医局を出た後の医師の進路は、決して一つではありません。
臨床医として民間病院で経験を積む道もあれば、開業や産業医など、医師免許を活かした多様な働き方が存在します。

代表的な選択肢は、以下のとおりです。

  • 民間病院への転職(急性期・慢性期・療養型など)
  • クリニック開業、または開業医のもとでの勤務
  • 産業医・健診医などQOLを重視した働き方
  • 製薬会社や医療系企業など医療業界への転職
  • 公務員医師(保健所・行政・自衛隊など)

この記事では、医局を辞めた後の医師の転職事情を中心に、主なキャリアパスの選択肢や、それぞれの特徴・注意点を整理して解説します。
医局に残るか、医局を出るかで悩んでいる方が、自身のキャリアを考えるうえでの判断材料になれば幸いです。

医師が医局を出る大きな3つの理由

はじめに、医師が医局を出たいと思ってしまう理由についてご紹介します。
大きく分けると以下の3つのタイプがよく聞かれるものです。

  • 人間関係のストレス
  • 経験したい症例や技術が学べない
  • 年収や待遇の不満

1つずつ詳しく見ていきましょう。

人間関係のストレス

医局では派閥やグループができやすく、派閥同士での対立や競争が起こることもあります。
所属人数が多く、考え方も皆異なりますので仕方のないことだとも言えるでしょう。
教授をトップとしたピラミッド型社会になっていることも珍しくなく、人間関係を構築したり良好に維持することに気疲れする医師も少なくありません。
医局員派遣による転勤で、転勤先で新たに人間関係を築き直さなくてはならず、つらさを感じててしまうこともあるようです。

経験したい症例や技術が学べない

医局を持つ大学病院は、設備も充実していて指導医もいますので、スキルを磨くためには理想的な環境です。
一方で、医局員が多いほど、望んだ症例を担当できないリスクも高まります。
中には症例の取り合いになるケースもあるため、必ずしも自分が目指すキャリアを順調に築けるとは限らないのです。
症例の取り合いに疲れてしまい、「スキルアップが難しい」と感じてしまうことで、医局をやめようと考える医師もいます。

給料や年収の不満 

大学病院や公的病院では、民間病院に比べると給料は低い傾向があります。
そのうえ医局に所属していると、通常の業務の他に上司のサポートなどの雑務もこなさなくてはなりません。
結果として長時間労働の割に給料が低いという状況に陥ってしまい、モチベーションが下がってしまうという声もよく聞かれます。

アルバイトをして収入をサポートしている医師もいますが、若手のうちは研修課題をクリアするのに必要な、学びの時間も取らなくてはならず、バイトも難しいと感じている人もいます。

医局を出る5つのメリット

退職に踏み切る前に、医局を出ることによってどのような影響があるのかは知っておくべきでしょう。
ここからは、医局を出ることで得られる可能性があるメリットについて解説します。

人間関係の悩みが軽減できる

医局内の派閥に属していると、他のグループとの競争なども頻繁に起こります。
派閥内での上下関係なども厳しいため、ストレスを感じやすい環境と言えるでしょう。
派閥の力関係で人事が決まるケースもあり、異動や転勤が発生することも珍しくありません。
医局を出て民間病院に転職することで、こうした派閥争いのような面倒臭さからは解放されます。

医局では治療方針も上意下達になって、自分で自由に決められないといったしがらみもしばしばです。
一方、民間病院ならよほどのワンマン体制でない限りは、カンファレンスで決まっていくため納得感も増すでしょう。

現場経験を積める

臨床現場で働きたいと思っている場合は、医局にいるとストレスを感じやすいかもしれません。
医局では研究や論文などの業務も多く、上司のサポートといった雑務も出てきます。
医局を出ることで研究業務はなくなりますので、空いた時間を患者さんのために使ったり、自身の学びの時間に充てることができます。
臨床の最前線で働くことで、診られる症例も増えますし、手応えも感じられるでしょう。

年収アップの可能性がある

医局に所属した状態で年収を上げようと思ったら、コツコツと努力するだけでなく、うまく立ち回る必要も出てきます。
出世も同様で、医局にいると役職につけるのはほんの一握りです。
民間病院であれば、純粋に経験や持っているスキルで評価されるため、転職で年収アップを叶えられる可能性はぐんと高くなります。

人事異動がなくなる

医局勤めをしていると避けて通れないのが医局人事です。
若手であれば数年ごとの転勤も珍しくありません。
中には40代の中堅クラスでも転勤するケースがあります。
近場であればいいですが、引っ越しを伴うような遠距離への異動もあり得るため、自分だけでなく家族にも影響が及びます。
医局を出て民間病院に勤めることで、基本的には転勤するケースは少なくなります。

将来の計画を立てやすくなる

医局では人事や教育方針などがトップダウンで決まることがよくあります。
職場やキャリアプランの方向性が医局の判断に左右されることも珍しくありません。
民間病院であれば、自分が望むキャリアパスを自分の手で作り上げていけるため、将来の計画が立てやすくなるのです。
必要な資格やスキルを取得して医局を出る医師が一定数いるのは、自分のキャリアプランをしっかり持っている証と言えるでしょう。

医局を出るデメリット

研究志向が強い医師や、将来的に教授職・留学を目指している医師にとっては、医局に所属し続けることが合理的な選択となる場合もあります。
医局を出るかどうかは「合う・合わない」の問題であり、一概にどちらが正解というものではありません。
ここからは、医局を出るデメリットについて解説します。

教授職などを目指すのは困難になる

医局で実績を積み重ね、人間関係をうまく構築していけば、助教や講師などの職を経て教授への道が見えてくることになります。
もちろん教授職まで至るのはごく一部ですが、そもそも医局にいないとその道は非常に困難なものになってしまうでしょう。

人脈を広げる機会が減る

医局は良くも悪くも医師の数が多いので、人脈形成がしやすいという利点があります。
その裏返しで難しい人間関係を強いられるものの、開業を目指す医師などは、ぜひ関連する医師とのコネクションは保っておきたいと考えるのではないでしょうか。
医局に所属していれば、こうしたつながりを保って働いていけるので、目指すキャリアによっては医局に留まったほうがいいケースもあるのです。

専門以外の知識を求められる 

医局で働く場合、専門性を深めていくことを第一に仕事や研究をしていきます。
一方民間病院の場合は、基本的には専門性を重視するものの、患者ごとに必要な対応が取れるよう、幅広い知識が必要になってくるのです。
時には専門外の分野にも対応するケースも出てきますので、臨機応変に動ける力は確実に求められるでしょう。

学術的活動が困難になる

臨床ではなく研究の道に進みたいという場合は、圧倒的に大学病院のほうが有利です。
また、留学を目指す場合も、大学病院の医局に所属していたほうが、大学のサポートも受けられます。
自分のキャリアプランの中で、学術的な活動がどれくらい重要かによって判断するのが良いでしょう。

医療情報のアップデートが困難

医局にいれば勉強会や研修などが頻繁にあり、新しい知識はどんどん入ってきます。
民間病院の場合は、自らアンテナを張って、積極的に情報を取りにいく活動が必要になり、医局よりも労力がかかってしまう覚悟が必要です。
しかし、民間病院の医師でも参加しやすい勉強会などもありますので、積極的に活用することでデメリットを減らすことはできます。

医局をスムーズに出るための注意点

医局を出ると決めたら、スムーズに退職できるように工夫する必要があります。
退局の際に医局に迷惑を極力かけないことで、退局後も良好な関係が保ちやすくなります。
ここからは、医局をスムーズに出るために注意しておきたい点をご紹介します。

退局の意思は早めに伝える

医局を辞める意思表示は、直属の上司になるべく早いタイミングで申し入れましょう。
労働基準法では、無期雇用であれば退職14日前、年俸制であれば3ヶ月前に退職の意思を伝えれば良いことになっていますが、医師の場合はそれでは短すぎます。
引き継ぎにも時間がかかりますし、医局人事は年度の変わり目に刷新されるため、その枠組みを検討している時点で上層部に退職意思が伝わっていることが理想です。
目安としては半年前には申し入れをしておくとスムーズになるでしょう。

退職理由はポジティブなものを伝える

医局を出たい理由は人それぞれで、中には人間関係がつらいなどのネガティブな理由なこともあるでしょう。
しかし、医局を出る際は、できる限りポジティブな退局理由を伝えましょう。
早めに意思表示をするため、ネガティブな理由を伝えてしまうと、退職までの期間にそれまで良好だった人間関係が悪化するリスクがあるからです。
退職前に対人関係を拗らせてしまうと、転職後に影響が出ないとも限りません。

転職先は辞める前に探す

退局の意思を伝える前に、転職先はある程度固めておきましょう。
できれば、決まってから伝えるほうがいいです。
転職先が決まっていれば、引き留めがしづらくなるため、スムーズな退職につながります。
転職先が決まっていない状態で退職を申し出てしまうと、引き留めだけでなく転職活動の妨害を受ける危険性もあるかもしれません。

医局を出た後のキャリアパス

医局を出た後の医師のキャリアパスとしては、臨床医として進んでいくのであれば転職や開業があげられます。
医師免許や医学博士の学位を有利に活用できる他業種への転職も選択肢として考えられます。
ここからは、医師が医局を出た後の主なキャリアパスをご紹介します。

民間病院への転職

民間病院への転職は、医局を出た医師の中で最も選ばれている進路です。
特に、下記のように考えている医師には向いています。

  • 臨床経験を積みたい
  • 症例数を重視したい
  • 研究よりも現場で患者と向き合いたい

一方で、大学病院ほど教育体制が整っていない施設もあるため、転職先選びでは「症例数」「指導体制」「医師数」を必ず確認することが重要です。

開業

十分な臨床経験を積んだ後であれば、開業も現実的な選択肢となります。
診療方針や働き方を自分で決められる点に魅力を感じる医師は少なくありません。

開業と一口に言っても、選択肢は一つではありません。

  • すぐに開業する
    資金や経営計画が整っている場合、医局を離れて直接開業するケースです。裁量は大きい反面、経営リスクも自分で負う必要があります。
  • 段階的に開業を目指す
    まずは民間病院やクリニックで収入を安定させ、資金や経営知識を蓄えたうえで開業する方法です。実際にはこのパターンを選ぶ医師が多く見られます。
  • 分院長・管理医師として働く
    いきなり独立せず、分院長や管理医師として運営に関わる道もあります。経営経験を積みながら、将来の独立に備えたい医師に適した選択です。

医療業界以外への就職

臨床医として働き続けることにこだわらない場合、医師資格やこれまでの経験を活かして、医療業界内外で働く選択肢もあります。
代表的な進路としては、以下が挙げられます。

  • 産業医
    企業に所属し、従業員の健康管理や職場環境の改善に携わります。勤務時間が比較的安定しており、QOLを重視した働き方を希望する医師に人気があります。
  • 製薬会社・医療IT企業
    メディカルドクターとして、医薬品開発や製品監修、医療サービスの企画に関わるケースです。臨床とは異なる形で医療に貢献したい医師に向いています。
  • 行政・公務員医師
    保健所や行政機関などで、公衆衛生や医療政策に関わる働き方もあります。医師資格を活かしつつ、社会全体に影響を与える仕事ができる点が特徴です。

これらの職種では臨床経験が積みにくくなる場合もあるため、将来的に臨床へ戻る可能性があるかどうかを踏まえて選択することが重要です。

医局を出た後の転職が失敗しないために

医局に所属しているかどうかに関わりなく、医師の転職には時間と労力を要します。
転職を失敗させないためには、十分な情報収集が不可欠です。
加えて、自分の市場価値をきちんと把握し、転職によってどのようなキャリア形成をしていきたいのかを明確にしておく必要があります。

実際によくある失敗として、「転職先を十分に比較せず、条件面だけで決めてしまった結果、医局時代より忙しくなってしまった」というケースもあります。
医局を出ること自体が目的にならないよう、「なぜ出るのか」「出た後にどうなりたいのか」を整理したうえで転職活動を進めることが大切です。

しかし、忙しい仕事の合間にそれらの作業をしていくことは、大変だと感じることもあるでしょう。

そんな時にオススメなのが、医師専門の転職エージェント「メッドアイ」への相談です。
転職エージェントは医師1人ひとりのキャリアプランや悩みに寄り添ってきた実績をもとに、豊富な情報から転職希望者に合った職場をマッチングさせるプロフェッショナルです。
明確に転職を決意していない段階でも、まず気軽に相談してみることで、その後の道が見えてくる助けになるでしょう。

まとめ(医局を出た後の医師)

医局に所属する医師は徐々にではありますが、減っている傾向にあります。
一昔前は医師が医局に進むのは当たり前の道でしたが、研修制度の変更などから、必ずしも医局に所属しなくても、医師としての経験を積んでいけるようになったことが大きいでしょう。
しかし、研修や研究に必要な設備や環境は、医局がある大学病院のほうが圧倒的に整っているため、今でも医局へ進む医師は少なくありません。

医局では民間病院とは異なる特有の風習や働き方があるため、実際に転職してみて合わないと感じる方も出てきてしまいます。
しかし、医局を出た後でも、医師が成長していける場所は数多くあります。
どうしても医局が自分に合っていないと感じたら、まずはどんなフィールドでならキャリア形成を続けていけるのかを転職エージェント「メッドアイ」に相談してみてください。