「医師の退職手続きって、具体的にどんな流れで進めればいいのだろう」
「クリニック開業を考えているけど、退職の手続きはいつ頃から始めればいいだろうか」
「医師の退職理由の伝え方や、引き継ぎの仕方が分からない」

医師の退職手続きをスムーズに行うには、退職時期の決定から書類作成、引き継ぎまで、段階的に準備を進めることが重要です。

この記事では医師の退職手続きの具体的な流れや必要書類、円満な引き継ぎのポイントまで、実践的な情報をご紹介します。トラブルへの対応方法についても解説しますので、参考にしてください。

医師の退職は確実に準備を進めることが大切

医師の退職は患者の診療継続や病院の運営に大きな影響を与えます。退職を決意したら、計画的に準備を進め、円滑な引き継ぎを実現することがポイントです。

また医師の業界は意外と狭く、転職後も以前の同僚や上司と関わる機会が少なくありません。身勝手な振る舞いや強引な手法など、職場に迷惑がかかる辞め方をしてしまうと、転職後の職場環境にも影響を及ぼす可能性があります。

退職を決意してから退職までの流れを簡単にまとめると、以下のようになります。

  1. 退職の意思決定と理由の整理
  2. 直属の上司や医局への事前相談
  3. 正式な退職届の提出
  4. 後任医師への引き継ぎ準備・引き継ぎ
  5. 医療チームへの引き継ぎ
  6. 患者への説明と診療計画の調整
  7. 退職の挨拶と関係者への報告

ゆとりを持ったスケジュールを考え、計画的に進めることで、医療の質を維持しながら、円満な退職を実現することができます。

退職を申し入れるタイミングは所属で変わる

職場への退職意思の申し入れは、所属する組織によってタイミングが異なってきます。ここでは勤務先による退職申し入れのタイミングをご紹介します。

医局に所属している場合

医局に所属する医師の場合、1年〜半年前くらいの申し出が一般的です。

医局を通じた紹介先や派遣先で働いている場合は、職場よりも前に医局に退職の意思を伝える必要があります。最低でも6ヶ月前までには連絡するのが最適です。
大学病院や研修病院では後任の人事異動に時間を要するため、1年前からの打診が望ましいとされています。

いきなり退職願を出すのではなく、事前に退職する気持ちがあることを伝えましょう。

医局に所属していない場合

医局に所属していない医師の場合でも、ある程度ゆとりのあるスケジュールを考える必要があります。

労働基準法では2週間前の申し入れで退職が可能ですが、医療現場の特性を考慮すると、3〜6ヶ月程度前には申し出るのが望ましいです。

ただし勤務先の職務規定で退職の申し出について、独自の期間を定めていることがあります。特に年俸制で働いている場合はよく見られるケースですので、まずは勤め先の就業規則や契約内容を確認する必要があります。

常勤医としてクリニックに勤めている場合

クリニック勤務の医師も、基本的には病院勤務の医師と同様です。
ただし病院と違い、後任医師の確保に時間がかかったり、患者との関係が密接だったりといった要素があります。
一般的には半年前程度の申し入れが推奨されますが、できるだけそれよりも早めの打診を心がけるのが良いとされます。

退職に必要な手続きや手順を解説

医師の退職手続きは、患者の診療継続性を確保しながら、医療機関の運営にも配慮して進める必要があります。ここからは退職の流れについて解説します。

1.退職の意思を伝える

退職の意思表示のタイミングについては、勤め先の状況や種別によって変わってきますので、前段でご紹介したものを参考にしてください。
退職の意思は、まず直属の上司に口頭で伝えます。この際、退職理由を明確に説明できるようにしておきましょう。退職理由については、建設的で具体的なものにしてください。

伝え方としては、穏やかな口調や語り口を心がけることと、これまで働いてきた勤務先への感謝の気持ちを忘れずに臨むことが大切です。また、上司の時間を割いてもらうことになるので、面談時間の設定にも気を配るようにしましょう。
面談の場では、希望する退職時期やある程度の引き継ぎ計画、受け持ち患者の対応について、ざっくりとで良いのでビジョンを伝えるようにすると、より理解を得やすくなります。

2.退職日を決定する

退職日の決定は様々な要素を考慮しながら、病院側と協議して進める必要があります。医局に所属している場合は、後任者が来る時期が決まれば、それに合わせて決定される形になります。

退職日を決める際に考慮すべきポイントには、以下のようなものがあります。

  • 患者の診療計画:重症患者の治療進捗や、長期通院している患者のスケジュールなど
  • 病院運営への影響:後任人事や引き継ぎ相手の確保、シフト調整など
  • 引き継ぎに必要な期間:カルテ整理や治療進捗の共有、後任者との重複期間など

3.引継ぎを行う

引き継ぎは患者の安全と医療の質を確保するための重要なプロセスです。計画的かつ丁寧な引き継ぎをするために、事前に引き継ぎ項目やポイントを整理しておきましょう。

主な引き継ぎ項目

項目引き継ぎ事項
患者情報の整理– 診療記録の更新
– 治療計画の文書化
連携体制の説明– 他科との連携方法
– 医療機関との連携状況
– 紹介医との関係
業務関連の引き継ぎ– 委員会活動の担当業務
– 研究プロジェクトの進捗
– 院内での役割分担

4.退職の挨拶回り

周囲への退職の挨拶は、これまでの感謝を伝え、良好な人間関係を維持するために大切な機会です。
上司・同僚などの医師だけでなく、看護師や医療技術者といった周辺スタッフ、事務職員などにも挨拶回りを忘れずにしましょう。
また担当している患者にも、後任の紹介や今後の治療方針を含め、丁寧な説明が必要です。

退職する際に返却するものと受け取るもの

退職時には多くの書類や物品の授受が発生します。
ここからは医師が退職する際に、勤務先に返却するものと、退職時に受け取るものをまとめますので、参考にしてください。
漏れが出ないように、チェックリストを作成して管理することをおすすめします。

退職時に返却するもの

退職時には病院から貸与されたものは全て返却する必要があります。特に身近な診療道具の中には、貸与品と私物が混ざっている方も多いので、注意が必要です。

返却が必要なもの(一例)

  • IDカードや職員証、名刺
  • 健康保険被保険者証
  • 施設・ロッカーの鍵やセキュリティカード
  • 貸与されたPCや医療機器、道具類
  • 白衣や術衣などの仕事着・制服類
  • 業務で使用した書類や資料、備品類

返却が必要なものをチェックする際は、総務や人事担当者に、抜け漏れがないかを確認してもらいましょう。

退職時に受け取るもの

一方で、退職時には受け取る書類もあります。退職後の手続きに必要となるため、こちらも漏れがないようチェックが必要です。
特に
保険や年金に関する書類は、手続き期限があるため、期限内に受け取る必要があります。

必ず受け取る書類

  • 源泉徴収票
  • 離職票(転職先が決まっている場合は不要)
  • 年金手帳
  • 雇用保険被保険者証

これらの書類は後日郵送や、別途受け取りのケースも多いので、受け取りがどのような形でいつになるかを、事前に確認しておくのがおすすめです。
上記以外にも、推薦状や在籍証明書などが必要な場合は、早めに発行を依頼してください。
受け取り後は、記載に間違いがないかをすぐに確認し、万一記載事項に相違がある場合は、早急に勤務先に確認してください。

退職時に考えられるトラブル

退職を申し出たらトラブルが発生した、という話はよく聞かれます。医療現場の人員確保の難しさから、引き留めにあうこともあるでしょう。
事前にこうしたケースへの対応策を考えておくことで、スムーズな退職が可能になります。

引き止められる

医師不足の現状から、退職の申し出に対して引き止めをされることがあります。
引き止めに遭遇した場合は、まず冷静になることが重要です。
退職理由を明確に説明し、相手の立場も考慮した建設的な対話を心がけましょう。
感情的にならず、誠実な態度を保つことが大切です。

辞めさせてもらえない

退職は労働者の権利として法律で保障されていますが、医療現場特有の事情により、退職意向が認められないケースもあります。
労働基準法では、2週間前に申し出れば退職できることが定められています。
しかし、医療現場では患者の診療継続性を考慮する必要があるため、より長い引き継ぎ期間を設定することが一般的です。
退職する側もこの点を考慮し、直前の申し出や強引な退職はできるだけ避けるのが望ましいのは言うまでもありません。

そうした点に配慮してもなお退職が認められない場合は、まず書面での正式な退職届の提出が重要です。
内容証明郵便を利用することで、退職の意思を明確に示すことができます。
状況が改善しない場合は、労働基準監督署への相談や、必要に応じて専門家のアドバイスを求めることも検討しましょう。

嫌がらせ

退職を申し出た後に、不当な扱いや嫌がらせを受けることは、残念ながら医療現場でも起こり得ます。

対応としてまず重要なのは、発生した出来事の詳細な記録です。
日時、場所、内容、関係者などを具体的に記録し、可能であれば証拠となる書類やメールのコピーも保管しておきましょう。
また、信頼できる同僚や上司に状況を相談することで、第三者の証言を得られる可能性もあります。

嫌がらせが継続する場合は、医師会や労働組合、産業医などの相談窓口を活用することをおすすめします。
深刻な場合は、弁護士に相談し、法的な対応を検討することも必要です。
ただし、
できる限り対話による解決を目指し、退職後のキャリアにも影響を与えないよう、慎重に対応することが望ましいでしょう。

円満退職のポイント

医師が円満な退職を実現するためには、計画的な準備と適切なコミュニケーションが不可欠です。ここからは、円満な退職の進め方について解説します。

退職は計画的に進める

退職の意思が固まったら、最初に具体的な計画を立てます。医療現場では、一般企業以上に慎重な引き継ぎと準備が必要となります。
また医局に所属している場合は、医局人事の時期も考慮することが望ましいです。

例えば長期的な治療計画がある患者がいる場合、治療の節目に合わせて退職時期を設定することが望ましいでしょう。
季節性の疾患が多い診療科では、繁忙期を避けた退職時期の選択も重要です。

退職の計画作りは、患者の診療記録の整理から始めます。継続中の治療内容、今後の治療計画、注意点などを整理することで、後任の医師が円滑に診療を引き継ぎやすくなります。

ネガティブな退職理由は伝えない

退職理由の伝え方は、その後のキャリアや人間関係に大きな影響を与えます。特に医療業界は狭い世界であり、評判が広まりやすい特徴があります。
退職理由は常にポジティブで建設的な表現を心がけることが重要です。

人間関係の不和や待遇への不満といったネガティブな理由がある場合でも、「キャリアアップのため」「専門性を高めるため」など、前向きな表現に置き換えてください。
また、これまでの経験に対する感謝の気持ちを示すことも、円満な退職につながります。

まずは直属の上司に相談

退職の意思を最初に伝えるのは、直属の上司が適切です。普段一緒に働いている同僚の方が相談しやすく感じられますが、軽々しく同僚に相談してしまうと、そこから噂が広まりやすい点は大きなリスクです。
噂が上司の耳に入ってしまえば、上司の心情も良くないものになってしまいます。

上司へ相談する際は、突然の報告は避け、事前に面談の時間を設定することをおすすめします。
面談では、まず現在の業務状況や担当患者の状態を報告し、その上で退職の意向を伝えます。
この際、具体的な退職希望時期と、その時期を選んだ理由も併せて説明します。

また引き継ぎについての考えも示し、例えば医療の質を維持するための提案を行うことなども、建設的な話し合いにつながります。

退職に悩んだら医師専門の転職エージェントがおすすめ

医師の転職は、一般的な転職市場とは異なり、専門性の高さ、医局との関係、患者への影響など、考慮すべき要素が多岐にわたります。
転職や退職で悩んだ時は、医師専門の転職エージェントを活用するのがおすすめです。

医師専門転職エージェントのメッドアイでは、医療業界特有の事情に精通している強みを活かしたサポートが可能です。退職時期の設定から、引き継ぎの進め方、さらには次の就職先の選定まで、包括的な視点でアドバイスを提供しています。
また、退職時の様々な不安や悩みの相談相手としても心強く、具体的な事例を基にしたアドバイスが可能です。

無料相談を通じ、キャリアプランの相談から始めることで、医師としてのキャリア形成全般をサポートするパートナーとして活用してください。
長期的なキャリアプランを考える上でも、メッドアイのアドバイスは参考になるでしょう。

まとめ(医師の退職手続き)

医師の退職は、患者の診療継続や医療機関の運営に大きな影響を与えるため、計画的に進めることが重要です。退職を決意したら、まずは直属の上司に相談し、適切な時期に正式な手続きを進めましょう。

また、スムーズな引き継ぎを行い、患者や同僚に配慮した対応を心がけることで、円満な退職につながります。特に、退職理由はポジティブな表現を用い、これまでの職場への感謝を伝えることが大切です。

退職に際してトラブルが発生することもありますが、冷静かつ適切に対応し、必要に応じて専門家に相談することも検討しましょう。
円満な退職を実現し、次のキャリアに向けて前向きに進んでいくためにも、早めの準備と慎重な対応を心がけましょう。