モンスターペイシェントは医師をはじめとした医療スタッフに暴言を吐く、暴力をふるう、治療費の支払いに応じない、などの迷惑行為で診療を妨げる、一部の患者のことを指します。

この記事では、

  • モンスターペイシェントの特徴について知りたい
  • モンスターペイシェントに悩まされていて対応方法を知りたい
  • モンスターペイシェントを生まないための予防策を知りたい

このように思っている方に向けて、モンスターペイシェントへの適切な対応方法を具体的に解説します。

モンスター化しそうな患者を放置しておくと、やがてモンスター化して他の患者に迷惑をかけてしまうかもしれません。
モンスターペイシェントやその予備軍の対応方法をしっかり心得て、医師本来の業務を全うできるようにしましょう。

モンスターペイシェントとは

モンスターペイシェントとは、医療機関で理不尽なクレーム、暴言・暴力・脅迫、セクハラ行為などの迷惑行為をする患者(=ペイシェント)を表します。
モンスター化の原因は、患者本人の性格や気質によるものもありますが、医療機関側に落ち度があって問題化する場合もあります。
話し合いで解決することもあれば、警察や弁護士の介入が必要になるケースもあるため、対応は丁寧に行わなければなりません。

モンスターペイシェントに遭遇すると、貴重な診療時間を奪われることはもちろん、他の医療スタッフや患者にも迷惑がかかってしまいます。
そうならないためにも、モンスターペイシェントへの具体的な対応例をあらかじめ学んでおきましょう。

モンスターペイシェントによる代表的な5つの迷惑行為

モンスターペイシェントが起こす迷惑行為の代表例を5つ紹介します。もしかしたらあなたの患者さんもモンスターペイシェント予備軍かもしれません。

1.理不尽な要求やクレーム

モンスターペイシェントは、自分の主張を通すために、理不尽な要求やクレームをつける傾向があります。

たとえば、待ち時間への不満に対して、順番を繰り上げるように要求したり、入院時の病院のルール(消灯時間、食事内容、テレビや電話の使用に関してなど)に文句を言うなどといった行為です。

また、適切な医療行為を行っているにも関わらず、医療ミスであると決めつけて主張する場合もあります。

2.治療費の不払いや金銭の要求

治療費を滞納する、治療効果が思うように出ないからと言って治療費の返還を求めることもモンスターペイシェントの特徴です。
なかには、病気が進行したことによる慰謝料を要求してくるケースもあります。

暴言や暴力行為、苦情などがない患者でも、生活困窮を理由に治療費を踏み倒そうとする場合もあります。

3.迷惑電話・メールやインターネットでの誹謗中傷

無言電話や、執拗にクレームを電話やメールで言ってくる行為もハラスメントの一環です。
SNSやインターネットの口コミサイトで病院や、個人がほぼ特定できるような書き方で誹謗中傷をして攻撃することもあります。

4.暴言や暴行・セクハラ行為

自分の思い通りにいかないと、大声で怒鳴り暴言を吐くこともモンスターペイシェントの特徴です。
「お前のせいで病気が悪くなったんだろう!」「薬のせいで体調が悪くなった!処方したお前の責任だろう!」など、怒鳴り散らして医師の尊厳を傷つけます。

言葉の暴力で気が済まないときは、殴りかかり、最悪の場合では刃物を持ち出して周囲に脅威を与える場合もあります。
訪問診療の医師に、病死した母親の蘇生を要求して、医師を射殺した事例もモンスターペイシェントとして大きなニュースとなりました。

また、女性スタッフに不用意に抱きつく、からだを触る、個人的な連絡先を聞き出す、性的な話題をしてくる、などの行為もハラスメントであり、業務に影響を与えかねません。

5.長時間の理不尽な説教や居座り行為

モンスターペイシェントは、理不尽な理由でクレームを突き付けたり、自分のほうが上の立場だと言わんばかりの言動で説教をしてくるケースがあります。
多少の苦言を呈するだけでしたら、医療機関側の改善策にもつながりますが、数時間に及ぶ説教は医療スタッフの貴重な時間を奪います。

さらに、帰宅を促されても帰ろうとせずに不要に居座り行為をして自分の主張をアピールします。
居座り行為は、患者にも迷惑がかかるだけでなく、何らかの風評被害にもつながる恐れがあります。

モンスターペイシェントを生み出す要因

モンスターペイシェントを生み出す要因は、患者側にも病院側にもあります。原因を見極めて適切な対応の参考にしてください。

患者側の要因によるもの

ペイシェントハラスメントが起こる要因の1つとして、患者側に根本的な原因がある場合があります。

  • 本人の性格によるもの
  • サービスへの過度な期待や理解不足

気性が荒い性格の患者であれば、少しでも気に入らないことがあると大声で文句を言ったり、自分の主張を押し通そうとしたりすることもあるでしょう。

医師は患者の親ではありませんので、患者を更生させる必要はありませんが、施設のルールには従うことに納得してもらうように、うまく誘導するしかありません。

病院側の要因によるもの

ペイシェントハラスメントの要因の2つ目は病院側の落ち度によるものです。

  • 待ち時間や設備等によるもの
  • 病院側の説明不足
  • 職員の不適切な対応
  • 病院側による対応のミスや過失

患者の待ち時間の長さはどの医療施設でも課題となっています。IT化が進んでいる現代であっても、検査が必要な診察では、採血、エコー、レントゲンなどさまざまな部署を回らなければならず、確実に時間はかかってしまいます。

さらに、入院が決定すると手続きがいくつも必要になります。書類を何枚も書き、病歴や服薬歴など同じことを何度も伝えることに苛立ちをあらわにする患者も少なくありません。

クラークや事務員など、医師や看護師以外のスタッフの対応が不親切な場合も患者を苛立たせる原因となるでしょう。

モンスターペイシェントを生まないための3つの対策

モンスターペイシェントの予備軍は、医療機関側の工夫によってある程度防げます。具体例を通して参考にしてください。

1.迷惑行為に対する病院側の対応を表明しておく

対応に関する啓発ポスターや、ウェブサイト上での表明など、病院側の姿勢をあらかじめ示しておくことが得策です。

具体的には、

  • 医療施設の安全を確保するための防犯カメラが設置されている
  • 指示に従わない場合、警察に通報する
  • 入院継続困難と判断した場合に強制退院を促すことがあること

などが挙げられます。
いずれも院内の安全を守るために必要な方針で、正当な理由があれば法的な処置をすることも可能です。

2.スタッフ間での情報共有はしっかりと行う

モンスターペイシェントになりそうな特定の患者における情報を医療現場で共有しておきましょう。
電子カルテを利用している施設では、該当患者のカルテのトップに目立つように「対応注意」などと記しておくと、どのスタッフでも、患者対応時に注意を払うことができます。

また、病院側の説明不足によるクレームを防ぐためにも、患者からの質問に対しては、施設内で統一された内容をすぐに答えられるよう日頃から情報を共有しておくことが大切です。

わからない場合もすぐに担当医などに聞けるよう連携体制を構築すること、同じ内容についてスタッフにより回答が異なることがないようにする、など医療従事者一人一人の意識がモンスターペイシェントの発生を抑える力になります。

3.患者の病気や障害に関する知見を深めておく

モンスターペイシェントと思われてしまう患者の中には、心の病気や脳の障害なども関係していることがあります。
これらの患者については、正しい判断や、忍耐力、時に常識的な行動が困難な場合もあります。

そのため、精神的な病気や障害についての知識を深め、予測される事態に対し適切な対応が取れるようにしておくことが必要になってきます。

医療機関はひっきりなしに忙しいことが多く、患者対応を流れ作業のようにしてしまうこともしばしばあるかもしれません。しかし、あくまでも人と人との関わりが大切な業務であることを忘れずに、日頃から患者の立場になって物事を考え、対応できるよう心掛けて行動しましょう。

また、職員の対応だけでなく、病院の設備等について不満が出る場合もあるため、投書箱の利用やインターネットの口コミなども参考に設備の改善にも着手できればなお良いでしょう。

モンスターペイシェントに遭遇したら取るべき5つの行動

モンスターペイシェントに遭遇すると、どんな対応が正解なのかわからずパニックに陥って初期対応を誤りかねません。5つのポイントを押さえて適切な対応をしましょう。

1.相手の話や主張をしっかりと聞く

まずは相手の話をきちんと聞くことが大切です。説得や反論はせず最後まで素直に聞きましょう。
そうすることで患者は不安や怒りの気持ちから、「医師に話を聞いてもらえている」というプラスの感情に動き、感情が少し落ち着く傾向があります。

変に聞き流してしまうと余計に相手を怒らせて大きな問題に発展する可能性があります。
「貴重な業務時間が削られてイライラしてしまう…」そんな気持ちをここはグッとこらえて傾聴に徹しましょう。

また、患者の話から病院側に問題がなかったかどうかを把握して患者の主張が正当なものであるかを判断してください。

2.下手に出ず、毅然な態度をとる

その場を収めようとして、平謝りをしてしまったり、患者の機嫌をとるような言動をしたりしてしまうと、相手が弱みに付け込んで不当な要求がエスカレートする可能性もあります。
毅然とした態度を貫いて、堂々と対応することが求められます。

3.無理難題についてはきちんと断る

若手の医師が年上で社会的地位のある患者、またはその家族の担当になったときなど相手に怯えてしまうと理不尽な要求を飲みそうになることもあるかもしれません。

しかし、一度甘い態度をとってしまうとその場ではトラブルにはならないかもしれませんが、その結果としてなめられてしまいかねません。
こちらに落ち度がないのであれば無理なものは無理であるとしっかりと拒否する勇気も必要です。医師法には応召義務がありますが、必要に応じて診療を拒否することも可能です。

それでもモンスターペイシェントの対応が変わらない場合は、医療機関のクレーム対応に精通している弁護士に介入してもらって解決策を探るのも良いでしょう。

モンスターペイシェントに悩んだら転職を検討するのも手

悪質なクレーマーやセクハラなど、特定の患者に悩まされている場合は、いっそ転職をして環境を変えるのもひとつの手です。
医師と患者は信頼関係を保ちながら病気の治療を進めていくため、関係が悪化してしまった患者と離れることは悪いことではありません。

またモンスターペイシェントの対策を十分にとっている医療機関へ転職することで、モンスターペイシェントから逃れる道もあります。

定期的に受診にくるモンスターペイシェントのせいで、心が疲弊してしまっては本末転倒です。
モンスターペイシェントとの出会いは、患者対応のひとつの経験として捉えて新しい環境で心機一転活躍の場を拡げる未来はいかがでしょうか?

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まとめ(モンスターペイシェントとは)

モンスターペイシェントは、理不尽なクレーム、暴力や暴行、セクハラ、治療費未払い、長時間の居座り行為など、一般的にはカスタマーハラスメントと呼ばれるような迷惑行為をして医療機関を困らせる存在です。

モンスターペイシェントに出会ってしまったら、まずは話を聞きましょう。患者の主張の正当性を吟味し、病院側に落ち度がある場合は素直に認めて謝罪することが重要です。
ただし、患者の主張に正当性がなく理不尽な場合や、あきらかな迷惑行為の場合は、相手がどんな人であっても毅然とした態度で接することが重要です。

モンスターペイシェントはどこにでもいるもの、と考えるのが無難ですが、特定のモンスターペイシェントに悩んでいる場合は、いっそのこと転職をして環境を変えるのもおすすめです。

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