医師や医療業界の仕事には、患者さんの命や健康を守るという使命感と、大きなやりがいがあります。
しかし、やりがいがある一方で、労働環境が過酷であったり、人材不足であったりと、何かと課題を抱えている業界だとも言えるでしょう。

「医療現場における課題とそれに対する働き方の影響が知りたい」
「医療現場での課題は転職に影響するのか知りたい」

この記事では、現在の医療現場の課題を整理し、その対策の鍵でもある「働き方改革」についてご紹介しますので参考にしてください。

日本の医療現場における課題4つ

まず、医療の現場が抱えている課題を以下の4つのポイントに分けて整理します。

  1. 慢性的な医師不足
  2. 医療体制の地域格差
  3. 労働時間の長さ
  4. 入院患者の多さ

それぞれのポイントについて、どういった課題を抱えているのかを詳しく見ていきましょう。

1.慢性的な医師不足である

日本では医師不足の状態が慢性的に続いています。
すべての病院で不足しているわけではなく、環境によって十分な医師数が確保できているところもあり、不足度合いにばらつきがみられるのも特徴です。

しかし平均値をとると、日本はOECDの国々と比較して、医師数が少ないという結果になっています。
日医総研が発表しているデータでは、日本は人口1,000人当たりの医師数が2.4人です。
これは諸外国と比べると低めの数値で、OECD(経済協力開発機構)18カ国平均の3.5人を下回っています。
人口1,000人当たりの医師数が多いのは、ギリシャやオーストリア、ポルトガルなどで5〜6人となっています。

2.医療体制の地域格差がある

前項で述べた通り、日本の医師不足は診療科や地域などの条件によって格差が見られます。
特に地域格差はかなり大きく、都市部や医大がある地域に偏りがちです。
逆に都市部周辺のベッドタウンでは医師が少ない傾向が見られ、東京のベッドタウンである埼玉や千葉、茨城県などは、厚生労働省の調査結果でも医師数が少ない県に上がっています。
これは、このエリアから都心に通勤できるためで、このエリアに住む医師が都心部に通勤していることも要因でしょう。

また、ある程度経験を積んだ医師が開業する場合も、集患を見込んで都市部を選ぶ傾向があります。
このことも、医師数の偏在につながる要素の1つと言えるのです。

3.労働時間が長い

医師の中には労働時間の長さや、休日の取得がままならないといった過酷な労働環境に耐えている人が少なくありません。
入院病床がある病院に勤務していれば当直勤務もあり、当直の日は出勤してからまる2日病院に居続けるといった、他業種からは想像しづらい長時間勤務もあるのです。
そして、医師数が不足している病院に勤めていれば、当直が回ってくる回数も多くなります。

こうした過酷な労働環境を苦にして辞めてしまう医師や、当直のない職場へ転職する医師も一定数います。
その結果、医師数を確保したい大きな病院で医師不足が起こり、残っている医師の負荷がさらに増すという悪循環を招いてしまうのです。
また、産休を取った女性医師が、ハードな勤務への自信のなさからそのまま離職してしまうこともあるでしょう。

4.入院患者数が多い

日本の人口あたりの医師数は、世界と比べるとかなり低い数値となっています。
しかし、病床数は他国を圧倒するほど多く、人口1,000人当たりの病床数は13.1床あります。(参照:日医総研リサーチエッセイNo.77
カナダやアメリカでは3床未満なので、その多さは少々特異に感じるかもしれません。

しかし、日本の病床数の多さは、精神科病床の多さがその要因です。
精神科病床を持つ病院は、利益確保のために病床使用率を上げなくてはならず、結果として病棟に勤めるスタッフの負荷が高まります。
そして、高齢者の増加で認知症患者の入院期間が長くなっていることも、勤務医や看護師の負担増に拍車をかけているのです。
精神障害系の病床については、諸外国では通院治療に方針が切り替わっているところが多く、病床数は減少を続けています。
しかし日本では今も入院治療が基本で、あまり病床数は変わっていません。

医療現場における課題を解決するための「働き方改革」とは

医師不足の要因の1つである、医師の過酷な労働状況については、「働き方改革関連法」の施行に伴って、緩和を目指す動きが加速しています。
ここからは、医療現場の「働き方改革」の概要をご紹介します。

時間外・休日労働時間の上限の設置

「働き方改革関連法」では、労働者の時間外と休日の労働時間に上限規制が適用されます。
医療業界の場合は以下のような種別に分けられ、区分によって上限時間は異なります。

区分区分名年の上限時間
原則全ての勤務医A水準960時間
地域医療確保のため、副業や兼業で他院に派遣される医師連携B水準1,860時間(一つの医療機関で960時間まで)
救急や高度治療など、自院内で地域医療確保のため長時間労働が必要な医師B水準1,860時間
臨床研修医・専攻医研修医C-1水準1,860時間
専攻医卒業後技能研修をする医師C-2水準1,860時間

(参照:日本医師会「医師の働き方改革」

時間外・休日労働時間に応じた面接指導の実施

働き方改革では、A水準以外の医師については、通常よりもはるかに長い時間外労働が可能です。
一見すると改悪に見えますが、時間外労働時間の上限とは別に、月間で時間外や休日の労働時間が100時間を超えると見込まれた場合には、面接指導が義務化されます。
面接指導義務はA水準でも同様に義務化され、すべての勤務医に対して、月の残業時間への配慮が必要となるのです。

勤務間インターバルのルールの設置

手術や当直など、医師の勤務では長時間勤務がどうしても必要になります。
このため、長時間勤務をする医師本人の健康確保措置として、勤務間のインターバル確保が義務付けられます。
始業から24時間以内に9時間の連続した休息を確保せねばなりません。
宿直で連続勤務時間が24時間を超える場合は、宿直明けから18時間のインターバルが必要です。

休息中でも緊急対応で業務にあたることは可能ですが、その場合は業務に当たった時間分だけ、別途代替で休息をとることが必須となります。
これを代償休息と言い、代償休息は発生した翌月末までに取得するというルールになりました。
また、休息中の緊急対応が可能となるのは、あらかじめインターバルが適切に確保されたシフトで働いている場合のみです。

働き方改革における2024年問題とは

もともと「働き方改革関連法」は、医師だけでなくすべての業種の労働者に対して施行されたもので、2019年から始まっています。
しかし、医療業界や物流業界、建設業界などで、すぐに対応することが難しいと判断され、施行を5年間猶予された経緯があります。
このため、医療業界が「働き方改革関連法」を遵守するのは2024年からとなりました。
これは俗に「2024年問題」と呼ばれ、2024年の法施行までに対策をすることが必須となったのです。
しかし、いよいよ2024年が迫っている中で、医師の休息時間を守るための取り組みが進んでいないという医療機関も少なくありません。

働き方改革が進まない4つの原因

医療業界での働き方改革がなかなか進まないのは、冒頭で触れた現在の医療業界の課題があるためです。
ここからは、働き方改革がうまく進まない原因について解説します。

1.人材が不足している

医師が不足している医療機関では、働き方改革で必要な、適切なインターバル休息の確保自体が難しい状態です。
人手が足りない病院が、在職の医師だけでシフトを回すと、宿直回数が多くなってしまい、休日を十分に置けずに適切なシフトが組めないケースもあります。
宿直バイトの医師が確保できればいいですが、人材が欲しい病院は数多く、競合が多い中で人材確保をしていくのは大変です。

2.勤務実態の把握が難しい

医師不足を起こしていない病院でも、医師の勤務時間管理が難しいと頭を悩ませているところも少なくありません。
通常のシフトの時間以外で、オンコール対応の呼び出しや、他の医療機関への派遣など、状況に合わせて動かなければならない医師ほど勤怠管理が難しくなります。
また、医療業界はIT化が遅れている業界でもあり、勤怠管理をいまだに紙ベースで行っている病院もあります。
勤怠管理のためにシステム的な投資をしようにも、病院の経営状態が良くないといった理由で後回しになるケースもあるでしょう。

3.労働環境の整備ができていない

夜間の緊急対応や看取り、宿直やオンコールなど、医師の勤務時間を複雑にする要素は多くあります。
診療科によって違いはあるものの、こうした対応が多い部門で働いていると、不規則でハードな労働環境となりがちです。
医師には自分の都合で仕事時間を決められるケースがほとんどなく、患者や病院の都合に合わせないといけないという特性があります。
病院が総力を上げて医師の勤務体制を管理していないと、労働環境を改善することが難しいのです。

4.医師の地域偏在が解消できていない

医師数の不足と同様に、地域偏在の問題も見過ごせません。
都心部で人材も十分にいる病院とは違い、地方では圧倒的に人手不足の病院が多くなります。
人手不足では、働き方改革関連法に則った規則的なインターバル休息の取得が困難です。
そして、労働環境が改善されないために、より良い病院へ転職してしまう医師もいるでしょう。
ただでさえ人手が足りない状態で、さらに医師が流出してしまうリスクがあり、悪循環の状況の解消が難しいと言わざるを得ません。

課題における対応の差は医療機関により異なる

法律遵守に向け、どのくらい対策ができているかは、医療機関によってまちまちなのが現状です。
働き方改革のためにさまざまな対策をしている病院もあれば、人手がなくほとんど対応できていない病院もあります。

病院側の主な対応としては、時短勤務を導入したり、電子カルテやオンライン診療などのIT化やAI導入などがあります。
しかし、病院によって経営状況も異なり、対策にかけられる原資にも違いがあるため、どうしても差が出てきてしまうのは仕方ないことです。
より良い環境を求めて転職を考えるのであれば、転職先が2024年問題に対してどの程度対策できているのかを知るのも、判断材料の1つです。

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医師は転職が多い職業としても知られています。
そして転職の目的によって、転職先に求める条件が変わってくるでしょう。
労働環境を改善したい、ワークライフバランスを保った働き方がしたいと考えて転職するのであれば、働き方改革がどれくらい進んでいるか知るのも重要です。

しかし、一般的な求人情報や求人サイトでは、どこまで踏み込んだ情報が得られるか不安ではないでしょうか。
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まとめ(医療における課題とは?)

医療業界の課題は複雑で、簡単に解決できないものもあります。
しかしその根本は、人材不足と地域偏在に集約されると言えるでしょう。
どちらの課題も、医学部の定員増や自治体の医師確保計画などで長期的な解決が目指されています。
それでも、医大生が一人前の医師になるまでにかかる時間を考えると、1〜2年ですぐに状況が良くなるという短期的な希望は抱けません。
医師が自分の身を守るために、よりより環境を求めて転職することは、致し方ないこととも言えるでしょう。

人手不足が蔓延している状況下で、いかに転職を成功させるかは、偏に情報収集にかかっています。
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