働き方改革によって、医師の残業時間に上限が設けられました。しかし、2024年4月に設けられたばかりのルールであるため、知らないという方も多いのではないでしょうか。

「働き方改革による残業時間の上限の設定について詳しく知りたい」
「残業時間の上限により働き方がどう変わるのか知りたい」

本記事では医師の働き方改革に関連して、労働時間の上限や、残業代などについて解説します。

働き方改革による医師の労働時間の上限とは

働き方改革によって、医師の労働時間の上限が変化しました。ここでは、医師の労働時間に関する規則について詳しく解説します。

医師の時間外労働について

これまでは医師には時間外労働の上限がありませんでした。しかし、2024年4月から医師にも労働時間の上限が設けられることになりました。一般的なビジネスパーソンと同様に、原則的な残業時間の上限が「月45時間・年間360時間」になります。
しかし、医師は特殊な仕事であるため、一部の例外措置が設けられています。

例えば、一般的なビジネスパーソンの場合は、残業時間が月45時間を超える月は「年間で6回まで」という制限があります。けれども医師には、残業時間が月45時間を超える月の回数に制限がありません。

また、一般的なビジネスパーソンには、万が一労働時間の上限を超えそうな場合に「直近2〜6カ月間の平均残業時間は80時間以内でなければならない」というルールがあります。しかし、医師にはこのルールも適用されません。
さらに、医師は面接指導を受けることで、月100時間を超えて残業をすることも可能です。

上限時間の3つの水準について

医師の労働時間の上限は、A、B、Cの3つの水準が存在します。それぞれ、以下のように規定されています。

  • A水準:月100時間未満/年間960時間以下
  • B水準、C水準:月100時間未満/年間1,860時間以下

すべての医療機関で働いている医師が遵守しなければいけないのはA水準です。医師の労働時間を管理する上で、基準となっているのがA水準と考えてください。
しかし、画一的にA水準を適用してしまうと、夜間の医療体制の確保が困難になったり、医師不足に対応できなくなったりする可能性があります。

そこで設けられたのがB水準とC水準です。B水準は地域医療確保暫定特例水準と呼ばれており、救急車の年間受け入れ台数が1,000台以上といった一定の基準を満たした医療機関のみが対象となっています。

C水準は医療に関する高度な技術の習得や、臨床研究を行っている病院が該当となっています。
A~Cのいずれの水準でも月100時間以上の残業は、原則認められていません。しかし、医師の場合は面接指導を受けることで、100時間を超えて残業することが可能になります。

もちろん、体力的な負担が大きいため、やむを得ない事情がない限り100時間を超えて残業をすべきではありません。しかし、急患が多かったり、緊急で手術を行わなければいけなかったりする場合は、上限を超えて残業せざるを得ない場合もあります。

罰則について

医師が時間外労働の上限を超えた場合は、労働基準法141条に基づき、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が医療機関に課せられます。違反があった際にはすぐに罰則を受けるのではなく、まずは労働基準監督署による調査が行われます。

違反が確認できた場合は、是正勧告をされるため、そこで正しく対応をすれば問題ありません。万が一、是正勧告を無視した場合は司法処分になります。

医師の平均残業時間は?

平成27年度厚生労働省委託事業 病院アンケート調査結果によると、医師の平均残業時間は1カ月あたり34.1時間となっています。残業時間が80時間を超えている人もおり、他の仕事と比べると残業時間は長いと言えるでしょう。

しかし、必ずしもすべての医師の残業時間が長いとは限りません。医者の残業時間は、病院の規模や時期によっても異なります。例えば、1年を通して手術や急患が多い病院であれば、残業時間は長くなる可能性が高いです。

医師の残業代はどうなる?

医師は固定残業代制が導入されているケースが多く、残業代が支給されないと考えている方もいるでしょう。ここでは、医師の残業代について詳しく解説します。

固定残業代制とは

固定残業代制とは事前に残業代を定めておき、決まった金額を毎月支給する制度です。
固定残業代分を超過して残業を行った場合は、超過分を受け取ることが可能です。

通常の給料と固定残業代は明確に判別できるようにしておかなければいけません。
自分が勤めている病院で固定残業代制が導入されているか気になる場合は、給与明細を確認しましょう。

固定残業代制であるから残業代が支払われていないと考えている方もいます。
しかし、実際には固定残業代として定められた範囲内でしか、残業を行っていない場合が多いです。万が一、固定残業代分を超えて残業を行ったにも関わらず、残業代が支払われていない場合は違法となるため、労働基準監督署に相談をしましょう。

年俸制とは

年俸制は事前に定めた年棒に基づいて、毎月一定の報酬が支払われる制度です。年俸制は残業代が発生しないと勘違いしやすいですが、実際は残業代を受け取る権利があります。

万が一、年棒制を理由に残業代が支払われていない場合は、違法になるため労働基準監督署に相談をしましょう。
もしくは上司が法的な残業代の取り扱いについて正しく理解していない可能性があるため、一度残業代について話すことをおすすめします。

医師の宿直について

医師が宿直で業務を行っている場合は、残業代の支給が認められません。労働時間には含まれないため、先ほど紹介した労働時間の上限にもカウントされません。

タダ働きのようにも思えますが、宿直を行った場合は、宿直手当が支給されます。宿直手当は対象の医師が受け取る1日あたりの給料の1/3を超えるべきというルールがあるため、決して低い報酬ではありません。

宿直に関して残業代の支給はありませんが、相応の宿直手当が支給されるため問題にはならないと言えるでしょう。

医師の働き方改革によるデメリットとは

医師の働き方改革にはさまざまなメリットがあります。一方で、デメリットも存在するため注意しなければいけません。
ここでは医師の働き方改革によるデメリットについて解説します。

1.人手不足が深刻化しやすくなる

医師の労働時間に上限が設けられると、一人当たりの勤務時間は少なくなります。
一方で、全体の業務量は変化しません。そのため、今まで一人で対応していた業務を複数人で対応しなければならなくなります。

医療機関は慢性的に人手不足の傾向にあります。
その状態で働き方改革が行われると、さらに人手不足が深刻化する可能性があるでしょう。結果として、業務が回らなくなってしまう可能性も考えられます。

2.人件費の負担が大きくなる

医師の残業を減らすためには、医師の増員をはからなければなりません。
よって、病院側の人件費の負担は大きくなります。アルバイト雇用の医師をスポットで採用して対応することも考えられますが、人件費の負担が大きくなるのは避けられないでしょう。

3.医師によって働き方に格差が生じる

労働時間に上限が設けられているため、医師によっては救急対応ができなくなる場合があります。そのため、医師によって宿直対応が可能な人、救急対応しない人という格差が生まれるかもしれません。

こういった状況になると医師は不公平感を抱いてしまう可能性があります。
病院への不満が募り、退職の理由となる可能性もあるでしょう。

まとめ(医師の残業時間の上限は?)

医師の労働時間に関する法律は大きく変化し、残業時間の上限は、原則として「月45時間・年間360時間」となりました。
しかし医師という緊急性の高い職業柄、一部の例外措置が設けられており、月100時間を超える残業をせざるを得ない場合もあるというのが現状です。

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