女性医師がキャリアを築いていく際に悩みがちなのが、出産で一度ストップしたキャリア形成をどのようにつなげるかという点ではないでしょうか。

「医師として復職したいが家庭・子育てとの両立に不安がある」
「女性医師が復職した場合の働き方について知りたい」

この記事では、出産後の女性医師の復職について、現状の課題や復職をサポートする制度などをご紹介します。
医師を辞める決断をした場合のメリット・デメリットについても解説しますので、悩んだ際に参考にしてください。

女性医師の復職率はどれくらい?

現状の女性医師のキャリア継続率は、他業種で働く女性よりは高い傾向にあります。
女性の就業率を年代別で見ていくと、男性とは異なる曲線を描くことが知られています。
初めは男女での就業率にはほとんど差がありません。

しかし、20代後半から30代にかけて、女性だけ就業率が低下していき、その後40代くらいから再び上昇に転じます。
これを女性就業率の「M字カーブ」と呼び、この就業率が下がっている期間に結婚や出産、育児を経験している方が大半です。

医師の世界でも似た現象があり、厚生労働省の調査研究では、35歳をピークにして就業率が76%まで下がります。
その後は少しずつ上昇に転じますが、それでも男性医師と同等の就業率になるのは60代に入ってからです。
一方で、男性医師も90%以上あった就業率が35歳をピークに89.9%と、若干ですが減少しています。これは、近年になってパパ育休を利用する人が増えてきたことを表している可能性があります。

日本の女性医師の割合とは

ここからは、日本の女性医師数や割合、世界と比較した日本の女性医師数の状況について解説します。

女性医師の数は年々増加しつつある

厚生労働省の調査によれば、2022年時点で日本の女性医師数は81,139人です。
対する男性医師は262,136人で、構成比率は男性76.4%、女性23.6%という結果でした。
具体的に病院や診療所で働く医療機関勤務医師の男女比を見ると、以下のようになっています。

性別男性女性女性比率
29歳以下20,41611,57036.1%
30〜39歳45,79821,15331.5%
40〜49歳46,67919,70529.6%
50〜59歳52,51613,85920.8%
60〜69歳51,6967,56512.7%
70歳以上32,9593,5289.6%
合計250,06477,38023.6%

(参照:厚生労働省「令和4年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」

年代別で見ると、若い世代ほど女性医師の比率が高いことが伺えます。

さらに後押しするように、医学部入学者の女性割合も上昇していて、文部科学省が毎年発表している医学部入学者数を見ると、2023年の女性入学者は国公私立合わせて3,696人で、全体の40.2%に達しました。

このように、女性医師は着実に増加傾向にあり、キャリア中断がもたらす影響はもはや少なくないと言えます。

海外諸国と比べると日本の女性医師は少なめである

国内の女性医師は増加傾向にあるものの、諸外国と比べると男女比率はまだまだ低いのが現状です。
OECD(経済協力開発機構)に加盟する37カ国で平均すると、女性医師の割合は50%に達しています。

特にラトビア・エストニア・リトアニアのバルト三国では70%以上を女性医師が占め、OECDでもトップの比率です。
日本の女性医師比率は23.6%で、残念ながらOECD諸国の中では最下位となっています。
(参照:OECD保険統計2023年

女性医師の数が少ない3つの理由

女性の社会進出が進み、夫婦共働きが当たり前になった現在でも、女性医師の数は他業種のようには増えていないのが現状です。
理由としては、医師のキャリア形成と女性が経験する出産や育児といったライフイベントの兼ね合いが難しい点が大きいです。
ここからは、女性医師の数がなかなか増えない理由を、細かく見ていきます。

1.出産や子育てによる休職・離職率が高いため

出産を機に女性医師が離職や休職でキャリア形成をストップしてしまうことは、女性医師が増えない理由の最たるものです。
男性の育児参加が一般化しつつある中でも、出産だけは女性特有のライフイベントです。
こうした女性医師の離職率が特定の年代で上昇する「M字カーブ」現象は、厚生労働省の調査データからも明らかになっています。

医師は臨床現場で常に最新の情報や技術を吸収し続ける必要があり、現場を一定期間離れざるを得ないことが、医師を続ける障壁に感じる女性医師は少なくありません。

2.常勤に復帰する女性医師が少ないため

出産時の離職と連動して、その後の現場復帰が難しいと感じる女性医師は多くいます。
知識や技術がブランクによって鈍ってしまい、常勤として働く自信がなくなるケースや、家庭との両立が必要で、長時間勤務ができないケースが代表的です。

復帰しても非常勤やパート勤めといったパターンも多く、どちらかというと家庭が主軸となっている方が少なくありません。
女性医師が常勤として自信を持って復職するためには、家庭での役割分担や協力体制だけでなく、職場での女性医師への理解や環境整備が鍵となります。

3.仕事と家庭の両立が難しいため

医師の仕事は診療科によっては激務になることもしばしばです。
復帰後の家庭との両立を考えると、復職しても対応しきれないと危惧する人もいます。
子育て中は、特に子どもが小さい時ほど、発熱などで保育施設からの呼び出しがあるものです。
夫や家族のサポートがどの程度あるかは、復帰を決める際の重大なポイントです。

また、対応が手厚い育児施設が利用できるといった有利な点があればいいですが、そうでない環境では、時間に融通の利きやすい非常勤を選んで働くのも仕方ないことでしょう。

キャリアに悩んだ際に女性医師を辞めるメリット・デメリット

結婚や出産で一時的に職を離れた後、復帰できる自信がないと考える女性医師は少なからずいます。
今後のキャリアプランと家庭との両立を考慮して、医師を辞めるという選択をするケースも聞かれます。女性医師が医師のキャリアを諦めると、どのような影響が考えられるでしょうか。
ここからは、女性医師が辞める決断をした時に想定されるメリットとデメリットをご紹介します。

女性医師を辞めるメリット

医師を辞めるのは大きな決断を伴いますが、辞めたことでメリットがないわけではありません。
女性医師が医師の道を諦め、別の仕事を選んだ際に得られる主なメリットは以下の通りです。

  • ワークライフバランスを良好に保てる
  • 家庭を守りながら働くスタイルを選べる
  • プライベートの時間をより多く持てる

医師の仕事は当直やオンコールに代表されるように、長時間労働が避けられません。
しかし、他の仕事を見つけることで、時間に融通が効かせられたり、ワークライフバランスを良好に保てる機会がたくさんあります。

通いやすい場所や、働きやすい条件の仕事を見つけられれば、心身にゆとりを持って過ごすことができます。
ワークライフバランスを向上させることで、プライベートの時間を持つこともでき、医師以外での新しいキャリアプランを考える余裕も出てくるでしょう。

女性医師を辞めるデメリット

医師を辞めてしまうと、生活面では時間のゆとりなどが得られる一方で、これまで培ってきたキャリアを全て一旦リセットすることになります。
考えられる主なデメリットは以下の通りです。

  • ・収入が下がる可能性がある
  • ・再び医師を目指すことが難しい
  • ・転職先の選び方が難しい

医師を辞める前の収入がそれなりにあった場合、他業種に転職することで収入がダウンする可能性があることは考慮しておく必要があります。

また、医師の資格を活かした転職をしようと考えると、転職先の業種がある程度限られるため、理想の職場を探すことが難しくなりがちです。

さらに、医師のキャリアそのものに未練がある場合、一度辞めてしまうと、キャリア構築を再開するのは高いハードルです。
医師としてのキャリアをいつか再開したいと望むのであれば、「一旦辞める」という選択はしないほうが懸命です。

女性医師の復職を助ける5つの方法

医療業界では医師不足や医師偏在が問題となっています。
女性医師が途中でキャリアを諦めて離職してしまう状況が続くと、医師不足はいつまでも解消が見込めないでしょう。
このことから、国や自治体、医師会などでは、キャリアを中断した女性医師の復職を支援する制度を設けています。
ここからは、女性医師の復職の助けになる制度や働き方をご紹介します。

1.各自治体の就労支援事業を活用する

厚生労働省の検討会を経て、女性医師が職場に戻りやすくするための施策「女性医師就労支援事業」が各都道府県で実施中です。
出産や育児で一旦離職してしまった女性医師が再就業を望む場合に相談できる窓口を設置し、復職のための研修受入医療機関を紹介したり、仕事と家庭の両立を目指す女性医師にアドバイスをしたりしてサポートします。

また、医療機関側に働きかけ、院内託児所の設置や、育児中の女性医師の勤務時間考慮といった提案も行い、必要に応じて対応した医療機関に助成を行うこともあります。
特に院内保育所の設置については国もサポートしていて、補助金が出るケースもあることから、少しずつですが設置医療機関が増加中です。

2.民間機関による女性医師のサポートを活用する

日本医師会が厚生労働省の依頼をきっかけに起こした「女性医師支援センター」も、ブランクがある女性医師のサポートをしています。
復帰のための研修や職場探しだけでなく、産休・育休に入る際の代替医師の斡旋なども行っていて、無料で利用が可能です。
日本医師会の「女性医師バンク」に登録しておくことで、キャリア継続に困難を感じた際、いつでも相談することができます。

3.男性の育児休業制度を活用する

2022年から施行されている新たな男性の育児休業制度(産後パパ育休)も、女性医師を助ける制度の1つです。
この制度で出産直後の期間に分割して2回まで育児休業を取得することができ、その後に通常の育児休業も取得できるため、家庭内での役割を大きく担うことができます。

パートナーの助けがあることで、女性医師の仕事復帰がしやすくなる制度で、次第に認知が広がり、取得者が増えていくことが期待されているものです。
(参照:厚生労働省「育児・介護休業法令和3年(2021年)改正内容の解説」

4.短時間で働ける雇用形態を活用する

産後の復職に際して、医師短時間勤務制度を活用するのもおすすめです。
一定時間以上勤務ができれば、正規職員として働き続けることができる制度です。
宿直免除や午前もしくは午後だけの勤務、あるいは週に数日程度の勤務で育児と仕事を両立しながら、臨床現場に関わり続けることができます。

具体的な勤務時間の決め方などは医療機関によって異なりますので、復帰前に勤務先に相談してください。
主な条件としては、週20時間以上勤務か、1日あたり6時間勤務といったケースが一般的です。

5.スポットアルバイトや定期非常勤などを活用する

勤務先に復職の支援が十分整っていない場合は、子育てが一段落するまでの間を非常勤医師として働く方法もあります。
スポット勤務や定期非常勤で働きやすい条件の仕事があれば、臨床現場に関わり続けることができ、技術や勘を保ち続けることが可能です。

フリーランス医師は、その都度仕事を探す手間が出てきますが、慣れてくれば人脈も増え、仕事も見つけやすくなります。
さまざまな職場を渡り歩くことで知見も広がり、子育てが一段落した後に本格的に復帰する場を見定めるための情報収集もできるメリットがあります。

働き方に悩んだら医師専門の転職エージェントへ

出産後の現場復帰プランを事前にある程度イメージしていたとしても、実際に育児が始まってみると思った通りにいかないこともしばしばです。
育児と仕事の両立や、臨床現場への復帰方法について悩んだら、転職エージェントに相談するのもおすすめです。

メッドアイでは、出産育児だけに関わらず、働き方に悩んだ多くの医師に向き合ってきた実績があります。
無料で相談が可能で、非常勤やアルバイト・スポット求人についての情報も豊富です。
子育て中に働きやすい職場を見つけるだけでなく、その後のキャリアプランについてもぜひご相談ください。

まとめ(女性医師の復職率はどれくらい?)

医師として一人前になるためには、長い期間をかけてキャリアを形成していかなくてはなりません。
女性医師は徐々に増加していますが、その一方で、出産・育児によるキャリア中断をきっかけに離職を決断する方も出てきています。
女性医師が子育て後に現場復帰するためには、パートナーや家族の協力は不可欠です。
しかしそれと同時に、職場にも復帰を支援する環境や制度が整っていることが重要でしょう。

キャリアプラン作りや、家庭との両立で働き方に悩んだら、医師の転職に特化した転職エージェントに相談してください。
様々な事例を取り扱ってきているメッドアイには、子育てしながらでも働きやすい職場の情報もたくさんあります。