2018年4月に始まった「新専門医制度」は、2023年現在で導入からまもなく5年目に入ろうとしています。
医師と患者の双方にとってメリットの多い制度ですが、さまざまな課題や問題点もあります。

「新専門医制度で指摘されている問題点とは?」
「新専門医制度で影響を受けている診療科は?」
「新専門医制度をめぐる今後の動きは?」

今回は、このような疑問をお持ちの方に向けて、プロの転職エージェントが「新専門医制度」の持つ課題や問題点、今後の動向などについて詳しく解説していきます。
本記事を読むことによって制度の本質をより深く理解し、ご自身の医師としてのキャリア形成の指標としてご活用頂ければと思います。

医師に役立つ転職情報もご紹介しますので、より良い職場環境を探しているという方はぜひ参考にしてみてください。

新専門医制度の概要

「新専門医制度」とは、国民に対して幅広く良質な医療を提供するとともに、これから育成される医師のキャリア形成支援にも重点を置くために2018年4月に導入された制度になります。

これらは共通で標準化された研修により、第三者評価による信頼性の担保を実現しています。
現在、医師国家試験に合格した後、2年間の臨床研修を終えた多くの医師が、より高度な資格となる「専門医」の取得を目標として活動しています。


大まかな流れとして初期臨床研修が終了した医師は、内科・外科といった19領域の「基本領域」の中から自身が目指す診療科を決定し、3年間の「専門研修プログラム」を受け専門医資格を取得します。
専門研修では複雑化した医療ニーズに対応するために、さまざまな地域・医療機関で診療に従事して、技術習得のための経験を積んでいきます。
このような研修体制を取ることによって、地域や病院の規模によって異なるタイプの疾患を柔軟に診療できるようになります。

なお、上記のプログラム以外にも休職や離職を選択する医師が研修期間の延長や研修施設選択ができるようにカリキュラム制(単位制)を選択することも可能となっています。

研修終了後の認定試験に合格することができれば、晴れて専門医としての肩書きを得ることができます。
その後、資格の更新には別途審査基準が設けられており、原則5年ごとの更新となります。

専門医認定された医師は次なるステップアップのため、その分野に関連する23領域の「サブスペシャルティ領域」の専門医資格の取得を目的とし、当面の活動をしていくこととなります。

専門医の取得にかかる年数や条件の詳細は、以下の通りです。
日本専門医機構における新専門医制度スケジュール

(年度)2014201520162017201820192020
研修 プログラムモデル 研修プログ ラム 作成・承認基幹研修 施設研修 プログラ ム作成専攻医に 研修プログ ラム提示日本専門医機構:研修プログラム に従って研修
専攻医 初期臨床研修日本専門医機構:専攻医を登録
専門医 認定      プログラム 修了専攻 医が申請
専門医 更新各領域医で 更新基準 の作成日本専門医機構:新基準での専門医更新審査新 専門医
上記を満たさない申請者は学会の更新審査で承認され 更新時に日本専門医機構の認定を得ることを目指す
指導医 新制度指導医または 暫定的な指導医 ※2024年まで

行政資料:基本領域専門研修プログラム

施機関:https://jmsb.or.jp/
参考:https://www.doctor-vision.com/column/2020/08/new-senmon.php


新専門医制度・5つの課題や問題点

そんな厳格な審査基準を持つ新専門医制度ですが、5年間の運用によってさまざまな問題点も見えてきました。
続いては、本記事の本題である新専門医制度の持つ5つの課題や問題点について解説していきます。

  1. 循環型研修で都市部に集中
  2. 女性医師のキャリア形成の課題
  3. 研修のための頻繁な施設移動
  4. 診療科によって異なる年数や難易度
  5. 懸念される内科医の不足

今回は、制度の持つ改善点を多角的な視点から分析してみました。
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。

1.循環型研修で都市部に集中

1つ目の問題点として、循環型研修によって医師が都市部に集中してしまうことが挙げられます。
専門医資格を取得するための研修プログラムでは、連携病院と基幹病院の間を往来(ローテーション)しながら研修を行います。
しかし、拠点となる基幹病院として認められている施設は、都市部を中心とした大病院・大医学病院ばかりです。

これにより、研修希望先が都市部に集中することとなってしまい、一部の地方の診療科では研修希望者が0人になるなどの深刻な問題が発生しています。
元来医師不足に悩んでいた地方の小さい病院などでは、「循環型研修の制度によって、地方の医師不足に拍車がかかるのではないか?」と現状を不安視する声も多数上がっています。

医師の地域間による所属数の偏りを解消するために施行された新専門医制度ですが、研修過程においては制度の本懐とは真逆の動きを見せているというのがなんとも悩ましい限りです。

2.女性医師のキャリア形成の課題

2つ目の問題点として、女性医師のキャリア形成における課題が生じていることが挙げられます。
これは、前項で挙げた循環型研修の研修体制に関連する問題となります。

循環型研修では地方病院のみならず、その負担は医師にも大きくのしかかることがあります。
とりわけ女性の医師においては、研修拠点を転々とするフットワークの軽さが求められることとなり、子育てをしながらの研修は非常に難しい課題となっています。

2012年の総務省「就業構造基本調査」では、女性医師の未婚率が35・9%、男性医師が2・8%というデータが算出されていますが、循環型研修によってその問題が加速しています。
参考:「平成24年就業構造基本調査結果」(総務省統計局)(2023年1月19日に利用)

坂根Mクリニック院長の坂根みち子氏は2018年に開かれた新専門医制度をテーマとしたシンポジウムの場において、上記のデータを示しながら「女性医師は結婚しないで働き続けるか、子供を持った場合、キャリアを諦めるか二者択一になりがち」と問題提起をしました。
引用元:https://www.medical-confidential.com/2019/02/19/post-8788/

3.研修のための頻繁な施設移動

3つ目の問題点として、研修のための頻繁な施設移動が挙げられます。
こちらも循環型研修となったことによる弊害です。

比較的近い範囲を転々とする場合もありますが、医師によっては遠方への基幹施設での勤務や一定期間のへき地勤務が強制される場合もあります。
また、出産・育児、介護などといったライフイベントとバッティングし、研修と両立することが困難になってしまった医師も少なくありません。

研修先に地方・遠隔地・へき地が含まれたのは、医師の地域間による所属数の偏りを解消することが一番の理由です。
しかしながら、遠方の研修施設を転々とする中で、生活の設計を立てることそのものが困難となる医師も発生しており、現在深刻な問題となっています。

4.診療科によって異なる年数や難易度

4つ目の問題点として、診療科によって年数や難易度が異なる点が挙げられます。

新専門医制度では、2年間の初期臨床研修の後に基本領域で約3年間、サブスペシャルティ領域でさらに約3年間の研修プログラムを受けるカリキュラムとなっているため、専門医資格が取得できるまで最長8年間かかります。

選択するカリキュラムや診療科によっては専門医取得までの期間の短縮も実現可能ですが、基本的には従来の専門医制度に比べて、専門医取得までの年数は増加すると考えておいたほうが良いでしょう。
また、資格更新のためには下記の厳しい要件を満たす必要があります。

  • 勤務実態の自己申告
  • 診療実績の証明
  • 共通講習
  • 単位取得

このような煩雑な資格更新の手続きも、ただでさえ多忙な医師の負担をさらに大きくしてしまう要因となっています。
そのため、現在これらの資格の取得を考えている方は、回り道や失敗をしないように慎重な領域選びをする必要があります。

5.懸念される内科医の不足

5つ目の問題点として、内科医の不足が懸念されていることが挙げられます。

厚生労働省による都道府県規模の「医師確保計画」(後述します )の調査では、将来必要な内科医の数は、12万2,253名(2016年時点)なのに対し、実情としては11万2,978名で、9,275名も数が不足していることが明らかになりました。
各診療科ごとに必要な医師の数を算出するには、まずその診療科において取り扱う疾患の割合を逆算的に分析する必要があります。
*例:脳梗塞=内科・外科・救急科・脳神経外科

そして、出た値に対する診療科全体の医師の勤務時間を比較・調整し、人口動態より推量される将来の疾患別医療ニーズを考慮した結果、将来的にその診療科で必要とされる医師の数を導き出すことができるのです。
このままいくと、年度ごとに以下の内科医養成が必要になる計算となります。

  • 2024年:3,910名
  • 2030年:3,246名
  • 2036年:2,978名

一方で、内科医とは対照的に需要に対してやや供給過剰とも取れる診療科も存在し、こちらも逆の意味で解消すべき課題となっています。

内科医に関して本来であれば、毎年約4,500名の専攻医が必要とされている状況にありながら、その実約6割しか満たない結果にとどまっており、今後内科医不足が深刻化することは明らかだと言えます。
本来このような医師の偏りを解消するためには、やみくもに医師を増やす施策ではなく、現状必要な医師数を正確に把握し、診療科ごとに適宜供給する仕組みが必須となります。

しかし、現行の新専門医制度ではこれらの供給不足に対し、的確な対応を取れていません。
医師の偏在を解消するための制度下においても、まだこれほどの偏りが生まれているという事実が、矛盾をはらんだ大きな問題として議題に上げられています。

引用元:Gem Med『2036年の医療ニーズ充足には、毎年、内科2946名、外科1217名等の医師養成が必要―医師需給分科会(3)』

新専門医制度・今後の動向は?

様々な課題を抱える新専門医制度ですが、今後の動向としてはどのような方向に向かっていくと考えられるのでしょうか?

  • 厚生労働省の動向
  • 日本専門医機構の動向

上記の2つの機関の情報をもとに、新専門医制度の今後の展開を見ていきたいと思います。

厚生労働省の動向

厚生労働省は新専門医制度における現状の問題点を解消すべく、「医師確保計画」を打ち出しています。

医師確保計画とは、医療法(2018年7月に改正)を根拠にする施策であり、医師の遍在問題に対する回答として、地域医療構想と医師の働き方改革を合わせた3つの柱を軸にした長期的な医師環境改革計画となります。
地域医療に関連した具体的な取り組み内容については、下記の『第8次医療計画、地域医療構想等について』をご覧ください。

『第8次医療計画、地域医療構想等について』(2022年3月に公開)

  • 大学との連携による地域枠の設定
  • 各地の地域医療対策協議会・地域医療センターとの共同
  • キャリア形成プログラムによる医師確保と医師の能力開発・向上
  • 認定医師制度の活用

医師確保計画は、2036年まで続く3年1期の長期的な計画です。

期間ごとに計画の実施・達成を積み重ねることが『医師確保計画策定ガイドライン』で義務付けられているため、現行の医師不足等の問題点が今後も順を追って解消されていくことが予想されます。

引用元:厚生労働省『医師確保計画策定ガイドライン』
引用元:厚生労働省『第8次医療計画、地域医療構想等について』
引用元:Gem Med『2024年度から「医師確保計画」も新ステージに、医師偏在解消に向け2022年内に見直し案まとめ』

日本専門医機構の動向

日本専門医機構の動向としては、新専門医制度の安定的な運用のために以下の課題が打ち出されています。

  • サブスペシャルティ領域の課題解決
  • シーリング
  • 子育て世代への支援
  • 学会専門医から機構専門医への移行

どの領域や学会をサブスペシャルティ領域として認定するかという課題については、認知度の高い診療科は日本専門医機構で認定すること、特殊な領域は学会で認定したうえで同機構で審査と認証を進める方針となっています。

シーリングに関しては、必要医師数より算出した採用上限数の設定及び、医師不足地域での研修による連携プログラムによって一定の成果が認められています。
学会専門医から機構専門医への移行に関しては、最終的には日本専門医機構が認定する機構認定医への全面的な移行を計画しており、現状は学会・医師個人レベルでの移行推進を促すものに留まっています。

同機構は、2022年6月に開催された日本専門医機構の総会・理事会によって、新理事長と副理事長が選出されて新体制がスタートしたばかりです。

新専門医制度の運用及び医師偏在問題と対応についても、これらの新規計画の実行により今後より良い方向に向かっていくことが期待されています。

まとめ(新専門医制度の問題点について)

今回は、「新専門医制度」のもつ課題や問題点を多角的な視点から解説してきました。
新専門医制度・5つの課題や問題点

  1. 循環型研修で都市部に集中
  2. 女性医師のキャリア形成の課題
  3. 研修のための頻繁な施設移動
  4. 診療科によって異なる年数や難易度
  5. 懸念される内科医の不足

これらの内容は今後も改善が検討される余地が大いにありますが、専門医という資格自体が医師や患者にとって有用な制度であることは間違いありません。

これからますます精査され発展していく制度となりますので、医師としての見識を広めたいという方は、ぜひ今後の動向にも注目してみてください。

また、専門医認定された医師の方、あるいは現在の状況からの就職や転職を考え、これから専門医の資格取得に励みたいと考えている方は、ぜひ一度医師専門の転職エージェントにご相談なさってみてください。

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