医師の長時間労働を緩和するために取り組まれている施策の中に「タスク・シフト」や「タスクシェア」があります。
自分の勤めている病院でも進められているという方も多いのではないでしょうか。

「医師のタスク・シフト/シェアの具体例が知りたい」
「働き方改革によるタスク・シフト/シェアの必要性について知りたい」

この記事ではタスク・シフトやタスクシェアについて、導入することで得られるメリットやデメリットについて解説します。
職種別のタスク・シフトの具体例についてもご紹介しますので、参考にしてください。

医療におけるタスク・シフト/シェアとは?

タスク・シフトもタスクシェアも、言葉の通り医師のタスクをシフトしたりシェアしたりするものです。
似たイメージがある両者ですが、実際には違いがあります。
ここでは、タスク・シフトとタスクシェアの定義について解説します。

タスク・シフトとは

医師が担う業務のうち、医師でなくてはできない高度な医療行為や判断(絶対的医行為と呼びます)を除いたものを、他の職種のスタッフに移管することをタスク・シフトと言います。

タスク・シフトの具体例は後ほどご紹介しますが、例えば書類業務や検査説明などを専属の事務スタッフに移管したり、特定行為と呼ばれる補助的な医療行為を、専門の研修を受けた看護師に移管したりするものです。

元々医師が行っていた業務を、他のスタッフに移管して減らすことで、医師の労働時間を削ることを狙いながら、移管する業務の種類によっては研修を必須として、医療の質を保つ目的があります。

タスクシェアとは

タスクシェアにも、医師の業務を他業種のスタッフと分け合う意味があります。
しかし、タスク・シフトとは異なり、医師がその業務から解放されるわけではありません。
例えばチーム医療はタスクシェアにあたり、一人の患者に対して複数の医師や看護師がチームを組んで業務をシェアして治療を行うことを指します。

タスクシェアでは、業務を請け負うのは他業種スタッフだけに限りません。
例えば、夜間に入院した患者を当直医が朝まで担当して、その後主治医に引き継ぐこともタスクシェアにあたります。

医師のタスク・シフト/シェアが求められるようになった背景

元々医師は長時間労働が当たり前という風潮が強く、当直を挟んで2日間働き続けることも珍しくありませんでした。
しかし、2024年施行の医師の働き方改革から、医師の労働時間を削減するための取り組みとして注目されるようになったのが、タスク・シフトやタスクシェアです。

医師の労働時間削減を実現するため、医師以外の医療従事者についても業務範囲の見直しや法改正を行い、タスク・シフトやタスクシェアをしやすくなる制度作りが進んでいます。
医師の働き方改革施行で、今後タスク・シフトとタスクシェアはどうなるのかが注目されています。

タスク・シフトの導入による3つのメリット

タスク・シフトを導入し、医師の労働時間を減らすことができれば、医師本人にも医療機関にもメリットがあります。
ここからは、タスク・シフト導入で得られるメリットについてご紹介します。

1.人手不足の解消につながる

タスク・シフト導入で、医師一人当たりの労働時間を減らすことになると、医療機関側では、労働力不足が懸念されます。
しかし、医師の労働時間が短いことは、医師の採用がしやすくなる可能性を秘めているという見方も可能です。
他より残業が少なく働きやすい病院だと、求人をかけた時医師に選ばれやすくなります。

また、医師以外のスタッフを巻き込んでタスク・シフトを導入することで、看護師や事務員などの技術向上につながり、少ない人数でも業務を回せる点もメリットです。

2.業務負担・長時間労働の改善につながる

タスク・シフトでは、医師の業務を積極的に他業種へ移管していきます。
結果として医師が負担する業務量が減るため、医師の長時間労働を改善することが期待されています。
医師の労働時間が短縮できれば、医師自身の心身のゆとりを生み出し、健康の確保にもつながる点は大きなメリットです。
労務管理が徹底できることで、医師にとって仕事に打ち込みやすい環境となり、よりいきいきと働ける職場にすることができます。

3.医療の質の向上につながる

タスク・シフト導入で医師の業務負荷を軽減させることで、労働時間を短縮させ、医師の心身にゆとりを持たせることが可能です。
すると、医師は本来の仕事である医療行為に専念でき、より質の高い医療を提供できることが期待できます。
また、医師の業務をシフトされる看護師も、特定研修を受け技術を身につけるため、看護師のスキルアップにもつながり、病院全体で医療の質の向上を目指せるのがメリットです。

タスク・シフトの導入によるデメリットと課題

医師の負担を減らすメリットが大きいタスク・シフトですが、導入のためにはクリアすべき課題もあります。
ここからは、タスク・シフト導入にあたっての課題とデメリットをご紹介します。

1.業務を移管する人への教育と理解が必要

タスク・シフト導入を成功させるのに欠かせないのが、業務移管を受ける人材の育成です。
看護師や技師に医療行為が伴う業務をシフトする場合は特定の研修が必要ですし、事務方への業務移管にも研修やマニュアルを整備しなくてはなりません。
医師の業務のうち、どれをどの職種に移管し、そのために必要な事前指導は何かを整理し、スタッフ育成のための道筋を整えておく必要があります。

2.業務を移管された側の負担が増える可能性がある

医師にとっては業務負荷が減るタスク・シフトですが、移管される側にとっては業務が増えることになります。
移管される側の業務量がすでに一杯一杯だと、タスク・シフトによって業務量がオーバーフローしてしまう点はデメリットです。
医師だけでなく、その周囲のスタッフの業務量も調査・整理した上で、計画的なシフトをしていかなければなりません。

3.深刻な人手不足の場合タスク・シフト/シェアができない

そもそもの人手が足りていない場合、タスク・シフトやタスクシェアはできません。
人手不足の現場では、どの業種のスタッフも業務を手いっぱいに抱えていることがほとんどです。
そうした現場では、まず人手を増やすことから始め、体制を整えた段階で改めてタスクの移管やシェアの方針を決めることで、導入に成功するケースがあります。

タスク・シフトの具体例

医師がタスク・シフトできる業務には、職種を問わずに移管できるものと、定められた職種へのみ移管が可能なものに分かれます。
ここからは、医療機関で働く職種別に、どのような業務をタスク・シフトできるのか、具体的にご紹介します。

1.看護師へのタスク・シフト

医師から看護師へのタスク・シフトできる領域は多く、日本看護協会でも、タスク・シフトやタスクシェアに関するガイドラインを作っています。
移管可能な主な業務は以下の通りです。

  • 事前指示に基づいた薬剤投与・採血・検査の実施
  • 静脈路確保や注射など
  • 救急外来での事前指示に基づいた採血や検査の実施 など

これらの業務は医師が事前に指示を出したり、プロトコルを取り決めておくことで、看護師が作業することが可能です。
さらに看護師の場合は、特定行為研修を修了することで人工呼吸管理や輸液調整、中心静脈カテーテル挿入なども行えるようになります。

2.薬剤師へのタスク・シフト

薬剤師へのタスク・シフトには、薬剤管理や処方提案で医師を支援するものや、入院中・手術前後の患者の管理に携わるものがあります。

  • 周術期・入院中の患者に対する処方薬剤の管理・説明
  • 医師への処方提案
  • 自己注射が必要な患者への実技指導
  • 医師の包括指示のもとで行う薬剤量変更 など

高齢者の中には複数の医療機関で薬を処方されている患者もいて、薬剤師がその全容を把握することで、医師の処方判断の助けになります。

3.臨床検査技師へのタスク・シフト

これまでのタスク・シフトでは、看護師や事務スタッフへの業務移管が主流でしたが、2021年10月からは臨床検査技師への業務移管も可能になりました。
臨床検査技師は所属する部門によって元の業務の内容が異なるため、元の業務に関連するものをタスク・シフトする形となります。

  • 直腸肛門機能検査
  • 脳波検査(針電極使用検査)
  • 血管カテーテル検査時の検査装置の一部操作
  • 採血業務
  • 検査所見記載作業 など

4.リハビリテーション専門職へのタスク・シフト

リハビリテーション分野で働く理学療法士にも、リハビリに関する生類の交付や説明業務を移管可能です。
また、作業療法士や言語聴覚士には、さらに以下の業務の移管もできるようになります。

  • 運動・痛覚・ADL等の評価
  • 嚥下検査(侵襲性がないもの)
  • 臨床心理検査や神経心理学検査の実施 など

5.職種を問わず行えるタスク・シフト

医師が行う事務的な作業についても、タスク・シフトが可能です。
これには特に対象の職種の定めはなく、専任の担当者を配置することで診療報酬加算もできるようになりました。
以下のような事務業務を移管することができます。

  • 診断書や診療情報提供書等の作成代行
  • 電子カルテ等への診療記録代行
  • 感染症サーベイや救急医療情報システムなどの入力作業 など

6.その他タスク・シフトが可能な職種

ここまでにあげた業務以外でも、今後タスク・シフトやタスクシェアを推進していくことが期待される職種もあります。
例えば救急救命士は、従来は搬送中のみ対応可能だった救急救命処置を到着後の病院でもできるようになりました。
放射線技師の場合は、造影剤注入に関わる一部業務が解禁されましたし、助産師にも一定条件のもとで妊婦健診や保健指導ができるようになっています。

まとめ(医師のタスク・シフト/シェアとは?)

従来の医療業界では、業務が属人化しがちな風潮がありました。
そのため、各業種で業務量がそれぞれ多くなり、忙しいのが当たり前になっているという医療従事者は今でも少なくありません。
慢性的な医師不足や働き方改革による労働時間の上限ルールなど、現状のままでは乗り越えられないハードルを超えるために注目されているのが、タスク・シフトやタスクシェアによる業務効率化です。

タスク・シフトやタスクシェアが活用されている職場では、医師だけでなく看護師や技師なども働きやすい環境である事例が多くなってきています。
今の働き方に不満がある場合は、こうした職場への転職を検討するのも1つの方法です。
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