地方における医師の人手不足の原因は、新臨床研修制度の導入や地方での生活の不便さが考えられています。
しかし、地方では都市部と比べて待遇が良いこと、一人ひとりの患者と向き合える機会に恵まれること、満員電車や道路の渋滞に巻き込まれず通勤できることなどメリットもあります。
地方での医師不足を解消するための政策も立てられており、制度を上手に活用すれば、専門医やサブスペシャリティを目指すことも可能です。
もちろん勤務先の選択肢の多さや、将来的な開業を見据えた集患面は都市部のほうにメリットがありますが、地方でのゆとりある生活や働き方に憧れる人も少なくありません。
この記事では、
- 地方で医師が不足する原因と解消法
- 医師が地方で働くメリットとデメリット
について紹介します。地方勤務に興味はあるけれど、今ひとつ踏み切れない、視野を広く持っていろいろな選択をしたい、という方はぜひ参考にしてください。
地方で医師不足になる3つの原因
地方で医師が減少している理由は主に3つあります。それぞれについて解説します。
1.新臨床研修制度の導入によるもの
新臨床研修制度とは、医師が免許取得後に医療現場で活躍する前に2年以上の初期臨床研修を受ける制度のことです。
新臨床研修制度が導入されてから、都市部での研修を希望する新人医師が増えました。それにより地方の大学病院で研修する医師が不足したため、人手不足が起こります。人手が足りない大学の医局は、市中病院から中堅の医師の派遣休止や引き揚げを行い、市中病院での人手不足が二次的に引き起こってしまったというのが経緯です。
派遣を中止されてしまった市中病院などの医療機関では、労働環境が悪化し、開業で退職する医師や、転職する医師も増加し、診療の制限や診療科閉鎖という深刻な事態に陥ったところもありました。それゆえ地域の拠点病院の人手に加えてその周辺地域の病院の人手不足に至っています。
このような流れのなかで、診療および経営が成り立たずに閉鎖を余儀なくされる公的病院もあったほどです。 あわせて読みたい
2.都市部での勤務を望む人が多いこと
都市部のほうが医療機関の種類が多いため、自分に合った職場が見つけやすい傾向にあります。医療モールや大型のショッピングセンターも多くあるため、休日に開院することでさらなる患者を集めることが可能です。
また、開業を視野に入れている医師は、ある程度の規模の病院に勤務医として勤め、地域の患者との信頼関係を築いてから、開業先のクリニックに患者を連れていくことが大半でしょう。したがって、あらかじめ人口が多く、集患が見込まれる都市部での勤務を望む人が多いと言えます。
働き方だけでなく、生活のしやすさも都市部の方が便利であるため人気です。
また、都市部に近い郊外では、家賃や食費などの生活費を抑えながら大きく稼げる都市部へ通勤する人が多いため、医師数が少なくなりがちです。代表的な例が埼玉県で、人口あたりの医師数が最も少ないというデータがあります。 あわせて読みたい
参考:厚生労働省「2020年(令和2年) 医師・歯科医師・薬剤師統計の概要」
3.場所によっては生活そのものが不便であること
地方では場所によって、電車やバスの本数が全体的に少なく車がないと生活ができないこともあります。都市部での生活に慣れてしまっている人にとっては、不便に感じることが大きくあるでしょう。不便な場所であればあるほど人の集まりは悪いため、患者の数もそれに比例して少なくなることは考えられます。
一方で、満員電車や渋滞の心配がない、といったことは地方勤務のメリットでもあるため、通勤が楽になると思う人もいるでしょう。
また、女性医師は出産や育児を伴うことがあるため、生活の便利さは勤務先を選ぶ時の重要なポイントとなります。院内に保育施設を設けていることもありますが、人数制限で入れないこともあり、また保育料も自治体が運営する認可保育園より高額になることがあります。
小学校に入学すると保育園のように18時や19時まで学校で預かってくれるわけではないため、「小1の壁」に突き当たる親御さんも少なくありません。東京をはじめとする都市部では、22時まで預かってくれる学童保育や、自宅まで送迎付きの学童保育など、共働き世帯に寄り添うサービスや施設が増えて非常に人気です。 あわせて読みたい
以前に比べて女性も働きやすくなっていますが、このような背景もあるため、今後の子育て世代への環境や体制が整うことが望まれます。
地方での医師不足を解消するための取組みとは
地方での医師不足は深刻な問題です。日本医師会は医師偏在解消策検討合同委員会を立ち上げて環境整備を指摘しており、状況は変化していますが解決には至っていません。
ここでは、医師不足解消の取組みについて3つを紹介します。
1.医学部において地域枠制度を設置する
地方での医師不足解消の制度として、医学部に設置されている「地域枠制度」があります。
これは、「地域医療に従事する医師を養成することを主たる目的とした学生を選抜する枠」のことで、所属する学生には自治体や大学から奨学金が貸与されます。
卒業後に特定の病院に9年間(奨学金を貸与した年数の1.5倍)従事することで、奨学金の返済は免除になることもあるため、金銭面で家計に負担をかけたくないと考える学生にも人気です。
2010年にスタートした制度ですが、現在各医学部の地域枠は増加傾向にあり、約9割の大学に設置されています。選抜方法や入学定員、奨学金貸与額、卒業後の進路についてなどは各大学や都道府県ごとに異なるため、各種募集要項を確認してください。 あわせて読みたい
2.シーリング制度を実施する
シーリング制度は、診療科ごとに医師が過剰と考えられる地域で専攻医の数を制限する仕組みです。つまり、都道府県ごとに専門医の人数に上限を設ける制度です。
日本専門医機構により2018年から開始されたもので、必要医師数をすでに満たしている地域への応募が集中するのを防ぐ効果があります。産婦人科・外科・病理・総合診療・救急・臨床検査はシーリングの対象外となっていますが、東京都においてはほとんどの診療科が対象となっているのが現状です。
限られた人数しか専攻医を目指せないため、あくまでも診療科にこだわる場合は他の地域に行かざるを得なくなります。反対に、どうしても都市部に住みたい医師は、診療科を変えるか、そもそも専攻医を諦めなければなりません。
このように、医師の地域偏在だけでなく診療科偏在も解消できる仕組みがシーリング制度です。
シーリング設定がされている都道府県の数が多い、人気の診療科は次の通りです。
- 内科
- 皮膚科
- 小児科
- 整形外科
- 眼科
- 皮膚科
参照:2022年度プログラム募集シーリング数|一般社団法人日本専門医機構
ただし、このシーリング制度は実績を踏まえて定期的に見直しがなされているため、狙っている都道府県で募集人数が変わることはあります。また、診療科だけでなく基幹病院の状況などでも変わりうるため、常にリサーチをしておきましょう。 あわせて読みたい
3.キャリア形成プログラムを実施する
キャリア形成プログラムとは、
- 医師不足の都道府県における医師の確保
- 医師不足地域に派遣される医師の能力開発・向上の機会の確保
- さまざまな疾患の治療を通した若手医師の育成
- 医師の地域偏在、診療科偏在の是正
このようなことを目指して、2018年の医療法改正時に策定されたプログラムです。
都道府県単位で設定されているプログラムなので、卒業後の進路は原則として同じ都道府県内で勤務すること、勤務先は大学病院や中核病院だけでなく医師不足医療機関も含むことなども条件です。
修学資金貸与制度を行っている都道府県もあり、将来県内の医師不足地域に勤務を希望する医学生に修学資金を貸与し、地域医療支援機構との面談を通じて地域医療を担う医師を養成しています。
修学資金の貸与を受けている学生がキャリア形成プログラムを終了することで資金の返納が免除されることもメリットとなっています。
キャリア形成プログラムの対象期間は臨床研修の2年と、専門研修の7年(原則)を合わせて原則9年間です。専門医を目指す専門研修だけでなく、その後のサブスペシャリティ領域を目指すプログラムも組まれているため、より医学知識や技術を深めたい医師にとっては条件のよいプログラムとなっています。
ただし、このプログラムは診療偏在の解消も目的としているため、専門研修プログラムコースは、医師数が不足している診療科で設定されています。具体的には、総合診療科、救急科、産婦人科などです。
キャリア形成プログラムでは、海外留学や学位取得を希望する医師や、出産・育児などのライフイベントに配慮するためプログラムを一時中断することも可能です。上手に利用すれば自分の理想の人生を諦めることなく歩めるでしょう。
参考:医師確保計画を通じた 医師偏在対策について
あわせて読みたい
医師が地方で働く3つのメリット
都心部と比較して何かと不便なイメージの地方ですが、医師にとってのメリットもあるのです。代表的なメリットを3点紹介します。
1.自分のペースでやりたい医療が実現できる
都市部では、人口が多いことに比例して競争も熾烈になります。患者に寄り添った自分の思い描く医療よりも、売上を優先せざるを得ない場合があり、競合の病院やクリニックの患者数や手術数を意識することも多々あります。
同一機関内でも、診療科ごとに売上を競うことも数多くあるでしょう。売上や病床回転率などの向上を目的としていると、一人ひとりの患者に十分に向き合う時間が取りづらいことがあります。そういった意味では、自分のペースで医療業務ができる地方は魅力的でしょう。
また、開業を見据えて都市部での勤務を選ぶ人が多いですが、地方は比較的競争が少ないため集患の意味では狙い目というメリットがあります。 あわせて読みたい
2.都市部より好条件が期待できる
人手不足の地方のほうが、好待遇の条件で迎えてくれることが多いのが特徴です。フリーランスとして一時的に出稼ぎの感覚でアルバイトやパートで働く人もいるほどです。 あわせて読みたい
また、医療機関によっては自治体から移住者対応への補助金を受けている場合もあり、福利厚生が手厚くなっていることもあります。
地方のほうが、家賃をはじめ物価が抑えられていることが多いため、収入をメインとして考える医師にとって地方勤務はおすすめできます。
3.人とのつながりが深くやりがいを感じやすい
都市部の患者数の多いところでは常に慌ただしく、一人ひとりと時間をかけて向き合いにくいと感じる医師は多いでしょう。
例えば、外来担当医が緊急入院を可能な限り入れてしまうと、病棟担当医に負担がかかるのは必然です。病棟担当医は、予定入院の患者よりも緊急入院の患者の対応を優先しなければならない状態になるため、患者の話を十分に聞けなかったり、諸々の対応が遅れたり、予定入院患者にかける時間が減ることがあります。
それに比べて、人口が少なく、競争や人の移動が激しくない地方では、ゆとりをもって患者に接することができます。長期に渡って通う患者さんも多いため、やりがいを感じやすいでしょう。 あわせて読みたい
医師が地方で働く2つのデメリット
地方で勤務することはもちろんメリットばかりではありません。想定しうるデメリットも事前に把握して地方で勤務する自分をイメージしてみましょう。
1.業務負担が大きくなる可能性がある
地方の医療機関では慢性的に人手不足であることが多いです。
もし、自分が勤めた先の病院で人手が足りない場合は、すべて自分一人で診療業務をこなさなければならないため、業務負担が大きくなってしまう可能性があります。
研修医が勤務する施設であれば、主治医が不在の状況でも必要な処方のオーダーや、簡単な処置をしておいてくれることがありますが、研修医が不在の施設では、細かい業務も自分一人で取りこぼしなく行う必要があります。
また、人手不足により当直の頻度が高くなること、さらに一人で当直を任されることがあるため、肉体的にも精神的にも負担がかかる可能性があります。 あわせて読みたい
日本病院会の調査の回答によると、1カ月あたりの当直回数が5回以上の施設の割合は、都市部では約6%であることに対し、地方では約22%という結果も出ています。当直明けも、そのまま勤務する体制を取っている施設もあるため、相当な体力が必要になるでしょう。
参考:日本病院会「平成27年 地域医療再生に関するアンケート調査 報告書」
2.学会などに参加しづらくなる
各種の医療系学会は、日本各地の主要な都市で開催されることが多くありますが、地域によっては学会のために遠方へ足を運ばなくてはならないことなどもあります。
移動時間がかかるため、業務に穴を空けないことを第一に考えると、学会への参加が難しいでしょう。
ただし、近年ではオンラインでの参加が可能な団体も増えています。講演もアーカイブ配信をしていることもあるため、地方と都市の格差はなくなりつつあるとも言えます。 あわせて読みたい
自分に合う働き方を見つけるなら医師専門転職の「メッドアイ」
キャリアに関する相談は医師専門の転職エージェントがおすすめです。
転職に悩んだ場合は、医師専門エージェントのメッドアイを活用してください。
メッドアイは、豊富なコンサルタントが医師の希望を細かくヒアリングして、おすすめの大規模な病院から、小規模のクリニックまで、さまざまな医療機関の求人情報を提供します。
メッドアイなら無料で専門家に電話相談できるため、働き方や待遇面などでストレスを感じている人は、お気軽にお問い合わせください。
無料相談や非公開求人もあり、少しでも転職を検討している人にはおすすめです。一人で不安な気持ちを抱えず、まずはお話することで方向性が決まることもありますよ。
思わぬ情報が得られたり、誰にも聞けない仕事の悩みが相談できたりメリットが必ずあります。情報収集だけしておきたい、という長期的なスパンで転職を検討している場合でも相談窓口をご活用ください。
まとめ(地方での医師不足の原因とは?)
地方は、生活の不便さや都市部と比較して集患面でのデメリットがあるため、医師不足が深刻化しています。
一方で、好待遇が見込めたり、一人ひとりの患者と向き合う時間がとれたりと、都市部にはない良い側面もあります。
国では、医師の地域偏在だけでなく診療科偏在を解消する取組みを進めており、上手に活用すれば理想のキャリアを形成できるだけでなく、多額の資金を必要とする医学部の費用を抑えることも可能です。
ただし、このようなプログラムを活用して取得できる専門医は人数が不足しがちな、救急科や産婦人科などが多いことは知っておきましょう。
メッドアイは医師転職を通じて、全国の医師が理想のキャリアを築くお手伝いをしています。在宅医療なども含めてさまざまな情報を提供できるため、興味がある人はぜひご登録ください。