人によっては、訪問件数やインセンティブ制度に応じて2,000万円以上を提示するケースもあります。
- オンコールや看取り対応を含むかどうか、また訪問件数が多いかどうかが年収に大きく影響します。
- 勤務時間は9時~18時が基本で、土日祝休み・当直なし・残業ほぼなしといったケースも多く、ワークライフバランスを重視したい医師に選ばれています。
非常勤医師の場合
- 半日勤務で5~7万円、1日勤務で10万円前後が相場とされています。
- 訪問件数に応じた出来高制(1件あたり3,000円〜5,000円)を採用する施設もあり、働き方次第では効率よく収入を得られることもあります。
- 勤務頻度は週1〜3回から選べる職場が多く、副業や育児と両立したい医師にも人気です。
勤務形態のバリエーション
在宅医療の働き方は柔軟で、ライフステージに合わせた勤務が可能です。以下のような勤務モデルがあります:
勤務形態 | 内容 |
---|---|
常勤(オンコールあり) | 平日+オンコール対応・看取りあり |
常勤(オンコールなし) | 平日勤務のみ・夜間対応なし |
非常勤(週1〜2回) | 担当日だけ訪問診療 |
スポット勤務 | 不定期のスポット訪問 |
待遇に影響する主な要素
在宅医療医の報酬は以下の要素に左右されます。
- 訪問件数・訪問先の距離(効率よく回れるエリアだと件数が増やしやすい)
- オンコールや看取りの対応有無
- 診療対象患者の医療依存度(医療機器管理や処置の頻度)
- 地域差(都市部では競争が激しく、地方では高待遇もあり)
- 勤務先の収益構造(在宅専門クリニック or 一般クリニック内の在宅部門)
福利厚生やサポート体制
在宅医療に特化したクリニックの中には、以下のような手厚いサポートや福利厚生を提供しているところも増えています。
- 医師1名に対し診療アシスタントが同行(運転・カルテ入力補助)
- 電子カルテや訪問ルートの効率化システム完備
- 看護師・事務・ケアマネとのチーム体制で負担軽減
- 学会参加支援、専門医取得サポート
在宅医療に向いている医師の特徴
在宅医療は、病院勤務とは異なるスキルやマインドが求められます。以下のような特徴を持つ医師は、在宅医療に適性があるといえるでしょう。
- 患者・家族との対話を大切にできる:傾聴力や共感力が重要です。
- 柔軟な対応力がある:現場では予期せぬ出来事が起きるため、臨機応変な判断が求められます。
- チーム医療への理解がある:訪問看護師やケアマネジャーとの連携が不可欠です。
- 一人での判断に責任を持てる:病院のようにすぐに相談できる相手がいないこともあります。
あわせて読みたい

在宅医療への転職を成功させるための3つのポイント
1. 自分のキャリアプランと照らし合わせる
在宅医療が自分の価値観やライフステージに合っているかを確認しましょう。「地域医療に貢献したい」「患者と長く関わる医療がしたい」など、目的意識が明確であるほど満足度の高い転職につながります。
2. 勤務先の体制や訪問件数を事前に確認する
訪問件数、1件あたりの診療時間、移動手段、夜間対応の有無など、働き方に直結する情報は事前にしっかり確認しましょう。できれば現場見学を通じて、具体的な業務イメージを持つことをおすすめします。
3. 医師専門の転職エージェントを活用する
在宅医療の求人は、非公開求人やクリニック独自の条件などが多く、情報収集が難しい分野です。医師専門の転職エージェントを利用することで、希望に合った案件を効率的に探すことができます。
条件交渉や面接対策も対応してもらえるため、在宅未経験の医師にとっても心強いサポートになります。
まとめ|在宅医療はこれからのキャリアの選択肢
在宅医療は、これからの医療を支える重要な分野であり、医師としてのやりがいや社会的な意義を感じられる働き方です。
病院とは異なるフィールドで、自分らしい医療を実践したい方にとって、在宅医療への転職は大きなチャンスとなるでしょう。
特にワークライフバランスや地域医療への貢献を重視する医師にとっては、非常に魅力的なキャリアパスです。
在宅医療に興味はあるけれど、「自分にできるのか」「どんな働き方になるのか」と不安を感じている方も多いでしょう。
そんなときは、医師専門の転職支援サービスを活用してみるのがおすすめです。
医師専門の転職エージェント「メッドアイ」では、在宅医療の実情や働き方の選択肢、自分に合った勤務スタイルまで、無料で具体的なアドバイスが受けられます。
まずは情報収集のつもりで、気軽にご相談ください。