終末期医療は患者の意思や価値観に基づいて行われるべきですが、実際にはさまざまな問題や課題があります。

  • 終末期医療について詳しく知りたい
  • 終末期医療の問題点や課題について知りたい
  • 終末期医療に求められる医師の役割を知りたい

このように思っている方に向けて、本記事では終末期医療の基本概念、問題点や支援内容、医師の役割などを解説します。
終末期医療について理解が深まるだけでなく、医師の立場から適切な医療を提供するための参考になるでしょう。
ぜひ最後までお読みください。

終末期医療とは

終末期医療はターミナルケアとも呼ばれ、重病や老衰などで余命が数カ月以内と判断された患者に対し、延命を目的とした治療を止め、身体的・精神的苦痛を除去し、生活の質(QOL)の維持・向上を目的とした医療アプローチのことです。

終末期医療は病院だけでなく、介護施設や自宅でも提供できるため、患者が望む場所で最期を迎えることが可能です。
患者自身が意思を主張できる場合は、その人が望む治療場所で終末期医療が行われます。
しかし、患者が自分の意思を表明できない状況では、
厚生労働省が策定した『人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン』が参照され、適切な医療が提供されるようになっています。

終末期の定義は全日本病院協会のガイドラインによれば、「複数の医師が客観的な情報を基に、治療により病気の回復が期待できないと判断した状態」を指します。
患者が意識や判断力を持っている場合、患者・家族・医師等の関係者全員が納得することが必要です。

類似したケアとの違い

終末期医療と似たような言葉に、看取りケア、緩和ケア、ホスピスケアがあります。それぞれのケアの違いについて、以下をご参考ください。

ケアの種類目的対象者
終末期医療延命治療を中止し、患者の苦しみを取り除き、人間らしく死を迎えることを目指す。疾患に対象はなく、余命が短い末期の患者。
看取りケア医療行為を伴わず、患者が日常生活を送るための支援が中心。死期が近い患者、医療的な介入は限定的。
緩和ケア患者や家族の肉体・精神的苦痛を和らげつつ、治療や支援を進める。疾患や進行度に関わらず治療中の患者にも適用され、医療行為が行われる。
ホスピスケア終末期がん患者に提供されるケアで、苦痛の緩和が主な目的。余命が短いがん患者。

終末期医療における5つの問題点

終末期医療にはさまざまな問題点があります。
以下では、主な5つの問題点について解説し、終末期医療の現状と課題を考えていきます。

1.意思の尊重や決定に関する問題

終末期医療は、本人の意思に基づいてケアの方針を決めます。
しかし病状が重くなると、本人が自分の意思を伝えることができなくなることもあります。その場合どのようにケアを行うかが問題です。
本人の意思が確認できない場合は、家族や関係者が患者の意図を推定し、医療・ケアチームと十分に話し合いながら最善の方針を決定する必要があります。

本人の意思を尊重するためには、日頃から終末期に関する話し合いが必要です。
エンディングノートやリビングウィルといった文書を患者に作成してもらい、事前に意思を確認しておくことをおすすめします。
エンディングノートは人生や最期に関する希望を自己記録する手段であり、リビングウィルは医療・ケアの選択に関する事前の意思表示を文書にまとめるものです。

2.医療倫理や認識に関する問題

患者や家族が終末期医療を選択する際、社会的な偏見や認識の問題が生じることがあります。
終末期医療は積極的な治療をせず、最期を苦痛なく迎えることを目的としますが、
周囲に「治療を諦めた」との認識を生むことがあり、患者や家族にとっての心理的負担となります。

そのため患者や家族は周囲の目や圧力を気にして、終末期医療の選択に躊躇することが少なくありません。

医療倫理や認識に関する問題を解決するためには、正しい知識や理解が大切です。
本人や家族、医療チームとの継続的な対話を通じて、終末期医療の目的や選択肢に対する理解を深め、偏見や誤解を払拭する努力が必要です。

また、治療方針の変更がいつでも可能であり、諦めずに選択を見直す余地があることを明確に伝えることも欠かせません。

3.コミュニケーション不足に関する問題

終末期医療の選択や方針は、本人・家族の希望や価値観と密接に関わるため、適切なコミュニケーションが不足すると、以下のような問題が生じる可能性があります。

  • 医師が本人や家族の希望を正確に把握できないため、適切な判断や提案が難しい。
  • 本人や家族が医師からの説明を十分に受けられないため、不安や疑問を抱く。
  • 本人や家族が自分たちの意思を伝える機会が不足し、孤立や苦痛を感じる。
  • 本人と家族の間で、治療やケアに対する意思や期待が食い違うため、対立や摩擦が起こる。

4.在宅療養環境に関する問題

終末期医療において自宅で看取りたいという患者や家族の希望は高まっています。
しかし、自宅での終末期医療には、主に2つの課題があります。

1つは、家族の介護負担です。自宅での終末期医療では家族が主たる介護者となりますが、家族の高齢化や核家族化、就労や遠隔地などの理由で、家族の協力が難しいケースもあります。
また家族は患者の症状や心理的変化に対応するだけでなく、自分の感情や生活の変化にも対処しなければなりません。介護ストレスは患者や家族のQOLを低下させる要因となります。

もう1つは、在宅療養の資源不足です。
自宅での終末期医療には、医師や看護師などの専門職の訪問診療や訪問看護、介護サービスや福祉用具などの支援が必要ですが、地域によってはサービスの提供が不十分だったり、利用者の負担が高かったりすることもあります。

5.ケアの質の向上の問題

終末期医療は患者の個々のニーズに対応した細やかなケアが必要とされます。
しかし、
少子高齢化が進む中で、医師や看護師などのスタッフが不足している現状があります。

人手不足により一人のスタッフが受け持つ患者数が増えると、患者一人ひとりに対するケアの時間が減少し、結果的にケアの質が低下してしまう恐れがあります。

終末期医療の主な支援内容

終末期医療には身体的なケア、精神的なケア、社会的なケアの3つの要素があります。
以下で詳しく解説します。

1.身体的ケア

身体的ケアとは患者の痛みや苦しみを和らげるために、主に医療従事者が行う処置です。
身体的ケアは患者の病状や希望に応じて、病院や介護施設、自宅などで行われます。
終末期になると病気の進行によって食欲がなくなったり、呼吸が困難になったり、褥瘡(床ずれ)ができたりすることがあります。

身体的ケアでは以下のような方法で患者の身体的な苦痛を軽減します。

  • 鎮痛剤や麻酔薬を使って痛みをコントロール
  • チューブや点滴を使って栄養や水分を補給
  • 清潔なシーツやクッションを使って褥瘡を予防
  • ベッド上での清拭で清潔を保つ

2.精神的ケア

精神的ケアとは患者や家族が抱える不安や恐怖、孤独や罪悪感などの心理的苦痛を軽減するためのケアです。
精神的ケアには以下のようなものが含まれます。

  • 死への恐怖や不安に対するコミュニケーション
  • 家族や友人との交流を通じた孤独感の軽減
  • 趣味や好みに合わせた時間や環境の提供
  • 病室の雰囲気づくりや音楽、思い出の品などを活用して心穏やかな気持ちを促す

3.社会的ケア

社会的ケアとは医療費や遺産相続などの経済的な問題や、家族のストレスや遺品整理などの生活的な問題に対する支援を行うことです。
社会的ケアは医療ソーシャルワーカーが中心となって行いますが、患者や家族とも協力して進めます。

具体的には以下のような支援を行います。

  • 患者や家族に「医療費軽減の制度」などを紹介して費用面の問題を解決
  • 「遺産相続」や「遺品整理」など経済的不安に対応し、安心して最期を迎えられるようにサポート
  • 家族のストレスや患者の経済的不安を軽減するために、ソーシャルワーカーと連携しながら相談や援助を行う

医師が終末期医療に関わるためには

以下では医師が終末期医療に関わるための手段を解説します。

終末期医療に携われる場所に転職をする

終末期医療に携われる場所として、緩和ケア病棟・療養病棟を有する病院、ホスピス、介護施設、在宅医療クリニックなどの医療機関が挙げられます。

終末期医療に関わる医師は職場によって求められるスキルが異なりますが、共通して重要視されるのはコミュニケーション能力と人柄です。
他職種との連携が欠かせず、患者や家族との親身なやり取りが求められるため、優れたコミュニケーションスキルが必要です。

転職を検討する医師は、終末期医療の専門性やホスピス・緩和ケアの理念に賛同し、患者の人間性を尊重できる意識が求められます。

在宅医療クリニックの開業をする

在宅医療クリニックとは自宅や介護施設などで終末期を迎える患者に対して、訪問診療や在宅緩和ケアを行う施設です。
終末期医療において、患者の多くは自分の住み慣れた場所で最期を迎えたいと希望します。
そのため
在宅医療クリニックは患者のニーズに応えられる医療サービスです。

在宅医療クリニックの開業には医師の専門性や経験、資金や人材、地域との連携など、さまざまな要素が必要になります。
開業に向けては在宅医療に関する知識や技術を身につけることはもちろん、経営や法律に関する知識も必要です。 
また在宅医療クリニックは看護師や介護士、ソーシャルワーカーなど、多職種のチームで構成されます。そのためチームワークやコミュニケーション能力も重要です。

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まとめ(終末期医療とは?)

今回は終末期医療の定義や、具体的な支援内容、医師として終末期医療に関わる方法などを解説しました。
終末期医療は、患者に対する延命治療の中止とともに、身体的・精神的な苦痛の緩和を図り、生活の質(QOL)向上を目指す医療アプローチです。
終末期医療における支援内容は、身体的ケア、精神的ケア、社会的ケアの3要素があり、患者や家族の個々のニーズに応じた提供が必要です。

医師が終末期医療に関わるためには、緩和ケア病棟や在宅医療クリニックでの勤務、あるいは自らのクリニックを開業するなどの方法があります。
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