医師不足が叫ばれて久しいですが、その実情には地域格差があります。
都市部では医師数が十分な医療機関もあり、自分に合った職場を見つけることはあまり難しくありません。
しかし、医師が足りていない地方の地域の場合は、どこに勤めてもハードな環境が待っているというケースもあるのです。
「地方での就職を考えているが、医師不足であることによって働き方が変わるのか知りたい」
「地方では医師不足と聞くが現状はどうなのか、また転職に影響するのか知りたい」
この記事では、地方での勤務を考えている医師のために、地方の医師不足の状況や課題を解説します。
医師不足による地方の3つの課題
最初に地方の医師不足がもたらしている課題を整理します。
その地域に医療が行き渡らないリスクと、少ない人数で地域医療を受け持つ医療者の負担が最大の問題点でしょう。
3つの視点から見ていきます。
1.迅速かつ適切な医療を受けにくい
医師が少ないことは、そのまま医療機関の数が少ないことを表します。
その地域に暮らす人にとっては、病院が遠くて通院そのものが負担になります。
高齢者であれば、公共交通で通院すること自体が難しい方も少なくないでしょう。
また、休日や夜間に具合が悪くなっても、対応してくれる医療機関が近所にないというケースも珍しくありません。
地方で人口が少ない場所は、開業医も経営の難しさから敬遠しがちです。
かかりつけ医になってくれる診療所やクリニックが増えないことは、地域住民にとって大きなリスクです。
2.中核病院における負担が増大する
地域医療がスムーズに回っていないと、その地域の中核病院に負担が集中します。
中核病院ではある程度高度な医療が提供できますが、本来であればかかりつけ医の紹介のもとで受診するべきです。
しかし、適切な医療連携が取れていないと、診療所でも診られる程度の患者が中核病院に集中することにつながります。
軽症の患者が増えると、中核病院の負担はさらに増大し、一方の診療所は患者が減るため経営困難になってしまうでしょう。
3.需要の拡大とともに医師の負担が増加しやすい
医師不足が起こっている地域では、住民が減少傾向にある地域が少なくありません。
そしてそうした地域は、若者が都会に流出した結果、高齢者率が高いことがよくあります。
高齢者ほど医療ニーズは高いため、人口の割に医療ニーズが高い地域と言えるのです。
こうした地域では、医師一人一人の負担が大きくなります。
勤務のハードさから、医師自体も流出する悪循環が起こっている病院もあるでしょう。
地方で医師不足になる背景
医師偏在が起こっている背景には、主に2つの要因があります。
1つは、地方で就職する医師が減っていること、そしてもう1つはその地方からの医師の流出です。
それぞれの現象がどのような経緯で起こっているかをご紹介します。
制度の変化によるもの
地方で就職する医師が減っている要因としては、2004年から始まった新臨床研修制度があります。
従来は大学の医局に所属した研修医は、医局人事で地方の病院に勤めるケースが一般的でした。
しかし、新制度では、必ずしも医局に所属する必要がないため、医局員が減少傾向にあるのです。
医局員が減ってしまうと、当然地方へ派遣できる医師数も減ってしまいます。
今まで医局派遣で医師を賄っていた地方の拠点病院も、自力で医師を集める必要があります。
若者の都市部への流出によるもの
新臨床研修制度の問題だけでなく、若者の都市部への人口流出という問題もあります。
厚生労働省が研修医にとったアンケートでは、医学部進学から出身地を離れてしまうケースが4割近くにものぼりました。
都市部の大学に進学し、そのまま出身地に帰らずに都市部で医師になれば、当然地方の医師数は増えません。
研修先を決める際に出身地を離れる場合と、勤務先を出身地以外に求める場合を合わせると、半数が就職までに人口流出している結果となっています。
医学部地域 | 臨床研修地域 | 希望勤務地地域 | 割合 |
---|---|---|---|
出身地 | 出身地 | 出身地以外 | 2.5% |
出身地以外 | 出身地 | 出身地以外 | 4.9% |
出身地 | 出身地以外 | 出身地以外 | 5.0% |
出身地以外 | 出身地以外 | 出身地以外 | 39.2% |
(厚生労働省「平成28年臨床研修修了者アンケート結果概要」より一部抜粋して引用) あわせて読みたい
条件が合えば地方で勤務したいと考えている医師は多い
地方で医師不足が起こる「医師偏在」は、昨日今日始まったことではありません。
しかし、地方で働く医師が少ないという実情がある一方で、条件さえ合えば地方勤務を希望する医師が意外と多いのです。
先ほどの厚生労働省のアンケートでは、医師不足地域に勤務することへの考え方も聞いていて、その結果は以下の通りでした。
選択肢 | 回答割合 |
---|---|
積極的に従事したい | 4.5% |
条件が合えば従事したい | 58.4% |
条件に関わらず希望しない | 11.6% |
その他・無回答 | 25.5% |
(厚生労働省「平成28年臨床研修修了者アンケート結果概要」を参照し作成)
地域医療が抱える医師不足という問題を、当事者意識を持って感じている研修医が多いことは明るい要素です。 あわせて読みたい
しかし、「条件が合えば」という枕詞がついてしまう現状が解決されないと、医師偏在の解決が見えてこないのも事実でしょう。
また、厚生労働省の別の調査では、勤務医の半数近くの人が地方勤務をする意思があると回答しています。
こちらも20代の若手医師のほうが割合が高くなりますが、その半数は勤務期間を5年以下と回答していました。
地方での医師不足が改善されない主な3つの原因
半数近い医師が「地方勤務をする意思がある」のに、どうして地方の医師不足は改善されないのでしょうか。
ここからは、厚生労働省の調査結果をもとに、地方での医師不足が改善されない主な理由についてご紹介します。
1.子どもの教育環境や家族の理解が不足している
「地方で勤務する意思がない理由」として、子育ての環境が整っていないことや、家族の理解が得られないことが挙げられています。
特に30〜40代の医師で圧倒的に割合が高く、50代以上の回答でも家族の理解は高い割合を占めました。
医師が不足している地方は、人口そのものが少ないことも珍しくなく、交通の便や学校の数など、医師の家族が安心して暮らせる環境が得られないと考えられているのです。
2.労働環境への不安がある
労働環境への不安は、世代を問わず回答数が多かった理由です。 あわせて読みたい
医師不足の地域で働くと、どうしても一人ひとりの負担度合いは高くなります。
当直回数が増えたり、待機時間が多くなると、体力的にも精神的にもきつくなるため、避けたいと考える方が多いのでしょう。
また、地方では高齢者率が高いところが多いことから、患者数が多くなりがちです。
これも医師の負担増となる要因ですので、不安視する回答が多くなっていると考えられます。
3.都市部で開業をしている
50代以上のベテラン医師の解答で多かったのが「都市部で開業済み」というものです。 あわせて読みたい
一定の経験を積んだ後開業する医師は全体の2割ほどにのぼります。
開業するとなると、当然順調な経営ができなくてはなりません。
そのためには、集患が見込める人口の多い地域、すなわち都市部を選ぶのは自然な流れでしょう。
そして、自分の城を構えたことで、他の地域で働くという選択肢はなくなってしまいます。
医師不足を解消するための医療機関の取組み3選
地方の医師不足を解消するための取り組みは、国や自治体でも進められています。
医師偏在が数値でわかる指標の導入や、都道府県の医師確保計画などがそれにあたり、認定制度の導入も進んでいます。
それとは別に、医療機関でも取り組めるのが、労働環境の改善です。
ここからは、日本医師会が医師の勤務環境の改善のために提唱している15の改善項目を、3つのカテゴリに分けながらご紹介します。
1.医師としての専門業務に取り組める環境づくりをする
医師が診療業務だけに集中できれば、労働時間の短縮につなげやすくなります。
その観点から、以下のような改善項目が示されています。
- 医療クラークの導入
- 当直の翌日は休日
- 予定手術前の当直・オンコールの免除
- 採血・静脈注射のルート確保を医師以外の実施
- 医療事故や暴言・暴力等への組織的対応
- 特定医師の過剰な労務負担の軽減
- 退院・転院調整の地域連携室等が組織的機能
患者と向き合う時間を増やし、長時間勤務が避けられない手術の前後の勤務形態への配慮を推奨する内容です。
また、診療そのもの以外に発生する対応を、医師に負担させずに病院全体で行うことも求められています。
2.短時間雇用など就労形態を多様化する
さまざまな事情があり、フルタイムで働けない医師でも、地域医療に貢献できるような働き方の多様性も指標として挙げられています。
- 医師の学会や研修の機会の保障
- 勤務医負担軽減の責任者・委員会等の設置
- 時短雇用等の人事制度の導入
- 時間外・休日・深夜の手術の手当の支給
- 社会保険労務士等の外部専門家の活用
医師が働きながらキャリア形成できる環境や、無理なく働ける環境をつくるための改善項目は、医療機関の環境整備の要です。 あわせて読みたい
一人ひとりの背景に合わせた働き方がかなえば、働きやすい医療機関として認知され、結果として医師の採用がしやすくなる効果も見込めるでしょう。
3.女性医師が働きやすい勤務制度や研修を整える
女性医師がキャリア形成で最も悩むのが、出産育児ではないでしょうか。
特に出産は女性にしかできず、夫婦で助け合うにしても必ず女性の負担となります。
出産後にハードな仕事を続けることが難しいと感じ、一線を退いてしまう女性医師もいる現状を変えるために、以下の改善項目が挙げられています。
- 女性医師への柔軟な勤務制度、復帰研修整備
- 病院の医師確保支援
- 快適な休憩室や当直室の確保
出産後の女性医師が復帰しやすい環境づくりや、女性が働いていても辛くない設備づくりなどがメインです。 あわせて読みたい
また、人員確保を進めることでゆとりを持たせ、女性医師だけでなくすべての医師が安心して働き続けられる体制を作ることが求められています。
地方での医師不足は転職に影響する?
日本医師会が提唱している改善項目については、各医療機関で取り組んでいますが、その度合いにはばらつきがあります。
当直やオンコールを免除させるためのシフトが組めるほど十分な医師がいない病院も少なくないのです。
地方への就職や転職を考える際には、ある程度の負荷は覚悟の上で、職場の環境を慎重に調べて判断する必要があります。
人材不足に悩む病院の求人であれば、高待遇を売りにすることも珍しくありません。
目先の好条件に惹かれて見極めを誤ると、働き始めてから「こんなはずでは」と後悔する結果になることもあるのです。
どうしてその地方で働きたいのか、という目的が明確であれば、多少の悪条件には耐えられるかもしれません。
しかし漠然と「地域医療に貢献したい」と思っている程度の状態であれば、労務環境が悪いと、志半ばで耐えられなくなる可能性もあるでしょう。
残念ながら、医師不足が起こってる地域での勤務は、過酷な働き方を強いられる可能性が高いです。 あわせて読みたい
地方勤務を志望する場合、ハードな環境に身を置く覚悟や、その地方で働きたい明確な動機と共に、勤務先の状況をしっかり調べ、より良い病院を見つける努力が必要になるでしょう。
医師専門の転職エージェントなら「メッドアイ」
大学や臨床研修を終えたら地元で就職したいと考える、Uターン志向の方も少なくないと思います。
また、長いキャリアの中で、一度くらいは地方勤務を経験したいと考える方もいるでしょう。
しかし、地方では医師不足が起こっているところもあり、医師一人当たりの負担が大きい職場も多くあります。
求人情報だけでは、その病院の忙しさや過酷さを判断するのも難しいでしょう。
そんな時は、医師専門の転職エージェントに相談するのがおすすめです。
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UターンやIターンでの転職にも対応していて、各病院の詳しい情報も豊富に持っているので、見極めがしやすくなるのがメリットです。
キャリアプランの見直しや、今の職場の悩みなど、小さなことでも一緒に解決策を考える、医師の転職を支えるパートナーとして活用してください。
まとめ(医師不足による地方の課題とは?)
日本の医師不足には、地域によって大きな違いがあります。
都市部の病院や大きな大学病院など、人員が十分にある病院もある一方で、ギリギリの人数で現場を回しているところも少なくありません。
そして、医師不足は主に地方で顕著になっています。
将来的に地元にUターンしたい方や、地域医療に貢献したいという気持ちのある方は多いですが、地方で医師不足に悩む医療機関では、勤務環境が良くないところも多いのが現状です。
地方への転職を考えるのであれば、住環境はもちろんのこと、勤務環境もしっかり下調べしてから判断することをおすすめします。
住環境については各自治体などに問い合わせることになりますが、勤務環境のことなら医師専門の転職エージェントにお任せください。
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