最近PHRという言葉を耳にするようになった医師の方も多いのではないでしょうか?
「電子カルテのこと」だと、ごく簡単に理解をされていることもあります。
「PHR(パーソナルヘルスレコード)って何?」
「PHRがなぜ注目されているの?」
「PHRはどう役に立つの?」
この記事ではこのように思っている方に向けて、転職エージェントの視点からPHRの活用事例やメリットなどを解説します。
PHR(パーソナルヘルスレコード)とは?
PHRとは略語で、正式には「Personal Health Record(パーソナル・ヘルス・レコード)」と言います。
日本語では「生涯型電子カルテ」または「個人健康情報管理」と訳すことが多いです。
広義では電子カルテに分類されますが、通常の電子カルテはEMR(Electronic Medical Record)と呼ばれていて区別されています。
電子カルテとの最大の違いは、PHRは患者さん自身が管理者となり健康や医療のデータをクラウド上などで一元管理する点にあります。
PHRで管理される主な医療関係の情報は以下のとおりです。
- 病院の診察記録や検査結果など
- 定期健康診断の結果など
- 既往症や治療歴などのデータ
- アレルギーに関する情報
- 妊娠や出産に関する経過記録
- 処方箋
- 自分で測定した体温や血圧などのバイタルデータ
こうしたデータは、従来は医療機関ごとに記録・保管され、必要に応じて患者さん側に提供されてきました。 あわせて読みたい
PHRが導入されると、病院で受けた診察の記録がそのままクラウド上に保存され、患者さん側はアプリを通して好きな時に、情報を確認することができるようになります。
PHRが注目されている理由
治療記録や健康診断の結果といった医療情報は、病院ごとに書式が異なり、本人と病院との間でしか共有されないものでした。
PHRでは、こうしたデータをデジタル化して、スマートフォンアプリなどで一元管理ができます。
ちなみに、紙媒体ではありますが「お薬手帳」や「母子健康手帳」もPHRツールです。
普段行かない薬局でもいつもと同じ薬を買うことができたり、かかりつけ以外の病院にかかった際に見せたりもでき、情報の共有ができます。
PHRアプリも同様に、急病などで救急搬送された場合、病院側が患者さんの情報を迅速に知ることができ、治療に役立てることができるツールです。 あわせて読みたい
また、バイタルデータや食事記録などの健康管理と合わせて管理できることで、健康への意識の向上にもつながることが期待されています。
日本はPHR後進国という事実
残念ながら日本は、PHR分野ではまだまだ後進国であると言わざるを得ません。
現状で日本のPHRツールといえば、先に挙げた「お薬手帳」と「母子健康手帳」が代表的なものとなります。
逆にPHR先進国と言われているのが、アメリカやフランスです。
アメリカでは2004年から計画がスタートし、現在ではほぼ全てがネットワーク化されています。
また、エストニアやイギリス、シンガポールなどでも普及率が高く、国民の7割〜9割の利用を達成しています。
こうした国の中には、自分で医療機関を選択できないところもあり、医療環境の違いから普及が進みやすいという背景もあるのです。
一方日本では、自治体が主導して導入を始めているところがほとんどです。 あわせて読みたい
広域サービスの実現に向け、プラットホームとしてマイナンバーカードの保険証関連付けなどに着手はしていますが、普及にはもうしばらく時間がかかりそうです。
PHR(パーソナルヘルスレコード)の活用事例3選
日本でのPHRの推進は、マイナンバーカードをプラットホームする国主体の計画だけではありません。
自治体での導入も始まっていて、各個人が活用できるアプリ開発も行われています。
ここからは、アプリ開発が進んでいるジャンルでの活用事例をいくつかご紹介します。
①母子手帳アプリ
紙の手帳はお馴染みですが、妊産婦と子供の医療や健康に関するデータをクラウド上で一元保存し、アプリから閲覧できる仕組みの導入が進んでいます。
母子の体重変化や医療機関での検査結果などを、医療機関のカルテから連動して登録してくれるので、自分で記録する手間が不要です。
自治体によっては、妊娠週数や子供の月齢に合わせた情報の配信や、育児に関する地域のお知らせなども受け取ることができます。
群馬県の前橋市では、マイナンバーカードの保険証紐付けを活用した母子手帳アプリを配信し、予防接種や乳幼児健診の結果も連動するサービスを提供中です。
身長や体重のデータをわかりやすく標準と比較することもでき、子育てをサポートするのに役立っています。
②自分の健康状態の可視化
健康状態のセルフレコーディングも、アプリ開発が活発に進んでいるジャンルです。
従来はダイエットなどに活用できる体重やBMIの推移の記録や、女性の月経周期のレコーディングアプリなど、ジャンルごとにアプリがある状態でした。
しかし、セルフメディケーションの意識が高まるとともに、総合的なネット上のサービスなども出てきています。
さらにスマートウォッチなどのウェアラブルデバイスの登場により、血圧や脈拍といったバイタルデータの自動記録も進んでいて、より利便性が高まっていると言えるでしょう。
双方向のサービスを展開しているケースも多く、カメラで撮影した食事内容の記録をもとに食事指導やアドバイスを受けることもできます。
兵庫県の神戸市では、市民PHRシステムを導入しています。 あわせて読みたい
食事や歩数、睡眠や気分といった生活データを記録でき、そこに健康診断の結果も合わせて管理する仕組みです。
さらに、データの蓄積や健康目標の達成などでポイントが貯まり、特典交換ができるといった促進を促す仕組みもあります。
③救急・転院する際の医療情報の共有
EHR(Electronic Health Record)と呼ばれる保健医療情報のネットワークの構築も進んでいます。
地域の医療機関や介護施設などの間での情報連携が可能な仕組みで、主に自治体主導で進められている施策です。
さらに、地域を超えた連携も可能になるよう、総務省が全国的なネットワーク構築を目指しています。
こうした医療情報とPHRを連携させることで、さらなるメリットを生み出すことが可能です。
例えば救急搬送でかかりつけ以外の病院に運ばれた時に、搬送先の医療機関が患者情報を見ることができれば治療の助けになります。 あわせて読みたい
また、患者さんが転院する際、従来は転院元の病院が紹介状や治療記録を都度作成していました。
EHRとPHRが連携して普及することでその手間も無くなり、スピーディーな医療提供を可能にします。
また、災害時などの医療現場でも活用が期待されている分野です。
PHRは患者だけでなく医師にもメリットがある
患者さんが自分で医療記録や健康データを管理できるPHRですが、医師側にもメリットがあるのは言うまでもありません。
前述したように、患者さんの転院に伴う医療情報の共有もスムーズになるほか、既往歴や処方箋情報なども手間なく確認が可能になります。
これにより、適切な医療の提供をスピーディーに行うことができます。
セカンドオピニオンへの対応もこれまでより遥かに円滑になるでしょう。
また、バイタルデータを患者さんが記録していれば、問診などのコミュニケーションもスムーズになるでしょう。
昨今普及が進んでいるオンライン診療も、PHRのデータが大いに役立つ分野です。
さらに、PHRで患者さんのバイタルデータや健康管理の状況を知ることで、疾病予防のアドバイスやサポートを積極的に行えます。
チャット機能のあるアプリを提供するPHRサービスもあり、地域医療や訪問診療の一助となり得ますし、高齢者の見守りなどへの活用も期待されています。
双方向性を活かして予防医療分野に力を入れることができれば、医療機関での過度な受診を抑制する効果が期待できるでしょう。
治療時間の短縮や過剰受診の抑制は、医師の長時間労働の解消という面でも期待されています。
医師の働き方改革により、労働時間の改善に向けた動きも進んでいます。
PHRの導入・推進は、医師の過重労働を緩和する切り札の一つと言えるでしょう。
このため、PHRを導入している病院に転職することで、過酷な労働環境から逃れられる可能性も期待できます。
また、患者さんとのやりとりがスムーズになることから、より親身な診療を目指す医師などにもメリットがあると言えるでしょう。
まとめ(PHRパーソナルヘルスレコードとは)
今回の記事では、PHR(Personal Health Record)についてご紹介しました。
PHRは患者さん側が主体的に医療情報を管理・確認できるツールとして導入が進んでいます。
セカンドオピニオンや転院などでかかりつけ以外の病院に行くときや、救急搬送時などに、既往歴を医療機関にスムーズに知らせることが可能なツールです。
また、脈拍や血圧などのバイタルデータの記録も取れるので、日々の健康管理にも役立ちます。
PHRは患者さんだけでなく、医師の側にも大きなメリットのある仕組みです。
初診の患者さんの情報でも、PHRからすぐに知ることができ、スムーズな問診と診断を助けます。
既往歴や処方歴以外にも、患者さん側でバイタルデータの記録をとっていれば、健康管理のアドバイスなども可能になってくるのです。
こうした情報は、診察時のコミュニケーションを円滑にしてくれるほか、時短の効果も期待できます。
さらには、昨今増えているオンライン診療などへの活用にも向いています。ほかにも、訪問診療の現場や、介護施設と連携した高齢者見守りなど、活用の場は広いと言えるでしょう。
医師がキャリアプランを考える上で、長時間勤務や休日が少ないといった過酷な労働環境が障害になることはしばしばあります。
PHRの普及は、医師の長時間労働の解消につながる可能性も秘めているのです。
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