近年のオンライン診療の普及により、遠隔医療は一般的にも認知が高まってきました。
しかし、実際の普及率が気にかかっている方もいるのではないでしょうか。
「年々遠隔医療の必要性が高まっていると感じているが、実際どれほど浸透しているものなのか知りたい」
「遠隔医療ができる働き方をしたいが、現状や今後の課題などについて知りたい」
この記事では、遠隔医療の普及率や求められる背景について解説します。
遠隔医療を導入することで得られるメリットやデメリットもご紹介しますので、参考にしてください。
遠隔医療とは何か?
遠隔医療とは、言葉の通り離れた場所にいる相手とビデオ通話等を通じてリアルタイムで行う診療行為や健康指導、カンファレンスなどの医療行為全般を指します。
新型コロナウイルス感染症の流行でオンライン診療が急速に普及するようになりましたが、これも遠隔医療のうちの1つです。
オンライン診療では医師と患者がインターネット回線を通じて診察や薬の処方を行います。
これとは別に医師同士で患者の症状を相談したり、画像読影の依頼を行う遠隔医療もあります。
厚生労働省の指標を見ると、D to P(Doctor to Patient 医師と患者間)の遠隔医療を「オンライン診療等」、D to D(Doctor to Doctor 医師と医師)の遠隔医療を「医師等医療従事者間での遠隔医療」という定義です。
それぞれに期待される役割を以下にまとめました。
種別 | 主な医療行為 | 期待される役割 |
---|---|---|
オンライン診療等(D to P) | オンライン診療 オンライン受診勧奨 | 通院に伴う患者負担の軽減 訪問診療や往診に伴う医療従事者の負担軽減 感染症への感染リスク軽減 |
医師等医療従事者間での遠隔医療(D to D) | 遠隔放射線画像診断 遠隔病理画像診断 遠隔コンサルテーション 遠隔カンファレンス 遠隔救急支援 12誘導心電図伝送 遠隔ICU 遠隔手術指導 | 医療資源の少ない地域における医療確保への貢献 効率的・効果的な医療提供体制の整備 医療従事者の働き方改革への寄与 |
(参照:厚生労働省「遠隔医療のさらなる活用について」) あわせて読みたい
遠隔医療が求められている背景
遠隔医療は元々、高齢化社会の加速を受け、医師偏在や医師不足による医療提供体制の不足を回避することを目的に導入が始まりました。
2015年に厚生労働省から基本的な考え方が初めて通知され、2018年からはオンライン診療報酬が加算できるようになっています。
しかし、情報通信機器やシステム導入にコストや手間がかかることから、導入する医療施設はあまり増えずにいました。
風向きが変わってきたのは、周知の通り新型コロナウイルス感染症の流行です。 あわせて読みたい
この時期にオンライン診療を導入しやすくするため、時限的に規制緩和がなされ、導入する医療機関が一気に増えました。
またこの時期には、民間企業が医療サービス提供をオンラインで行う事業も増え、オンライン診療が一般的に広く認知されるきっかけとなりました。
遠隔医療の本分である、通院が難しい状況の患者への医療提供や、医師不足の地域に専門医の知識を活用できるといった目的での導入も、これをきっかけに増えてきていると言われています。
日本の遠隔医療の普及率は?
遠隔医療のうちオンライン診療に関しては、総務省や厚生労働省が対応している医療機関の件数を把握しています。(参照:総務省「データで見るオンライン診療の状況」)
その結果、2021年時点で16,843件の医療機関が対応しているという結果でした。
これは全医療機関のおよそ15%程度に当たります。
件数が増えたきっかけとなった2020年4月の規制緩和の時点では10,812件と全体の10%弱でした。 あわせて読みたい
新型コロナウイルス感染症の拡大に応じて、オンライン診療の実施要件を時限的に緩和した結果、1カ月程度でおよそ4,000件増え、14%近くまで割合を伸ばしました。
その後は微増が続いている状態です。
この規制緩和では、ビデオ通話だけでなく音声電話での診察も診療報酬が加算可能となっていましたが、この措置は2023年7月で終了しました。
普及が進み、認知度が上がったイメージがありますが、実際にはまだ対応可能な病院が少ないことがわかります。
遠隔治療の5つのメリット
遠隔医療を用いることで、これまで人手不足や患者の忙しさなどで行き届かなかった医療を充実させることができます。
ここからは、遠隔医療導入がもたらす具体的なメリットを5つご紹介します。
1.事前問診により治療方針を立てやすくなる
オンライン診察は事前予約制となっていて、予約時にあらかじめ問診を取ることが可能です。
事前問診を活用して治療方針の目処をつけておくことができ、診察をスムーズに進めやすくなるのがメリットです。
患者の側にも、事前に症状を登録する作業が自宅で落ち着いてできるため、より詳しい状態を報告しやすくなるメリットがあります。
2.感染リスクを減らせる
非対面で行うオンライン診療では、患者が病院に行かずに済むことから、インフルエンザや風邪などの感染リスクをなくすことが可能です。
特に子どもやお年寄りなどがいる家庭では、家族の誰かが病院からもらってしまった風邪を移してしまう心配がないのがメリットと言えます。
医師の側も、流行している感染症に対してオンライン診療ができれば、職務中の感染リスク軽減につながり、双方に安全性を高めるメリットになります。
3.継続的な治療がしやすくなる
病院から家が遠かったり、高齢で体力がないことから、通院が大きな負担になる患者は少なくありません。
こうした方々がオンライン診療を利用できれば、継続的な治療を行うことが可能になります。
病院への移動時間だけでなく、病院内での待ち時間も要らなくなるため、時間が取れない忙しい人でも受診しやすくなるのも大きなメリットです。
4.医療の地域格差を減らせる
過疎地や離島、山間部など、医療機関が少ない地域では、十分な医療を受けづらい人も出てきます。
また、その土地にいる医師では対応できない症例が出てきた場合、通常であれば紹介状を作成し、大きな病院に行ってもらうことになりますが、高齢で難しい場合もあり得ます。
遠隔医療の仕組みが導入できていれば、こうした場面で患者に移動を強いることなく診察することが可能です。
また、DtoDで高度な知識を持つ専門医と連携し、指示を受けたり相談したりすることができ、医療提供体制の地域格差を減らす効果が期待できます。
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5.事務作業の負担を軽減できる
通常の通院では、病院について受付を済ませ、待ち時間の後に診察を受け、終了後には会計手続きをします。 あわせて読みたい
そして投薬があれば処方箋を持って薬局へ行き、薬を購入しなくてはなりません。
オンライン診療が導入できれば、予約・受付・診察・決済は全てオンライン上で完結します。
処方箋も後から郵送されてくるので、患者は自宅近所の薬局へ出向けばよいだけです。
医師の診察以外に発生する諸手続きが、一貫してシステム上で行えるため、病院の事務スタッフの負担を減らすことにつながります。
遠隔治療の3つのデメリット
医療提供体制の充実に有利なポイントが多いオンライン診療ですが、全ての疾患や症状に対応できるわけではありません。
ここからは、遠隔医療のデメリットを3つご紹介します。
1.触診や聴診、検査などができない
オンライン診療では直接患者と対面しないため、触診や聴診ができません。
また、採血や尿検査などの諸検査もできないものが多いです。
薬の処方も全てできるわけではなく、向精神薬のように対面での診療をもって処方する必要があるものもあります。
怪我や捻挫などの外科的な処置も、オンライン診療では対応できず、対面での診察が避けられません。
2.緊急時や急変時の対応ができない
オンライン診療の場合、急変や緊急性の高い対応が難しいのもデメリットです。
経過観察中の遠方の患者が急変した場合、なんとかして来院してもらうか、症状によっては救急車を呼ぶ必要が出てきます。
かかりつけ医であっても症状の重い場合には、検査が必要なことが多いため、対面での診察にせざるを得ません。
3.病気によっては適さない場合がある
上記2点のデメリットと合わせて、オンライン診療と相性が合わない疾患もあります。 あわせて読みたい
例えば痛みを訴えるような症状の場合は、痛みの原因を探るために検査が欠かせません。
また、呼吸器や循環器の疾患も、良好時の経過観察であれば大丈夫ですが、定期的な聴診や触診、検査と組み合わせながら治療を進めていく必要があります。
処置が必要な怪我や、切開を必要とする皮膚のできものなども、オンライン診療では対処ができません。
対面診療との組み合わせや、オンライン診療向きの症状かどうかを判断しながら利用する必要があります。
遠隔医療における今後の課題
まだ普及率が高いと言えない遠隔医療の導入ですが、今後対応できる医療機関が増えていくためにはいくつか課題があります。
主なものを以下にあげました。
- 導入にかかるコストやサービス選定の難しさ
- 医師やスタッフがシステムに習熟する手間
- 患者側の受容を得られるかどうか
- ネットワークやデータのセキュリティの問題
- 医師の時間配分や既存業務との統合
オンライン診療システムを提供する企業はかなり増えてきました。
コストだけを重要視するなら、初期費用無料で始められるところもあります。
しかし、セキュアな通信や快適なビデオ通話、堅牢なシステムを求めると、どうしても価格は高くなる傾向があります。
また、システムを選定し導入した後は、まず医師や病院のスタッフが使いこなせるためのトレーニングが必要です。
忙しい日々の業務の間に、いかに時間を確保してトレーニングに充てるかも検討しなくてはなりません。
医療機関側が導入準備を完璧にできても、患者側がパソコンやスマートフォンをうまく扱えない高齢者だと導入が難しくなります。
導入するサービスによっては、事前トレーニングや患者へのレクチャー・マニュアルなども含めてパッケージングしているところもありますので、よく比較検討することをおすすめします。
そして、オンライン診療と対面診療とで、医師がどのように時間配分するかを事前によく検討しておくことも重要です。
一般外来の時間帯は対面診療を行い、夕方以降にオンライン診療の枠を設けるなどの工夫が必要ですが、医師の労働時間が長くなりすぎない配慮もしなくてはなりません。
まとめ(遠隔医療の現状とは?)
活用の仕方によっては、医療提供体制に革新的な進化をもたらすことも期待できるのが遠隔医療システムです。
オンライン診療が一般的に知られるようになってきたものの、まだ日本での普及率は15%程度と高くありません。
導入までのコストや手間、患者側の対応可否などの課題をいかにクリアしていくかが、普及率を上げる鍵となります。
また、遠隔医療を導入している病院で働くことで、都心の病院から医師が足りない地域を支援するといった働き方が可能になるケースがあります。
地域医療に貢献したいが、どの地域で働けばいいかわからない場合、遠隔医療で地域医療に協力している病院を探すのも1つの選択肢です。
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