医局とは、大学病院を中心とした医師の「任意組織」で、専門医取得や学位取得のために多くの医師が一度は所属します。
しかし、近年では医局に所属しない医師も増えており、「医局に入るべきか迷っている」という声もよく聞かれます。

この記事では、医局の仕組みや役割に加えて、医局に入る3つのメリットとデメリットをわかりやすく解説します。
キャリア設計の参考として、医局以外の選択肢や判断ポイントについても紹介します。


医局とは?

医局とは、大学の研究室や診療科ごとの教授を中心とした任意団体です。
主に医学部の教授や大学附属病院の診療科が中核となり、そこに所属する教員や医師、学生、研修医などで構成されています。

大学の場合は、講座と医局がほぼ同一であるケースも多いのが特徴です。
進学した大学で所属した講座がそのまま研修先になり、講座(医局)に引き続き所属するというパターンもよく見られます。
多くの医局では、その長となる教授が人事権を持っていることが多く、大学内や附属病院、関連病院などの人員の差配を行っています。
医局に所属する医師は、時には望まない人事による移動や転勤があるというのはよく聞く話ではないでしょうか。

医局では、教授や准教授などの教員職が若手の研修を受け持ち、学位取得のサポートなどを行います。
一方、医員と呼ばれる一般医師や研修医は、教授の研究や学会出席の手伝いなどを行うこともあります。

医局に入局するタイミングはいつ?

医師や研修医が医局に入るタイミングは、専門医研修の開始時が最も多いと言えるでしょう。
専門医研修プログラムを受けられる施設の多くは、大学病院や関連病院であることがその背景です。

診療科によっては、医局を経由せずに専門医資格を取得することも可能ですが、地域状況などで選択肢が少ないケースもあります。
また、転科をする医師がキャリアの途中で医局に入るというパターンもあります。

もう一つよくあるタイミングが、UターンやIターンをする時です。
この場合、移転先での人脈作りや、設備の充実度などから選択するという理由が多いです。

医局に入局する人はどのくらいの割合?

入局予定アンケートの結果円グラフ厚生労働省「令和2年度臨床研修修了者アンケート調査結果」を参考に作成

厚生労働省が行ったアンケート
によると、臨床研修終了後に医局に入局するという医師は76.9%に上りました。
全体の8割近くが医局入局を選択していることから、ほとんどの医師が一度は医局に所属していることがわかります。
どの医局に所属するかについての問いには、卒業した大学の医局に残るという回答が最も多くなっています。

医局に入局する3つのメリット

臨床研修を修了した医師の8割近くが医局に所属するのは、当然ながらメリットがあるからです。
医局に入る主なメリットは以下の3つです。

  • 学位や資格の取得
  • 経験の幅が広がる
  • 人脈が広がる

それぞれを詳しくご紹介します。

①学位や資格が取得できる

メリットというより目的に近いですが、医局に入ることで、学位(医学博士号)を取得することができます。
学位の授与は教授にしかできないため、医学博士を目指す場合は医局への入局が必須となります。

また、専門医を取得するための研修プログラムを持つ基幹病院の多くは大学病院です。
地域中核病院でも専門医研修プログラムを実施している場合がありますが、プログラムの構成や定員は毎年見直されます(施設認定・指導医数・症例数などに基づく)。

また、条件が整わなければ研修プログラムが廃止される可能性もあるため、「プログラムがある=毎年確実に研修を受けられる」とは限りません。
そのため、専門医研修を安定して受けたい医師の多くは、制度が確立されている大学病院の医局を選ぶ傾向にあります。

②経験を積める

医局では、基礎研究や留学といった経験を積むための環境が整っていることもメリットです。
最新設備が整う環境で、希少な症例を経験できるチャンスも、民間病院と比べると多くあります。

中小病院では得られない経験を幅広く積むことができる環境は魅力的と言えるでしょう。
また、海外での活躍を視野に入れたり、より高度な研究を目指したりする場合、留学という選択肢があります。

留学の際に大学や医局のサポートが受けられる点は心強く、メリットであると言えます。

③人脈が広がる

医局に所属していることで、学会出席や、教授のサポートなどで人的交流が広がります。
そもそも医局は大勢の医師や教授がいる環境で、人脈の作りやすさは文句なしの環境です。

さらに他の大学や医局とのネットワークなども活用することで、将来のキャリアに役立つ人脈形成がしやすくなっています。
人脈が広がれば、最新情報なども得やすくなるほか、医師としての知見を積むことにもつながります。
医療業界は広いようで狭いと言われていますが、それでも中小病院では得られない人脈を得られることが大きなメリットと言えるでしょう。医師転職お役立ちnavi 公式 Instagram 医師キャリアに関する有益な情報を発信中!

医局に入局する3つのデメリット

医局に所属するデメリットについても見てみましょう。
得られるものも多い医局ですが、きつい部分も多いと言えます。
主なデメリットは以下の3点です。

  • 医局人事の不満
  • 過重労働への不満
  • 給与や待遇への不満

1つずつ詳しく解説します。

①医局人事による異動がある

医局を辞める人の理由でよく聞かれるのが、いわゆる「医局人事」への不満です。
医局では教授に人事権があり、教授は大学内や関連病院の状況を見ながら人事を差配します。

また、連携する地方病院からの要請にも応えなくてはなりません。
このため、医師の希望に関わらず最善と思われる人事を行います。
結果として、医師の側では望まない移動や地方への転勤を強いられるケースがあるのです。

また医局人事では、数年程度での異動や、短いと1年足らずで転勤ということもあります。
落ち着いて医療に向き合いづらい状況に置かれてしまうことで、先が見えないと考える人も多く、そうした不満から医局を辞めて転職する医師は増えているのです。

②仕事がきつい

大学病院は勤務がきついというデメリットもあります。
通常の診療業務以外にも、研究や論文執筆などに時間を割かなくてはなりません。
さらに教授の手伝いや学会などの負担もあり、長時間労働が当たり前の世界です。

当直の負担も多く、心身ともに疲れが溜まってしまい、限界を感じる医師も少なくないようです。
教授の手伝いなどは労働時間とカウントされない場合もあり、休日を削って対応しているという声も聞かれます。

③給与・待遇がよくない

医局に所属する最大のデメリットとも言えるのが、給与や待遇の悪さです。
「医師は高収入」とよく言われますが、大学病院で働いている医師の場合、その給与は一般企業のサラリーマンと変わらないケースもあります。

民間病院や開業医と比べると、仕事内容は同じでも給料が安く、労働量に見合わない待遇に耐えなくてはなりません。
若い研修医のうちはまだ耐えられても、結婚して子供ができてとライフステージが変わってくると「収入が足りない」という事態に直面します。

収入を担保するために本業とは別にアルバイトをする医師もいて、そうなるとさらにハードワークとなり体力がもたない人も少なくないのです。

入局しない医師が増えている

医局をめぐるさまざまな状況をご紹介してきました。昨今では少しずつですが、医局入局を選ばない医師も増え始めています。
診療科や地域の組み合わせによって、一部の専門医資格は医局を経由せず取得できるようになったことが理由の1つです。

医局に入るべきか迷ったら、医師としてのキャリアで自分が希望することの優先順位を考えてみることをおすすめします。
キャリアプランの中で重視したいことや実現したいこと、譲れないことを洗い出してみると整理がしやすくなります。

例えば、以下のように箇条書きにしてみてもいいでしょう。

  • やりがいをもって働きたい
  • 好条件の給与や待遇が欲しい
  • 広く人脈形成がしたい
  • ワークライフバランスを重視したい

こうしたさまざまな条件を全て叶えるのは難しいですが、優先順位をはっきりさせることで、進むべき道を定めやすくなります。

優先順位が決まったら、それを叶えるためにどのような環境に身を置くべきなのかを考えます。
その結果として、医局に入るかどうかを判断するのがいいでしょう。

医局に入る以外の選択肢があるのか、また、譲れない条件を達成するために医局を経由しない方法があるのかを調べてから検討すれば、判断しやすくなります。
例えば研究活動を続けたいという場合は、民間企業でもできる可能性があります。
開業医を目指すのであれば、開業医の下に就職することで、診療の経験だけでなく経営の知見も学ぶことができるでしょう。
人脈形成も、民間の総合病院などでも十分構築が可能です。

キャリアプランを考える時、どのような選択肢があるのかを知るためには、転職エージェント「メッドアイ」に相談してみるのもおすすめです。
相談だけなら無料で可能ですし、さまざまな医師の悩みに向き合ってきた実績があり、医師一人ひとりに寄り添ったアドバイスを受けることができます。

医局に入るべきか迷ったときの判断基準

医局に入るべきかどうかは、医師としてのキャリア設計において非常に重要な分岐点です。しかし、「なんとなく皆が入っているから」「辞めづらそうだから」といった曖昧な理由で判断すると、後に大きな後悔を招く可能性もあります。

ここでは、医局への入局を検討する際に確認すべき判断基準を紹介します。

① 明確なキャリア目標があるか

医局に入る最大の意義は、「専門医取得」や「学位取得」「将来の大学人事におけるポジション獲得」といった、明確なキャリアビジョンがある場合です。
以下のような目標があるなら、医局は強力なキャリア基盤となるでしょう。

  • 医学博士号を取得したい
  • 教授・准教授など大学内のポジションを目指したい
  • 海外留学・研究に取り組みたい
  • 希少疾患や高度症例に多く関わりたい

こうした目標がない場合、医局に入ることが目的化してしまい、結果として過重労働や人事異動に耐える理由を見失うケースも少なくありません。

② ライフスタイルとの両立が可能か

医局は人事異動や転勤が付き物で、家族がいる場合は大きな負担になります。特に、結婚や出産・育児のタイミングと重なると、移動に伴う生活基盤の変化が大きなストレスになることもあります。

以下のような希望がある場合は、慎重に検討が必要です。

  • 特定の地域で腰を据えて働きたい
  • 家族との生活を優先したい
  • 転勤が多い働き方に不安がある

③ 自分に合った学びの場かどうか

医局で得られる学びは非常に多岐にわたりますが、その学び方が自分に合っているかは見極めが必要です。縦社会や暗黙のルール、教授の方針への同調などが求められるため、ある程度の組織適応力が必要とされます。

  • 指導医との関係性はどうか
  • 研究と臨床のバランスは自分に合っているか
  • 自主性が尊重される環境か

こうした観点から、自分にとって最適な成長環境かを見極めましょう。

④ 医局に入らない場合の選択肢を把握しているか

医局に入らなくても専門医を取得したり、研究を続けたりする道は年々広がっています。たとえば以下のような代替手段があります。

  • 民間病院での専門研修プログラム
  • 大学に所属せず研究や留学支援を受ける
  • 医師専門の転職エージェントから人脈やスキルアップの場を紹介してもらう

医局を選ばないからといって不利になるとは限らないため、選択肢を並列で比較する視点が重要です。

⑤ 期間限定の選択として捉えられるか

医局に一度入ると辞めにくいという印象を持つ方もいますが、実際には**「数年間だけ在籍し、その後に転職や開業に進む」**という医師も増えています。
医局での経験を“通過点”と割り切って活用する視点を持つことで、デメリットも受け入れやすくなります。

  • 学位や専門医取得まで、と期間を決めて入局する
  • 明確なゴールが見えた時点で退局するプランを持つ

まとめ(医局のメリットとデメリット)

多くの医師が一度は関わることが多い医局について解説しました。
医局には学位取得や専門医取得といった目的を持った方が入局すると、メリットは大きいものです。

しかし、過重労働や薄給といったデメリットもあり、教授職を目指すなどの明確な目的がないと続けるのはきついと感じる人も多いでしょう。
医師としてどんなキャリアを歩んでいきたいのかを考え、医局に入るか入らないかを考えることをおすすめします。

また、医局に入るとしても、ずっと医局に居続けるのか、目標を達成した時点で転職するのかも含め、最初にある程度プランを練っておくといいでしょう。
マイルストーンが決まっていれば、医局のデメリットも期間限定として受け入れられるからです。

キャリアプランの検討や、医局を辞める際のポイントについては、こちらの記事も参考にしてください。