インフェクションコントロールドクター(以下、ICD)とは、感染制御の分野に特化した医療従事者のことで、医師だけでなく看護師や薬剤師、検査技師も取得できる資格です。
ICDに興味がある医師向けに、ICDがどのような役割を担うのか、またどのような現場で活躍ができるのかを、医師専門の転職エージェントが具体的に解説します。
資格に必要な条件と申請期間を確実に把握しておくと、いざ資格取得に向けて動き出したときに、行き詰ることなくスムーズに行えるでしょう。
当記事がICDが気になっている人の参考になれば幸いです。
インフェクションコントロールドクター(ICD)とは
インフェクションコントロールドクター(以下、ICD)とは、抗菌薬の適正使用を推進し、医療機関内の感染を制御する医療従事者のことです。
感染症患者に使用されている抗菌薬がターゲットの菌にマッチしているかどうかの確認・効果判定・耐性菌出現時の抗菌薬選択など、より専門的に感染症を分析して質の高い医療を提供する役割を担います。
インフェクションコントロールドクター(ICD)の役割と仕事内容
ICDの主な役割と仕事内容は以下の項目です。
- 病院感染の実態調査(サーベイランス)
- 病院感染対策の立案と実施
- 対策の評価および対策の見直し
- 職員の教育・啓発
- 病院感染多発(アウトブレーク)時の対応
- 伝染性感染症発症時の対応
これらの役割を担うためには、ガイドラインや文献から最新情報の収集をして細菌やウイルスの種類、抗菌薬の使い方について常に自己研鑽することが必要です。ICDは感染症対策、感染症治療の専門家として院内の認知度も高くなるため、抗菌薬使用の相談を医師から受けることもしばしばあります。
相談に受け応えするだけでなく、広域抗菌薬が漫然と長期的に使用されていないか、TDMが必要な薬剤が適切な血中濃度で使用されているかなどをチェックします。
新型コロナウイルスが最初に問題になり始めていた頃は、院内での感染対策・感染時の対応・治療プロトコルの作成などを的確に指示したICDも多かったことでしょう。ICDは医療機関の縁の下の力持ちともいえる存在です。
インフェクションコントロールドクター(ICD)を取得するためには
ICDを取得するためにはいくつかの条件が必要です。取得を目指す人は、中長期的に計画を立てて行動していかなければなりません。
どのような条件が必要になるか、資格取得の条件を紹介します。ハードルは高い資格ですが、その分やりがいのある仕事ができるので、興味のある医師はぜひチェックしてください。
インフェクションコントロールドクター(ICD)の認定条件を満たす
lCDの認定条件は、下記3つを満たすことです。
- 協議会に加盟しているいずれかの学会の会員であること(会員歴の長さは問わない)。
- 医師歴が5年以上の医師または博士号を取得後5年以上のPhDで、病院感染対策に係わる活動実績(感染対策委員歴、講習会出席)があり、所属施設長の推薦があること。
- 所属学会からの推薦があること。
ICD協議会に加盟している学会数は、2023年7月現在で29学会あります。
日本感染症学会からのICD取得者が最も多く、続いて日本呼吸器学会、日本環境感染学会、日本外科感染症学会、日本化学療法学会、日本救急医学会、日本小児感染症学会が続きます。
医師歴が5年以上あり、実績と所属施設長の推薦状がもらえる状態であれば学会に加入するタイミングは短くても問題ありません。ただし、講習会の単位を取得できるように余裕を持ちましょう。
資格取得を目指すのであれば、具体的に何年後に申請を考えているのか、それまでにどのような活動をして経験を積んでいきたいのか、上司に伝えておく必要があります。
認定申請をする
認定申請の流れは以下の4ステップです。
- 申請者が所属学会に申請証類を提出する
- 学会での審査に通過後、学会からICD制度協議会に推薦する
- ICD制度協議会による審査と認定を行う
- 認定された場合は、申請者に認定書が送付される
注意点は、学会ごとに認定審査を行う時期が異なることです。
例えば、日本感染症学会では、申請期間が10月2日から10月31日までとされていますが、外科感染症学会では7月3日から10月31日と規定されています。(2023年度の場合)
所属している学会、もしくは所属予定の学会のホームページで詳細を確認してください。
なお申請料は11,000円(税込み)です。(2022年12月22日より外税へ変更になりました)。
それでは具体的に、申請時に必要な項目を以下に抜粋して紹介します。
実際に申請する場合は、細則まで目を通して不備がないか確認を行いましょう。
※ただし、感染症専門医は以下の項目は免除となります。
1. 感染症対策実務歴(5点以上)
「平常時の感染対策」と「臨時の感染対策」からなり、前者は1項目5点、後者は1項目3点です。
「平常時の感染対策」の項目としては、
- 感染対策チーム(ICT)として定期的なラウンド
- 抗菌薬の適正使用チーム(AST)としても定期的なラウンド
- 抗感染症薬の施設内管理(使用状況調査や血中濃度モニタリングを含む)
- 対策の評価および対策の見直し
などの項目があります。
「臨時の感染対策」の項目としては、
- 病院感染多発(アウトブレイク)
- 職員の教育・啓発
- ワクチン接種
- 結核発生時の対応
などの項目があります。
さらに、自分がチェックした項目について具体的な内容(詳細、頻度、回数など)を記載する必要があります。
取得を目指す際に非常に重要な項目で、実績をアピールできる場でもあるため、申請書類に記載できそうな症例や出来事を意識しながら日々の業務にあたりましょう。
2. 講習会または院内感染対策講習会への参加実績が3回以上あること
ICD制度協議会が主催の講習会、または厚生労働省が委託している院内感染対策講習会への参加実績が3回以上あることが必要です。
ICD講習会の参加証には(受付)証明印、院内感染対策講習会受講証には厚生労働所の押印が必要で、各講習会の参加証明書のコピーを添付しなければなりません。
この場合、施設内で行われている院内感染対策講習会は該当しないため気をつけましょう。
3. 感染制御に関する学術論文または学会・研究発表およびそのコピー
筆頭著者ならば1編、または共同著者としてなら2編で申請が可能です。学術論文での申請を考える場合、学会誌またはレフリー制度(論文の内容を査読者が審査して掲載するか否かを決める制度)の整った学術誌に掲載される必要があります。
オンラインジャーナルなど、表紙がない雑誌の場合は雑誌名・巻・号・出版年がわかるようなコピー用紙を準備しましょう。
学会発表での申請を考える場合、所属学会が複数あれば、その学会ごとの発表を記載できます。
しかし、学会発表を1年に2回するのは現実的にかなりハードルが高いでしょう。少なくとも2年がかりで申請準備ができるように、計画的に準備を進めましょう。
学会発表による申請方法は、抄録(プログラム)の表紙、本文のコピーの提出が求められるため、うっかり抄録を破棄してしまわないように気をつけましょう。
5年ごとの資格更新をする
ICDは5年ごとに資格の更新手続きが必要です。更新年度該当者には、4月頃にICD制度協議会から更新用書類が一式送付されるので、書類が手元に届いたら早めに提出の準備を進めましょう。
更新に必要な条件は以下の通りです。
- ICDとして認定されたあとも認定推薦母体の学会会員であること。
- 病院感染制御や学術活動に貢献するとともに、所定研修単位を取得すること。
研修単位は50単位以上必要で、そのうちの20単位はICD制度協議会または厚生労働省が委託した講習会に2回以上参加したことで受け取れる単位でなければなりません。
更新点数は学会発表や学術論文も含むため、資格取得後も継続的に自己研鑽が必要です。
また更新料は11,000円(税込)です。2022年12月22日までは、認定期間中に65歳を超えた場合は、2の条件を満たせば更新料は免除されていました。
しかし現在は免除の制度は廃止となり、いかなる場合でも更新料が必要です。
インフェクションコントロールドクター(ICD)の資格を活かすには
ICDとして活躍の幅を広げている医師は、実際どのような環境で専門性を活かせるのでしょうか?
またICD取得を目指す医師は、どういった職場に身を置くべきかを解説します。
多くの医師は通常業務とICD活動を兼任している
2019年のICD活動の業務形態に関するアンケートでは、専従・専任は15%、兼任が66%、活動を行っていない割合が19%となっており、大多数の医師が通常の診療業務と兼任していることがわかっています。
参考:ICD制度協議会ホームページ
兼任により業務負担が増える可能性もあるため、ワークライフバランスが想像よりも苦しくなるかもしれないことを予め覚悟しておきましょう。
ただし資格手当などの特別な報酬を得られることもあるので、所属先にどのような待遇が得られるか確認をすることをおすすめします。
100床以上の規模の病院を選ぶ
ICD取得者の所属施設病床数のアンケート調査では、100以上600床未満が60%で最も多くなっています。
規模が大きい病院で、診療科が充実している病院の方が必然的に感染症患者の数や院内感染のリスクが大きくなり、感染症対策委員会など活動が充実する傾向にあります。
ただし、病院の規模によらず専従・専任で募集している可能性もあるため、自分がどのように働きたいのかをよく考えて病院選びができるとよいでしょう。
必要に応じて転職も視野に入れる
ICDの取得条件を満たしており、現職がクリニックや小規模の病院であれば、資格を活かせそうな病院へ転職を考えるのも1つの手です。
病院では医師の異動が頻繁に起こります。ICDを取得している医師が配属される場合は、「新しく入った〇〇先生は感染症の専門家」といった情報がすぐに病院中に知れ渡るため、各診療科の医師だけでなく、薬剤部からも頼りにされる存在となれるでしょう。
転職に悩んだら医療専門のエージェントに相談するのがおすすめ
転職に悩んだ場合は、医療専門エージェントのメッドアイを活用してください。メッドアイは、豊富なコンサルタントが医師の希望を細かくヒアリングして、おすすめの医療機関と医師の橋渡しをするお手伝いをします。
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まとめ(インフェクションコントロールドクターの資格と役割とは)
ICDは医療機関の感染制御に特化した医療従事者の資格で、主に院内感染の対策や職員の教育、抗菌薬の適正使用推進などの業務を専門的に行います。
資格を取得している医師の半数以上が通常の診療業務との兼任なので、業務の負担が増えることは間違いありません。
しかし他科の医師や薬剤師から頼りにされる貴重なポジションと言えるでしょう。
資格取得には、ICD制度協議会に加盟する学会への加入や、5年以上の医師経験などが必要です。
知識はもちろん一定の実務経験や施設所属長・学会長からの推薦も必要なので、非常にハードルの高い資格となりますが、他の医師と差をつけたい向上心のある医師にはおすすめの資格です。
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