少子高齢化の加速により医療ニーズが増加している中で、全国的に推し進められているのが地域医療制度の充実です。
地域医療への興味を抱く医師も増えてきていますが、医師にとってどのようなメリットがあるのか気になっている人も多いのではないでしょうか。
「地域医療の定義について、わかりやすく知りたい」
「地域医療の必要性や働くメリットなどを知りたい」
この記事では、地域医療の現状や基本的な知識、医師が地域医療に関わるメリットなどを解説します。
地域医療に携わる働き方についてもご紹介しますので、興味がある方は参考にしてください。
地域医療の定義とは
地域医療というと、田舎や医師不足が起きている地方で働くこと、というイメージを持たれがちですが、そのことだけを指しているわけではありません。
地域医療の定義は、病院だけでなく、地域全体で住民の健康を支える体制を指します。
医師をはじめとした医療従事者が中心とはなりますが、行政や地域包括ケアシステム、住民組織とも連携することが必要です。
病気の治療だけでなく、健康維持や疾病予防のための活動や、介護、子育て支援など、健康的な生活を送るために必要なアクションを地域全体で行っていくことを目指しています。 あわせて読みたい
医師が地域医療に携わるということは、地域医療を推し進めている地域において、行政や各種団体と連携しながら働くということです。
地域ごとに事情は異なるものの、専門性に特化した治療に専念するよりも、ゼネラリストとして幅広い知見が求められるケースが多いようです。
地域医療が必要とされる背景
地域医療体制の構築が進められている背景には、2025年問題と呼ばれる高齢化現象があります。
1940年代後半の第一次ベビーブームに生まれた団塊の世代が後期高齢者となり、国民の5人に一人が高齢者になるのが2025年なのです。
団塊の世代と言われる年齢層の人数はおおよそ800万人とも言われ、高齢者の増加により、医療ニーズが増加することが避けられません。
その一方で少子化も問題で、若い働く世代が少なく、医療を必要とする高齢者が多い、歪な人口構造になっているのです。 あわせて読みたい
医師不足の問題もあり、より効率的に医療を提供できる体制を整えることは必須となっています。
各自治体では、医療介護総合確保推進法の施行を受け、それぞれの地域の医療ニーズや特性を加味しながら、二次医療圏範囲での「地域医療構想」を策定しています。
地域医療の現状と仕組み
地域医療体制の構築は各自治体が策定した「地域医療構想」をもとに、各地域(二次医療圏単位)での医療機能の分化や連携で成り立っています。
ここからは、地域医療の現状や、具体的な仕組みなどを簡単に解説します。
1.地域医療構想・医療計画に基づき推進される
地域医療構想とは、厚生労働省のガイドラインをもとに、各自治体が策定した医療体制の確保計画を指します。
具体的には2025問題に向けて、その地域の医療機関の病床種別と数を推計し、推計数値を満たせるよう、病床確保や分化の計画を立てます。
その計画に基づいて、地域の医療機関は自院が持つ病床機能を報告し、地域全体の計画数に合わせられるよう調整を図っていくのです。
病床機能には、以下の4つの種別があります。
病床機能 | 主な例 |
---|---|
高度急性期機能 | 救急救命病棟やICU・NICUなど |
急性期機能 | 急性期患者用の病床 |
回復期機能 | リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟など |
慢性期病症 | 特定疾患病棟や筋ジストロフィー患者または難病患者向けの病棟など |
各病院が持つ病床と機能を把握し、地域のニーズに合わせて議論しながら調整することで、その地域の住民が病気になった時、どの医療機関で治療を受けるかをスムーズに割り振ることができるようになるのが理想の姿です。 あわせて読みたい
2.地域の救急医療体制は3段階に分けられる
救急医療体制についても、機能別に3つの段階に分けて役割を分担しています。
それぞれの役割は以下の通りです。
なお、二次と三次の救急医療機関には、救急救命士や救急医療従事者への教育の場としての役割もあります。
種別 | 役割 | 該当医療機関 |
---|---|---|
初期救急医療機関 | 自力で通院でき、外来で診療可能な患者を受け持つ | 休日夜間急患センターや在宅当番医など |
二次救急医療期間 | 自力で通院できず救急車で搬送される患者を受け持つ | 都道府県が指定した医療機関で輪番体制や協力体制を構築 |
三次救急医療機関 | 初期・二次で対応できない患者を受け持つ | 都道府県が指定した救急救命センターや高度救急救命センター |
現状の課題としては、二次救急医療機関での役割が煩雑化しており、負荷も集中してる点です。 あわせて読みたい
また、救急医療の現場に従事する医師や看護師などスタッフの拘束時間の長さや、責任の重さなども問題視されています。
医師の働き方改革によって改善が期待されている分野と言えるでしょう。
3.へき地医療のニーズが高まっている
新臨床研修制度により、医師が都市部に集中しやすくなる現象が起こって久しいですが、そのしわ寄せが地方に出ているのは明らかです。 あわせて読みたい
医師不足が極端な地域では、緊急対応がスムーズにできなかったり、医療機関が少なく受診そのものが難しいケースもあります。
医療機関側でも、医師が確保できず診療科を閉鎖したり、診療時間を短縮したりする対応を余儀なくされていることがあり、医師確保が喫緊の課題です。
こうした地域では、高齢化率が高いところも少なくなく、医療ニーズは増加しているところが少なくありません。
地域医療に携わる5つのメリットとは
課題も多く目につく地域医療体制構築ですが、地方勤務を志す医師は意外と多いことをご存じでしょうか。
厚生労働省の調査では、医師のうち4割超が地方で勤務をする意志があるという回答をしています。
ここからは、地域医療に携わることで得られるメリットについてご紹介します。 あわせて読みたい
1.患者と時間をかけて向き合える
都市部の病院や専門性の高い治療を担当する大病院などで働く場合、患者数も多くなり、目の前のことに追われる働き方になることも珍しくないでしょう。
しかし地域医療の現場では、一人ひとりの患者にじっくりと向き合うことが多くなります。
今現在の病状だけを診るのではなく、患者の普段の健康状態や暮らしぶりに触れ、時には健康維持のためのアドバイスも必要です。
地域医療にどの役割で携わるかにもよりますが、在宅医療や診療所など、地域住民の窓口的な働き方を選ぶことで、時間をかけた治療が可能になります。 あわせて読みたい
また、外来での診察結果、高度な治療や専門的な診断が必要と判断された場合には、大きな病院へ紹介するといった、医療機関同士の連携も重要です。
患者としっかり向き合って、状態をよく把握しておくことが、スムーズな連携につながります。
2.高齢者医療・在宅医療の分野でキャリアが積める
地域医療構想では、高齢者医療の分野で在宅医療を中心的存在として位置づけています。
地域の高齢者が自宅で安心して過ごせ、最後まで家で暮らしていけるための手助けとして、今後在宅医療分野はさらに重要性が高まってくるでしょう。
また、各地域で在宅医療体制が確立できれば、慢性期の患者が自宅で過ごせるようになります。
その結果、慢性期病棟の病床数を減らし、医療費や医療負荷の削減が期待できます。
地域医療に携わることで、高齢者医療や在宅医療に関するスキルとキャリアを身につけ、今後のキャリアプランの選択肢も広げることが可能です。
超高齢化社会が到来すれば、都心部でも在宅医療の必要性は増してくることが想定されます。
医師としてのキャリアプランを考えた時に、ぜひとも身につけておきたいスキルと言えるでしょう。
3.プライマリ・ケアのスキルが身につく
患者の健康状態の把握や、日常的な軽症の病気への対応といった、プライマリ・ケアのスキルは、臨床医であれば専門分野を問わず必要なものです。
地域医療の現場では、地域住民の最初の窓口として、より一層プライマリ・ケアのスキルが重要になります。
特に、地域医療の特徴である、機能別の役割分担と連携をスムーズにさせるためには、入口におけるプライマリ・ケアが鍵を握ることになるでしょう。
あらゆる疾患に関する広い知識が求められ、それぞれに対する適切な対応力が必要となるのが地域医療です。
地域医療に携わることで、プライマリ・ケアのスキルアップにつながるのはほぼ確実と言えます。
4.外部機関との連携の機会が増える
機能ごとに役割分担をした医療機関同士が連携して治療にあたるのは、チーム医療の考え方でも同様です。
しかし、地域医療の場合は、さらに踏み込んだ連携が求められます。
地域住民の健康維持や生活支援までも含めた、幅広いケアやサポートを実現するためには、幅広い分野に渡った連携が必要です。
医療機関だけでなく、行政や介護業界、薬局やスポーツジムなど健康に携わる民間企業など、多岐にわたる分野の機関とやりとりが発生します。
必然的につながりが増えるため、人脈作りが自然とできている状態になるケースも多いです。
業界を超えた人脈は、働いていく上で大切な財産となるでしょう。
5.地方の場合は年収が高くなりやすい
ここまではスキルやモチベーションにつながるメリットが主でしたが、物理的なメリットも得られる可能性があります。
一般的に地方で、特に医師不足に悩む地域の場合は、医師確保のために高条件の求人をだすケースが多いのです。
また、時短勤務やパート勤務などの融通が利きやすいケースもよく聞かれます。
一般的な業種では都心部ほど給与水準が高いイメージがありますが、医師においては逆転していて、地方ほど平均年収が高めの傾向があるのです。
ワークライフバランスを向上させたい方や、収入水準を上げたい方にも向いていることから、意外と多くの医師が地方勤務を考えることにつながるのでしょう。 あわせて読みたい
地域医療に関わる働き方3選
地域医療の現場で働きたい場合、どのような働き方になるのでしょうか。
ここからは、地域医療での働き方で代表的なものをご紹介します。
1.地域の中核となる医療機関で働く
医師が不足している地域や、交通の便がよくない郊外などは医療機関の数が少ない傾向があります。
こうした場所でその地域の中核となる病院で働くことで、多くの地域住民に医療を提供することが可能です。
地域にクリニックが少ない場合ほど、中核病院での受け入れが多くなり、その分多種多様な症例と向き合えます。
2.在宅医療機関で働く
訪問医療を主として行う在宅医療機関で働く方法もあります。
患者が住み慣れた家で生活の延長として医療を受けることができるサービスは、地域医療のこれからの要として重要な役割を担うでしょう。
在宅医療は、今後も需要が増えていくことが予想され、医師として身につけておきたいスキルを地域医療の現場で磨くことができます。
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3.老健などの施設の医師として働く
患者に向き合い寄り添う仕事がしたい方なら、老健施設で働く方法もおすすめです。 あわせて読みたい
疾病から回復した患者を地域に送り出すところまでサポートするため、生活支援や健康指導なども請け負います。
地域包括支援センターや医療機関と連携しながら働くことになるため、広い視野を持つことができるようになる働き方です。
自分に合う働き方を見つけるなら医師専門の転職エージェントに相談
地域医療の現場で働きたいと考えるのであれば、転職先探しが重要です。
どの地域で働くのか、どの役割を担う医療機関で働くのかを慎重に検討しなくてはなりません。
生まれ育った故郷に行くならば、ある程度はその土地の勝手もわかります。
しかし、馴染みのない土地であれば、その地域で生活しやすいのかも含めて考えなくてはならないのです。
医師の転職活動では、ただでさえ集めておくべき情報が多いですから、ぜひ専門の転職エージェントを活用することをおすすめします。
メッドアイでは、医師のキャリアプランや希望に寄り添った転職情報を、非公開を含む膨大な求人情報から選りすぐってご紹介しています。
地域医療でどのような貢献をしたいのか、相談しながら転職先を探すことが可能です。
まずはお気軽に、無料相談を利用して、悩みや希望をお聞かせください。
まとめ(地域医療とは?)
高齢化社会や働き方改革など、医療業界を取り囲む課題は山積みです。
より一層の機能分化による、効率的な働き方を目指すためにも、地域医療体制の構築が急務だと言えるでしょう。
地域全体で力を合わせて、健康的な生活が送れるようサポートすることによって、よりスムーズな医療の提供が実現できます。
現場では都心部に医師が集中し、地方で人手不足に陥る医師専門が問題です。
しかし、地域医療の現場で働くことにはメリットも多く、やってみたいと考えている方も少なくありません。
転職を伴うため、思い切るのが難しいと感じているのであれば、まずは転職エージェントに相談だけでもしてみてはいかがでしょうか。