将来のライフプランを考える際に、結婚や出産をいつまでにしたいかというのは誰もが悩む点ではないでしょうか。
特に出産の際の産休や育休の制度については、詳しく知っておきたいと思う方が多いでしょう。

「医師の産休・育休の取得状況が知りたい」
「医師が産休・育休を取った場合のリスクやメリットが知りたい」

この記事では、医師の産休や育休取得について、制度の詳細や取得率を解説します。
育休取得のメリットやデメリット、子育てしながらでも長く働くコツについてもご紹介していますので、参考にしてください。

時期ごとに医師が取れる産休・育休の種類

出産にまつわる休暇は、妊産婦の時期によって細かく定められています。
妊娠から出産後の育児休暇までに取れる休暇の制度を、時期別に見ていきましょう。
これらの制度は雇用形態に関わらず、非常勤やパート勤務でも取得が可能です。

妊婦健診のための休暇等

まずは、出産前に取得できる休暇の制度です。
妊娠中は定期的な検診のための休暇を取得できます。
男女雇用機会均等法で、妊産婦の検診や保健指導の受診に際し、事業者は時間の確保ができるように努めることが定められているからです。
ただし、このお休みが有給扱いか無給扱いかは病院ごとに独自に決めています。
自分の勤め先の規則は、早めに確認しておくといいでしょう。

また、つわりがきつかったり、健康状態に不安がある場合、医師の指導に沿った勤務時間の短縮や通勤緩和といった負荷を軽減する措置が受けられます。
医師の場合、診療科によっては放射線曝露を受けやすい環境で働いている方もいますが、胎児への影響を考えて、配慮してもらう必要が出てくるでしょう。

産前・産後休業

お産の前後に取得できる休暇は、産前と産後では少し仕組みが異なります。
産前の休業については、出産予定日の6週間前から(双子以上では14週間)休暇の取得が可能です。
仮に出産予定日よりも出産が遅れた場合は、出産日までが産前休業期間となります。
産前休業は勤務先の規定に則り申請して取得しますが、休業期間中の業務の引き継ぎを考慮し、早めに申請することをおすすめします。

一方の産後については、労働基準法で規定されていて、出産の翌日から起算して8週間の間は就業ができません。
ただし6週間を経過した後であれば、本人の申し出と医師の許可がそろえば復職が可能です。
また妊産婦については、男女雇用機会均等法で妊娠中と出産後1年以内の解雇が原則無効とされる措置がある他、産前産後休業中とその後の30日間は、労働基準法で解雇自体が禁止されています。

育児休業

産後は育児・介護休業法において、男女を問わず育児休業を取得できます。
取得可能期間は子どもが生まれてから1歳の誕生日の前日までの間で、期間中2回に分けて必要な期間だけ取得が可能です。
また子どもが1歳を迎えるまでに以下の要件に適合する場合は、1歳6カ月までの延長ができます。

  • 保育所に入れない場合
  • 養育者の死亡または病気などで養育が困難な場合
  • 離婚その他の事情で片親になった場合
  • 新たな妊娠により、産前休業取得可能期間から産後休業期間に当てはまる場合

1歳6カ月を迎える時点で上記の要件が解消できない場合、さらに2歳の誕生日前日までの再延長が可能です。
育児休業の取得や延長を希望する場合は、事前の申請が必要です。
勤務先の規定で期日が決まっているケースが大半ですので、事前に確認しておきましょう。
一般的には育児休業取得は1カ月前までの申請で、延長については延長開始日から2週間前までの申請となっています。

育児休業期間中、雇用保険に加入している医師であれば、給料の7割弱程度の育児休業給付金の支給を受けられます。
ただし育休期間中に臨時医師としてやアルバイトに就業した場合、規定の時間以上の労働や元の給料の8割以上の収入があると、給付は受けられなくなります。

産後パパ育休

産後の母親は労働基準法で8週間勤務できないと決まっていますが、父親に関してはこの期間に4週間まで休暇を取得できます。
これは産後パパ育休制度と呼ばれ、基本的には男親が対象の制度です(ただし養子養育をする女性も対象になります)。
産後パパ育休も2回に分割して取得が可能なため、父親は育児休業取得可能な期間中に4回に分割して休暇を取れることになります。

育児休業と産後パパ育休についても、非正規雇用の方でも取得が可能です。
ただし子どもが1歳6カ月に達する(延長の場合は2歳)日までに労働契約が満了していないことが条件となりますので注意してください。

パパ・ママ育休プラス

共働きの家庭で、母親と父親が両方育児休業を取得する場合においては、通常1歳の誕生日前日までの取得期間が、1歳2カ月に達するまでの期間に延長されます

ただし取得できる休暇日数は各人1年間となっていて、すでに取得済みの産後休業や産後パパ育休を含めた合計日数です。
母親はこれに加え、出産日も含まれますので注意してください。

医師国保の産休育休手当について

産休育休手当とは、出産・育児のために仕事を休んだ場合に支給される手当です。一般的な国保では、出産手当金、出産育児一時金などが該当します。

医師国保の場合、受け取れるのは「出産育児一時金」です。1児あたり50万円(※産科医療補償制度に加入していない医療機関等で出産した場合は48万8千円)が支給されます。産休中は給料が支給されないため、貴重な収入源となります。
受け取るためには、出産後14日以内に医師国保への申請が必要です。

医師の産休・育休の取得率はどれくらい?

産前産後の母親と、子どもを育てていく父親には、出産育児に必要な休暇の取得ができる制度が整っています。
しかし職場の人手不足やキャリア形成の問題から、産休や育休は取れないと考えている医師は少なくありません。
特に医師は日々の積み重ねで技術を磨くという職業柄、キャリアが途中で途絶えてしまうことを恐れている人もいるかもしれません。
ここからは医師の産休・育休がどれくらい取得されているかについて、日本医師会の調査データを中心にご紹介します。

産前・産後休暇の取得率

日本医師会が2016年に調査したデータによれば、出産経験がある女性医師のうち、産前・産後休暇については、取得率86.1%でした。
また取得した人の中でも、完全に休暇を取得したと答えた人は77.7%でした。

生まれた子どもや本人の健康状態によるところもあり、養育環境の充実度も人によって異なるため、一概に「仕事が忙しくて取得できない」というわけではないのでしょう。
しかし休暇中の身分保証が「ない・わからない」と答えた方が25.3%いることから、休暇の取得に不安を感じる層が一定数いることは読み取れます。

女性の育児休暇の取得率

厚生労働省の調査によれば、女性の育児休業の取得率は2021年で85.1%とおおむね高い数値で取得されています。
この傾向は2007年ごろから続いていて、多少の浮き沈みはあれど横ばいの傾向です。
取得期間については、6カ月以上取得している方が95.3%と多く、一番多いのは12カ月取得で34%となっています。

しかし医師の場合、女性医師が育児休暇を取得した割合は、日本医師会2016年の調査で59.1%とかなり低い傾向です(同じ年の厚生労働省の調査結果は81.8%です)。育休は取れないと考える女医がまだ多いという現状が伺えます。
また育児休業中の身分保証についても、27.6%が「保証がない・わからない」と回答していて、産前・産後休暇のときよりも不安に思う方が多くなっています。

男性の育児休暇の取得率

男性の育児休暇の取得率は、女性に比べるとまだまだ低いものとなっています。
厚生労働省の調査では、2019年ごろから大幅な上昇を見せているものの、2021年時点で13.97%と低い結果です。

一方、男性医師に絞った数字を見ると、日本産婦人科医会の調査で、2022年の男性医師の育休取得率は21.6%でした。
もちろん女性に比べると低いことに変わりはないのですが、全業種の平均である厚労省の調査と見比べてみると、かなり高めと言えるのではないでしょうか。

育児に関する女性医師の悩みとは

子育てをしていく上で、女性医師が抱えてしまう悩みについても見ていきましょう。

1.キャリア形成やスキルアップに関すること

日本医師会が行った調査の結果、女性医師が「医師として感じる悩み」の中でも高い位置を占めていたのが、キャリア形成やスキルアップに関する悩みです。
出産に伴う休暇の取得は法律で守られている労働者の権利です。
組織体系がきちんとしている病院にいれば、復帰後のポジションを確保した状態で育児休暇を取ること自体は可能でしょう。

しかし長い休みを取ることで、臨床の最前線から長期間離れてしまうことを不安視する女性医師が多くいます。
実際に産休から復職したら、以前はできていた手技が難しく感じたり、勘が鈍っていると感じる方は少なくありません。
また自分が休んでいる間に同期はどんどん成長していて、置いていかれたという声を聞くこともあります。

2.家事・育児と仕事の両立が難しいこと

女性医師の中でも、20〜40歳代の方が多く悩むことの上位には、家事や育児と仕事の両立が上がりました。
こちらも日本医師会の調査の結果で、全体の7割近くが悩む要因として回答しています。
子どもを保育園に預けて働くことができても、急な体調不良で呼び出しがかかるといったことは日常茶飯事です。

家族や親族のサポートがあったとしても、不規則な時間帯で働く医師が規則正しい生活サイクルで子どもの面倒を見る負担は大きいものでしょう。
子育てを夫婦でどのように分担し、協力しあっていくかが期待できないと、育児休暇が取得できてもその先の不安が尽きないのではないでしょうか。

3.プライベートの時間の確保が難しいこと

子育て中のプライベート時間の捻出は至難の業です。
常に学びが必要な医師であれば、仕事の合間に家事と育児をこなして、さらに自分の時間を作って勉強に充てることは、かなり難しいと言えるでしょう。
前項でも触れた通り、家族内での役割分担ができていれば、母親の負担も少しは軽減できます。

しかし残念ながら、日本医師会の調査では、女性医師の家事・育児に関する悩みにおいて、配偶者や家族の非協力や無理解をあげる声が、全体平均で1割近くと出ています。
ただし昨今では男性の育休取得も進んでいることから、こうした声は若年層には少ない傾向が見られ、40代以上の世代で高い傾向が見られます。

医師が子育てしながら長く働くには

昨今で少しずつ男性の育休取得が増加しているとはいうものの、まだまだ子育てとキャリアプランを天秤にかけているのは女性医師だと言えるでしょう。
子育てしながらもしっかり働いて、着実にキャリア形成していくには、働き方を工夫する必要があります。
ここからは子育てしながらでも長く働いていけるポイントをご紹介します。

1.ワークライフバランスを保ちやすい診療科を選ぶ

医師はとにかく忙しい、激務、長時間労働は当たり前、というイメージがあります。
しかし医師の忙しさや時間の不安定さは、勤務環境や診療科によって違いがあるのは事実です。
たとえば子育てのためにワークライフバランスを重視するのであれば、当直がある病棟勤務ではなく、時間を管理しやすいクリニックで働くという選択肢があります。
また大きな病院であっても、緊急対応が少なく比較的時間がきっちり管理でき、ワークライフバランスを保ちやすい診療科もあります。

周囲の環境や働きやすさの面から、女性医師に人気があるのは、皮膚科や眼科、麻酔科などです。
その他、女性医師におすすめな診療科については、こちらの記事でも詳しくご紹介しています。

2.子育てに理解のある職場を選ぶ

産休や育休から復帰しても、子どもの行事や体調不良などの対応に時間を割くことは避けられません。
しかし職場で時短勤務にしてもらったり、オンコールや当直を免除するといった、子育て世代のための対応がなされていれば、なんとか頑張っていけるという方も多いのではないでしょうか。
そうした子育てのための理解や制度を整えている職場に勤めれば、努力次第でキャリア形成を続けていくことが可能です。

また院内に託児所や保育施設があるところであれば、より働きやすくなるでしょう。
ただし求人情報に託児所ありと記載があっても、その託児所が定員いっぱいで利用できないケースもありえます。
子育てしやすい環境を求めて転職活動をする場合は、こうした情報を漏らさずチェックするようにしてください。

医師専門の転職エージェントなら「メッドアイ」

医師としてキャリアを積みながら、出産して子育てをしていくとなると、ワークライフバランスの調整が大変です。
夫婦で協力して乗り越えていけるのがベストですが、まだまだ母親側の負担が大きいのが実情だと言えるでしょう。
また出産後の育児休暇取得で臨床現場から長く離れることも、技術研鑽の中断となり不安に感じる方も少なくありません。

出産と育児を挟んで、どのようにキャリアを積み重ねていくのかに悩んだら、医師専門の転職エージェントに相談してはいかがでしょうか。
子育てをしながらどんなキャリア形成をしたいのかや、現在の自分の市場価値を知りたいなど、働き方の悩みを相談することから始めるのがおすすめです。

メッドアイでは無料相談を通じて、医師一人ひとりの悩みに寄り添い、キャリアプランの見直しや、キャリアプラン実現のための働き方についてアドバイスが可能です。
非公開情報を含めた豊富な求人情報も持っていますので、理想の働き方ができる職場探しの提案もお任せください。

まとめ(医師は育児休暇を取りづらい?)

働いている夫婦が出産や子育てを考えるとき、育児休暇をどれくらい取るべきかや、パートナーとの役割分担などが課題になります。
しかも医師の場合、育児休暇を長く取った分、現場感覚が薄れたり、周囲の同期から遅れてしまうといった不安を持つ方もいます。また、研修医や男性では育休が取れないのでは?と考える方もいますが、そんなことはありません。当然の権利として申請できます。

子どもにきちんと向き合った子育てをしながら、自分のキャリアもつないでいきたいと考えるのであれば、勤務先の環境が子育てに理解があるところを選びたいものです。
今の職場で産休や育休を取りづらいとか、キャリアを継続していくのが大変そうだと感じたら、転職を考えるのも一つの解決策です。
家庭と仕事の両立を目指し、ワークライフバランスが保ちやすい職場を探すなら、転職エージェント「メッドアイ」に相談してください。
医師としてのキャリアプランをベースに、子育ての時間を確保しながら働ける職場を見つけるための、心強いパートナーとなるはずです。