医師が不足している、医療業界が人手不足であるという言い方は、かなり以前からされていました。
解消に向けた動きはあるものの、医師不足が解消されたという話はあまり聞きません。
その一方で、将来的には医師が余るという話を聞いたことがあるという人も少なくないでしょう。
「医師不足という話はよく聞くが、本当のところどうなのか知りたい」
「医師不足は嘘なのか、それとも地域などによるのかを知りたい」
「反対に医師過剰になるという話もあり、医師の仕事の将来性について知りたい」
この記事では医師不足が起こる要因や将来の見通しなどを踏まえながら、医師不足と言われている状態が嘘か本当なのかについて解説します。
また、将来的に医師が過剰な状態になるのかという点についても触れていきますので参考にしてください。
医師不足と言われる主な3つの原因
まず、医師不足と言われる要因についてご紹介します。
さまざまな背景が複雑に絡み合っているため、主な3つのポイントに絞って詳しくみていくことにしましょう。
1.制度の変化により医局員が減少している
2004年から導入された新臨床研修制度により、大学病院の医局に所属する研修医が減少傾向を見せています。
それに伴い従来大学病院が行っていた、関連病院等への医師派遣数も減少しているのです。
いわゆる医局人事は、望まない転勤を強いられるケースもあり、医師にとっては負担に感じる人もいます。
しかし、医師不足に悩む医療機関に医師を派遣することで、医師数の偏りを調整できていました。
この状況を解消するため、地方自治体は医師確保計画として、民間病院にも医師派遣を推奨し、インセンティブを出すなどの対策をしています。 あわせて読みたい
また、研修やキャリアアップを自治体が指定する医療機関で行ってもらうことで医師偏在を解消する取り組みも行われているのです。
2.医師の労働環境が悪化している
すでに医師不足に陥ってしまっている医療機関では、どうしても医師一人当たりの業務量が多くなりがちです。
当直回数が多くなったり、オンコール待機など長時間の勤務を強いられる現場も少なくありません。
さらに、医師が足りないことで、一部の診療科を休業したり、診療時間を短縮せざるを得ない状況の病院もあり、経営自体が難しくなっているというケースも聞かれます。
医療機関の経営状態が安定しないと、医師の給与が下がってしまったり、残業代がカットされたりといった待遇面でも影響が出てきてしまうでしょう。
こうした労働環境の悪化が続くと、医師が心身ともにしんどくなってしまい、別の病院に転職してしまうなどの流出につながります。 あわせて読みたい
一度人手不足に陥ってしまうと、悪循環に陥るリスクがグッと高くなってしまうのです。
3.高齢化などに伴い医療ニーズが増加している
社会全体の急速な高齢化も、医師にとっては負担を増やす要素の1つです。
高齢者は一般的に医療が必要になるケースが多くなるため、高齢化が進むだけで単純に患者数は増大します。
また、昨今では感染症の流行や、夏場の気温上昇に伴う熱中症など、救急搬送の件数も増加傾向にあるのです。
さらに、新しい治療法や新薬などが日進月歩で発表されるため、そうした最新技術への対応も必要になってきます。 あわせて読みたい
治療法が進化すると、今まで治療ができなかった分野も治療できるようになり、より深い診療ができるようになりますが、その分医師の負担は増えていきます。
このように、医師に求められるニーズが増加していくことで、今まで少人数で回せていた現場であっても、人手不足を感じるケースが増えてしまっているのです。
将来的には医師過剰になる?
医師不足が叫ばれる一方で、将来的には医師過剰になるという見解もよく聞かれます。
これは、医学部定員数の推移と、将来的な人口推移から言われているものです。
医学部定員数は、1997年に一旦削減されたものの、その後は2006年から2023年まで増員が続いています。(参照:文部科学省「令和5年度医学部入学定員増について」)
結果として、医師数は全国で毎年3,500〜4,000人程度増加するという推移を辿っています。
しかし、日本の総人口は減少に転じていていることも事実です。
今は高齢化による医療ニーズの増大などで医師不足が言われていますが、若年層人口の減少により、将来的には医療ニーズも下がると予測されています。
結果として、「将来的には医師過剰の状態になる」という見方がされているのです。
大都市圏のみ医師過剰になると考える医師は7割
医師過剰の懸念については、地域や診療科によって医師数に偏りがある「医師偏在」の状況も影響します。
経営が安定していたり、設備が整っていたりする病院は、大都市圏に多くなりがちです。
そして、医学部を卒業した若手が研鑽していく場も、こうした都市部の病院に集中してしまいます。
また、長時間労働や責任の重さなどから、外科や産婦人科など新たな医師が増えにくい診療科があるのも実情です。
メドピア株式会社が行ったアンケートでも、回答者の7割が「大都市圏のみ医師過剰になる」という予測を回答しています。
さらに団塊の世代が寿命を迎える目安である2035年ごろを境に、全国的にも医師過剰になるだろうと回答した医師も合わせると83%に上り、ある程度医師過剰が避けられないと考える医師が多くいることがわかります。
見方を変えれば、地域性による医師偏在を解消しなければ大都市圏で医師が余り、医師偏在を解消すると全国的に余り気味になるということもできるでしょう。
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患者数に対する医師数の現状
ここまでは医師不足の要因や状況を医療現場サイドから見てきました。
ここで視点を変えて、患者数に対する医師数を見たときに、医師が不足しているのかどうかを見ていきましょう。
厚生労働省の調査(医師・歯科医師・薬剤師統計)では、日本の医師数は、全国平均で人口10万人あたり256.6人となっています。
前述した地域による医師偏在もこの数値からうかがうことができ、医師数が多いのは徳島県の338.4人や京都府の332.6人、高知県の332人といった都道府県が挙げられます。
逆に医師数が少ない都道府県としては、埼玉県が177.8人、茨城県が193.8人など、関東近県が多く見られる傾向です。
大都市圏には医師数が集中しがちだとご紹介していますが、これらの関東近県は、東京都へ通勤できるエリアです。
また、同じ都道府県内でも利便性の良い場所や大学病院がある市町村などは高めになり、そうでない市町村は低めになるなどのばらつきも見られます。
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世界で比較しても日本の医師数は少ない
続いて日本の医師数と海外の医師数を比較してみましょう。
日医総研が行った2017年に行ったリサーチでは、日本の人口1,000人あたりの医師数が2.4人となっています。
(ちなみに前述した厚生労働省の2021年の数値から算出しても、2.5人とほぼ横ばいです。)
これに対し、海外で多い国ではエジプトが6.1人やオーストリアが5.2人など、日本の倍以上の医師数がいるという結果でした。
この統計は、国によって開業医のみをカウントしていたり、医師免許保有者をカウントしていたりと若干ばらつきはあります。
しかし、OECD(経済協力開発機構)18カ国の平均では人口1,000人あたり医師3.5人となっていて、諸外国と比較しても低めであることがわかりました。
医師不足は嘘とも本当とも言い切れない
医師不足や医師余りにまつわる状況を見てきましたが、医師不足は本当に起こっているのでしょうか。
結論を言えば、本当に起こっていると言い切れるわけではありませんし、医師不足は嘘だとも言い切れません。
「医師不足は起こるところでは起こっている」という言い方が最もしっくりくるのではないでしょうか。
医師不足と医師過剰は、どうしても偏りがあるからです。
ここからは、医師不足についてと医師過剰について、それぞれの現状を改めてまとめて解説します。
現状としては医師不足である
ここまで述べてきた通り、医師不足については以下の2点を踏まえて認識すべきです。
- 世界的に見ると医師数が少ない
- 医師不足には地域や診療科によって偏りがある
傾向として大都市圏などの医療機関では医師数は比較的足りている状況です。
また、ワークライフバランスを保って働けるような診療科であれば、医師不足とは無縁の職場もあります。
それに対して人口の少ない地域や大都市圏の周辺の通勤エリアなどでは医師不足が起こっているというのが現状です。
こうした医師偏在をすべて解消できたとしても、現状では人口1,000人あたりの医師数が諸外国と比べるとかなり少ない状態でもあります。
結論として、現状では医師は不足していると考えたほうが自然です。
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将来的には地域により医師過剰になる可能性がある
医師過剰の懸念については、現状で医師不足が起こっていないところほど、将来的に医師過剰になる恐れは高い確率で起こりうる、という結論になりそうです。
ただし、すでに日本の人口は減少傾向に入っていて、この先さらに現象が進むことが推測されています。
医師不足の状態を受けて、現状では医学部定員の増員を行っていますが、これはあくまで目先の医療ニーズのピークに備えての対策です。
先々人口そのものが減っていけば、当然ながら医師余りの状況は起こり得る可能性があります。
さらに、医療現場のIT化やAI導入など、現場の医師の負担を緩和するための取り組みも進んでいることから、それが当たり前になる頃には、医師過剰が進むリスクはあると考えていたほうが賢明です。 あわせて読みたい
【結論】医師の需要はなくならない
医師不足や医師過剰の問題は、現時点の状況だけを論じても意味がありません。
また、何年後にはこうなるだろうという予測値だけで判断する問題でもないと言えます。
なぜなら、医師という職業そのものは、人々が健康に暮らしていくためになくてはならない職業だからです。
ニーズは減ったとしても、絶対になくならないのが医師という仕事なのです。
医師は、国家試験を取得してから一人前になるまでの間に、長い研修期間を必要とします。
その間に世情がどのように変わっていても、需要は必ずあるので、何かしら自分にベストな働き方を選び取っていくことができる職業だと言えるでしょう。
現状の働き方に不安や不満があるなら転職も視野に
ここまでご紹介してきました通り、医師不足にも医師過剰のリスクにも、働く環境によって偏りが起こってきます。
今現在働いている職場がこのリスクに当てはまりそうだと感じているのであれば、タイミングを見計らって転職することも視野に入れておくと、キャリア形成でブレる恐れを軽減できるでしょう。
しかし、闇雲に人員が十分いる職場に行けば良いかというとそうでもありません。
医師としてどのようなキャリアを積んで行きたいのかを、時々振り返る習慣をつけておくことをおすすめします。 あわせて読みたい
今の働き方が、目指すゴールに合っていないと感じたら、転職を検討することも、キャリアパスを描くために必要な選択肢です。
医師専門の転職エージェントなら「メッドアイ」
医師という職業は、転職が珍しくない職業と言ってもいいでしょう。
最初から理想の職場に出会えれば、研修からキャリアを積んで昇進までずっと同じ職場で働くこともできますが、そんな医師はほとんどいないのではないでしょうか。
1つの職場で目指す経験やスキルを積み、次のステージへ進んでいく姿こそが、医師のキャリア構築の基本スタイルと言えます。
そして、自分に合った職場を見つけるためには、転職活動で多くの情報を収集して判断しなくてはなりません。
医師はハードワークでもあるため、現職の傍らで自分一人で転職活動を進めるのは、かなりハードルが高いことです。
転職で失敗しないためには、転職エージェントを利用してみてはいかがでしょうか。
メッドアイでは医師専門の転職エージェントとして、求人情報だけではわからないその病院の人間関係や設備面などの情報を豊富に揃えています。
さらに転職エージェントならではの、医師一人ひとりの悩みに寄り添いながら最適なマッチングを考えるノウハウを持っています。
今の職場で将来を考えるのが不安だと思ったり、そもそもキャリアプランに疑問を感じたなど、働き方に疑問を覚えてしまったりしたら、まずは気軽に相談してみることをお勧めします。
まとめ( 医師不足と言われる原因や将来性について)
現状の医師不足も、将来の医師過剰も、どちらもある程度高い確率で起こりうるリスクだと言えます。
医師にとっては、必ずしもすべての医療機関にそのリスクがあるわけではないものの、可能性はあるという前提で、キャリア構築をしていくことが重要です。
そんな中で、長く安定して働ける職場を求めたり、より一層の研鑽を求めたりと、一人ひとり理想の職場に求める条件は変わってくるでしょう。
キャリアプラン作成では、最終的に目指すゴールの姿を想定しておくことが理想です。
そしてゴールを目指すために、今必要なことは何かを考える時期を定期的に設けておくことをおすすめします。
今の環境でキャリア形成を続けることが難しいと感じたら、転職を考えるのも1つの方法です。
医師不足や医師過剰リスクといった世情を鑑みながら転職先を決めるためには、情報収集が鍵となります。
転職で失敗しないためには、転職エージェントにキャリアプランを共有しながら相談することがおすすめです。
最終的に転職しないという道を選ぶことになるとしても、まずは気軽に現状の悩みから相談してみてはいかがでしょうか。
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