ペイシェントハラスメントとは、医療現場における迷惑行為のことで、医療スタッフが患者や患者家族、その関係者から暴力、暴言、尊厳を害される行為などを受けることを表します。
ペイシェントハラスメントによって精神的なショックを受けてしまう医師や病院職員も少なくありません。
しかし、ペイシェントハラスメントを起こさないために事前に予防策を立てることはできます。
この記事では、ペイシェントハラスメントの具体的事例や予防策、起きてしまった際の対応策を紹介します。
「ペイシェントハラスメントを起こさないように日々の診療に取り組みたい」「ペイシェントハラスメントを防ぐ病院、クリニック作りをしたい」という医師に向けて、具体的に解説します。
ペイシェントハラスメントとは
あわせて読みたいペイハラ(ペイシェントハラスメント)とは、患者が医療従事者に対して暴力や暴言、セクハラ、診療費未払い、医療機関が提供するサービスの範囲を超えた要求を行うこと、その他の迷惑行為をはたらくことを表します。
「モンスターペイシェント」と呼ぶこともあり、医療業界以外でカスハラ(カスタマーハラスメント)と同義です。
ハラスメントの内容によっては、法的処置をとることも可能です。
ペイシェントハラスメントが起こる2つの要因
1.患者・利用者側の要因
ペイシェントハラスメントが起こる要因の1つとして、患者側に要因があります。
- 本人の性格、病気または障害によるもの
- サービスへの過度な期待や理解不足
患者側の要因として、病気に対する不安やストレスが挙げられます。しかし、これが医療スタッフへの妥当性を欠いた要求や常識を逸脱した言動につながる場合、それは単なる苦情ではなく、ペイシェントハラスメントと認識されるべきです。 あわせて読みたい
医療業界のみならず、どの業界でも”クレーマー”はいるものです。
患者本人の気性が荒い性格であれば、少しでも気に入らないことがあると大声で文句を言ったり、自分の主張を押し通そうとしたりします。
例えば、「当院では対応できない」と説明しているにも関わらず、無理に要求し続ける行為などが該当します。
2.病院側の要因
ペイシェントハラスメントの要因の2つ目は病院側によるものです。以下のような項目が挙げられます。
- 待ち時間や設備等によるもの
- 病院側の説明不足
- 職員の不適切な対応
- 病院側による対応のミスや過失
どんな施設でも必ず付きまとう問題が、患者待ち時間の長さです。
検査が必要な診察では、採血、エコー、レントゲンなどさまざまな部署を回らなければなりませんし、さらに、入院が決定すると手続きがいくつも必要になります。
現在、手続きに関しては、IT化を図って簡便にできるようになっている施設もありますが、まだまだアナログな形式をとっている病院は多いでしょう。
患者側がITについていけない場合も多く、結果的に待ち時間が増えてしまいます。
また、接遇面に関しては病院も規模や方針によって雰囲気や方針が異なります。
スタッフが接遇研修を受けているところもありますが、そうでない医療機関も多いでしょう。
また、事務やクラークは派遣業者から雇っているところもあるため、患者対応に当たりはずれがあるのが現実です。 あわせて読みたい
スタッフの対応が明らかに不適切である場合は、ペイシェントハラスメントの原因となるでしょう。
実際にあったペイシェントハラスメントの事例
ペイシェントハラスメントの事例を紹介します。
- 執拗かつ辛辣な対応要求
- 脅迫・名誉棄損・侮辱・暴言
- 医療行為等に対する非難や批判と責任追及
- 業務妨害
- 暴行・傷害
- 医療上の指示・指導等の受け入れ拒否や無視
- 執拗な付きまとい
このような行為は、医療従事者の業務を妨げる要因となり、迷惑行為に該当します。
わかりやすい例としては、大声を出して怒鳴る、診察順番を繰り上げるように要求する、などがあります。
SNSで病院の対応を誹謗中傷すると脅すなど、悪質性の高いハラスメント行為もよく聞かれます。
また、診療の内容に納得いかないときに、医師に土下座をして謝罪することを要求した例すらあります。
このような行為は、刑法第223条に定める強要罪に該当することもあるため厳格に対応する必要があるでしょう。
また、医療スタッフへの抱きつきや性的ないやがらせや言動など、セクハラにあたる行為をする事例も挙げられます。
これらの行為は、医師のみならず、事例を目の当たりにした他の医療スタッフに自責の念を感じさせたり精神的なショックを与えたりする可能性があります。
暴言や暴力によって精神疾患を患ってしまう人も多くいますが、このようなことはあってはならないことです。
※長崎県医師会のアンケート引用
参考:「暴言、暴力あった」半数超 長崎県医師会が病院にアンケート – 長崎新聞
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ペイシェントハラスメントに対する3つの予防策
ペイシェントハラスメントを予防するには、マニュアルを作成して、医療スタッフ一人ひとりがしっかりと理解しておくことが肝要です。
1.予め患者側へ病院の方針を周知する
院内に掲示するポスターや説明文書には、医療機関が対応できるサービスの範囲を明確に記載し、過度な要求には応じないこと、病院業務の妨害となるような行為には厳正に対処することを明示しましょう。
迷惑行為に関する内容やそれに関する病院側の対応について、啓発のポスターや公式サイトの文書などで予め案内しておくことが得策です。
具体的には、
- 強制的な退院を促す
- 警察に通報し厳正な対応をする
- 院内の安全確保のために防犯カメラを設置している
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いずれも院内の安全を守るために必要な方針で、正当な理由があれば法的な処置をすることも可能です。
病院側が事前に明確なルールを示すことで、患者の過度な要求や迷惑行為等を未然に防ぐことにも繋がるでしょう。
2.職員に対し、対応方法を周知する
ハラスメント対策として、ペイシェントハラスメントが起きた際の対応方法や、特定の患者に対する対応方法などの必要事項をマニュアル化することが大切です。
患者とトラブルになったときに、スタッフが困惑しないように、「やってはいけないこと」をハッキリさせておくとスタッフの安心感につながります。
- 土下座はしてはいけない
- 個人的な連絡先は教えてはいけない
- 一人で対応せず必ず上司に報告して連携しながら対応する
このように具体的な内容をまとめて対応マニュアルを作成しておくとよいでしょう。
また、マニュアルを作成してもスタッフ一人ひとりが把握していないと意味がありません。
マニュアルを誰でもすぐに見られるように、置く場所を決めていつでも確認できる状態にするのがベストです。
電子カルテを導入している医療機関であれば、システムの中に保存しておくことも有効です。
ハラスメント対策は専門企業に依頼することも可能なので、必要に応じて活用しましょう。
院内研修でのロールプレイや、定期的な内容のアップデートは安全管理意識を高める効果があり、結果的にハラスメント対策もスムーズに浸透します。
3.患者と病院側の理解に相違が出ないよう注意する
病状や治療方針についての説明の際は一方的に行うのではなく、患者側の疑問や不安も取り除けるようしっかり傾聴しましょう。
また、診察内容、ムンテラ内容はすみやかにカルテに記載することが自分の身を守るためにも重要です。
通院や入院、治療費に関することなど一般的な内容については、説明に漏れがないよう予め必要事項をまとめたマニュアルを作成しておき、十二分な情報を患者に提供できるように内容をしっかり頭に入れておきましょう。
4.事件発生のリスクを軽減する
患者に対する声かけは、患者に周りから見られている、という意識を持たせるためにも有効です。声かけといっても難しい内容ではありません。
- こんにちは、どちらへ行かれますか?
- 何かお困りでしょうか?
このような声かけでも十分に効力があります。
ただ、診察室以外で患者と接する機会がない医師もいるでしょう。
その場合は、院内に従事するスタッフにこのような対応を周知し、スタッフ全員が安全管理意識を持つように徹底することが効果的です。
参考:医療機関における安全管理体制について
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ペイシェントハラスメントが起きた際の対応方法
ペイシェントハラスメントが実際に起きてしまったときは、慌てずに話を聞いて、複数人で対応することが大切です。
医師や医療スタッフは、仕事目線で患者を見てしまいがちですが、患者の目線に立って物事を捉えることも、ときに重要です。
相手の話をきちんと傾聴する
相手が何に対し不満を持っているのか、なぜその行為をしているのかなど相手の主張や考えをまずはしっかりと聞きましょう。
興奮状態にある患者は、主張が支離滅裂なことがありますが、言いたいことをスッキリ吐き出せば気が済む、というタイプもいます。
正論で真っ向から対抗したい気持ちをグッとこらえて理解を示し、病院側に問題があるときはしっかりと真摯に謝罪すると、事態が収拾することがあります。
毅然とした態度で臨む
患者の言動が故意に悪意を持って行われる場合、丁寧で誠実な対応はもちろん必要ですが、変に下手に出てしまうと相手に付け込まれて要求が悪化したり、無理難題を突き付けられたりする可能性もあります。
物怖じしない毅然とした態度で臨み、妥当性を欠いた理不尽な要求に関してはきちんと断ることが大切です。状況に応じて警察や弁護士に介入してもらうことも検討しましょう。
複数人で対応する
暴力やセクハラなど患者の攻撃的な言動は一人で対応すると危険な場合もあります。
男性が全力で襲いかかってきたときに、押さえ込むのは男性でさえ複数人必要です。
また、理不尽な要求についても一人では弱みに付け込まれて勢いで言いくるめられる可能性もあるため、病院側のミスや落ち度がないという証拠をしっかり提示するためにも、必ず複数人で対応しましょう。
必要に応じ時間を空けて対応する
例えば電話でクレームを受けた場合、自分一人の判断ですべて対応するのは、取り返しのつかないことになるかもしれません。
相手の言い分をしっかり聞き取り、何を確認すれば良いかを提示した上で、折り返し電話することを伝えましょう。
電話ではなくその場で受けたクレームの場合でも再度来ることを伝え、一度現場を離れて少し時間をおくことで相手が少し冷静になる場合もあります。 あわせて読みたい
ペイシェントハラスメントに悩んだら転職も視野に
病院側のペイシェントハラスメントへの対応策が不十分、または特定のモンスターペイシェントがいて対応に悩まされている場合は、転職をし、より働きやすい環境を求めることも選択肢の一つです。
長時間の診療に加え、一部の患者からの過度なクレーム対応に追われる環境では、医師の人格をも傷つける事態に発展することもあります。
医師と患者は信頼関係があって治療を進めていくものです。さまざまなタイプの患者と接して、患者対応を学びつつ、医師としての専門性を高めていくことも重要です。
転職の際は医師専門のエージェントがおすすめです。条件に合致していれば、非公開求人を提案してもらうことも可能です。 あわせて読みたい
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まとめ(ペイシェントハラスメントとは?)
ペイシェントハラスメントとは、患者が医師やその他の医療スタッフに暴言又は暴力行為、その他の迷惑行為をすることです。
医療従事者にとってより良い職場環境の実現のため、ペイシェントハラスメントが起きないよう、施設内にポスターを掲示することや、患者への声かけなど、予防策を講じることが重要です。
しかし、それでもペイシェントハラスメントが完全に防げるわけではないため、起きてしまった場合の対応策をしっかり練っておきましょう。
ペイシェントハラスメントは医師の貴重な時間を奪う不当な行為です。毅然とした姿勢で対応し、医師本来の業務を全うできるように日頃から十分に対策しておきましょう。
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